深緑の魔女   作:紅椿_

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前話、とんでもなく誤字がありました…
報告ありがとうございます。


第13話:クリスマス休暇

 ホグワーツはこれからクリスマス休暇に突入する。

 学校に残ることもできるが、カトレアはホグワーツに残ることを選ばなかった。

 オリビアも、ソフィアも、レオも、アシェルも誰も残らないらしい。

 ホグワーツに入学して初めての休暇だ。

 たかが3ヶ月、されど3ヶ月。

 母に、父に、妹たちに、家族に会いたい。

 生まれてこの方1週間も家族から離れたことの無いカトレアはホームシック気味であった。

 手紙は送っていたけど、強く抱きしめて、キスの雨を降らして、それから落ち着いて話したいことが山ほどあるのだ。

 

「おかえりなさい」

 

 カトレアはすぐに叶う理想を思い浮かべながら、狩りから戻ってきたアンバーに餌と水を差し出した。

 アンバーは狩りで満足したのか餌をカトレアの方へ寄せ、水だけを飲む。

 本当に頭のいい子だ。

 水を飲み終わったアンバーはカトレアの手に頭を擦り寄せる。

 美しく賢い、それでもって実は甘えん坊の彼女を撫でてやると、満足したのか自らトランクの上に置かれた籠の中に入る。

 

「少しの間辛抱してちょうだいね」

 

 餌を袋に戻し、器を清掃魔法で綺麗にしたらトランクにしまう。

 これでカトレアの帰省の準備は完了だ。

 

「2人とも、準備は出来た?忘れ物はない?」

「私はもう大丈夫」

「ちょっと待って!!」

 

 オリビアの悲痛な声が部屋に響く。

 ソフィアは準備万端で、黒猫のシェリーを抱えてベッドの上に座っていた。

 カトレアとソフィアは顔を見合わせてクスリと笑った。

 オリビアは豪胆なように見えて案外繊細で、意外と気を遣うことができる一方でやっぱり何処かガサツだ。

 クリスマスイブのパーティを終えればすぐに休暇に入ることはわかっていた癖に、今の今まで帰省の準備に手を付けてこなかったのだ。

 数日前から少しづつ準備を始めていたカトレアとソフィアに対して、朝起きて慌ててトランクに荷物を詰め込み始めた。

 ちなみに朝に弱いオリビアを起こしたのはいつも通りカトレアである。

 

「あー、もう!入んないし!!」

「もう、オリビアったら」

 

 オリビアは閉まらないトランクをイラついたように殴りつけた。

 トランクは異議を唱えるようにボンと鳴き、抗議を受けたオリビアは痛そうに手を摩った。

 

「適当に入れるから閉まらないのよ。ほら、貸してごらんなさい」

 

 3ヶ月前、ホグワーツに入学した時から荷物の量はそう増えていないはずだ。

 来た時に閉まっていたのなら今だってきちんと入れれば閉まるはず。

 カトレアはオリビアの傍にしゃがんでトランクを開けた。

 ソフィアもシェリーを抱えたまま覗き込む。

 トランクの中は、それはそれは悲惨な有様だった。

 適当に折り畳まれた洋服、詰め込まれた教科書、ぐちゃぐちゃに丸まった靴下やハンカチ、隙間にはお菓子やインク瓶などの小物が無理矢理押し入れられている。

 あまりの有様に、カトレアは無言で杖を取り出して振った。

 

「パック_詰めよ」

 

 トランクは限界だとでも言うように詰め込まれた物を床に吐き出した。

 そして気を取り直したかのように再び物を飲み込んでいく。

 洋服はショップに並んでいるようにぴっちりと折り畳まれ、教科書は1列に積み重なり、靴下もハンカチもアイロンでもかけたようにお行儀がいい。

 お菓子は余裕のある隙間に収まり、インク瓶はハンカチに包まれて洋服の海に溺れる。

 

