「兄様の仇!」
「小僧共ォ! 抑えろ!」
俺達はアリシアをなんとか止めようと連携していた。
「なんだ……? 洗脳深度が下がっているではないですか……まぁ問題ないでしょう……私の術は木端どもと違ってやわではないのでね」
俺とマークが両腕を固め、ミュラーは首を絞める。
麻酔手巾は戦っているうちに外に放り投げられてしまった。
効かないとしてもひたすら首を絞めていくしかない、絞め続ければ流石に意識を失うだろう。
「ぬぁああ! よくもっ決して許さんぞッ」
「何かわからんがすごい錯乱してんぞッ、それにすごい力だっ」
「もう首を掻っ切ってしまうか!」
「そ、それは待ってくれジイさん」
「よくも兄様を……」
「やばい! オレ達二人ともぶん投げる気だっ」
「それはまずい……ん?」
ふと視界の縁側に青白い光がみえた。
(聖剣が……光って……)
「母様をッ!」
気を取られているとマークの言っていたとおりアリシアは強引に拘束を解き、ぶん投げてきた。
「クソッ……」
(しかしこの光はいったい……?)
「何故だ……」
そう言ったアリシアは腕を後ろに回してミュラーの首を掴む。
鎧というものの首部分は可動性のために装甲が比較的薄くなっている、そこにアリシアの万力のような腕力による掴みは続ければ十分にミュラーを死に至らしめるだろう。
「うおっ……た、助けてくれぃ!」
「ハハハハハハ! そのまま殺してしまいなさい!」
アリシアに掴みかかって外そうとするが蹴られて近づくことができない。
(どうすればいい!?)
「ジャック! 聖剣だ! 聖剣でアリシアを斬るんだ!」
「いやいやいや! そんなことをすれば……」
「聖剣は……持ち主の考えを読むらしい 使えばアリシアの洗脳も解けるかもしれん」
「なに? やけに詳しいな……?」
「うおっ……がはっ……は……早く……」
ミュラーの鎧が鈍い音を立てながら変形していく。
(そんなこと考えてる暇はなさそうだ)
「とにかく聖剣が気を利かせてくれることを祈れ! 速くいかないとジイさんが死ぬぞ!」
「よ、よし! 行くぞ」
アリシアに向けて走り出す、狙いはアリシアの腕の部分、そこを斬る!
「でももしもの時のために浅く斬れよ!」
近づくとアリシアは先程と同じく蹴りを放ってきた、だがこれくらいなら集中すれば回避可能、既に間合いに入っている――
「がほっ……うおあああ!?」
ミュラーを投げつけて来た!
とっさに右に回避しようするも避けきれない、ミュラーの鎧込みの重量と金属の硬さが肩に激突する。
だが激突したのは左肩だ、右手が残っている!
「くらえっ……」
しかしその右手すらはたかれて聖剣が目の前に舞う……目の前に……
「があっ!」
ならば……噛んで、口で聖剣を持って斬ればいい!
あくまで方向を修正するだけ、“振り”は重力にまかせる、だが問題はこのままだとアリシアの胴体を斬ってしまうことだ。
(聖剣! 俺の考えを読んでくれるというのなら、アリシアを……!)
アリシアの首と肩、その間に聖剣が……入った。
斬ったのではない、すり抜けたというのだろうか。
聖剣が胴体を通過して地面についた時、アリシアの目に徐々に光が戻ってきていた。
追撃は来ず、アリシアは動きをとめている。
「な、なんです!? 私の洗脳が……」
「…………………ハッ!?」
「アリシア!」
「わ、私は……たしか……? 黒幕に首を掴まれて……意識を」
「ガハッ やりおっだ! 戻っだぞ! ゴホッゴホッ」
ミュラーはかなり苦しそうだ、首を絞められてさらに投げ飛ばされてしまったのだから仕方ない。
「アリシア、お前は操られてたんだ、ちょっと理解が追いつかないかもしれないが」
「いや……大丈夫だ、そういうことか……道理であんな昔の……」
何か納得したような口ぶりだ。
「ゴホッ ふふふ……これでもう貴様に人質はいないな、覚悟するといい」
「何を勘違いしているのですか?」
「なんだと?」
予想外の一言だ。
こっちにアリシアは戻って来た、もはや洗脳さえ気をつければ大して問題はないだろうと考えていた。
「なぜ私が横槍を差さなかったか……その女とあなた達を戦わせたのは魔法の威力を上げるための時間稼ぎです」
「!」
マークが何かに気づいたようだ。
アリシアが短剣を手に持ち、思いきりプリヴェーヌに放り投げるが“障壁”に遮られ弾かれる。
最初に俺達が見た障壁なら崩されていただろう。
「わかりましたか? 先程までの障壁とはまるでモノが違う……このままあなた達を障壁越しに魔法で蹂躙してさしあげますよ」
「そいつは無理な話だな」
背後から声が聞こえた、振り返ってみると……
あの城主ジェレミーがいた、大きな大砲を荷台に載せて。
「ジェレミー! お前それは……」
「プリヴェーヌ! 貴様でもこの大砲をバリアで防ぐことはできまい」
その大砲は人が丸々入れそうなほど大きく、その破壊力とここまで持ってくる苦労は容易に想像できた。
「ど、どうやってここまでー!?」
「下の兵士たちが統率を失っていたので、手伝ってもらった、また支配されたら困るから退避させておいたが」
そう言って城主は導火線に火をつけた。
「クッ! 貴方には人質がいることをお忘れですかー!? 私が指示を出せばすぐに牢獄番が……」
「それはワシらがすでに開放した」
「えーッ!?」
……さっきから何か黒幕の反応が変だ……わざとらしい感じがする。
何か隠しているのか?
火をつけた導火線はかなり短くなっている、砲丸が放たれるまでそう時間はないだろう。
「お前もここでおしまいだ!」
「やめろー…………なんてねぇ!」
「!?」
嫌な予感が的中した、プリヴェーヌは唐突に地面に手を置いて呪文を唱え始めた。
「念の為盾を用意しておいて正解でしたよ……召喚!」
地面に現れた魔法陣から召喚されたのは……助けたはずの城主の妻子だ。
「マルクッ! ディアナ!」
「父さん!?」
城主は導火線の火をもみ消そうとしたがもう遅い、すでに大砲内部に火が入り込んでいる。
「このタイミングを待っていたのか!」
「親が子を殺すことになるとは滑稽なものですね!」
そしてけたたましい轟音とともに大砲が放たれ、発射時の煙で周囲が見えなくなった。
煙が徐々に晴れてくると目に映ったのは――