The Last of Us 〜 plus One 作:wakaba1890
ヘンリーとサムはもちろんジャクソンに残り、テスとアラタ、ジョエル、そしてエリーはファイアフライがいる東コロラド大学へと向かった。
しかし、そこはものけのからだった。
「ーー・・おいおい、嘘だろ。」
「誰もいないわね。」
馬を2頭引き連れながら、建物内を物色しても人の気配はなく実験動物らしき猿が数匹いたくらいであった。
「....サンタマリア病院に移ったらしいな。」
そして、研究室だった部屋のデスク上にあったボイスレコーダを聴くと、ユタ州 ソルトレークにある病院に移ったらしかった。
「確かか?」
「あぁ。」
未だマーリン以外のファイアフライのメンバーに邂逅していなかったため、どこか不確かなところがあった。
「とにかく、まだ日は暮れてないから出発しましょう。」
「....略奪者だ。」
テスがそういった瞬間、アラタの目端で窓越しではあるものの動くものを確認して、静かにそういった。
「まずいな..」
「...入り口あたりかしら?」
すぐさま窓の方から離れたジョエルは馬の事を心配した。
「あぁ、渡り廊下からまわっていこう。」
「了解」
「うん」
建物におびき寄せて、そのうちに馬で逃げる算段だった。
「ーー・・よし、いないな...っ?!」
「あ...」
別棟に移り建物から出て、馬を回収しようとしたが、運悪く鉢合う形で略奪者とあい見えてしまった。
パンパンっ!
「..っ...」
一瞬互いに驚きで体が硬直するが、アラタは脊髄反射で二人の略奪者の脳天をヘッドショットしたが、ジョエルの様子がおかしかった。
「ジョエルっ?!」
「まずいわね..」
偶然相手が持っていたアイスピックがジョエルの脇腹に刺さっていた。
「・・おいっ!銃声がしたぞっ!!」
こいつらの仲間が勘づいたようで、建物の中から走る音が聞こえてきた。
「テス、エリー。ジョエルを建物の中に運んで、俺の鞄から手術道具を出して、熱湯につけといてくれ。」
「わかったわ、いつもの手順ね?」
「あぁ。」
前にも一緒に物資調達をした時にこういった事態を経験したことがあったテスは、彼の短い指示から何をすべきかを把握していた。
「...どうしよう、どうしよう...死なないで!ジョエル!!」
しかし、どんどんと血の気が引いていくジョエルの顔を覗きながら、エリーは泣きそうな顔で取り乱していた。
「...エリーはテスが熱湯を用意する間、俺の鞄から手術道具と、ゴム手袋を出してバルーンオペ室を膨らませてくれ。」
「...え、ぁ...でも...」
この旅の途中、一度もそういった事態に陥ったことのなかったエリーは、まだ気が動転していた。
「エリー。君の力が必要だ。」
彼女の心境も知った上で、アラタはエリーの目を見据えて力強くそういった。
「...うん!わかった。」
覚悟の決まったエリーは、彼の指示を了解した。
そうして、早急に敵を殲滅した彼は、彼女らと合流し、すぐさま度数の高い酒で体全体を消毒し終えていた。
「...バルーン膨らませ終わったよ!」
「こっちも、熱湯で消毒終わった。」
「っし、始めるか。・・ーー」
バルーンオペ室も完成し、手術道具の消毒も完了したところで、彼はガウンに着替えオペを開始した。
正直、かなり運が良かった。
アイスピックが刺さったのは、ジョエルの腎臓あたりで半分ほど刺さったものの貫通までにはいかず、最小限の出血で済んだ。