「すっごーい」

「オリビアちゃん…」

「オリビアは少しぐらい反省なさい」

 

 パチパチと拍手をオリビアが奏でる。

 あんなにパンパンで閉まらなかったトランクが今や見る影もない。

 反抗的なトランクは荷物が全て詰め込まれるとバタンと蓋を閉じる。

 パチンパチンと軽快な音を立ててトランクのロックが締まった。

 

「ありがと、カトレア」

「どういたしまして」

「オリビアちゃん、ホーン君は飛んで帰るの?」

「うん。丁度昨日手紙出したから、そのまま家にいるはず」

 

 オリビアはトランクの上に空の鳥籠を置いた。

 雄のモリフクロウであるホーンはオリビアの大切なペットだ。

 ホグワーツに置いていかれたのではあまりに可哀想だ。

 

「君たち、準備出来たらもう出なさい。暫くしたら激混みよ」

 

 コンコンと開いた扉を叩いて顔を覗かせるキャスリーン。

 7年もホグワーツにいればこういう時に何時何処が混むのかなんて身体に叩き込まれている。

 既に帰省の準備が出来ているのなら、可愛くて賢いこの後輩たちがむさ苦しい生徒たちにもみくちゃにされないに限ったことは無い。

 キャスリーンはもう下に荷物を運んで、馬車の中に積み込んであるため、一通り声をかけたらさっさと駅に向かう予定だ。

 

「なら、そろそろ行くかー」

「声掛けてくれてありがとう、キャスリーン」

「あ、ありがとうございます…」

「どういたしまして、良いクリスマスを」

 

 可愛い可愛い後輩達に頬を緩ませ、キャスリーンは次の部屋に声をかけるために颯爽とカトレアたちの部屋を去った。

 カトレア達はトランクをしっかりと手に持ち、階段を降りていく。

 各々がトランクに浮遊魔法をかけ、風船を持つようにトランクを率いている。

 そうでなければ重たいトランクを階段に打ち付け、汗をかきながら馬車に乗ることになっていただろう。

 数日前に助言をしてくれたチャールズに感謝である。

 階段を降り、大広間を素通りして外に出れば、そこにはマクゴナガルが待ち受けていた。

 今日も変わらず真っ黒なローブを着て、白髪交じりの髪を引っ詰めた頭の上には三角帽子がある。

 

「「「おはようございます、マクゴナガル先生」」」

「おはようございます。計画性があって大変よろしいですね。中庭に馬車が待機していますのでそれに乗りなさい」

 

 マクゴナガルの言う通り、中庭には馬のいない馬車が幾つも待機していた。

 そして、マクゴナガル以外の各寮の寮監も揃っていた。

 キャスリーンに声をかけられてすぐに部屋を出たからか人も疎らで、馬車に乗るのに待つ必要もなさそうであった。

 

「さあ、この馬車に乗りなさい!」

 

 フリットウィックが指した馬車に乗り込めば、フリットウィックがちょちょいと操ってトランクも積み込まれる。

 さして大きくもない4名がけの馬車。

 3人と、3人分のトランクを積み込めば馬車はあっという間に定員に達した。

 

「どうして馬がいないんだろう」

「魔法で動くんでしょ」

 

 カトレアだけはこの馬車を知っていた。

 この馬車には馬がいない訳では無い。

 ただ、見えないだけだ。

 もう見える人もいるかもしれないし、今後一生見えない人もいるかもしれない。

 

「どうして馬車なのに馬がいないのか分かりますかな?」

 

 フリットウィックが馬車のすぐ傍で問いかけてきた。

 小鬼の血が混じってる為とても小さいフリットウィックの姿は、馬車に乗り込んだオリビア達からは首を伸ばしても頭の先っぽしか見えなかった。

 

「魔法で動かすからじゃないんですか?」

「残念。Ms.エバンズ、分かりますかな?」

 

