深緑の魔女   作:紅椿_

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2025/3/15 加筆修正しました。


第4話:初日

 カトレアは日が昇る前に目を覚ました。

 グリフィンドールの談話室はホグワーツ城のいくつかある塔の一つであるため、窓からは遠くの景色まで見ることができる。

 窓を開け放って風を部屋の中に誘い込めば、風と共に一晩中狩りに行っていたアンバーが舞い込んでくる。

 

「おはよう、アンバー」

 

 肩にとまったアンバーを指の背で撫でると甘えるように甘噛みされる。

 籠の中におろして、カトレアは再びベッドに戻る。

 別に二度寝をするわけではない。

 早起きは三文の徳。

 毎朝早く起きてストレッチをし、そして本を読むのがカトレアの日課なのだ。

 顔を洗って、髪を丁寧に梳かす。

 真新しいワイシャツに着替えながら壁に掛けられたローブを見れば、昨晩までの真っ黒だったローブは内側が深紅に染まり、胸元には獅子のエンブレムが縫い付けられていた。

 

 夢にも見たホグワーツ。

 この場に立つことをどれほど願っただろうか。

 

 ウキウキしながらトランクに詰め込んだ教科書を引っ張り出す。

 本当は検知不可能拡大呪文をかけてありったけの本を持ってきたかったが、検知不可能拡大呪文は難易度が高く、1年生の呪文学の教科書には載っていなかったのだ。

 

「んぅ……カトレアちゃん……?」

 

 布団の中でモゾモゾと身動ぎをして体を起こしたソフィアは、起きるの早いねとへにゃりと笑った。

 

「おはよう、ソフィア」

「ぅん、おはよう」

 

 起床時間まではまだ時間があるが、ソフィアはすっかり目が覚めてしまったようで、のそのそとパジャマを着替えている。

 オレンジがかった明るい茶色の髪がぴょこんと一房跳ねていて、クスリと笑ってしまう。

 平均よりも少し小さい身長に、ウェーブのかかったオレンジが混じる茶色の髪の毛、パッチリとした瞳。

 そもそも全体的に小動物っぽい印象を与えるソフィアは、非常に庇護欲を掻き立てられる。

 ソフィアは(前世)飼っていた犬によく似ている。

 毛色も、笑い方も、そっくりだった。

 わしゃわしゃと撫で回したい感情を抑えて本に視線を戻す。

 

「そういえば、カトレアちゃ……」

 

 ふとカトレアの方を見たソフィアは、朝の光でブロンドの髪がキラキラと輝き光っているのを見て、あまりの美しさに息を飲む。

 開けられた窓から入り込んだ風に舞った髪を押さえる動作ですら優雅であり、どこか気品を感じさせる。

 

「綺麗……」

 

 祖母の家にあったビスクドールを思い出した。

 職人の手によって作られた白磁のビスクドールは腰までブロンドの髪を伸ばしていて、ぱっちりした二重の瞳は緑色の目をしていた。

 祖母に大層気に入られていたビスクドールは貴族のようなドレスを着て、優雅に紅茶を飲んでいたのを記憶している。

 

「……そんなにジッと見られると恥ずかしいわ」

「あ、ごめんなさい……!!カトレアちゃんがすっごく綺麗で……」

「ふふ、ありがとう。ソフィアも可愛いわよ」

 

 カトレアの言葉にソフィアの頬がぽっと赤く染る。

 恥ずかしそうに頬を両手で隠して唸るソフィアは、それはもう可愛かった。

 

 

 ⚡︎ ⚡︎ ⚡︎

 

 

「おはよう、オリビア」

「ん゙ん」

「おはよう、起きてちょうだい」

「ゔぅん……」

「お、は、よ、う」

「んぅ……」

「おはよう。朝よ。朝ごはん食べ損ねるわよ」

「……ごぁん」

「置いて行っちゃうわよ」

「……ぁ゙よ」

「はい、おはよう」

 

 どうやら朝に弱いらしいオリビアを起こすのは一苦労だった。

 何度呼びかけても帰ってくるのは唸り声、顔をぺちぺち叩いても身動ぎしかしない。

 ようやくオリビアが覚醒したのは起床時間を10分過ぎた後だった。

 

「ごめん……どうしても朝は弱いんだよね……」

 