そして、輸血も今まで貯めておいたストックがあったため、ギリギリ足り、あとは抗生剤と点滴を投与して、回復を待つだけだった。
「ーー・・目覚めるかな...」
「あとは、待つしかないわよ。」
「最善は尽くした。あとは、ジョエルの気力次第になる...」
彼女らは少し入り組んだところにある大学の視聴覚室で、点滴を打ちベッドで寝ているジョエルを見守っていた。
「「....。」」
息はしているものの安らかに眠っているジョエルの表情を見ている彼女らは、何も手がつかなかった。
「....とりあえず、この部屋に入れないように通路を弄ってくる。」
視聴覚室という特性上、入り組んだ通路になっていたため、廃材や家具などを要して物理的に通れないようにする事にした。
「...あ、うん。」
その後、ジョエルはなんとか数週間で目が覚めた。
幸い、略奪者がこの視聴覚室に到達する事はなく、大学内でも何回かしか略奪者は出現しなかった。
また、視聴覚室という特性上、断熱に優れており寒さで凍えることも少なくなんとか籠城でき、気づけばもう一月の時が経ち、ジョエルの容体は万全までとはいかなくとも7割くらいまで回復した。
そのあたりで、一旦ジョエルをジャクソンに送り届けてから、サンタマリア病院に向かおうとしたが、頑なにジョエルは付いてきたがっていたため、もう一ヶ月安静にして回復に務めるのを条件で了承した。
そうして、昔みたいに鹿やウサギなどを狩って食い繋いでいる間に、一ヶ月を過ぎ、ジョエルの容態はなんとか及第点に達した。
「ーー・・ソルトレイク。この先か。」
「看板を伝っていけば、着くかしら。」
「そうだな。」
サンタマリア病院が所在するユタ州 ソルトレークに到着した彼らは、高速道路を馬で闊歩して進んでいた。
「なーんか、寂しいね。」
旅の終わりが見え始めてきたところ、エリーは陽気に振る舞おうとそういった。
「ふふっ、なんなら帰ってもいいのよ。」
「そうだぞ、ファイアフライなんかより、ジャクソンの方が楽しいだろうしな。」
そして、テスやアラタはエリーの感情を汲み取るかのようにそう言った。
「ううん。そりゃ、たまーになら帰るかもしれないけど、しばらくはファイアフライにいるよ。」
気を遣われてるのを感じ取ったのか、エリーは遠慮がちに自分の運命を受け入れようとしていた。
「それは寂しいな。なぁ、ジョエル。」
「なっ....」
「.....。」
彼女の答えに寂しさを感じたアラタは、同じ思いをしているであろうジョエルに話をふると、虚をつかれた彼は驚いた表情をしており、エリーは真剣な眼差しで彼を見つめていた。
「....まぁ、なんだ....ジャクソンなら歓迎してくれる。」
「ははっははっ...そうだね。」
遠回しにデレたジョエルを見たエリーは、彼もまた自分を大事に思ってくれているのだと嬉しさを滲ませていた。
ファイアフライが哨戒しているお陰なのか、すんなりとサンタマリア病院に到着した彼らは、着いて早々武装解除され、エリーと彼女を経過観察していた地味に有名だったアラタは、ジョエルたちと別々に別れて、別室に連れてかれていた。
「ーー・・.....おい、エリーはどこなんだ?」
「....。」
この部屋に待機してろといわれ、数十分ほど経ったところジョエルが見張の兵士にそういうが、フルシカトされていた。
「...ふぅ。」
ガチャ...