 馬車に最後に乗り込んだカトレアからは、フリットウィックの顔がはっきりと見えた。

 期待するように、キラキラとした目がカトレアを見つめている。

 この期待に応えなければの名折れだ。

 

「セストラル、ですよね」

「その通り!」

「セストラル?」

「魔法生物の一種よ。ある特定の条件を満たす者にだけ、その姿は見える」

「条件って?」

「死を目撃し、その事実を受け入れること」

 

 ひっ、とソフィアが息を飲み、セストラルがいるであろう場所を見つめた。

 ソフィアの目には、ただ寒さに震える色褪せた芝しか映らなかった。

 イギリス魔法省はセストラルを危険度✘‎✘‎✘‎✘‎に定めている。

 しかし、セストラルは決してイギリス魔法省が定める様に危険な魔法生物ではない。

 普通の馬の様に馬車を引き、普通の馬のように繁殖し、普通の馬の様に餌を食べる。

 ただ、その存在は極めて珍しく、その姿は死を目撃した事のある者にしか見えないだけ。

 イギリス魔法省はその希少性と生体から不吉なものとして扱っているだけにすぎない。

 

「ホグワーツの歴史も、魔法生物についてもしっかり読み込んで学んでいるようですね!グリフィンドールに5点!!」

 

 フリットウィックはにっこりと笑い、セストラルの前足付近を叩いた。

 セストラルはゆっくりと動き出し、馬車のタイヤがカラカラと回る。

 

「良いクリスマスを!!」

 

 ゆっくりと景色が流れ、ホグワーツ城が遠ざかっていく。

 

 

 ホグズミードに着くまでにそう時間はかからなかった。

 ホグズミード駅にはまだ数人程しかおらず、カトレア達は悠々と好きなコンパートメントを選ぶことが出来た。

 

「ここにしよ!」

 

 オリビアが決めたのは最後尾の列車の、扉が目の前にあるコンパートメントだった。

 オリビアとソフィアが頭上の棚にトランクを上げている間、カトレアは杖を振ってコンパートメントに魔法をかける。

 いつもと変わらない、改良済みの人避けの魔法だ。

 

「レペロ・ホモータム_人を避けよ」

 

 魔法をかけてすぐ、コンコンコンと扉をノックする音が聞こえ、30cm程開いた扉からアシェルが体を横にして滑り込んでくる。

 

「失礼するよ」

 

 誰もアシェルの登場に驚かなかった。

 カトレアがかけた人避けの魔法は、術者が許可した人間を除外することが出来る事などオリビアとソフィアには周知の事実だった。

 何処のコンパートメントにいるだなんて教えてないが、アシェルならカトレアの魔力を追ってくることなど容易だ。

 

「おはよう」

「ああ、おはよう」

「アシェル、貴方トランクはどうしたの?」

 

 アシェルは身一つでコンパートメントへ来ていた。

 取り巻き達に任せている?

 フクロウ便で送ってしまった?

 まさか、忘れた?

 どれもこれもアシェルにしては有り得ない。

 

「此処さ」

 

 カトレアの隣に座ったアシェルはワイシャツの胸ポケットを確認するように触った。

 確かにそこには不自然な膨らみがある。

 3人揃って首を傾げた。

 

「どういうことよ」

「こういうこと」

 

 アシェルは胸ポケットに手を突っ込み、ソレを取り出した。

 開かれた掌をカトレア達は食い入る様に見た。

 そこにはミニチュアサイズのトランクがあった。

 質のいいトランクの側面にはF.Aのイニシャルが刻まれ、アシェルの物だというのが伺える。

 

「縮めたのね、魔法で」

「そうさ」

 

 アシェルはミニチュアのトランクを再び胸ポケットに仕舞った。

 確かに魔法で縮めてしまえば邪魔にならないし持ち運ぶ苦労もない。

 いつどこで見ても完璧な顔をしていると評判のカトレアだが、この時ばかりはもにゅりと口を歪ませた。

 仕方ないだろう、2年生で習う簡単な魔法だというのにそれを使うという選択肢を全く思いつかなかったのだから。

 