 顔を洗い、パジャマからローブに着替え、髪をポニーテールにしたら、ようやく朝ごはんを食べに大広間に出発。

 昨夜通った道をカトレアを先頭に歩く。

 階段を降り、タペストリーの裏と引き戸の陰の隠し扉を2度通り抜け、動く階段を降り、喋る絵画たちに挨拶をする。

 大広間に近づくにつれ、カトレアたち3人は好奇の目に晒された。

 カトレアは言わずもがなそのビスクドールのように美しい容姿と組み分け困難者(ハットストール)

 オリビアは自身でも整っていると自負できるほどの容姿。

 ソフィアは自覚こそないが可愛らしい容姿と小動物のような雰囲気。

 人目を引く3人が並んで歩いていれば視線を集めるのは当然のこと。

 カトレアにとって慣れたことであり、オリビアもよくあることではあった。

 ただ1人ソフィアだけはカトレアとオリビアと共にいる自分が不似合いで見られているのかと勘違いしていた。

 

「おはよう。3人揃って来たんだな」

「おはよう、レオ」

「おはよう。私たち同室だったのよ」

「あ、おはよう……」

 

 大広間のテーブルではローブを着たレオが朝食を取っていた。

 皿の上にはソーセージやベーコン、マフィンが置かれている。

 テーブルの上にはその他にも色々な料理が乗っていて、オリビアのお腹がきゅるるる……と鳴った。

 

「ああ、お腹減った。朝ごはん食べよ」

 

 さっとレオの隣に座ったオリビアはお皿の上にソーセージ、ベーコン、スクランブルエッグ、パイ、マフィンなどを乗せていく。

 カトレアもオリビアの向かいに座り、お皿の上にサラダとフルーツ、オリビアのついでにマフィンをひとつとソーセージを2本置いてもらう。

 ソフィアはカトレアの隣に座って、お皿にベーコンを2枚とスクランブルエッグ、マフィンをひとつ乗せた。

 

「んん!美味しい!」

 

 さっそくマフィンにかぶりついたオリビアは幸せそうな笑みを浮かべた。

 カトレアもサラダを食べ、マフィンにかぶりつく。

 カトレアの握り拳の倍ほどもあるマフィンは爽やかなオレンジの味がした。

 

「そういえば最初の授業ってなんだっけ?」

「魔法史よ」

「あの分厚い教科書のやつだよね」

 

「そんなことよりも早く箒に乗りたーい!!」と訴えるオリビア。

 レオも分かると頷くと意気投合したようにクィディッチについて話し出した。

 ソフィアは話に入るタイミングこそない(もしかしたら話に入る気さえないのかもしれない)が、2人の話を楽しそうに聞いている。

 

「それでね、って聞いてる?カトレア」

「聞いてるわよ。あなた達、本当にクィディッチが楽しみなのね」

「そりゃそうだよ!あんなに楽しいスポーツ他にないよ!」

 

 オリビアははコップに並々と注がれたオレンジジュースを一気に飲み干してダン!とテーブルに叩きつけた。

 その拍子に空になった皿が僅かに飛び跳ねる。

 

「そういえば、オリビアは魔法族の出身なんだな」

 

 宙を飛んだ皿を掴んだレオはオリビアを見て、へらっと笑った。

 クィディッチは魔法界のスポーツだ。

 レオも同様だが、魔法が当たり前の環境で育ってこなければクィディッチなどに触れる機会もない。

 

「アタシは半純血よ。癒者の母親とマグルの会社の社長の父親。どっちも忙しいから昔から母親の知り合いの魔法使い宅に預けられててさ、そこでお兄さん方に箒の乗り方とクィディッチを教えてもらった感じかな」

 

 そこからはもうクィディッチの虜だよ、とオリビアは軽快に笑った。

 

「アンタは?」

「俺は一応純血の家系で、親父がホグワーツ時代寮の代表選手だったから。見るのも好きだし、プレーするのも好きだぜ!」

 

 へぇ、とひとつ相槌を打ったオリビアは向かい側のカトレアを見た。

 

「カトレアは?」

「私はマグル生まれよ。父がサッカーが好きだからよく見に行っていたけど、クィディッチは見たこともないから楽しみにしているの。ソフィアは?」

「あ、えっと……私の家は……一応、純血。でも、血が色々混じっていて、お母さんはアメリカの魔女で、お父さんは日本の陰陽師なの」

「陰陽師?それは…とても珍しいわね」

 

