呪いは廻り、神秘は透き通る   作:ソックス

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そろそろ限定の季節です。
皆んな足は持ったか!?
俺はちょっと足りない!


95 鍵vs浩介

「これは……」

 

 鍵は浩介から放出された呪力が部屋を駆け巡り、何かに染め上げていくのを見て驚愕する。中は特に変わった訳ではない。広い部屋の中に何かを貼り付けたかのような感じだ。

 

「不細工で申し訳ないが……ようこそ。俺の世界へ」

 

 浩介は掌印を解いてケラケラ笑いながら鍵に近づく。浩介の作り出した空間は真夏の如き灼熱の空間を作り出したというのに浩介は汗ひとつかかない。寧ろ涼しそうにしている。

 

「この暑苦しい空間があなたの世界なんですか? 少し不快になるぐらいで何ともないじゃないですか。こんなものはこけ脅しにしかなりませんよ」

「判断するのが早えよ。今から嫌でも思い知らせてやるさ」

 

 鍵は浩介の領域をこけ脅しと一蹴し、レールガンの弾を装填する。何もかも一撃で吹き飛ばせばそれで終わり。そう思ってレールガンによる過剰火力を選択する。

 

「あなたの世界ごと吹き飛びなさい」

 

 チャージは特に邪魔されることなく、レールガンが火を吹く。普通なら大怪我を負うであろう一撃。浩介がくらえば反転術式を使用せざるを得ない状態に追い込まれる火力を誇っている。

 

 だが、鍵は知らない。呪術師が展開する領域内で何の対策もなしに挑むことの危険性を。必中もなく外殻と作れない領域でも術式性能の底上げは可能だということを。

 

「な……!」

 

 レールガンは浩介に当たらない。浩介の前で何かに邪魔されたのである。

 レールガンを防いだのは炎。勢いよく噴出された炎はレールガンの勢いを削っていく。威力はレールガンの方が上のため押せてはいるが、それも緩やかだ。

 

 だが、押し合いの最中に鍵は気配を感じとる。

 

「後ろがお留守だよ」

「後ろに!? 炎はレールガンと押し合いをしているはず……何故!?」

 

 レールガンの押し合いをしているはずの浩介が鍵の後ろを取っている。変わらず炎はレールガンと押し合いをしているというのに浩介は炎を噴射しながら鍵に近づいて来ているのである。

 

「ぐっ……」

 

 浩介の正拳突きが鍵の顔面に直撃する。不意をつかれたからか予想以上にダメージを負ってしまう。ただ流石にそれで倒れるほどやわではない。

 

「これを……躱せるか?」

 

 浩介は容赦なく追撃に入る。床から炎を出し、操作して鍵に向かわせる。浩介は炎が鍵に向かった後に走り出す。

 

「炎が手から出てない!?床から……!?」

 

 鍵は炎と浩介の二段攻撃を見て驚愕しながらも何とか態勢を立て直し、炎は避ける。だが急いで立て直して何とかしても二段目まで避けるのは難しい。

 

「ふんっ!」

「かっ……」

 

 結果として浩介の拳が今度は鍵の鳩尾に決まる。浩介の呪力が込められた拳を二度も一方的に喰らうことになった。

 

「捕まえました」

 

 だが鍵も黙って喰らっているわけではない。避けられないのはわかっていたのだ。レールガンの銃口を浩介に向ける。肉を切らせて骨を断つ、避けられないなら相打ち気味に攻撃するのみ。

 

「滅びよ」

 

 鍵はお返しと言わんばかりにレールガンを発射する。チャージはそこそこしか出来なかったが、ヘイローを持たない相手に撃てばお釣りが沢山来る威力。いくら呪力で強化しようとただでは済まない。

 

「ぐっ、この……!?」

 

 浩介は両手で受けつつ何とか弾き飛ばす。それでもかなりのダメージを負うこととなる。欠損こそしなかったが皮膚はずたずたになり、腕が使い物にならなくなるほどのダメージだ。左腕に至ってはレールガンを弾く時にあまりの力にあり得ない方向に曲がる始末。

 

「……腕が吹っ飛ばないとは驚きです。いくら恐怖で身体を強化しているとはいえそこまで頑丈になれるのですね。ですがズタズタの皮膚に反対に曲がった左腕……あっけないものですね」

 

 鍵は浩介の様子を見て勝利を確信する。炎が浩介の身体以外からも飛び出した時は驚いたが、終わってみればなんて事はない、そう思っていた。

 

「それがどうした!何か忘れてないか!?あぁん!?」

 

 しかし浩介は意に介さず駆ける。今度は天井や壁からも炎を複数出し鍵を攻撃する。どれも並の相手であれば焼殺されるであろう凄まじい火力だ。

 

「そこまで追い込まれてもまだ向かってくるのですか。ですが……炎だけなら避けられますよ。それに先程と比べてもお粗末な操作じゃないですか」

 