「臍を曲げないでくれ」

「誰が臍を曲げているっていうの?レデュシオ_縮め」

 

 失礼なことを言うアシェルにカトレアはそっぽを向き、そのまま頭上に杖を向けて魔法を放った。

 隙間からこぼれ落ちてきたトランクをキャッチし、スカートのポケットに仕舞う。

 別に臍を曲げている訳では無い。

 その選択肢を思いつかなかった自分がちょっと情けないだけだ。

 

「カトレア、私のも縮めて〜」

「でもオリビアちゃん、元に戻せるの?」

「私は出来ないけど、母さんなら出来る!」

 

 えっへんと自慢にならない事を自慢するオリビアに笑う。

 ソフィアも、アシェルも笑っている。

 

「仕方ないわね。レデュシオ_縮め」

 

 カトレアはオリビアの頭上を狙って魔法をかける。

 しっかりと縮んだトランクはカトレアのと同じように隙間からこぼれ落ち、それをオリビアは横からキャッチした。

 まさにカッコつけの様だが、ソフィアはそれに盛大な拍手をおくる。

 ドヤ顔がこれでもかと輝いている。

 チェイサー志望らしいが、この調子ならシーカーでも活躍できそうだ。

 

「キングス・クロス駅行きホグワーツ特急、出発します。まだ乗っていない学生は急ぎ乗車してください。出発します」

 

 ポーッと汽笛がなり、列車が動き出す。

 ゆっくりと窓の外を景色が流れていく。

 

「レオ、別のコンパートメントにいるね」

「呼ぶの?」

「いや、多分アダムといるしいいでしょ」

 

 互いしか友達のいないカトレア達と違って、レオは交友関係が広い。

 カトレアもソフィアも、オリビアも、レオにとっては大勢いる友達の内の3人に過ぎないのだろう。

 と、まあ勝手にカトレアがそう解釈しているだけで、彼がどう思っているのかは彼のみぞ知るが。

 

「呼んだ方がいい?」

 

 伺う様に聞くオリビアに微笑み返す。

 呼びたいなら呼べばいい。

 別に必要でないのなら呼ばなくていい。

 他の友達に遠慮しているのなら、声だけかければいいだろう。

 

「おっけ、声だけかけよ」

「はい」

 

 オリビアだって心の中ではもう選択肢は決まっていたのだろう。

 カトレアはローブの内ポケットから手帳を取り出し、ボールペンと一緒にオリビアに渡す。

 手帳の1ページを破り、ボールペンを走らせる。

 オリビアは半純血の生まれで、父親がマグルのためボールペンの存在も知っている。

 対してホグワーツに入学するまでマグルと関わりのなかったらしいソフィアはボールペンの存在も知らず、初めて見た時は驚いていたのも記憶に新しい。

 

「できた、お願い」

 

 オリビアの走り書きが書かれたページを四つ折にし、息を吹きかけるとパタパタと蝶が舞う様に空を飛ぶ。

 アシェルがコンパートメントの廊下側の窓を開け、そこからページは羽ばたいていった。

 

「車内販売はどうだい?」

 

 同時にその窓から車内販売の魔女が顔を覗かせる。

 一同はギョッとして仰け反った。

 カトレアは確かに人避けの魔法をかけた。

 アシェルもその出来に何も言わなかったから、しっかりかかっているはずなのに。

 

「で、どうするんだい?」

「あ、か、買います!!」

 

