「チッ……味なマネを……!」
倒れたミュラーだった、どうやらあの大砲から2人を守るために飛びだしたようだ。
いくら鎧をつけていたとしても圧倒的質量の砲丸を食らったのだ……生存の確率はほぼないだろう
「ミュラー、そんな、私の……せいか」
「……反転召喚」
今度はマークが妻子を召喚してこちらに戻した。
「ああっミュラー様……」
「すまねぇ……魔法の解析が間に合わなかった……ジ……ジャック?」
アリシアを洗脳……さらに妻子を盾にした、この外道はミュラーの仇、後悔させてやらねばならない。
このっ……
「この腐れ外道がッ!」
「き……キレてる」
「ではあなた達は魔法を食らって、あのミュラーのようになってもらいます」
プリヴェーヌは自身の周囲に50ほどの魔法弾を浮遊させた。
おそらく俺達に飛ばしてくる気だろう。
「俺が突撃する!」
「だめだ、あの弾幕が全てお前に飛んでいくぞ。 それとも何か秘策でも?」
「ない!」
俺は足を踏み入れて猛ダッシュでプリヴェーヌに迫る。
秘策などはない、だがこの聖剣があればなんとかできる気がする。
それに魔術の対策は訓練兵時代に習っている。
「キレてる時は頼りなるなぁ、昔から。」
「はっ!? 突っ込んでくるとは……愚かな!」
早速魔法弾を放ってきた。
だが魔法弾というものはある程度標的を追尾するが、大まかな進行方法を変えることは無い。
「とおっ!」
なので横に避けるっ。
だがそうすると当然……
「フンッ それで私の魔術を突破したつもりですかっ」
進行方向から弾を動かしてくる。
ならばここで剣を振って
「ぬんっ!」
地面に叩きつけ……
「何をっ……」
剣を支点にしてジャンプする!
こうすれば横から来る魔法弾は全て回避可能、そして残った魔法弾は12程度。
この程度なら全て切り落とせばいい。
(このガキ……今更気づいたが侮れない、着地の隙を狙う!)
弾を切り落としたがまだ黒幕との距離は6メートル程、また弾幕を掻い潜って近づかなければならない。
しかし地面につくと何故か体制を崩し転んでしまった。
(! アリシアのさっき投げた短剣だ、このタイミングに……)」
「ま、まずいっ」
「死んでもらいましょうか」
何かの魔術の準備をしている、当たればただでは済まないどころかおそらく死ぬだろう。
体勢を崩してまともに回避はできない、どうすればいい!?
アリシア投げた短剣を掴んで何かできないか?
……そうか! 投げた剣……!
「うぎぃぃぃぃぃ!? み、右手がァァァァ!!」
「……ちょっと……手から離すのは躊躇したけどな……」
光線は放たれる事はなかった。
その前に俺の投げた聖剣が、障壁を突き破りプリヴェーヌの右手から腕まで縦に割いてしまったから。
「すごいな聖剣は……お前のモノが違う障壁とやらも、らくらく突破できてしまったよ」
「……聖剣だって!?」
聖剣という単語を聞いたプリヴェーヌは激しく動揺していた。
というか上手くいったから得意げに話していたがこの隙に障壁を再度張られてしまうとまずい、早々にトドメをさす、残ったアリシアの短剣でっ!
(は、走ってくる! し、癪だが仕方がない)
「き、キャリアー!!」
「なんだ!?」
トドメをさすまさにその瞬間、何かが壁を突破して俺を突き飛ばした。
「ぐっ……あっ!? い、いないぞやつが」
「ジャック・リアス! 外だ!」
見ると小型の飛竜がプリヴェーヌを載せて飛んでいた。
飛竜さえも手なづけているのか?
「あ……危なかった……あなた達とは二度と会いたくありません! さらばっ!」
そう言って合図を出すと飛竜は遥か遠くに飛び立とうと、翼を大きく羽ばたかせた。
「マーク!! 魔術で追撃してくれ!」
「言われなくとも!」
マークの放った光線は狙い正確にプリヴェーヌに放たれたが……
「防がれたぞ! あいつまた障壁を張りやがった!」
マークの光線すら防ぐほどの余力を残していたのか!?
「ふ……ふふふ……せ、生命力を削ってまで障壁を張ることになるとは……思いませんでした」
どんどん遠くに離れて行ってしまう。
逃がしてたまるものか、どうにかしてやつの下へ。
仲間たちも奴を逃がすまいと大急ぎで思案している。
「ジェレミー殿! この大砲に弾は!」
「も、もうない……一つしか持ってきていない……」
奴に届く手段もない、八方ふさがりか……
「ミュラー殿の火薬を使って私を奴まで打ち出してくれ!」
「いや、ここは聖剣を持ってる俺が行ったほうがいい」
「いやいや、狂ってんのか!? 死んじまうぞ!」
「マーク、お前が防護魔術をかけてくれ」
マーク程の腕なら、死にはしないと信じたい。
信じないとこんな狂気の沙汰、到底実行などできない!
「頼むぞ」
「……わかった! もう知らねぇからな!」
投げた聖剣も回収し、いよいよ準備は完了した、あとは発射の瞬間に俺が肉塊にならないように天に祈るくらいしかできない。
しかし存外大砲の中というのは温もりが貯まって心地よいものだな。
…………今になって現実逃避をしているのか俺は。
「GO!」
火薬の衝撃が足に伝わる、まるでこの塔の最上階から地面に着地した――そんな感じだ。
あまりの痛みで一瞬目をつぶった、そして空いた時にはもうやつの目の前、命に届く距離。
「ヒィィィッ! くるなあああ!」
情けない声とともに目の前に障壁が張られる。
だがどれだけ強かろうがこの聖剣ならば……!
