勇者と聖剣(仮)   作:バク・ハンマー少佐

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part13 帰還

翌日に俺たちはもう砦を立つことになった。

馬と荷車は砦にあるものを使った。

 

「もう行くのか」

 

ミュラーとジェレミー、砦の兵士たちが見送ってくれることになった。

 

「マルク、別れの挨拶をしなさい」

 

「えーと……ありがとうございました!」

 

「うん、そっちも元気で」

 

「ほら乗って! もうそろそろ出発するぞ!」

 

マークが急かす。

せっかくの別れだからもう少しゆっくりして行っても良いと言うのに……

 

「何かあったらワシはいつでも駆けつけるぞ」  

 

「ありがとうございます!」

 

「それと、そろそろ新魔王軍が聖剣を本格的に危険視し始めるだろう、気をつけたほうがいい」

 

「はい、ジェレミーさん」

 

「よし出発だ!」

 

そして馬車は王都を目指して走り始める。

 

「ミュラー殿! お元気で!」

 

兵士たちは俺たちが離れて見えなくなるまで、声援を送ってくれた。

 

「……じゃ相棒、このまま王城に向かうぞ。 昨日手紙で手柄のことを伝えておいたからな」

 

ずいぶん手回しがいい。

インテリの上級魔術士になったからか、事務的な仕事が得意になったのかもしれない。

 

「相棒、勇者になる覚悟はできてるんだよな? 自ら死地に飛び込む覚悟は」

 

「もちろんだ」

 

「……アリシア、別にいいのか? お前も勇者志望だったろ」

 

「いいんだ やっぱり私はジャックのほうが勇者に相応しいと思う」

 

「……なぜだ?」

 

アリシアは立派な人間と思っているし、とても至らぬ所があるとは思えない。

 

「では質問を返すが君は何故勇者を目指したのだ? 簡単にでいい」

 

「世界を平和にしたいから……だな 戦争ってのは嫌なものだからな」

 

多くのものを失った、人も家も場所も思い出も。

あんな思いをするのも、させるのも早く終わらせたい。

 

「昔嫌と言うほど痛感したな」

 

「だからだ、だから君のほうがふさわしい。 私はそんな綺麗な目標ではない」

 

「じゃ、どういう目標なんだ?」

 

「復讐だ、兄を殺した魔族へのな」

 

「「!!」」

 

「そいつの特徴はわかっている、そして前回の戦争時、その死体は見つかっていない。 もしかしたら人知れず野垂れ死んだかもしれんが、私はまだ生きていると思っている」

 

「……」

 

「だがこれは飽くまでも私個人の事だ。 勇者となるならば、私のような復讐の為に戦う人間ではなく君のような人の為に戦う者がふさわしい」

 

「……そう言う事か」

 

「もし君も自分の為に戦う人間だったら、譲る気はなかったがな」

 

「アリシア……」 

 

「なんだ?」

 

「俺は……復讐が悪い事だとは考えていない。 俺だって心の中全てが皆の為ではない……かつて故郷を焼いた魔族への憎しみはある。

だからさ、アリシアは自分で言うような勇者に相応しくない人間ではないと思ってるよ俺は」

 

「…………それでも、君と私では比重がちがう。 やはり勇者は君がなるべきだ」

  

「……おっ、見えてきたんじゃないか?」

 

話している内に王都の輪郭がうっすらと見えてきた。

その輪郭はどんどん鮮明になり、門をくぐって俺たちは王都に帰ってきた。

 

「よしっじゃあ、このまま王城に向かうぞー」

 

そのまま馬車は王城に向かい、アリシアは自分は勇者として立候補したからそのことについての話があると言い、共に王城に入ることになった。

王の間には様々な役職の人トップ達が集まっており、

その中の軍事においての最高権力者。

つまり将軍からついに勇者として認定して貰うことになる。

 

「兵士、ジャック・リアスよ! 此度こゴコウ砦の件 ご苦労である」

 

このとき俺は違和感を覚えた。

以前に訪れた時はあんなに威厳があった様に思えた将軍が、何処か中身がないような……威厳を上っ面に貼り付けただけのように感じた。

 