 オリビアがわたわたと立ち上がった。

 ソフィアもつられて立ち上がって、オリビアに続いてコンパートメントを出た。

 カトレアとアシェルは顔を見合わせる。

 一体どうして許可されていない魔女がこのコンパートメントを見つけることができたのか。

 カトレアは車内販売の魔女がバケモノの様な魔女だと知っている。

 在りし日の悪戯仕掛け人(マローダーズ)を書いた小説に、列車から出ようとした彼らを追いかける車内販売の魔女が書かれている。

 だが、バケモノだろうと魔女だろうと許可していないものは許可していないのだ。

 

「魔法、かかっているわよね?」

「かかっている。ほつれもない」

 

 2人して首を傾げる。

 術者が許可した対象の人以外は見つけることができないのがこの魔法なのに、他人に見つけられては大変困るのだ。

 

「休暇中にどうにか原因と対策を考えるわ」

「ああ。それにしても、なんだかあっという間だったな」

「そうね」

 

 アシェルと窓ガラス越しに目が合い、カトレアはそれに薄く笑って、眼を閉じた。

 あっという間の3ヶ月だった。

 窓の外で過ぎ去る景色のように、この3ヶ月の生活も脳裏を流れていく。

 憧れのホグワーツに入学できて、授業を受けて、魔法を使って…

 友達もできた。

 

「わ、アグリッパだ」

「えー!いいなぁ!!」

 

 カエルチョコのカードを見ているのだろう、コンパートメント内に2人の楽しそうな声が響く。

 次に会うのは約2週間後の休暇明けだ。

 

 

 ⚡︎ ⚡︎ ⚡︎

 

 

 キングス・クロス駅の9と4分の3番線の中は、およそ1000人もの生徒とその家族で溢れていた。

 

「これは…なかなか見つからないでしょうね」

「そうだな」

 

 家族を見つけた生徒は抱き合い、姿くらましやキングス・クロス駅へと繋がるゲートを通って帰っていく。

 カトレアとアシェルは家族を探す素振りもなく、ただ2人で隅の方に身を寄せ合っていた。

 オリビアは魔法使いの母親とマグルの父親と妹、ソフィアは家の屋敷しもべ妖精と共に帰っていった。

 カトレアもアシェルも家族がなかなか迎えに来ないことを微塵も気にしてはいなかった。

 カトレアの家族は皆マグル(1人魔女候補はいるが)であり魔法溢れる不思議な世界には慣れていないし、アシェルの家族は多忙である。

 2人してローブの内側から本を取り出して悠々と読んでいる。

 

「アシェル、カトレア嬢」

 

 迎えが来ないのも、若干遠巻きにされているのも気にしていな二人に、ふんわりと心地の良いテノールの声がかけられる。

 

「父様」

 

 ルーカス・フォーリー、その人である。

 ルーカスは何時かの時のように黒のオシャレなロングコートを肩に引っ掛け、白銀の髪の上には帽子が載っていた。

 

「うん、良い友人ができたようだね。ホグワーツに行かせて正解だっだった」

 

 二人の手に持った本を見て、ルーカスは笑う。

 アシェル宛にホグワーツの入学案内の手紙が来たとき、ルーカスは正直息子をホグワーツに行かせるべきかどうか悩んだ。

 ルーカスとてホグワーツの卒業生であるし、心を許せる友人も幾人かは出来た。

 しかし、聖28一族のフォーリー家の嫡男ともなれば生徒や教師との面倒な関係や諍いに巻き込まれるのは分かり切っている。

 歴代の魔眼持ちの中でも下から数えた方が早い程度の力しか持たないルーカスですらそうだったのだから、歴代でも圧倒的な力を持つアシェルの負担なんて考えずとも分かる。

 それでもアシェルの入学を許したのは、本人の希望と、ホグワーツで出来たルーカスにとって気の置けない友人の説得があったからだった。

 

「カトレア嬢の家族が来るまでは一緒に待っていようか」

「はい」

 

 息子がホグワーツに入学してすぐに手紙が来て妻と喜びとともに驚愕したのを覚えている。

 恐らく筆不精だと推測していた息子が入学してすぐに手紙を送ってきたこと、そしてマグル生まれでグリフィンドールの友人が出来た事と、ついでのようにスリザリンに入ったことを報告する内容が原因だった。