 しかし、どんなに火力が高い攻撃も当たらなければ意味がない。鍵は仕留めることこそ出来なかったが腕を使用不能にした。

 

「さて、次は蹴りですか?今度は足も奪って──は?」

「残念♪左ストレートだ!」

 

 曲がってしまったはずの左腕。それが何事もなかったかのように振るわれる。ついでに右腕も皮膚の損傷などなかったかのように治っている。

 鍵は後ろに倒れ尻餅をつく。今度はそこまで威力もないためダメージはそこまでない。だが起こったことの衝撃でダメージどころではない。

 

「……モモイを治療してたあの技は自分にも使えるのですね」

「あぁ、なるほど。反転術式を他者限定だと思ってたのね。残念だけど自分に使うのが殆どの運用方法さ」

「再生が出来るとしても何もノーコストで運用しているわけではないでしょう。何か弱点があるんじゃないですか?例えば……呪力とやらの消耗が実際は激しいとか」

 

 鍵が思い至ったのは前回自分が出た時にモモイを治療した技。少なくともアリスと鍵が見たものはあれ以外にない。精々先生がさらっと言ったぐらいだ。

 だがそんな便利な技、もとい反転術式にも弱点はある。鍵は当てずっぽうで消耗が激しいと言ったが当たっている。反転術式は負と負を掛け合わせる関係上どうしても呪力の消費量は倍となる。浩介はそれを五条悟を除く歴代高専学生一の呪力効率でカバーしているに過ぎない。呪力量は乙骨憂太の足元で這いつくばるのが精々だ。

 

「そう思うならテストしたらどうだ?ただし間違った答案を出したらお前はボロ雑巾だ。その場合は正解が何だったかも知る事はねえ」

「いいでしょう。完璧な答えを提出しますとも」

 

 浩介は看破されようと不敵に笑う。使えば使うほど消耗していくのはこの世の摂理。詳しい原理まで知られたわけでない。まだ致命的なものではないのだ。

 対して鍵は浩介の反転術式を前提に戦略を組み立てる。出すべき答案は浩介の命を断つことが出来る過程。

 

「これはどうだ?取り囲め!」

 

 浩介は鍵の周りに炉を出現させて取り囲む。ベアトリーチェを圧倒した全方位からの火柱。敢えて鍵に知られるように掛け声をしながら炉を出現させたのは間違ってもクリーンヒットさせないため。

 鍵は無言で走り出す。浩介の意図を心の中で嘲笑しつつ、淡々と目の前の敵を打ち滅ぼすために打って出る。

 結局のところこの戦いは攻めの姿勢で差が出始めるのだ。劣勢に追い込まれるのは言うまでもない。浩介の方だ。

 

「ちぃっ!」

 

 炎の合間を縫うようにレールガンが発射される。炎で取り囲んでもそれで対象を焼き切ることには使えない。対して鍵の方は自分の最大の能力が使えなくないという大きな制約があるだけだ。彼女本人の戦闘能力は一ミリも削られていない。

 

「私の推測が正しかろうとなかろうとあなたの結末は変わらない。ここで王女の意思を沈めるのに使わせていただくだけです」

 

 鍵は浩介の炎の動きに慣れ始めていた。火は確かに恐ろしいものだ。けれども当たらなければ意味はない。当てるのも消極的なら尚更当たるわけがないのだ。

 普通の生徒ならば十分に通じる浩介の戦い方も外れ値や高い実力を持つものに対しては呪力の無駄遣い。鍵は外れ値の方だ。

 

「仕方ねえか……自分の命の方が大切だもんなぁ!」

「今になって私を殺そうと?手遅れですよ」

 

 敗色濃厚になったと見た浩介は仕方なく鍵に本気の攻撃を仕掛ける。並の相手なら即死する炎の飽和攻撃。だがここまで浩介の炎の軌道を沢山見た鍵はその手癖を見抜いていた。

 

「私はAIですよ。これくらい学習済みです。最初からこうすれば良かったのに……お馬鹿さんですね」

 

 鍵は浩介の炎を難なく避ける。チャージも同時並行で進めており、避け終えた後に浩介に放つ算段だ。先程弾かれたものよりも出力は上げられる。

 

(ふふっ……自分で作った炎で死角が出来ているじゃないですか。そこからご自慢の炎ごと貫いて終わりです)

 

 鍵は浩介が自ら出した炎で死角になっている場所に立ち、構える。焦ってミスを犯した浩介を嘲笑い、高出力のレールガンを発射する。これで勝ち、そう鍵は確信する。

 

 

 

「やっぱり気付いたか」

 

 浩介は笑っていた。足元から火を噴き、その勢いで急上昇する。レールガンは誰もいないところを素通りし、それと同時に浩介は刀を抜いて炎の逆噴射を利用した高速移動で詰め寄る。

 

「このっ!わざと隙を!?」

「俺の大嫌いなやつからの教訓でな。勝ち方が決まってるやつはそれを見せびらかすと簡単に乗ってくるってさ」

 

 レールガンはチャージが間に合わない。浩介は刃ではなく峰で振るう。あくまで気絶を目的とした攻撃。仕方なしと殺すつもりに攻撃したのは大嘘だ。

 

 ガキンっ!