「逃げられると思ったか! この外道め!」
縦に障壁を一刀両断、完全に間合いに捉えた!
「よせっえええ」
腰から反対側まで剣を通してやる、真っ二つだ!
「ええええええええ!!」
「自分の所業を悔いながら、死んでゆけ!」
「えああっ……」
完全に下半身と泣き別れになったプリヴェーヌは砦の外へ落下していった、だがそれを最後まで確認する暇はない。
どうにかして塔へ戻らなくては!
まずは上に乗ったドラゴンに言う事を聞いてもらおう。
「あっちに戻れ! この!」
手綱を握っても暴れて抵抗してくる、無理やり首を動かして方向転換させることには成功した。
「よしっこのまま戻って……あっ!?」
もう少しで跳んで届きそうな所で振り落とされたっ!
か、回収に失敗したら俺は……
アリシアが飛竜の開けた大穴から飛び出して来た。
腰にはロープのようなものを巻きつけている。
「手を掴め!」
言われるがまま伸ばした手を掴んだ。
「……よぉし!」
だがこのままでは地面への落下は免れるが振り子の動きで壁に激突してしまう!
「このままだとお前ごと死ぬぞ!」
「私の脚力を侮るんじゃない!」
ぶつかろうとしていた壁にアリシアは蹴りを放つと壁は簡単に壊れた。
ロープは上の方に引っかかって消え、俺達は内部にもつれて入ってそのまま壁に激突した。
……なんだか……息ができない、なにが起こった?
「そろそろどいてくれ、動けないんだ」
柔らかな感触といい香りで俺がアリシアの胸に顔が埋まっていることに気づいてあわてて飛び跳ねた。
「あっこっ……これはあの……すまん! 本当にわざとじゃ……」
「謝らなくていいさ、別に気にしてない。 それに無事ならそれで良かった」
「あ、ああ……」
階段を上がって周りを見渡すと、なんともいえぬ哀愁というかそんなものがこみ上げてきた。
「……終わったな」
「……ああ……」
「ミュラー! ミュラー……目を覚ましてよ!」
奥で城主の息子がすすり泣いている。
ミュラーが教育係だったことを考えるとおそらく赤子の頃から一緒に過ごしていたのだろう。
「マルク……」
「うぅ……」
「マーク、もしかしたら……」
マークが瞳孔を確認する。
「……だめだな」
やはり奇跡というものはそうそうない、あの老人はもはやいないのだ。
「……? この……薬は」
マークが床に落ちている青い粒のようなものを手に取る。
「ジャック! ジイさんの兜を外してくれ! 生き返るかもしれない」
何かはわからないが、ミュラーが生き返るというのなら指示に従うしかない。
兜を外すと手に取った青い粒をミュラーの口に入れて顎を上げて飲み込ませた。
「間に合ってくれ……頼むぞ……」
しかし待っても何も起こらない……
何も……
「ミュラー……ううっ」
「ミュラーさ――」
「敬語はいらぁん!」
「うわーーーーーっ!?」
急に起き上がって叫んだミュラーに驚いたが……すぐに生き返ったことの喜びが胸の奥から湧いてきた。
「ん? ワシは、何故生きておるんだ……?」
ミュラーはあたりを見渡す。
「黒幕が落とした蘇生薬だよ、運が良かったなジイさん」
蘇生薬!? そ、そんなものがこの世にあるのか、自分は今まで聞いたこともない。
「うぅ……ジェレミー、ワシらは……勝ったのか?」
「ああ……そこの子がやってくれたよ」
どうやら生き返ったが、体調が良いわけではないらしい。
そう話していると大勢が階段を駆け上がる音が聞こえた。
「ミュラーさん! ジェレミー様!」
洗脳が解かれた兵士たちが一斉に集まってきていたのだ。
「ミュラーさん、あいつを……倒してくれたんですね!」
「いや……倒したのはそこの勇者だ」
「勇者!? 勇者ですって!」
場にいた兵士たちが俺に群がってくる……!
寮の時と同じだ。
「はっはー! ついにこの世に勇者が現れるとは!」「勇者様! 感謝します!」「本当にありがとう……」
「ちょっと! 集まりすぎ! 離れて離れて」
マークが群衆を引き離そうとするがなかなか離れようとしない。
「はい! これ見て!」
そう言ってマークは何かを取り出した、人混みで良く見えないが何かの
「このロンダース紋章が見えないか! 王国の上級魔術師の命令だ、とっとと離れろ!」
上級魔術師とロンダース紋章の単語がマークの口から出た時、激しく困惑した。
王国の上級魔術士というものは魔術師の中でもエリート中のエリート、マークが流石にそんな大層な肩書があるわけがないと考えた。
だがロンダース紋章がある、上級魔術士の象徴、権威の証だ。
「マーク……お前どういうことだよ、王国の上級魔術士なんて聞いてないぞ」
「色々理由があってなぁ。 さぁ速くそこのミュラー殿を治療してやってくれ!」
命令された兵士達は迅速に動いた、いくら年下といえど王国の上級魔術士に逆らうことは立場上不可能なのだ。
「さあ、下に降りるぞ。 話はそれからだ、相棒」
相棒、その懐かしい響きは俺の困惑をさらに深めた。