 カトレアは素で驚いていた。

 陰陽師の存在などイギリスで生まれ育ったとはいえ、レア中のレア。

 魔法とは全く違う力を扱う陰陽師の存在(情報)は閉鎖的な国である日本から海を越えてやってくることは滅多にない。

 どれだけカトレアが知りたいと願おうが、到底叶わないような願いだったのだ。

 それがまさか、ホグワーツの、同じ学年の、同じ寮の、同室に、その血を継ぐ者がいるだなんて。

 

「陰陽師ってなにするんだ?魔法使いとはどう違う?」

「えと、陰陽師は儀式とか占い、あとは魔を祓ったり、神の声を聴いたりする人もいる。でも、魔法使いと違って陰陽師は杖は使わないし、術もそこまで便利なものでは無い、はず」

 

 あんまり知らないんだ、とソフィアは少し気まずげに嗤った。

 それはあまりに自虐的な笑みだった。

 無意識なものだったのかもしれない。

 でも、だからこそ一同は闇を垣間見た気がした。

 

「、そうなのか!俺なんてそのオンミョウジ?の存在すら初めて知ったぜ!そうだ、ソフィアはクィディッチを見たことは?」

 

 少々無理やりな話題転換だったが、ソフィアは気にしなかったようだ。

 わいわいと主にレオとオリビアが盛り上がっている中、カトレアは暖かい紅茶を飲みながら思考を巡らす。

 アメリカ産の魔女と日本の陰陽師、その血を継いだソフィアがアメリカのイルヴァモーニではなく態々イギリスのホグワーツに来たということは、家庭環境に問題があるのか、向こうで何かがあったのか…

 

「カトレア、そろそろ行く?」

 

 オリビアのお皿に乗っていた料理はいつの間にかすっかりなくなっていた。

 カトレアとソフィアはとっくに食べ終わっていて、オリビアが食べ終わるのを待っていたのだ。

 

「そうね、迷ったら困るから早めに行きましょう」

 

 ホグワーツは広く、動く階段や隠し通路などが幾つもある。

 まだ1年生で、なんなら入学したばかりだ。

 間違いなく迷うと断言できてしまう。

 

「レオは?」

「俺はアダム待ってるから先行っててくれ。もし遅れたら言い訳頼むな!」

 

 レオは笑いながら手をヒラヒラと降って3人を見送った。

 カトレアを真ん中に、オリビアが隣に並んでソフィアが遅れまいと早歩きでその半歩後ろを着いていく。

 上級生だろうか、大勢の緑のローブを来た生徒達がカトレアたちの進行方向と垂直に歩いている。

 僅かに歩くスピードをあげたカトレアとそれに着いていくオリビア。

 

「あっ」

 

 じろりと睨みつけるような視線を気にせず堂々と歩くカトレアとオリビア、その視線に萎縮したソフィアが足を止めた結果、集団を隔てて分断されてしまう。

 

「待ちましょう」

 

 カトレアはオリビアに一声かけ、足を止めてソフィアが来るのを待とうとした。

 もし、この隙にオリビアが先に2人で教室まで行こうとするのを防ぐつもりだったのだ。

 しかしチッと舌を打ったオリビアがツカツカとソフィアの元に戻って小さな手を掴んで戻ってくる。

 

「行くよ」

「あ、ありがとう!」

 

 パッと手を離したオリビアが代わりにカトレアの手を取って歩き出す。

 カトレアは手を引かれながらも反対の手でソフィアに手を伸ばし、そっと乗せられた小さな手をキュッと握った。

 そのまま3人で手を繋いで歩く。

 相変わらず好奇の目を向けられていたが、もうソフィアは気にしていないようだった。

 チラリと横を見ると、ソフィアはオリビアに握られた手を見てもにょりと口角が上がるのを我慢しながらも笑みが抑えられていなかった。

 

「別に、あの子のせいで授業に遅れたくないだけだから」

 

 ポツリとカトレアにしか聞こえないほどの声量でオリビアが呟いた。

 まるでツンデレのようなことを言うオリビアの耳は赤く染っている。

 オリビアが行動するような何かがあったのかもしれない。

 もしかしたらソフィアと仲良くなりたかったのか。

 それとも昨夜酷い態度を取ったことへの罪滅ぼしだろうか。

 カトレアにその理由を知る術はない。

 でも、これがきっかけでソフィアとオリビアが仲良くなれるのなら、いい事に違いない。

 