 ルーカスは決して純血主義ではない。

 血の関係でマグル生まれとの婚姻や子をなすことは出来ないが、マグル生まれだからといって差別はしない。

 純血だから優れている、マグル生まれだから劣っているなんていう考えは古すぎる。

 自分が学生だった頃にも、己や友人には敵わないものの学年でも上位の成績のマグル生まれはいた。

 けれどスリザリンとグリフィンドールの寮を隔てた諍いは、純血とマグル生まれ以上に酷いものだったのだ。

 たとえ組分け前に仲良くなったとしても、組分けされてしまえばその関係を維持することは難しい。

 当人たちがどれだけ仲良くしたいと思っていても、相手側の寮からは睨まれ、本来仲間であるはずの自寮生からもまるで裏切り者かのように扱われる。

 そんな地獄の状況に7年間耐えるぐらいなら、小さな友人は諦めるべきだと、ルーカスは思っていた。

 しかし、この少女の状況を詳しくは知らないが、どうであれフォーリー家の嫡男としてでなくただのアシェルと友人になってくれたのだろう。

 ルーカスの友人は絶対にいい顔はしないが、アシェルの友人がこの少女で良かったと、親として心から喜べるのだ。

 

 それから暫く談笑し、漸く人気がはけてきた頃。

 

「「お姉ちゃん!!」」

 

 数か月ぶりの可愛い妹たちの声が聞こえ、カトレアは振り返る。

 ワンピースの裾を翻して走ってくる妹たちの姿に、カトレアは満面の笑みだ。

 

「リリー!!チュニー!!」

 

 反射で両腕を広げれば、次の瞬間ミサイルのように妹たちが突っ込んでくる。

 後ろに倒れそうだったからか肩に少し冷たいアシェルの手を感じながらも、ぎゅうぎゅうと苦しい程に抱きしめてくる妹たちにカトレアも負けじと抱きしめ返す。

 息を吸うと、懐かしい匂い。

 家の近くの森と、母のミートパイの匂い。

 今日の昼食はミートパイだったのか。

 

「ペチュニア、リリー、急に走り出さないでちょうだい!」

「まあまあ、落ち着いて、アリッサ」

「お母さん、お父さん」

「遅くなってしまってすまないね」

 

 両親も追いつき、カトレアは妹達に埋めていた顔をあげる。

 妹達がヤンチャし、母が叱り、父が宥める、懐かしい光景だ。

 

「カトレア、良ければ君の家族を紹介してはくれないか?」

「もちろん、紹介するわ。妹のペチュニアとリリーよ。金髪がペチュニアで、赤毛がリリー」

 

 人見知りを発動しているのか腰に抱きついたままのペチュニアと、手を繋いだリリーを紹介する。

 ペチュニアはおずおずと小さく頭を下げて、リリーはにっこりと笑って「リリーです!」と元気よく自己紹介をした。

 

「僕はアシェル、アシェル・フォーリー。君のお姉さんと仲良くさせてもらっている」

 

 ペチュニアとリリーと目を合わせて挨拶をするアシェルに、カトレアは思わずペチュニアとリリーの目を塞ぐ。

 笑ってはいない、いつも通りの無表情でしかないが、いかんせんアシェルは顔がいいのだ。

 妹達を縛るつもりは無いが、流石にアシェルに恋してもらっては困る。

 そうなった時に辛いのは妹達なのだ。

 何より妹達をアシェルに取られる訳にはいかない。

 何を隠そう、カトレアはシスコンであった。

 

「カトレア?」

「お姉ちゃん?」

「お姉ちゃん、どうかしたの?」

「なんでもないわ。それから、お母さんとお父さんよ」

 