そろそろ我慢の限界といった様子で、ジョエルは立ち上がると、ドアの扉が開いた。
「...久しぶりね。ジョエル、テス。」
その声の主は、依頼の発端人であるファイアフライの幹部。マーリンであった。
「あら、生きてたのね。」
「...えぇ、お陰様で。」
テスがそういうと、マーリンは今はこの場にいない命の恩人であるアラタに、感謝していた。
「...言う相手が違うんじゃないの?それに、アラタはVIP待遇なのね。」
テスもアラタの経歴は知っていたため、特に不服というわけではなかったが、少し揺さぶりをかけていた。
「私も後から知ったけど、彼...すごい経歴なのね。博士レベルの医学に薬学はもちろん、著名な論文も執筆していたそうで、驚いたわ。」
彼女はファイアフライの研究員から聞いただろう情報に舌を巻いていた。
「...エリーはどこだ?」
妙な時間稼ぎをしていたようにも見えた彼女に、ジョエルは本題を突きつけた。
「...ふぅ、テス、ジョエル。落ち着いて聞いて、エリーは手術をしないといけないの。」
「まさか、感染が進んで...」
テスは、前にアラタがいった仮説がエリーに当てはまっていたと思ったが、違った。
「彼女が感染した菌は突然変異なの、それを切り取ればワクチンができるのよ。」
「...菌は脳と同化してる。」
彼女の話を聞いて、ジョエルは詰め寄りながらそういった。
「...まさかっ」
それを聞いたテスは口を抑えていた。
「お前、何をしようとしてるのか...わかってるのか?!ぐはっ....はぁ...」
マーリンに詰め寄ろうとしたところ、兵士に蹴られ、ジョエルは地面に突っ伏していた。
「ジョエル!」
「....外に出して。抵抗したら、撃ちなさい....バカな真似はしないでね、ジョエル、テス。」
テスが彼に駆け寄る中、マーリンは冷たい命令を兵士に出し、最後にジョエルとテスに忠告をした。
バタンっ
ドアの閉まる音がやけに響く中、ジョエルとテスの決断は早かった。
「うおっ!」
「っ!」
「なっ?!くっ...っはぁ...」
見張りの兵士はジョエルに首を締め上げられ、制圧された。
「...ジョエル。」
「あぁ、手術室へ行くぞ。」
テスは、これから行うことの是非をジョエルに確認すると、彼の中に迷いなどなかった。
ジョエルたちは追ってくる兵士たちを撃ち殺しながら手術室へ向かい、そして、手術室に到着した。
「ーー・・ここか....いくぞ。」
「えぇ。」
兵士から奪ったアサルトライフルを持って、ジョエルとテスは手術室の中に入った。
「...なんだ?!なんだ、お前たち?!」
まさしく、手術が始まろうとしていたところ、ジョエルたちはなんとか間に合った。
「...ジョエル...テス...エリー....」
そして、それと同時に今まで別の研究員と色々と話をしていた、アラタが手術室に入ってきた。
「....。」
ここまでくる間、ジョエルとテスの選択を目の当たりにしていたアラタは、鞘に収まった日本刀を手に静かに彼らを見据えていた。
「....アラタ。」
「.....。」
既にアラタの間合いに入っているジョエルとテスは、弁明するでもなく彼の名前を呼んだ。
「....スゥ....」
アラタは目を閉じていてもこの部屋の全員の首を刎ねられる距離まで歩み、静かに息を吐いた。
「あんたならっ!わかるはずだ!これは、人類に残された最後のっ....」
今だに夢から覚めていない執刀医の男は、アラタに首を刎ねられた。
「....いや...」
それを見たガウンをきた医師は、頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
「....アラタ....」
彼の行為を目の当たりにしたジョエルは、思わず彼の名を呼んだ。
先まで、ファイアフライの研究員と話していたアラタはそこでエリーの事を聞いて、有無言わさずそいつの首を刎ねていた。
彼がいうには特効薬さえ出来れば人類は救われる。と文言を聞き、アラタはやはりファイアフライはこの世界が、これからの世界が抱える問題の本質を見失っていることを残念に思った。
そう、この世界にはもう新薬やワクチンを、量産するための物資も、人も絶対的に足りていないのである。
それは、なんとかこの世界で薬や医療物資をやりくりしてきていた俺が知りきっており、少し考えれば見える現実を彼らはわかりやすい希望に酔って、無視し続けていた。
なれば、終わらせてやろう。紛い物の人類の希望とやらを...