 

 その様子を、アシェルはスリザリンのテーブルから見ていた。

 昨夜から付き纏ってくる鬱陶しい奴らを追い払ってカトレアと話がしたかったが、せっかくの友人との時間を邪魔してはいけない。

 後でフクロウを送ろうと思い、まだ声をかけてくるスリザリン生を躱して席を立った。

 

 

 ⚡︎ ⚡︎ ⚡︎

 

 

 初日の授業がすべて終了し、寮の自室に戻ってきた3人は教科書類を放り投げ_カトレアは辛うじてテーブルに置いた_ベッドに倒れ込んだ。

 ここまで疲弊したのは授業ではなく、それまでの道のりが原因だった。

 授業に行くためにあっちをうろうろ、こっちをうろうろ…

 上級生やふわふわと漂っているゴーストに教室の場所を聞き、142もある動く階段をタイミングを見計らって駆け上がり、扉にお願いして開けてもらい…

 そんな感じで城の中を歩き回った3人はすっかり疲弊し、それぞれベッドに寝転がっている。

 夕食まではまだ時間はある。今日は初日だということで特に宿題も出ず、束の間の休息だ。

 

「階段は動くし、扉も意味わかんないし、授業よりも行くまでが疲れる..」

 

 オリビアが大きなため息をつくが、ソフィアに比べたらまだまだカトレアもオリビアも元気だといえるだろう。

 三人の中で一番小柄なソフィアはカトレアやオリビアに比べて圧倒的に体力が少なかった。

 朝から城中を歩き回るだけでもヘトヘトだというのに、人見知りのソフィアは上級生やゴーストに話しかけるにも極度に緊張してガチガチになっていた。

 更に不幸なことに、初日からポルターガイストのピーブスに目をつけられてしまったのだ。

 オドオドしているソフィアと短気なオリビアはピーブスのいい玩具になったようで、ピーブスはケタケタ嗤いながら2人をからかっていた。

 水をぶっかけ、甲冑に追いかけさせ、窓ガラスを割る。

 偶々通りかかった優しく口の上手いハッフルパフの監督生が『血みどろ男爵』を連れてきてくれなければどうなっていただろうか。

 カトレアは乾かしてあげることも、甲冑を大人しくさせることも、窓ガラスを直すこともできるが、ピーブスを追い払うには少々手を焼いていた。

 まぁ確実にいえることとしては、″授業に遅れて寮点を減らされる″だろうか。

 

「毎日、こんなことがあるの…?」

 

 ソフィアは相当参っているようだった。

 うつ伏せに寝転がった彼女はシルクのカバーがつけられた枕に顔を埋めている。

 もごもごと枕に阻まれて声がくぐもって聞こえた。

 

「大丈夫よ。すぐに道も覚えるだろうし、体力もつくわ。ピーブスのことも心配しないで、私が何とかするから」

「カトレアだけに任せる訳にはいかないでしょ…」

 

 ぐったりとベッドに沈むオリビアが言い、ソフィアもウンウンと頷くので、カトレアは「なら3人で頑張りましょう」と笑った。

 

 

 ⚡︎ ⚡︎ ⚡︎

 

 

 ホグワーツ2日目の授業はスリザリンと合同の魔法薬学から始まった。

 

「ほほぅ、随分お早いお着きだね!関心関心!」

 

 朝食を早めに食べて地下に向かった3人を迎えたのは、スラグホーンの暖かい笑顔だった。

 原作では"謎のプリンス"からしか登場しないスラグホーンに1年から教えてもらえるのは、カトレアにとって嬉しい事だった。

 早く来たため、時間潰しに1番前の机に座ってスラグホーンと談笑をしていた3人の後ろに続々と座り出すグリフィンドール。

 気付けば、左右で赤と緑が綺麗に別れている。

 どちらもできるだけ関わりたくないのか壁際から詰められていて、空いている机は中央の方にしかない。

 ちらりと緑を見渡したカトレアは、窓際の後ろの方に絹のような白銀の髪を見つけた。

 周りには取り巻きだろうか、数人の男女がアシェルを囲って話しかけているが、当の本人は本を読んでいる。

 

「さてさて、そろそろ授業を始めようか」

 

