プリヴェーヌ、この生き汚い男は下半身と泣き別れたというのにまだ生き残って森を彷徨っている。
だが、そんな男にも死神はいよいよやってきた。
「ハァ……あの薬のお陰で助かった……はわっ!?」
訪れた長身の細長い死神は黒いフードとローブに身を包み、腕と脚、顔に包帯を隙間なく巻いた、まさに命を奪っていく死神そのものの姿。
それを見たプリヴェーヌはまだ腰から下が残っていたなら失禁していたにちがいない。
「しくじったか……」
「ああ……あぁぁ……」
瞳孔は激しく震え、歯は何度も軽く音を鳴らして震える。
これ以上ないほど純粋に恐怖を感じている証拠である。
「問題ありません……油断せずやっている……そう言ったな」
「は……はい……」
「亡霊を作るための魔瘴石、眷属の飛竜、貴様の命を助けた蘇生薬……全てお前のために投じた」
「す、すみませんっ!」
死神は冷ややかな声で続けた。
「最後は役に立ってもらおう」
「や、やめてください、やめてっ」
プリヴェーヌは腕だけで這って男と逆方向に走り出した。
「逃げるな」
「…………ウアアアアアアアアッッ!!」
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「――で、なんでお前が王国の上級魔術士になってるか教えてもらおうか」
決着からしばらく経ったあと、マークとの食事中に疑問をぶつけることにした。
この時間に至るまでやれ兵士達への説明だの、ミュラーの体調だので全く質問する暇がなかった。
「なぁーにも特別なことはない、シンプルに実力に決まってるだろ」
「こう言うと少しあれだが……俺はお前がこんなに若く上級魔術士になるのはおかしいと思っているんだよな。 上級魔術士、特に王国に仕えるのは10人を程度だ、まだ18のお前がなれるとは思えない」
幼馴染の親友が何故、自分に知らせず上級魔術士という位の高い役職についているのか?
信じたくはないが何か後ろめたいことがあるのではないかと疑ってしまう。
いやまさかコイツに限ってはありえないとは思うが……あまりにもあり得なさすぎるのだ。
「そもそもお前は酒屋の息子じゃないか、何か“コネ”があるとは思えない。 上級魔術士っていうのは生まれも関係するしな」
「だから実力だって言ってるだろ」
「だがそれでも! っ……!」
無言の時間が続いた、流石に気まずさに耐えきれなかったのか、マークが先に口を開く。
「サウナ入る?」
「おーーっ! 立派なサウナだ」
「うむ」
ジェレミーにサウナに入りたいと言うと快く了承してくれた。
しかし問題があるらしい、単純に水がないとのことだ。
そこで……
「えいっ」
マークが水属性の魔法を使って用意することになった。
サウナストーン籠に水をを浴びせるとサウナストーンから湯気があっという間に水蒸気に包まれた
「あちー」
昨日は風呂に入れてないどころか洞窟で一夜を過ごしたから体も清潔にしたかったところだ。
「ほらコレ」
「何だ? それ 始めて見たな」
「ヴィヒタ、白樺の枝葉を束ねたものだ、用途は体を叩いて血行を促進……使ってみるか?」
受け取ると気づくがなんだかいい香りがする、懐かしい自然の香り、故郷を思い出す。
それでは早速……
「フン!」
パァン!
「おー……何か効いてる気がするな」
「力強いな、オレにも頼む」
「いいぞ」
パァン!
