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蝋燭の炎で照らされた廊下を歩く。
夕食の時間であるために人気はなく、カトレアのローファーが規則正しく石畳を叩く音が響いている。
絵画たちのヒソヒソと囁く声が聞こえる。
「またスラグホーンの会食かい?かわい子ちゃん」
中世の貴族らしい絵画が薔薇を口に咥えて声をかけてくる。
この絵画は美人な女の子が大好きなのだ。
誰彼構わず声をかけては許嫁の気の強いお嬢様にビンタをされているのが日頃目撃されている。
「ええ、そうよ」
カトレアは絵画をチラリと見て、そのすぐ横の重厚な木の扉をドアノッカーで叩く。
そう間もなく扉が内側から開き、スラグホーンが顔を出した。
「遅れて申し訳ありません、スラグホーン先生」
「おお、カトレア!!よく来たね。もう来ないのかと思ってしまったよ」
スラグホーンはそのビロードで覆われた、たっぷりとした腹を揺らして笑った。
今日はスラグホーンのお気に入りを集めた食事会_通称スラグクラブだ。
予定の時間より数十分過ぎているため、前菜はもうとっくに終わっているだろう。
「ささ、座りなさい。まだメインディッシュには間に合うよ」
スラグホーンに案内されたのは暖炉の一番近くにあるスラグホーンのすぐ側の席。
暖炉の炎の熱が感じられる、初めて参加した前回と同じ席だ。
部屋の中にはスラグホーンとカトレアを除いて5名の男女がいた。
扉付近から連なる面々の視線を感じながら案内された席に着く。
目の前にはアシェルがいて、その隣にはチャールズもいる。
食事会の面々はどうやらスラグホーンの気分で変化するらしい。
見慣れぬ顔も多い中、カトレア、アシェル、チャールズの3人は変わらず暖炉のそばに席が用意されていた。
「こんばんは、アシェル、チャールズ」
空席だった席にカトレアが座った途端、目の前に飲み物とメインディッシュが現れる。
これは何かのトマト煮だろうか。
肉が入っていることはわかるが口をつけるまではまるで分らない。
2人は既にメインディッシュに手をつけていた。
カトレアはグラスを掲げ、そのまま他の招待客の顔を見渡した。
直接関りはないが顔や名前をどこかで見聞きしたことがあるような人たちだ。
「皆、カトレアの事は知っているだろう?マクゴナガル先生も、ダンブルドア校長ですら認める才女さ!」
スラグホーンの大袈裟な紹介に、カトレアは困ったように笑っておく。
まだカトレアが来ていない時には当然アシェルやチャールズの紹介もあったはずだ。
前回も同じような紹介をされたのだが、まさかアシェル達も紹介されたのだろうか。
カトレアも目の前で食べる2人に倣い、前菜も全て抜かしたメインディッシュに手を伸ばした。
「ウォーレン、もちろん君は知っているだろう?」
「え、ええ、まあ」
「カトレア、彼はウォーレン・シュナイダーだよ。同じ学年だから顔ぐらいは見たことがあるだろう」
扉に一番近い席に座ったニキビ面にクルクルの髪を頭に乗せたハッフルパフの男子生徒が、慌てて口の中のものを飲み込みながら頷く。
ウォーレンはカトレアをちらりと見た途端、顔を真っ赤にさせて慌てて俯いてしまった。
おや、牛肉のトマト煮だとあたりをつけていたが、まさか雉肉のトマト煮だとは。
「アイリス、君はどうだね。2学年も下だが、3年生にも彼女の噂は広がっていると聞いたが」
「まあ、いろいろと」
「こちらはアイリス・カワード。彼女の家は代々魔法省の存続に大きく貢献している」
ウォーレンの前に座っているスリザリンの女子生徒はツン、と素っ気なく返事をした後ちらりとカトレアを睨み、そしてアシェルを見て目をそらした。
彼女がアシェルに懸命に話しかけている姿を見たことがある。
魔法界の存続に大きく貢献しているというのは、一言でいえば寄付という名の賄賂だろう。