「はっ」

 

「して勇者認定の件だか――」

 

ついに……本当に勇者に、俺はなる。

と、思っていた俺は次の言葉に驚愕することになる。

 

「あれは、取り消された」

 

「……はっ?」

 

どういう……ことだ……

 

「王国の判断によると、ふさわしい人間は王国の騎士アレク・ランダーという事になった」

 

「は……?」

 

誰なんだ。

 

「ま、待ってくださいませんか! な、なぜそのようなことに」

 

「そうです!」

 

「上層部の判断だ、君たちが知る必要はない」

 

どう考えても知る必要があることだ。

何か隠しているな……!

 

「聖剣を持つことが出来るのは、俺だけです! 聖剣を待てるものが勇者になれるはずでは……!?」

 

「……では聞くが、聖剣を持てれば誰であっても勇者なのか?」

 

「っ……」

 

「たとえ野盗であろうとも? 違うだろう? そういうことだ」

 

何と言う詭弁だ。

今まで聖剣を持てるものを勇者とすると言い続けてきたというのに、約束を反故にし、更には俺を野盗扱いしている。

俺は立派に手柄も立てたし王国に仕える兵士ではないか!

 

「これで話は終わりだ、聖剣をこちらへ渡し、帰り給え」

 

こちらを侮辱しただけではなく、聖剣まで渡せと言うのか……?

聖剣を持てなくとも勇者は決められると喋っていたくせに聖剣はほしいとはどういうことだ!

 

「ぐぅっ……」

 

だが国の決定に逆らうことは出来ない、逆らってしまえば残った勇者になれる可能性すら捨てることに他ならない、ただ言われるがままこの場を離れること以外、選択肢はない。

言われるがまま、去るほかないのだ。

 

そして王城を去った後、どうもマークは何か考えているようで、アリシアに声をかけて何かを話したあと、何処かへ走り去ってしまった。

その後アリシアは俺を慰めてくれたが、その時の俺には言葉を返す気力がなかった。

結局俺はそのまま、寮で布団に入って眠り込んでしまった。

 

 

 

 

その翌日、朝から扉を叩いてマークが俺を起こしに来た。

勇者の権利を剥奪された事をまだ引きずっていたので非常に目覚めが悪い。

 

「……なんだよ、早朝から」

 

「おいっ、耳を近づけろ」

 

その唐突な言葉に驚くが、マークのことなのだからと、すぐに俺は耳を近づけて言葉を聞いた。

 

「昨日の事について夜通し情報収集して、さっきやっと整理し終わった。 それで噂によると将軍が最近夜な夜な何処かへ通い詰めているらしくてな」

 

「……? 愛人でもできたか?」

 

「いやそれは考えにくい、将軍は城では愛妻家で有名なんだ。 オレも妻といる所を見たことがあるが、こっちまで恥ずかしくなる具合だったよ」

 

す、素敵な夫婦だな……

 

「それに将軍は王都を出るまであんな調子じゃなかった。 寧ろ聖剣を持つ勇者が見つかったのを喜んでいたよ」

 

どうやら話が変な方向に転がってきた。

 

「ほう……?」

 

「でだ。 噂で聞いた所将軍が夜に何処かへ行き始めたのと、調子がおかしくなった日がな……かぶるんだよ」

 

つまり……

 

「何かある?」

 

「そういうこと」

 

何かきな臭くなってきたぞ……

 

「というわけで夜に将軍をつけて行くぞ」

 

「わかった」

 

「将軍の出歩く深夜の時間……大体11時くらいに出かけるから準備しておいてくれ。 俺は……徹夜したから……寝てくる 

ファァ……眠い眠い。 あとアリシアにもこのことは伝えておく、何かあった時のためにな」

 

「わかった」

 

日が沈み、約束通り夜の11時ごろ、マークがアリシアを荷車に乗せて連れてきた。

マークは哲也の疲れが取れていないのか、まだ眠そうな具合だった。

 

「では、ジャック・リアス 行こうか」

 

