交通事故に遭ったら、怪しい女が病室に来た 作:かさぶたabc
交通事故に巻き込まれ、入院生活に飽きていた頃。
彼女は突然やって来た。
「比企谷君は前世って信じますか?」
しかも、初対面でそんな話題を振ってくるような奴だった。
「は?えっ、と……。」
普通の会話すらままならない俺には、到底ついてはいけない内容。さらに言えば、それが女子となればいつもの三割増しで口も頭も回らない。
「ですから。自分が生まれる前の記憶。過去に生きた自分の記憶を、今の自分が持ち合わせることが可能だと、信じていますか?」
さらに補足説明をして、回答を要求する彼女。
ほんとに初対面なのか疑いたくなる図々しさ。
しかし、どこか必死にも見える姿に俺は躊躇いないがらも口を開く。
「いや、すまん……。そういうのは、信じていない。」
「そう……ですか。」
期待していた回答と違っていたのか、分かりやすく、肩を落とした彼女。
そんな彼女に悪い気なんてする訳もなく……ただただ気味の悪い奴、というのが正直な感想だった。
最近、近場で新興宗教が発足されたとか何とか、妹の小町が言っていたような気がするが、その教徒による勧誘か何かなのか。
中学の俺ならば、こんなスピリチュアルなシチュエーションにも心踊ったが、そんな過去はもう記憶の奥底に封じ込めため、今はただ、目の前の彼女が怖い。
「あー、その…宗教とか興味ないんで入るつもりはないです……。」
新聞の勧誘や美人局による誘惑など、こういうのは、先にしっかりと断っとくべきだと小町やダメな親父から英才教育を受けている。
舐めるなよ、比企谷家を。
「は?宗教?」
若干、キレ気味に言葉を返された。
怖い。というか恐い。
クラスメート全員の前で謝罪コールを受けた以上のプレッシャーがあった。
「はぁ……いえ。決して怪しい新興宗教の勧誘ではありません。──私は胡蝶 しのぶ。車に轢かれそうになったところをあなたに助けていただいた者です。」
※※※※※※
彼と初めて会ったのは鬼の妹を連れた少年の是非を問う、柱合会議の時だった。
お館様が屋敷に着くまでに、柱の皆さんは各々、少年と妹の判決を述べていく。とは言っても、柱の過半数が有罪。問答無用で兄妹二人の死刑だった。
情が無い、そう言われても仕方ない。しかし、情を移せるのは人だけ。かつては人でも、今が鬼である限り、情など移せる筈もない。
裁判は進められていく。裁判官の居ないまま。
とうとう不知川さんが日輪刀を抜き、鬼が入った木箱に刃をかけた。
彼の力量ならば、それこそ痛みなど無く、一瞬にして殺せるだろう。
そんな時、彼は現れた。
『随分と悪趣味なことやってんだな。』
誰も気づかなかった。気づくことが出来なかった。
私を含め、柱全員がその声を聞くまで。
彼が近くに居ることを認知できていなかった。
自然と、刀に手が向かう。
鬼ではない。
けれど、同等の不穏な気配を感じた。
『自分達が犯すことのない絶対不変の正義の味方だと傲ってんのか?』
一歩。また、一歩と。
その足は不知川さんの方へと向かっていく。
『間違いを正すだけの正義に一体どれくらいの価値があるんだか。』
軽蔑と怒り。
その彼の言葉から伝わる感情が、私の動きを封じてくる。
柱の中で、私だけが彼に刃を向けることができなかった。
『なんともまぁ、めでたい奴等だな。』
ニヒルな笑みを浮かべて、彼は不死川さん、そして私達に対峙した。