やっていることはマルフォイとそう変わらないが、スリザリンの中での地位は大きく違うようだ。
「キャロル、君も当然知っているだろう。私は君が彼女に話しかけているのを目撃したことがあるんだ」
「おや、見られていたんですか。お恥ずかしい」
「君も知っての通り、彼はキャロル・アボット。レイブンクローの5年生さ」
カトレアの隣に座っている大柄でスポーツマンのような短髪の髪の青年が爽やかに微笑んで片手を上げた。
確かに彼とは一度だけ話したことがある。
アボット家は聖28一族に分類されているがその実態は既に半純血で、スリザリンの生徒たちとは仲がいいわけでもないようだ。
その証拠に、隣に座ったアイリスが親の仇のように睨んでいる。
「そしてこちらは、ああ、紹介する必要もないね。君たちが友人だと、私は知っているからね!」
スラグホーンはにこやかに笑った。
当然、彼は知っているに決まっている。
前回の晩餐会で言ったことだし、魔法薬学でのペア授業でもカトレアとアシェルは常に組んでいるのだから。
「ええ、アシェルとも、チャールズとも友人ですもの。先生もご存じの通り」
カトレアはお茶目にウィンクをした。
スラグホーンはこういった真面目で特別な生徒が、自分にだけの姿を見せるのが大好きなのだ。
遅れてきたカトレアのために開催された紹介はこうして終え、スラグホーンは雉肉を頬張りながらくつろいだ様子を見せた。
「そうだカトレア、また素晴らしい変身術を披露したそうだね。マクゴナガル先生が絶賛していたよ」
「あら、ありがとうございます」
誰かがフンと小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
スラグホーンは気付かなかったようだが、まさかカトレアも気付かないとでも思っていたのだろうか。
アイリスがすました顔でメインディッシュを口に運んだ。
「何度も言うが、君のような優秀な生徒を迎え入れることができて全くマクゴナガル先生も鼻が高いだろう!!君ならばスリザリンに来たとしても上手くやると思うのだがな…」
「まあ、スリザリンにはアシェルがいらっしゃるでしょう」
全くもって欲張りな人だ。
こうしてアシェルもカトレアも隣に侍らしているというのに、まだその欲望は満たされないのか。
カトレアは強欲なスラグホーンに呆れながらもグラスを傾けた。
「当然、アシェルも素晴らしい才能を持っている!私は彼の父親とも知り合いなのだがね_そう、私の教え子だ。親子揃って、全く恐ろしい程の才能の持ち主さ」
カトレアは話題をうまくアシェルの事にすり替えるのに成功した。
目の前のアシェルといえば、わざとらしく片眉を上げてカトレアを見た。
当然話題をすり替えたカトレアを咎めている訳ではなく、寧ろ上手いやり方だとばかりに思っているだろう。
「しかし、フォーリー家は昔から秘密主義なのが玉に瑕だ。多くの人間が魔眼も、精霊も知りたいと願っているがフォーリー家が独占しておる。そのことについて君はどう思う、アシェル」
「秘密主義なのは勘弁してもらうしかないですね。我々は精霊ノ王との契約に基づいた家系ですので。私から言えるのはこれぐらいです」
「ほほう、精霊ノ王とな。全くもって興味深い」
スラグホーンはアシェルが脂ののった雉肉でもあるかのように眺めまわした。
アシェルが本物の雉肉であったのならば、今頃すっかり食べつくされて骨だけになってしまっているだろう。
しかしアシェルはそんなスラグホーンにも動じることなくグラスを優雅に傾けている。
いつの間にか目の前の皿はすっかり綺麗に食べきられていた。
「しかしだね、アシェル」
「カトレア!!!」
バンッと木の扉が開いた。
誰もがノックもなく勢いよく開いた扉をギョッとしたように見た。
そこに居たのは真っ青な顔をしたオリビアで、彼女は息を荒げながらもどこか泣きそうな顔でカトレアを探していた。