「ああ。」

 

「よし……将軍の目撃情報は大体12時前後、移動する道も把握してる。 行くぞ」

 

移動中、俺はふと気になった事を聞いてみる事にした。

 

「そういえば将軍の言ったアレク・ランダーってのはどんな人なんだ?」

 

「至って平凡の――いや、寧ろ何も無さ過ぎて落ち目だな。 

実力、人望、実績 どれを取っても特別見ることの無い男さ。 明らかに聖剣を使える相棒やアリシアのり優先されるべき人間じゃない……なのに何故か推薦された」

 

「将軍の変化といい、意味不明な人選と言い……やはり怪しいな」

 

「……よし、そろそろ降りろ。 荷車では気づかれる。 脇道に入ってくれ、確かこの大通りを通っているはずだ」

 

暗闇でしばらく待つと、何者かの足音が聞こえてきた。

音のする方角を目を凝らしてみると、意匠の凝った彫刻(エングレーブ)が掘られた鎧に全身を包んだ男が見えてきた……

確かに将軍だ。

手には籠を持っている。

 

声を出すわけにはいかないため、目と口の動き、手の動きで二人と意思疎通を図る。

“会議”の結果、歩いて尾行することに決まった。

将軍はかなり長い距離を歩き、どんどん街の中央から離れていく

 

そして移動した先は王都の外郭にある、人の気配がまるでしない棄てられた建物。

扉の上にある看板を見るにかつては宿屋だったのだろうか。

 

将軍はその中へ入っていく。

自分達も中へ入ろうとした時。 

床が木張りで音が出てしまうと懸念したが、マークが将軍が歩くのと同時に移動する手本を見せてくれた。

 

将軍は何もない壁の前で立ち止まり、指を突き立てる。

すると薄い何かが剥がれ、壁に扉が出現した。

おそらくは魔術の一種と考えられるが、何故将軍が魔術を使っているだろうか?

 

将軍が出現した扉に入ったあと、俺達も扉へ近づいて聞き耳を立てた。

 

「今日の、食事だ」

 

「……」

 

誰かが何かを食べている音が聞こえる。

 

「では、また明日来る」

 

すると部屋から出ようと音が聞こえたため、マークが突撃のハンドサインを出した。

即、行動だ。 

 

「何だっ!」

 

「……!」

 

「将軍! 動かないでもらいま……え?」

 

2人いる、何故か将軍が、2人。

立っている将軍とイスの上に縛り付けられている将軍。

認識したその瞬間、立っている方が此方の喉元めがけて飛び込んできた。

 

「ぬん!」

 

「おぶっ」

 

突然の事で反射的に顔をぶん殴ってしまったが、この行動は正解だったようだ。

殴られた将軍は仰け反った後、俺を押して出口へと走っていく。

 

「相棒、あの将軍は偽モンだ!」

 

「何っ」

 

ならば逃がしてなるものかっ。

しかしもう出口近くまで行っている。

そこで地面に転がっていた木材を拾って、将軍目掛けて投げる。

 

「あがっ」

 

頭に木材が当たった偽将軍はうつ伏せになって倒れた。

 

「今だ! 生け捕りにしろよ! 聞く事がある!」

 

「誰なんだお前は!」

 

偽将軍は体を起こすと前蹴りで抵抗した。

それを横に回避し、脚を掴んで横に振り、壁に叩きつける。

ふらついた所で3発ほどパンチを鎧で守られていない顔の中央にお見舞いだ。

 

後ろに回り込んで羽交い締めにすると、もがいて必死に抵抗してきたが。

マークとアリシアも近づいて来るのを見て、流石に逃げられないと悟ったのか抵抗をやめた。

  

「うぅ……畜生ォ」

 

「私は部屋の方の将軍様をみて来よう」

 

「わかった……でマーク、こいつは一体?」

 

「見てろ」

 

マークが杖をかざし、呪文を唱えるとみるみる内に姿が魔族に変化していく。

 

「前に俺も使った魔術の変化だな」

 

「なるほど……」

 