 スラグホーンの授業は、原作のスネイプのように難しい質問をする訳でもなく、簡単に出席をとって始まった。

 今回作る魔法薬は、原作でも1番初めに作っていた"おできを癒す薬"。

 材料はイラクサ、砕いた蛇の牙、ゆでた角ナメクジ、山嵐の針など。

 スラグホーンは材料や器具の説明をして、注意点を述べる。

 

「では2人組になって」

 

 スラグホーンが魔法薬の材料を取りに行っている間に決めておくよう指示を出すと、生徒たちは近くの人や仲のいい人とペアを組んでいく。

 しかし魔法薬を作るペアは2人、カトレア達は3人。

 更にグリフィンドールとスリザリンは何方も奇数人数だった。

 つまり、必ず1組はグリフィンドールとスリザリンの組ができるということ。

 

「どうする?」

「そうね…」

「多分私たちの誰かがスリザリンと組むべきよね..」

 

 グリフィンドールの他の人達はほとんど2人組を作っている。

 スリザリンのあまりはアシェルとその取り巻き達の5人。

 彼らは誰がアシェルと組むかで争っているようである。

 不意に興味を示していなかったアシェルがこちらを見、カトレアと視線が交差する。

 その一瞬でアシェルの思考を読み取ったカトレアと、読み取られた事に気づいたアシェルは同時に互いに向かって歩き出す。

 

「カトレア?」

「アシェル?」

「「私達/僕達 が組めば解決でしょう?」」

 

 揃って発せられた声はそう広くもない教室によく響いた。

 グリフィンドールも、スリザリンも、信じられないとばかりに両者を見つめていた。

 片やマグル生まれで組み分け困難者(ハットストール)のグリフィンドール生。

 片や純血(聖28一族)で歴代最高の魔眼持ちのスリザリン生。

 

「そんな"穢れた血"と組むなんて「バックスターン。僕の友人を侮辱することは許さない」

 

 カトレアに最大級の侮辱の言葉を投げつけた取り巻きその1であるマイク・バックスターンを冷たく睨みつけたアシェルに、騒いでいた他の取り巻き達も押し黙る。

 その冷たい視線に、自分に向けられたわけでもないソフィアが身体を震わせた。

 

「大丈夫なの?カトレア…」

「彼、フォーリーだよ…」

 

 家格や血筋にしか興味のないアシェルの取り巻き達とは違って、カトレアの友人2人はカトレア自身の事を心配してくれる。

 

「実は彼とは汽車の中で会っているから大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

 

 パチンとウィンクをしたカトレアは、取り巻きを振り切ったアシェルの隣に並ぶ。

 

「さーて、皆組めたかな?よしよし」

 

 気まずい空気を霧散させるかのように戻ってきたスラグホーンの指示で皆一斉に魔法薬の製作に取り組みだす。

 

「私は乾燥イラクサを計るから、貴方はヘビの牙を砕いてちょうだい」

「わかった。君、ナメクジは触れるかい?」

「好んで触りたいとは思わないけど必要なら触るわ」

 

 息の合った2人が楽々と魔法薬を完成させていく。

 ホグワーツに来る前に教科書を読み込み、呪文を唱えていたとしても、マグル生まれのカトレアは魔法薬を作ることはできなかった。

 だからこうして簡単な魔法薬であってもこの世界(ハリー・ポッター)を直に感じることが出来て、正直なところカトレアは浮かれているのだ。

 

「乾燥イラクサ測り終わったわ」

「こっちももう少しで終わるよ」

 

 乾燥イラクサと砕いた蛇の牙を大鍋に入れ、250度で10秒熱する。

 アシェルが杖を振り、その間にカトレアが角ナメクジを4本準備する。

 大鍋を火から下ろしたら山嵐の針を2本入れ、カトレアが時計回りに5回掻き回す。

 杖を振ってピンク色の煙が出れば完成だ。

 

「ふむふむふむ...おお...素晴らしい!! Mr.フォーリーとMs.エバンズ、Ms.フレンチとMs.イリングのペアは完璧な魔法薬だ!」

 

 生徒達の作った魔法薬を見て回っていたスラグホーンは、隣合って調合していたアシェルとカトレア、オリビアとソフィアの魔法薬を絶賛する。

 たとえ入学したての1年生でとても簡単な調合だったとしても、魔法薬は魔法薬。

 スラグホーンは4人にそれぞれ2点ずつ与え、授業は終わった。

 