「どうかしたの?」
うろりと室内を巡っていた目はカトレアの声に導かれるように固定された。
カトレアを見つけた途端、そのチョコレートブラウンの瞳が波打つのを感じた。
「ソフィアが、ピーブスに…!!」
「怪我をしたのね」
カタンと木の椅子の音を立て、カトレアは立ち上がった。
ぐらりと傾いた椅子をキャロルが支えた。
「頭を打ったみたいで、血も…医務室に連れていったけど…」
「マダム・ポンフリーは何と仰っているの?」
「マダムはすぐに処置してくれて、血も止まったし時期に意識も戻るって」
時期に意識も戻る、ということは今はまだ意識を失っているということではないか。
ピーブスは怖がりなソフィアを驚かすことを好んでいる。
追い回したり、近くで大きな音をたてたり、水をかけたり…
そのたびに主にカトレアが追い払っていたが、これではもうただの悪戯では済まされない。
「スラグホーン先生、申し訳ありませんが友人の元へ行かせていただきますわ」
「ああ、ああ、構わないとも。私も君の友人の無事を祈っておくよ」
「感謝します」
カトレアはローブを翻し、オリビアを伴って颯爽と部屋を出た。
石畳にカツン、コツン、と高い音が刻まれる。
夕飯の時間も終わったために廊下には人が溢れているが、カトレアはそれを気にすることなく開けられた道をまっすぐに歩いた。
⚡︎ ⚡︎ ⚡︎
「失礼いたします。ソフィア・イリングのお見舞いに参りました」
カトレアは規則正しく3つ扉を叩いた。
マダム・ポンフリーが中から顔を出し、外にいるカトレアとオリビアの顔を見た後にしぶしぶと仕方なさそうに扉を開け放った。
医務室にはマダム・ポンフリーの他、マクゴナガル、ダンブルドアもいた。
マクゴナガルは眉間に皺を寄せてダンブルドアと話をしていたが、部屋に入ってきたカトレア達を見るとパッと皺を散らした。
「エバンズ」
「こんばんは、マクゴナガル先生。ダンブルドア先生。マダム、ソフィアの容態はいかがですか」
「先ほど一度目を覚ましました。今は眠っているだけです」
マダムはちらりとカーテンの引かれたベッドに目をやった。
カトレアもつられてそちらを見る。
真白なカーテンが波打つように侵入者の存在を拒んでいる。
「病人は安静にしてなければなりません。貴女たちも、イリングの無事を一目見たら寮にお戻りなさい」
先生方もですよ、とツンと告げたマダム・ポンフリーは奥の事務室へと戻っていった。
カトレアとオリビアはマクゴナガルに促され、真白なカーテンに手をかけた。
「ソフィア、開けるわよ」
軟布を掴むようにそっと開ける。
ソフィアはカーテンと同じように真白な寝具に包まれて眠っていた。
オレンジがかったブラウンの髪が寝具の上に散っている。
マダム・ポンフリーの言うとおり、ソフィアはただ寝ているだけの様だ。
しかしそのツルリとした額には似合わぬガーゼが貼られている。
カトレアの額に皺が刻まれたが、すぐに元に戻る。
怪我をした友人の傍で野暮な質問をするほど弁えていない訳では無い。
「ソフィア。早く元気になるのよ」
「部屋に戻ってくるの待ってるから」
カトレアは左眉の上に貼られたガーゼを避けるように額の中央に口付けし、オリビアはソフィアのまろい頬を撫でた。
マダムの言いつけ通り、たったそれだけのやり取りでカトレア達はカーテンで仕切られたソフィアの病室から出た。
マクゴナガルもダンブルドアも変わらずその場で待っていた。
「あのガーゼはどうしたんですか?」
「怪我をしてから発見されるまで時間がかかったのです。1度の治療では完全に治らず、暫く痕は残るかと」
魔法は便利なものだ。
制約はあれど、多くの物事は魔法があれば解決出来てしまう。
怪我や病気の治療もそうだ。
多少の怪我はハナハッカエキスや治療魔法で、風邪などは元気爆発薬などで治ってしまう。