 2人の目から手を外し、後ろに立つ両親を紹介する。

 プラチナブロンドの母親、赤毛の父親。

 母親はグレーの瞳で、父親は緑の瞳だ。

 綺麗に娘たち3人に遺伝しているなと、アシェルは何処か感心した。

 

「友人のアシェルよ」

「アシェル・フォーリーです。以後お見知りおきを」

「手紙によく出てくる子だね。カトレアの父のオリバーだ。こっちが妻のアリッサ」

「アシェルの父のルーカスです。娘さんには息子が世話になっているようで」

「いえいえ!こちらこそですよ」

 

 ルーカスと、オリバーとアリッサが握手を交わす。

 ルーカスは始終穏やかで、カトレアの両親がマグルであることを微塵も気にしていないように見えた。

 

「では、そろそろお開きにしましょうか」

 

 ルーカスの言葉に辺りを見渡せば、あれ程混雑していた9と4分の3番線の駅内には既に数えられる程度の人しかいなかった。

 

「じゃあ、また休暇後に会いましょう」

「ああ」

 

 軽くハグをして、お互いの家族の元へ。

 9と4分の3番線から姿くらましで帰るフォーリー家は、エバンズ家を見送ってくれるらしい。

 妹たちと手を繋ぎながら、キングス・クロス駅に通じる柱へと歩いていく。

 

「カトレア嬢」

 

 が、カトレアはルーカスに呼ばれて歩みを止めた。

 

「どうかなさいましたか?」

「少しいいかい?」

 

 手招きに答えて、アシェルとルーカスの元へ戻る。

 

「君のような魔法使いにとって、休暇中に魔法が使えないのは苦痛だろう。特別に匂いをとってあげよう」

 

 そう言ってローブの中から杖を取り出すルーカスに、カトレアもアシェルも驚いた。

 魔法界では成人である17歳になるまで緊急時以外での魔法の使用は禁止されている。

 親が魔法使いだったりした場合は匂いも親の魔力にかき消されるが、マグル生まれはその限りでは無い。

 休暇中、約2週間も杖を振ることが叶わないのだ。

 理論は勿論大切だが、教科書を読むだけで魔法が上手くなるのなら誰だって苦労はしない。

 休暇中に家でも練習出来る魔法族の生まれの生徒と、魔法が使えないマグル生まれの生徒とでは、休暇の度に差ができてしまうのだ。

 休暇中に魔法を練習できる生徒がどれだけいるのかというのは置いておいて、だ。

 

「よろしいのですか?」

「ふふ、私はお前を信頼しているからね」

 

 ルーカス・フォーリーは、魔法省魔法法執行部の特別顧問を務めている。

 闇祓い局や魔法不適正使用取締局、ウィゼンガモット最高裁判所事務局などを抱える、魔法省最大の部署である魔法法執行部の部長と同等の権限を持っている。

 未成年の魔法の使用は、魔法法執行部の魔法不適正使用取締局で取り締まられているので、ルーカスの管轄内だ。

 

「私が、もし魔法で他人を傷付けた場合、どうするのですか?」

「その気があるなら今ここで聞かないだろう。心配しなくても大丈夫。君が信頼する息子を、息子が信頼する君を、私は信じているよ」

 

 そう言って、ルーカスはカトレアの頭にコツンと杖を置いた。

 杖先から溢れ出た光がキラキラとカトレアの全身を覆い、とろりと匂いが剥がれ落ちていく。

 

「さあ、これでよし。君のこれからの活躍に期待しているよ、カトレア嬢」

「ありがとうございます、ふふ、アシェルには負けませんわ!」

 

 張り切った笑みを浮かべ、家族の元に戻るカトレアをアシェルと共に見送る。

 マグル生まれで入学まで魔法に触れたことの無い子供が、幼い頃からフォーリー家の次期当主として学んできたアシェルと張り合えていることがどれだけ凄い事なのか、彼女は知らないのか。




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