偽物はマークが魔術で捕縛し、俺達は将軍本人の下へと向かう。

 

「糞ォ……外せェ!」

 

「将軍、大事ないですか」

 

「うぅむ……大丈夫だ」

 

縛り付けられていた将軍の方へ行くとマークが何かに気付いたようだ。

 

「ほー……なるほどなるほど。 そういうことか」

 

「ん? どういうことだ」

 

「いや、何故将軍が生きたままかと思ってよ。 なるほど、お前将軍に化けるために生かしておいたのなぁ」

 

「ぐぅ……」

 

「将軍に化けるために生かしておくとはどういうことだ?」

 

「こいつが使ったのは変化じゃない、変身だ。 コイツは将軍の普段の行動や言動のマネまではできなかったんだよ」

 

「ううっ」

 

「変身は変化のような上っ面を変えるんじゃない。 体の構造から模倣し、声帯や思考まで似せることができる。

あまりの性能に、模倣元に意識が乗っ取られることがあるほどだ」

 

「ほーう、魔術というのは面白い物だな」

 

「で、もちろん使用条件も難しい、変身する対象にもよるがな。 魔族と人間なら1日ごとに更新する必要があるって所だろう、生きている奴に触れてな」

 

「だから毎日ここへ来ていた……!」

 

「クッ……当たってるよォ」

 

魔族の喉元へマークが短剣を突きつける。

 

「――何故将軍に化けた? 答えろ」

 

普段なら決して見せない調子だ。

魔術師らしい、冷静……それすら通り越して冷徹で残酷な雰囲気すら醸し出している。

 

「さ、さぁね グッ」

 

躊躇いなく剣先を首に少し刺した。

 

「わ、わかったァ。 言うよォ!」

 

ただの脅しでは無いと察したのか、大人しく吐く気になったようだ。

それにしても本当に刺すとは、実は思っていなかった。

 

「せ……戦争を……終わらせるためだ」

 

「……なに?」

 

今度は刃を首元に当てた。

 

「俺は……反戦派の1人なんだよ……」

 

「魔族に反戦派だと……?」

 

今まで存在は確認出来なかったが同じ高度な知能を持っている生物同士、戦争に反対する派閥はいるものか。

 

「俺達の中には……戦争を望まないやつも多い……大抵は過去の戦争で恨みがない若い奴らだが」

 

「ほう」

 

「将軍と成り代わって和解を望めば……魔王軍内部の反戦派の発言力は強まる、相手も和解を望んでいるということだからなァ」

 

「なるほどな」

 

「それに……軍事を操作すれば戦争を積極的に肯定している魔族を優先的に潰すことができる……」

 

「何故戦争に反対する?」

 

「……もう、戦争は嫌だァ。 ジジィ共は復讐だの言いやがるが、俺達にとってはどうでもいい。

だが地上も欲しい、あんな美しい景色と色は初めて見た……

だからお互いに停戦させたいんだァ」

 

「……なるほどな、事情はわかった……では死んでもらおう」

 

「!?」

 

えっ。

聞き間違いか?

 

「重要人物の誘拐、処刑理由には十分だ。 第一魔族を逃がすわけにはいかん」

 

「は、話がちがう!」

 

「最初から解放するとは一言も言っていない」

 

「ま、待て! マーク!」

 

「……なんだよ……相棒」

 

確かにやった罪は重い。 

しかし……

 

「で、でも戦争には反対してるってことはよ、味方とも見れるんじゃないか? 殺すことは無いだろう」

 

「相棒、流石にそれはない。 こいつ等は飽くまで自分達の為に戦争を反対してるんだ」

 

「それに将軍にも別状はなさそうだ……」

 

「それでも拉致をしたことには変わりない」

 

「くっ……頼むよ、目の前で人が尋問して殺されるなんて見たくはない」

 

戦場でお互いに命を賭けて戦い、そして殺す事ならば覚悟は出来ている。

しかし……無抵抗な者を殺すというのは……あまり見たいものでは無い。

 

「我儘を言っているのはわかって――」

 

「しょうがねぇな」

 

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