#1 百鬼夜行
アロナの案内通りにバイクを走らせると、周り一体和の建物に囲まれた場所に到着する。
”ここが百鬼夜行……。”
バイクから降りてしばらく歩くと和の建物が並び、「百夜ノ春ノ桜花祭」の名の通り桜がそこら一体に咲いていた。
”どうやら祭は始まってるみたいだな。”
歩いていると街一帯が祭の独特の雰囲気、そしてそれを楽しむ人たちの歓声に包まれていた。
”(トリニティのこじゃれた味も別に嫌いではないが……俺にはこういう飯の方が性に合ってる。)”
士は屋台に売っているご飯ものを見ながらそう思っていた時、どこからかふと、可愛らしい声が耳に届いた。
「あっ、あっ!危ないですーーっっ!?」
”?……おっと。”サッ!
声を聞こえた方向に振り返り、こちらに走ってくる獣耳が生えた女の子を確認するや否や横方向に躱す。
「わわっ……!?」ドサッ!
士が交わした瞬間獣耳が生えた女の子はその場で転んでしまう。
「いたた……。」
”おい、大丈夫か。”
転んだ女の子に声を掛ける。
「はっ!」バッ!
女の子は顔を上げ、すぐに立ち上がる。
「す、すみません!えっと、大丈夫ですか?お怪我はありませんか!?」
”俺は大丈夫だが……お前は派手に転んだみたいだが?”
「は、はい!大丈夫です!」
派手に転んだ女の子と話している時に、背後から声が聞こえてきた。
「待てー!逃がさないんだから!」
「か、カエデちゃんもちょっと待ってください……はあ、はあ……は、速すぎます……。」
「はっ、もうこんなところにまで!」
「えっと、えぇっと!ど、どうすれば!?」
”(何かに追われてるみたいだな。)”
”助けた方が良いか?”
焦っている女の子に士は一つ提案する。
「へ?そ、それは、その……。」
「見つけた!ミモリ先輩、あっち!」
背後から聞こえた声が徐々にこちらの方に近づいてくる。
”こっちだ。”ダッ!
「あっ……!」
女の子と共に、人混みの中へと走り出した。
しばらく二人で人混みを超え、さらに走って、何とか逃げ切ることができた。
「ふぅ……ここまで来れば大丈夫そうですね。」
”……そうみたいだな。”
イズナ「えっと、イズナを助けてくれてありがとうございました!」
”(イズナって言うのか。)なに、気にするな。”
イズナ「ところで、あなたは……。」
イズナ「百鬼夜行の生徒ではなさそうですし、大人の方……?」
”門矢士……シャーレの先生だ。”
イズナ「シャーレ、先生……?」
イズナ「あ、もしかして……!」
シャーレの先生っと聞いてイズナは何かを思い出したようだ。
イズナ「イズナ、聞いたことあります!」
イズナ「シャーレには、キヴォトスの事件をズバッと解決してくれる、凄い大人の人がいるって!」
イズナ「どこにでも表れて即座に解決……まるで忍者みたいです!」
“忍者?”
イズナ「まさか噂の先生にお会いできるだなんて……!」
“どうやら俺の活躍の情報も広がってるみたいだな。”
イズナ「すごい、本物なんですね!」
イズナは士にキラキラと輝いた視線を向ける。
イズナ「ですが、シャーレの先生がどうしてここに?」
“ここの、百夜ノ春ノ桜花祭を見に来たんだ。”
イズナ「なるほど……そうだったんですね!」
イズナ「せっかくの桜花祭ですし……よろしければイズナに、この案内させてください!」
“それは願ったり叶ったりだな、ぜひ頼もう。”
イズナの案内について行く。
イズナ「見てください、あそこ!屋台で百鬼夜行の名物、キツネせんべいを売ってます!」
イズナ「あ、あっちには桜花祭と言えば外せない、タヌキ印のお好み焼きも売っていますし!」
イズナ「あとは、桜の花びらで作ったサクラ大福も、とっても美味しいんですよ!」
“いろんなものが売ってるな……そしてどれも美味そうだ。”
イズナ「桜花祭の名物なんです、えへへっ!」
イズナ「そうだ、せっかくですし……百夜ノ春ノ桜花祭といえば、あれを見に行かなくては!」
“あれ?”
イズナ「こっち、こっちです先生!」
イズナが言う「あれ」っというのが気になりながらイズナに着いていく。
イズナに案内されると士の視線の先にはとても大きな桜の大木が生えていた。
“でっかいな……あれは桜なのか?”
イズナ「えへへ、ですよね?ちょうどこの時期に一番綺麗に咲く、百鬼夜行の自慢です!」
イズナ「イズナは、ご神木と百鬼夜行の街並みが同時に同時に見渡せるこの場所が、大好きなんです!」
“確かに良い眺めだ。”カチッ
イズナの意見に同意し、首に下げていたカメラを向け、今の光景を写真に収めた。
イズナ「ここでこうしていると、イズナの夢のためにまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります。」
“……夢?”カチッ
写真を撮りながらイズナが言っていた事を聞き返す。
イズナ「はい!イズナには夢があるんです!」
イズナ「キヴォトスで、一番の忍者になるという夢が……!今日も今日とて、そのために日々……!」
“忍者か。”
イズナ「……はっ!?」
イズナ「す、すみません、その、こんな夢を持ってる人なんて今時いないことは知っているのですが……で、でも……!」
”夢があることは良い事だ、応援するぞ。”
イズナ「あ……イズナの夢を、応援……。」
イズナ「それがその、たとえ、忍者になりたいという……そんな、あまり普通の学生は言わないような夢でも、ですか?」
"ここでの普通はよく知らないが……俺は先生だからな、道を外れてなければどんな夢でも、生徒の夢は応援する……それが先生だ。"
イズナ「……っ!そ、そう言っていただけたのは先生が初めてです!」
イズナ「え、えへへへっ、そ、そうですか……!」
士の言葉を聞き、イズナは喜びが顔に現れる。
イズナ「イズナの夢を応援してくれるなんて……!」
イズナ「まだ色々と失敗も多い身ではありますが、あらためて、イズナは立派な忍者になってみせます!」
イズナ「……あっ!雇い主の依頼を終えていないのを思い出しました……!」
イズナ「すみません、イズナはお先に失礼します!では先生、また!」
イズナ「依頼が終わった後、また一緒に桜花祭を楽しめたら嬉しいです!」サッ!
イズナは喋り終えると風のように消えていった。
”……今の時点でもかなり忍者に近いな……アイツ。”
もう姿が見えないイズナに士はそう呟いた。
”……そろそろ百夜堂に向かうか。”
士は本来の目的のために、その場を後にした。