The Last of Us 〜 plus One 作:wakaba1890
皆の決心がついたのも束の間、夜通しかけて議事堂に来たため休息も兼ねて近くの建物の屋上で一泊してから、車を手に入れるため旧友のいるマサチューセッツ州 リンカンへと向かった。
最低でも、徒歩で半日は掛かるところであったため、暇つぶしのための雑談が自然と弾んだ。
「ーー・・ビルと会うのはいつぶりかしら?」
「...もう、5..6年は会っていないな。」
基本的には、港湾からの物資の調達が多いため、よっぽどの事がなければ半日かけて彼に会いに行くことはなかった。
「ビルってどんな人なの?」
「....気難しい人かしら。」
テスは大分オブラートに包んで言っていた。
「変な人って事ね。」
「まぁ、間違いではないな...」
何度かあったことのあるアラタからしても、同様の印象を持っていた。
「5年も会ってないと、死んでるんじゃない?」
「それはない。」
時間が機嫌を直してくれたのか、ジョエルは食い気味に口を開いた。
「なんで?」
「ビルが住んでる街はフェンスと、スクラップされた車とか廃材で壁に囲われてるからな。」
ビルはアラタほどではないにしても、機械系への知識が豊富で彼が住む街全体をトラップ化し、入念な侵入者対策が施されていた。
「変なの。」
生きてようが死んでまいが、どちらにせよエリーの印象は変わらなかった。
ビルが住む街のフェンス前に到着した彼らは、フェンス越しに見える手入れが行き届いていた建物が風化していたのを目の当たりにした。
「ーー・・ジョエル。とりあえず入るぞ。」
「あ、あぁ。」
少し棒立ち気味だったジョエルに声をかけ、フェンスのゲートにパスワードを入れて開けた。
ギィィ
少し錆び付いてはいるものの、太陽光発電とシステムは機能しているようだった。
「あんまり荒れてないな。」
「そうね。感染者や略奪者がって訳でもなさそうね。」
大量の爆弾でもなければこの街自体に入ることは困難であり、そのような形跡もなかった。
「....ここだ。」
基本的に彼が住んでいた家に到着し、ジョエルは植木鉢の下に隠された鍵をとって静かにドアを開けた。
「...埃っぽいけれど、まだ綺麗ね。」
やはり、争った形跡も荒らされた様子もなかった。
「うわーぉ、ピアノがある!」
「弾けるのか?」
「全然!」
「なんだよ、それ....」
弾けそうな勢いであったが、拍子抜けであった。
「じゃあ、アラタは弾けるの?」
「あー...まぁ、一応。」
お前は出来んのかとどこか関西的なノリで聞かれた彼は、一応は正直に答えた。
「え...そうだったの?」
テスは10年で初めて知る彼の一面に驚いていた。
「聞きたいっ!お願いいー」
「....わーったよ。」
エリーにせがまれた彼は渋々引くことにした。
「....おぉ、調律も問題ないな。」
軽く鍵盤を弾くと遜色なく音が靡いており、ここ数年までは調律されていたのがわかった。
「「.....。」」
「...戦場のメリークリスマス。」
もうすっかり、聴くモードになっている彼女らを前にして彼は、何年かかっても忘れられない両親との思い出の曲を弾いた。
彼と同じ日本人が作曲したこの曲は、世界から戦争がなくなるように願った曲であった。
奇しくも、その願いは人々が新種の菌類に侵され、人が構成する社会自体が崩壊した事で叶い、紛いなりにも実現してしまった。
人が居ない世で、戦争のない世界が実現するというのは皮肉なものであった。
それでも、この曲は色褪せる事なく、先の見えない、あるかわからない希望を、人の想いを明るく照らしてくれていた。
「「「.....。」」」
気づけば、家の中を散策し終え、手紙らしきものを持ったジョエルまでもが彼のピアノに聴き入っていた。
そして彼が弾き終えると、パチパチと息の合わないながらも精一杯な拍手が部屋に響いた。
ジョエルの話によると、数年前にパートナーが免疫不全系の病気にかかってしまい、70近かったビルはパートナーと共に心中を図ったらしかった。
また、ビルの手紙によると、バッテリーが冷蔵庫に保管されており四駆の車自体も十分にメンテナンスしていたらしく、いつか使う時が来たら勝手に使え。借りは返したぞ。と書いてあった。
そうして、無事に手に入れた車に、地下の貯蔵庫にあった缶詰や保存食、サプリメント、浄水器、大量のガソリン、自動小銃などの潤沢な物資を積み込み、ファイヤフライの本拠を知っているかもしれないジョエルの弟の元へと出発した。
「ーー・・そういや、トミーと会うのは何年ぶりだ?」
「....なんか、それデジャブね。」
のんびりとしたドライブ中に、ふとアラタが口づさんだその文言はビルの時と重なっていた。
「トミー?ってジョエルの弟なんだっけ?」
今乗っているトヨタのランドクルーザは3列シートではあるものの、3列目は大量の物資でみっちりと埋まっており、また、2列目は10時間運転したジョエルが寝ていたため、助手席にテスと膝の上にエリーが乗っていた。