それだと言うのに、ソフィアの怪我はその限りでは治せないと。
「ピーブスの処罰はどうなさるおつもりで?」
カトレアは真っ直ぐにダンブルドアを見て言った。
生徒を怪我させ、それも女の身体に傷をつけた罪は重い。
それはそれはとても重い処罰が課せられるのだろうとカトレアは目を細めてダンブルドアの返事を待った。
オリビアも、マクゴナガルですらもダンブルドアの言葉をジッと待っている。
「…カトレアよ、ピーブスに処罰を与えることは出来んのじゃ」
「それはそれは、なんとも寛大な慈悲を与えるのですね」
「ソフィアよりもたかがポルターガイストの方が大事だと校長先生は言うんですね」
3対の批難の目がダンブルドアを見据えた。
ピーブスはゴーストでもなく、いつからかどうしてか発生したポルターガイストだ。
そしてこの学校でピーブスを卸すことができるのは、ダンブルドアとスリザリンのゴーストである血みどろ男爵だけ。
「誰もピーブスがソフィア嬢を怪我させた所を見ていないのじゃ。あの階段には忘れ世の君の絵しかなく、彼女も3階の愛しの彼の元へお茶会に行っておった」
ソフィアは西の塔の2階の階段で倒れていた。
階段の上から転げ落ちたのか点々と階段には血痕が残っており、階段の上には割れた花瓶があったという。
西の塔は教室も少ないため、人気も少ない。
暇さえあれば西の塔の最上階で空を眺めているソフィアのことを知っているのはカトレア、オリビア、レオ。
そして鉢合わせたことのあるゴーストと階段の絵画達だけ。
「彼女達も降りたソフィア嬢を見てはいるが、その後は見ておらんのじゃ」
「つまり、ソフィアを怪我させたのはピーブスかもしれないし、他の生徒の可能性もあると。ソフィアはなんと?」
「彼女もピーブスであったと言っておる」
「ならピーブスじゃん!もし違ったとしても、他の生徒でもソフィアを怪我させたやつを…」
「疑わしきは罰せず、じゃよ。オリビア」
オリビアはひとつ舌打ちをした。
マクゴナガルはただジッとカトレア達とダンブルドアのやり取りを聞いていた。
彼女もカトレア達が来る前はダンブルドアにピーブスの処罰を求めていたのだ。
マクゴナガルは当然カトレア達を援護したい。
ソフィアは大切な自身の生徒で、女の子なのだ。
同じ女として彼女を傷つけた下郎は許せないし、罰せられるべきだと思う。
しかし、それと同時に彼女は教師でもあるのだ。
証拠もない者を罰したら今後もそれが罷り通ってしまうとわかってもいるのだ。
「まだいたのですか!怪我人の療養の邪魔になるから帰りなさい。全員です!」
カトレアも、ダンブルドアも、誰も何も言わぬ無の時が切り裂かれたのはマダム・ポンフリーの声によってであった。
奥の事務室から顔を出したマダムは小声で怒鳴るという器用なことをやってのけた。
そしてツカツカとやってきて、全員を医務室から追い出す。
「ソフィア・イリングは面会謝絶にします!」
そう言ってマダムはパタンと扉を閉めた。
シンと静まり返った廊下に4人は立っていた。
「マダムは怒らせると怖いのぉ…」
ダンブルドアはその長い髭を弄りながら呟いた。
カトレアはただただ冷めた目でダンブルドアを見ていた。
「貴方にピーブスへの処罰は求めません」
その深緑の瞳はいつかの過去を、そして未来を見通すように透き通っていた。
いつかダンブルドアはその博愛主義を心の底から後悔することだろう。
否、彼は既に後悔しているはずだ。
しかし、それでも彼は全てを愛し、100のために1を殺すことをやめはしない。
「行くわよ、オリビア。おやすみなさい、マクゴナガル先生。ダンブルドア先生」
「…おやすみなさい」
⚡︎ ⚡︎ ⚡︎
石畳の廊下にカトレアのローファーが床を叩く音と、オリビアのスニーカーが床を擦る音が響く。
就寝時間まであと30分ほど。