 

「ざ、残念でしたね。ハァ……ハァ……馬鹿みたいに重い銃身に助けられました」

 

 しかし、浩介の攻撃は残念ながら鍵がとっさに銃身でガードする事で防がれる。にぶい金属音が領域内に鳴り響く。浩介と鍵で鍔迫り合いになる。

 

 チャキ……。

 

「……"焔"」

 

 浩介は慌てる事なく空いている手ですぐに拳銃を取り、焔を撃ち込む。至近距離で撃たれたため、鍵は躱すことが出来ずに直撃する。

 

「ぐぅ!まだです!」

 

 あまりの衝撃に盛大に後ろへ吹き飛ぶ。拳銃の弾のインパクトがまるで大槌で殴られたかのようなものだ。それでも貫通しないのは名もなき神々の王女と言われるだけのスペックのよさ故か。レールガンも手から離さず、すぐに態勢を立て直す。

 

「まだ倒れないか!くそっ!」

 

 意識は手放してない。それに気付いた浩介はすぐさま追撃に向かう。いくら峰でも呪力を込めてしまえば威力はそれなりにある。

 全力で刀を振るう。狙いは鍵の脇腹。変わらず打撃で気絶を狙った攻撃である。

 

 これもガキンと音を立ててレールガンを盾に防がれる。先程のようにとっさのガードではなく来るとわかっている故、鍵はすぐに次の行動に移る。

 

「やあああっ!!」

 

 パキン、と音を立てて先程まで一つだった刀身が二つへ。宙を舞う刀身はすぐさま鍵に掴まれ、勢いよく浩介に投げつける。

 浩介の右腕に刀が突き刺さる。激痛が走っても浩介は構わず蹴りを入れるが鍵は耐えてしまう。

 

「今度こそこれで終わりです」

 

 既にレールガンのチャージは充分な威力分までされている。

 ガードも回避も出来ない。死の間合い。

 

「ぐっ……がぁ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……」

 

 浩介に出来たのは身体を少しずらして最悪を避けること。それでもレールガンは浩介の腹を貫く。辛うじて呪力を回せるが形勢は鍵に傾く。

 

「まだ貴方は倒れないでしょう。さっさと再生したらどうです?今度はフルチャージで全て吹き飛ばします」

 

 鍵は浩介に致命の一撃を加えても油断はしない。既に反転術式による再生能力を確認している。死んでいないのであれば再生する可能性がある。

 鍵は浩介の再生能力がどこまでのものか把握出来ていない。それ故に追撃を仕掛けてカウンターを貰うのを恐れてフルチャージによる一撃粉砕を選択。浩介の命は首の皮一枚で繋がる。

 

「ハァ……ハァ……カハッ……」

 

 その隙に浩介は貫かれた腹を反転術式で塞ぐ。しかし傷は治っても消耗はしていた。完全に治療できなかったのか吐血している。

 

「……威光」

 

 だがそんな状況にあっても浩介の闘志は尽きなかった。レールガンのチャージは刻一刻と進む。ここに来るまでに術式も使用し、美甘ネルへの治療、領域展開の使用、自身の大怪我に対して反転術式の連続使用でだいぶ消耗していてもなお、継戦している。

 

「か、……陽炎」

 

 浩介に残された手段はただ一つ。

 

「護法と……っ!ひ、必勝の……火箭」

 

 鍵の判断ミスで生まれた隙に極の番の準備を整えることである。

 

 

 呪詞の詠唱を終え、浩介の右手から陽炎の弓が出現する。残った呪力は火の箭を形成するのに使われる。

 もう浩介が避けるのは厳しい。真っ向から相殺する事を選ぶしかない。

 

「……先生、後は頼むぜ」

 

 自分には天童アリスを救えない。それが確定したことを浩介はとても悔しく思っていた。後は先生に託す他ない。

 

「火力勝負をお望みですか」

「ま、そんなところだ。いくぜ。勝手に死ぬんじゃねえぞ。いい感じに倒れてくれや」

「そうはなりませんよ。貴方だけが一方的に負けるのですから」

「こりゃ手厳しいなあ、おい」

 

 鍵と浩介。互いの最大火力の溜めは終わり、同時に放たれる。レールガンと呪力の火箭、互いの威力でせめぎ合い凄まじい衝撃が周りを襲う。やがて限界に達したエネルギーは────

 

 

 

 

 ────轟音を立てて爆発する。




長かったパヴァーヌもラストが近づいてまいりました。

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