「あぁ。そう聞いてる。」
テスとジョエルならともかく、アラタとジョエルは男同士特有の暗黙の了解みたいなのがあり、互いにそこまで詮索しないのがあった。
「ふーん、弟ってどんな感じなの?」
「うーん、私は年下のいとこはいたけど、まぁー生意気よ。」
彼には弟もいとこもいなかったが、なんとなく想像は出来た。
「へぇ....でも、可愛いだろうな。」
そして、エリーはどこか愛おしそうに想像していた。
「アラタはトミーと会った事あるの?」
ちらっとテスは彼と会ったことがあるようなことを言っていたが、アラタのことは聞いていなかった。
「一回だけあるな。その時はジョエルの弟とは知らなかったが」
「え、初耳だわ....いつ会ったの?」
「あー、ファイアフライの集会。」
テスに聞かれ、言うまいか少し迷ったがどの道バレるだろうと正直に話した。
「へぇ...意外ね。あなたはもっと、ドライだと思ったのに」
アラタは彼女からしても、色々と割り切っているように見え、自分の享楽さえ守れればそれで良いといった自己完結的な人間だと思われていた。
「まぁ、ただどんな組織か知りたかっただけだ。」
彼の言葉に偽りはなく、彼が集会に参加したのはただの興味本位に過ぎなかった。
「で、どうだったのよ。」
「....アカと変わらんな。」
彼女から感想を聞かれたが理想だけ先行して理屈が稚拙なところで、どうしてもそう言う類の言葉になってしまった。
「ははははっ....なるほど...」
彼の答えを聞いた彼女は腹を抱えて笑った末、妙に納得していた。
「???...アカって何?色のこと?」
パンデミック真っ只中で生まれたエリーは、なんのことがさっぱりであった。
「はははっ...そうね、言うなれば欲深い大人のことよ。」
「???」
的を得た説明であったが、やはりエリーにはピンと来ていなかった。
森林公園の中に車を停め、森の中でキャンプすることになった。
「ーー・・この辺でいいか。」
「えぇ、そうね。」
「薪を取ってくる。」
「私もっ!」
日の入りまでの時間が少ないため、早々にテントと寝袋の用意をはじめ焚き火の準備も手分けして行った。
「...今日は何作るの?」
エリーは渋い顔で料理をしているジョエルにちょっかいを出すかのようにそう聞いた。
「肉と豆のシチューだ。」
多少は打ち解けてはきたが、未だジョエルの妙な壁は柔ではなかった。
「へぇー偶然だね。昨日と一緒だ!」
「....皮肉か?」
「うっそ、冗談だってば。はははっ!」
一拍開けて妙な言い回しを指摘すると、狙ってたかのようにエリーは笑っていた。
「おーい、あんまり大人を揶揄うんじゃないぞー」
「はーい。」
その辺で取れた野草をドレッシングに絡めているアラタは、助け舟を出しておいた。
「はぁ...」
距離を保とうとしても、子ども特有の距離感のバクさにジョエルはため息を禁じ得なかった。
夕食を食べた彼らは大昔の人間のように、早めに寝床についていた。
そして、見張りのアラタは三日月の月明かりを頼りに、夜目に鳴らしておいた目と異様に性能が良い耳で周囲の状況を警戒していると、いつもは直ぐに寝ているエリーがまだ眠っていないのに気づいた。
「...寝れないのか?」
「..?」
「うん、あのさ...私ね。たまに嫌な夢見るんだ。」
そして、同じく見張り役のジョエルは突然口を開いた彼を不思議そうに傍目で見ている中、エリーはおもむろに話し始めた。
「今も嫌な夢みたいなもんだろ...」
「おい。」
「っと、はいはい。」
真面目な様子で話し始めたエリーに水を差すようなことを言ったアラタは、ジョエルに嗜められた。
「まぁ、それもそうなんだけど、もっと嫌な夢。」
「....。」
今度は真剣に聞いているアラタは静かに聞いていた。
「...まぁ、そんな怖い夢じゃないんだけど、朝起きたら周りに誰もいなくなってるっていう夢。」
「「.....。」」
この場にいる誰もが自分だけ生き残ってしまい、大事な人の殆どは化け物になるか天国に行ってしまっていた。
「...ジョエルやテス、アラタを探すんだけど、いくら探し回っても誰も見つからないで、ずっと一人っきり。それで、気づいたら目が覚めてる。」
「その夢を見るのが嫌で、たまに寝れなくなる。わっ...へへ...」
「大丈夫よ。私たちはどこにも行かないわ。」
話が聞こえているうちに目が覚めたテスは、見かねてエリーを抱きしめた。
「...俺らはしぶといからな、そう簡単に死なないし、エリーを残してどこかに行ったりしない。」
そして、アラタは無防備なエリーの頭を優しく撫でた。
「....あー、なんだ....お前は良くやってる。安心しろ。」
ジョエルも何か言う流れになり、不器用ながらも優しい言葉を投げかけた。
「...う、うん。」
泣いても仕方ないと。乾き切ってしまったこの世界でも、エリーの目には悲しみではないただ純粋な安堵と温かみに満ちた涙が溢れ、一時だけでも、今ここだけは人の温かさや優しさだけで満たされていた。