真面目な生徒はもう寮に戻っているため、廊下ですれ違うのは1人や2人程だ。
「…まさか本当に寝るわけじゃないでしょう?」
「当然じゃない」
オリビアはカトレアが何処に向かっているのかを知らない。
グリフィンドール寮でないことは確かであるが、今更カトレアの選択に否は言わない。
常ならば隣を歩くスニーカーも彼女に道を委ねて半歩後ろを大人しく歩いている。
カトレアとて疑わしきは罰せずが悪いとは言わない。
どちらかと言えばカトレアもそちら派だ。
だが、許せないものは許せないのだ。
「グリフィンドールは勇猛果敢な獅子の寮よ。他寮からは勇気と無謀を履き違えているだの正義のためなら死すらも恐れないとも言われるわ」
正義や友のためなら死を迎え撃つのがグリフィンドールだ。
カトレアも、オリビアも、ソフィアも、グリフィンドール生だ。
友のためなら平気で校則だって破ってみせる。
「全くもってその通りだわ」
カトレアのローファーがコツンと一層高く鳴って、その足が止まった。
極寒の深海の様に冷たく凪ぐ深緑が宙に浮いた小男を見つけた。
大きな口に暗く淀んだ目を持つ、オレンジ色の蝶ネクタイをした男だ。
あまりにも混沌とした存在であるポルターガイスト、彼こそがピーブス。
「ぎゃははははは、弱虫ソフィアの敵討ちか?」
ピーブスはプフュ、プフュ、とふざけた音を鳴らし、耳障りな声で鳴きながら宙で1回転した。
あまりにも強く噛み締めすぎたのだろう、オリビアの歯が低く音を奏でたのが耳に届く。
「ええ、そうね。お前には今後一切ソフィアに悪戯をするだなんていう考えも浮かばないようにしなくては」
カトレアは首を傾け、ピーブスを見据えた。
あまりに感情の乗らない声だった。
常の木々の間を通り抜ける穏やかな初夏の風が、今では髪の一房さえも揺らさぬ冷たく凍った雪原のように思える。
喜怒哀楽の喜と楽は当然ながら、怒と哀ですらもその声には存在しなかった。
その手には敵意を隠そうともせず、杖が堂々と握られている。
いつの間に出したのかとオリビアは驚き、しかしカトレアに倣うようにローブから杖を取り出した。
「弱虫ソフィア、泣き虫ソフィア、おバカな」
「黙りなさい」
それは一瞬の出来事だった。
カトレアが杖を振った瞬間、ピーブスは何かに殴られたかのように吹き飛ばされ、カトレア達の目前から消え去った。
人間と違って実態のないため、壁にぶつかることもなく壁をすり抜けて外に消えていったのだ。
呪文も何もない、ただ怒りのままに魔力をぶつけただけ。
「
カトレアを中心として風が吹き、プラチナブロンドの髪が舞うように浮き上がる。
抑えきれない怒りに順応するように魔力が滲み出てしまっているのだ。
繊細な魔力のコントロールを誇るカトレアらしからぬ所業。
自我のない幼少期以来だ。
「カ、カトレア…落ち着いて…」
人は自分より慌てている人を見ると落ち着くというが、それは怒りも同様だったようだ。
ピーブスへの怒りがなくなったわけではないが、少なくとも魔力を周囲へ迸らせているカトレアの怒り様を見れば多少は萎むというもの。
「心配しないで、オリビア。すぐに終わらせるから」
カトレアとてオリビアを怖がらせたいわけではない。
ソフィアの為にやっているわけでもない。
これはただ、カトレアが自分の友人に傷をつけたのが許せないというだけの、独りよがりな怒りで行動しているだけなのだ。
「アクシオ、ピーブス!!」
城の外にまで吹き飛ばされていたピーブスはカトレアの呪文で再び引っ張られるようにカトレア達の目前へと現れた。
「インカ―セラス!」
目前へと現れたピーブスはあっという間にカトレアの振った杖から飛び出した縄でグルグル巻きにされた。
ピーブスは何とか抜け出そうと暴れていたが、暴れれば暴れるほど縄はギチギチと締まっていく。
「ソフィアに傷をつけたことを後悔しなさい」