そうして、彼は残った医師たちの首を刎ねた。
「....エリーを連れて、行くぞ。」
そう、初めから、アラタ・シドウは何があろうと、エリーを一人にしないと約束していた。
「えぇ。」
「あぁ。」
もちろん、ジョエルとテスも同じ気持ちだった。
「ーー・・止まりなさい....」
兵士たちを一人残らず殲滅し、エレベーターで駐車場についた彼らは、待ち構えていたマーリンに行手を阻まれた。
「....マーリン...」
「...っ。」
テスは彼女の名前を呼び、銃を下げ、エリーを抱えたジョエルはポッケの銃を握った。
「....スゥ...」
そして、アラタは刀に手を添え、既に間合いに入っているマーリンを静かに見据えた。
「...その子は救えない。ここから連れ出したって、死ぬのよ。」
「...お前が決めることじゃない。」
エリーを抱えたジョエルは、そう言い返した。
「...いいえ、エリーも望んでる。」
「っ....」
「特効薬ができたところで、量産するための物資も人も足りないだろ。」
マーリンの言葉に揺らいでいるジョエルであったが、すかさずアラタが正論を挟んだ。
「っ...それは...」
彼の考えは概ね正しいのか、ここだけでなくファイアフライの全容を把握しているであろう彼女は、ファイアフライにも、銃と弾薬、限られた薬剤の生産に手一杯な軍政府組織にも、もうそんな新薬の量産体制を構築、維持できない事など知りきっていた。
「それに、お前らはこの菌の本当の、理不尽さを知らないだろ?」
「は?」
「お前...」
「え...」
まるで、人類を滅亡しようとさせている菌の全てを知っているかのような口ぶりで、この場にいる全員が呆気に取られていた。
「そもそも、菌はウィルスとは全く別物だ。菌は生きていて、常に進化を重ねている。」
「....まさか」
「あぁ、そのまさかだよ...」
彼は知っていた。
初めに、ジャカルタで発見された新型の菌に関するレポートを見た時点で、人類が進化しない限りその菌に勝てない事を。
「....特効薬を作っても、この菌はすぐにそれに対応する。」
そして、この20年間の研究の末、この菌は地球温暖化によって、体温34℃以上の宿主に感染することが可能になった副作用で、菌の進化スピードが加速度的に進化した事を知った。
「...嘘...でしょ....」
彼の絶大な経歴と、嘘偽りなく真っ向から断言されたことで、マーリンはその場で座り込んでしまった。
「実際、この20年間の中、2回だけ...この菌に対抗できる変異バクテリアを発見し、それを元に作成した薬を感染した被験体に投与したが、2回とも直ぐに適応進化された。」
それはまさに、エリーと同じようなケースであり、乱数的に特異な菌に感染した第一感染者には免疫が残るが、それを元に作られた薬を第三者に投与しても効果を示さないという事であった。
「....だったら、なぜ」
マーリンは顔を伏せながら、なぜ無駄だとわかって依頼を受けたのかを聞いた。
「この事を伝えに来た。ただ、それだけの話だ。」
依頼の話をした時点で、専門家ではないマーリンに伝えても信用がないため、それだけのために此処に赴いて、実際、持ってきた資料を照らしながら説明した結果、研究員はそれでも引かなかったため、首を刎ねて今に至った。
「はぁ....無駄だったのね...そして、人類は...負けたのね。」
この病院に着くまで、仲間の犠牲無くしてならなかっただろうが、彼女は彼に突きつけられた現実を受け入れた。
「....んぁ...何?あれ、ジョエル?どうしたの..」
少し長く話していたせいで、エリーは起きてしまい、寝ぼけながら目の当たりにした異様な光景に困惑していた。
「あ....っと...」
ジョエルはなんと説明しようか迷っていると、マーリンが立ち上がってエリーに駆け寄った。
「...エリー。あなたの免疫は、他の人には効果がないみたい。」
「え、あー...そう、なんだ...」
一度は死を覚悟したエリーであったが、目が覚めて役目がなくなったと言われると、なんと処理したらいいかわからなかった。
「...ファイアフライは治療薬の開発をやめたらしい。」
「なんで?私のせい?!」
ジョエルがそういうと、エリーはどこか責任を感じていた。
「まさか、前に話したように、人類は菌には勝てない。誰が悪いでもなく、そういう現象なんだよ。」
そして、真実に最も近いアラタがフォローした。
「うーん、そう、なのかな?」
エリーはまだピンとは来ていないものの、寝ぼけた頭でなんとなくは理解していた。
「とりあえず、帰りましょう。私たちのお家に。」
「...う、うんっ!」
当たり前のようなテスのその言葉に、エリーは今日一番の笑顔で答えた。
「そうだな。」
「...あぁ。」
エリーの笑顔に釣られるように、別れずに済んで安堵した表情のアラタと、ようやく秒針の針が進み始めたジョエルは車に乗り込んだ。
その先に何があろうとも、自らの意思で前へ進み続けた彼らは、どこまでも続く青い青い空の下を颯爽と駆け抜けていった。
The End