 ゴーストのビンズ先生の魔法史はカトレア以外の生徒が夢の世界へと旅立ち、次は薬草学。

 魔法史の授業中ほとんど寝ていた生徒たちは元気いっぱいに温室に向かう。

 授業の担当のスプラウト先生は生徒たちを迎え入れ、カトレアは授業中の発言で寮点を稼いでいた。

 そして残すは変身術。

 カトレア達が教室に入ると、正面の机の上に猫が1匹。

 シルバーのトラ猫で、目の周りに眼鏡の模様がある。

 

「あれって…」

「こんにちは、マクゴナガル先生」

 

 カトレアが声をかけると猫は音もなく変身し、いつも通りに背筋をピンと伸ばしたマクゴナガルが立っている。

 

「こんにちは。Ms.エバンズ、Ms.フレンチ、Ms.イリング。お早いお着きですね」

 

 原作では1度しか出てこなかったマクゴナガルの変身を目の前で見ることができたカトレアは内心大興奮で、オリビアとソフィアとも凄いとはしゃいでいた。

 厳格で聡明なマクゴナガルはカトレア達3人を席に座らせ、他の生徒が来るまで教科書を読むようにと勧める。

 そしてそうかからずに生徒たちが集まると説教を始めた。

 

「変身術は、ホグワーツで学ぶ魔法の中で最も複雑で危険なものの1つです。いい加減な態度で私の授業を受ける生徒には出ていってもらいますし、二度とクラスに入れません。初めから警告しておきます」

 

 そう言って机を羊に変えたマクゴナガルに、生徒たちは沸き立つ。

 カトレアは十分に理解しているが、変身術とはそう簡単なものでは無い。

 まだ杖のない時に散々試してみたがマッチ棒はうんともすんともいわず、泣く泣く諦めたのだ

 しかしそれはまだ杖のない時の話。

 鋭く尖った銀色の針を思い浮かべて杖をマッチ棒に向ける。

 マッチ棒は瞬く間に銀色の針に変わり、その様子を見ていたマクゴナガルは息を飲む。

 今までに1度でこの魔法を成功させた生徒がいただろうか。

 それも親族に魔法使いがいる訳でもなく、杖を持ったのはつい最近。

 この少女は本物の天才ではないだろうか。

 それも、ダンブルドアをも越してしまうような。

 

「カトレアできたの!?」

「すごい!!」

 

 両隣に座っていたオリビアとソフィアがカトレアが成功したことに気づいて声を上げる。

 それに近くのグリフィンドール生が一斉に覗き込んだ。

 カトレアが褒められ、質問攻めにされているところを、マクゴナガルは手の中にあった針をすくい上げて生徒たちに見えるようにする。

 

「流石ですね、エバンズ。この針を見なさい。本物と遜色ない銀の色と鋭い尖り。成功させたエバンズに5点!!」

 

 厳しいマクゴナガルがカトレアに微笑み、更に5点も追加したことでグリフィンドール生達は沸き立つ。

 マクゴナガルから返してもらったそれにもう一度杖を振れば、針はマッチ棒に戻り、何度かそれを繰り返す。

 魔法とは想像力(イマジネーション)だ。

 もちろん魔力も大切だが、自分が何をどうしたいのか明確なイメージがなければ何も起こらなかったり、中途半端なものが出来上がる。

 今カトレアが想像したのは、家で母が使っている刺繍針だ。

 なんの装飾もなく、ただただ光を受けて銀色に煌めいているだけのシンプルな針。

 しかし、カトレアは驚いていた。

 確かに自分はこの針を想像し、杖を振って魔法を使った。

 でも、まさかこんなに簡単に出来るとは思ってもいなかったのだ。

 杖に選ばれるまでは、自身の有する膨大な魔力でゴリ押しして魔法を使っていた。

 所謂"力技"と言うやつだが、カトレア程の魔力を持っていれば、杖がなくても初歩的な魔法なら使えてしまった。

 でも、複雑な理論を必要とする変身術はどう頑張っても出来なかった。

 今、カトレアの白くて細い指には美しく彫刻の掘られた漆黒の杖が握られている。

 オリバンダーの店でこの杖に選ばれてから、いくつかの魔法を試した。

 今まで自分が杖無しで無理やり魔法を使っていたのがバカバカしく思えてしまうほど、魔力の変換効率が良くて、想像以上に楽に魔法を使うことが出来たのだ。

 手の中にある杖が、まるで自分の力を自慢しているかのようにほんのりと暖かく熱を伝えてきた。




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