あれは俺が子どもの頃の話だ、魔界より現れた魔王軍、その一部隊が俺の村を襲撃した。
俺も殺されるところだった、でもあの人が俺を助けてくれたんだ、勇者だ。
あの人は殺されそうになった俺を身を挺して庇ってくれた、そして一瞬で片付けて、こちらをチラリと見た。
そして少しホッとした様子を見せ、すぐに何処かへ行ってしまった。
たったそれだけでも俺が勇者を目指すには十分すぎる経験だった。
俺もあの人の様に人を助けたいと、そう、強く思った
そして俺は勇者になるためにひたすらに頑張った。
毎日寝る間も惜しんで剣を振り続けた。
クタクタになっても毎日走り込みを続けた。
そのおかげか、立派な一人の兵士見習いに俺はなることができた。
そうして軍学校を卒業し、国王軍に入隊して過酷な訓練を続けていた16の頃だった。
かつて勇者が滅ぼした旧魔王軍、その残党を新たな魔王が新魔王軍を率いて再びこの世界に侵攻して来たんだ。
王国は新たな勇者を探した。
魔王を葬った勇者は戦いの後遺症で戦争後すぐに亡くなり、持っていた聖剣だけが残された。
唯一魔王に傷をつけた聖剣だ。
聖剣は人を選んだ、名のある騎士、戦士、果ては異国の剣士まで呼び寄せたが、誰一人持てるものはいなかった。
そして俺が18になった年の夏、年に2度の勇者探す式典の前日に、聖剣が魔王軍によって盗まれた。
そしてそれを奪還することが俺の一人前の兵士としての最初の任務だった──
俺達を乗せた馬車は聖剣を盗んだ魔王軍の補給地点であろう砦に移動していた。
8人乗り馬車が30両も移動する光景は見事なものであった。
「どうした?緊張してるのか」
同期の一人が話しかけてきた。
「かなりな、実戦でも大丈夫と思ってたんだが」
しないというほうが無茶な話だ、今までは戦闘の際は教官がいた。
安全が確保された上での戦闘だった、緊張するに決まってる。
こいつも緊張をほぐすために話しかけてきたのだろう。
周りの皆もとりとめのない話をして、気を紛らわしていた。
「怖いか?逃げたいか」
はっきり言って怖くもあった。
特に今回は魔王軍との戦いということもあり、かなり心のなかでは恐怖があった。
「もちろん怖いさ、だが逃げる気はない」
もし聖剣が取り返せなかったら、持ち主を決める儀式そのものが無くなってしまう、それは嫌だ。
自分がいないと取り返せないとも
自分が絶対選ばれるとも思っているわけではないが。
同期の男が話を続けた。
「しかしどんな見た目なんだろうな、聖剣というのは、俺たちのような新米には、見た目も教えてくれねぇ。それほど神聖なものなのか」
昔あの人がなにか持っていたのは覚えているが、どんな見た目かは思い出せなかった。
こんなことならとしっかり覚えておけば良かったと少し後悔した。
「あくまで俺達の役目は騎士らの援護だ。わざわざ知る必要はないだろ?」
見たいのも本音だった、俺は選ばれなかったんだ。
成績は優秀だったが同じく優秀な貴族の息子などに権利は渡された。
今更わがままを言っても意味がない。
「ケッ、俺達はあくまで脇役かよ」
「それでも大事な役だ、頑張ろうぜ」
(マークの野郎ならわがままを言ってただろうな……)
そうして話していると砦が見えてきた。
外壁の中に屋外と建物があるタイプだ、
砦は思っていたよりずっと小さく、高まっていた緊張感がすぅーっと収まるのを感じた。
騎士の一人が小さめに声を張り上げた。
「よし!いまから門を突破し奇襲をかける!私たちは奥へ突っ込むから兵士諸君には補助をまかせる!」
それを聞き兵士たちが一斉に馬車から降り、陣形を素早く取る。
いよいよ戦闘が始まる──
続くよ