「ところで相棒……これから多分今日のことで王城に呼び出されてそのまま勇者になれると思うけど。 そうらくらくいけるもんかなぁ」
「……なにが言いたい?」
「伝統派の貴族共が黙ってないんじゃないか?」
「何?」
思わず振ろうとしていた腕に力が入る。
パァァァァンッ
「あ痛ったぁ!!」
「おっと、すまん」
確かに貴族や王族第一主義の人間は少なくない。
かつて大きな手柄を挙げた兵士が平民の生まれだったためにその功績が認められなかった事例を聞いたことがある。
「俺以外に聖剣を持てるやつはいない、文句はつけられないだろう」
「……そうだといいが。 何か明るい話は」
そういえば昔とある話をしたことがある。
「おい、お前、あれどうなった」
マークはしばらく首を傾げて数秒考えた後
「あ、彼女か?」
「そうだ」
「いや、作ってない。 お前は?」
意外だ、なんというか女遊びしてそうなイメージがちょっと……
俺の方はというと実は一人できたことがある。
「できたよ、一人」
「え? マジで?」
「まぁ故郷の自然に触れてほしくて連れて行ったら
『こんな何もない所に連れてきてなんのつもり!?』
ってこっぴどく振られたけどな
「はー……全く女心がわかってないな」
余計なお世話だ。
いや本当に全く持って。
腹が立ってきた。
なんでお前は出来てないのに偉そうに言えるんだ。
「しかしこうまったり風呂に入ってると、また故郷の川でさっぱり水遊びしたくならねぇか?」
「あー、そうだな」
「……上がったらミュラーのジイさんの様子を観に行くか?」
出た後は上がりにはマークのシャワーと魔法の風風でさっぱりした心地だった。
病室に行くとミュラーはベッドの上に無理矢理作業台を乗っけて鎧の修理をしていた。
どうやら外側に目立った損傷がないことから、内部が傷ついたらしい。
「お邪魔するぜ!」
「おお、お前らか」
「すごい仕掛けですね」
鎧の間からは歯車や見たこともない機械がぎっしり詰まっていた。
それに筒や火薬の入った袋? がアームガードやチェストプレートの部分の鎧に詰められている。
「どうよ、調子は」
「それがな、何故か信じられんくらい良いのだ」
確かに病室に運ばれる前は喋るのも苦しそうなほどガタガタだったのに今は普通に鎧を弄くれるほどに回復している。
「ジイさん、この鎧どこで手に入れたんだ? それとももしかしてジイさんの手作り?」
「……弟が作った、ワシは仕掛けを仕込めても精錬技術はもっておらん」
「へぇ、弟さんが作ったんですか」
マークが鎧を物珍し気に顔を近づけて鎧をみる。
「これ、鉄じゃないな」
「マーボル火山の、アーティカ鋼よ」
「えっ、最高クラスの金属じゃないですか。 どうやって?」
「家が代々鍛冶屋でな、利用して仕入れてやったわ!」
「へぇ」
「……そういえば小僧、貴様は勇者だったな、正確にはまだらしいが。 実はワシは昔先代の勇者に会ったことがある」
「えっ」
貴重な話だ、憧れのあの人の事を深く知れるかもしれない。
「く、詳しい話を!」
「うむ、確かー、あ? うーむ……」
「ジイさん、やっぱりもうボケて……」
「いや! 思い出したぞ、別に忘れていたわけではないが」
危なかった。
ミュラーがもう少しボケていたら永久に聞くことは叶わなかった。
「そう、魔族の砦に行った時だ。 魔族の大将と一騎打ちをしていた」
「そ、それで?」
「凄まじい戦いだった……大地は裂くほどの大将の攻撃、それを聖剣でいなしつつ回避する勇者……そして決着は特にな」
「なにがあったのですか?」
「勇者が体を捻り攻撃を回避して大地に回転斬りを放ち、空に飛び上がって大将の右腕を落としたのだ、そのまま軍勢は撤退よ」
「スゲェな……」
「で、戦いの勝利の祝おうと宴会が開かれてもやつは参加せんかった、部屋でチクチク裁縫をしておったな」
「裁縫?」
「ウム、破れたマントを直していた」
意外な一面があるものだ。
「まぁお前がいないと締まらないと言ったら渋々来てくれたがな。 やつとの絡みはこれだけだ」
貴重な話を聞けた、特に趣味かはわからないが裁縫をしていたなんて今まで知ることができなかった情報だ。
「……そろそろ暗くなって来たな、早めに寝てきたらどうだ、疲れもあるだろう」
「そうさせてもらいますよ」
「じゃあな、ジイさん」
その夜はそのまま用意してもらった上質な布団に入ってぐっすりと寝た。