「よし……相棒、心の準備は?」
「あ、ああ問題ない」
「ようし、入城するぜ」
3度目の入城。
だが、今までとは違う、今度こそは本当の本当に勇者に成る。
王の間は2度目と同じように、重要人物が集っており、将軍がその中心にいた。
「ジャック・リアスよ!」
今度の将軍は、確かに芯の通った、威厳のある声だ。
「はっ」
「此度の王国の失態、まずはそれを詫びよう。 済まなかった」
「……」
「いいか、勇者たる者としてどのような苦難辛苦にも大木のように決して折れぬ意志を持ち、悪を断つ勇者として恥じぬ行いをせよ!!」
「はっ!!」
「今後貴殿は自らの意思で敵を討ち、戦う。 その覚悟はあるか!」
「もちろんです!」
「死を恐れず、大敵に怯えぬ。 太平を望み、戦乱を憎む。 その想い、心中にしかとあるか!」
「はい!」
「では王国として最初で最後の命令を貴殿に授ける! 遥か北の山脈、“バレーク山”、その聖水の泉にて剣を清め、真なる力を求めよ!」
「はい!」
しばらく拍手が続く。
「では貴殿を勇者に任命する! 今ここに新たな勇者ジャック・リアスが産まれたのだ! では、行くが良い」
「はっ!」
そして王城を去った……
どうも実感がわかない、勇者になった実感が。
「おい相棒!」
「うおっ……ど、どうした?」
「将軍はバレーク山に行けと言ってたよな」
「あぁ」
「ありゃかなりマズイぞ。 バレーク山は今、略奪王の縄張りだ」
聞いたことがない名だが……なんという厳つい響き。
おそらくまともな者ではないことが簡単に解る。
「略奪王? 誰だそれは」
「まぁ、知らないか。 かつて……いや、今も非道と破壊の限りを尽くす怪物。それが略奪王オルヴァだ」
「……具体的にどんなことをしたのか教えてくれよ」
「ああー、金品を奪うために30を超える村や街を燃やしたり、
な、なんというめちゃくちゃな人間だ。
今まで知らなかったのが不思議だ、と考えたがその理由はマークが解説してくれた。
「余りにやり口が悲惨なものだからな。 生き残りなどいないから噂なんてものはできない。 生き残った人間も恐ろしくて語ろうとしない」
「そんなにか?」
「ああ、殺されたものは皆バラバラ死体さ。 しかも、それを全て素手で行っているらしい」
素手……による解体!
本当に人間か疑わしい剛力と人間性、まるで魔獣だ。
「お、王国は動かなかったのか?」
「動いたさ、何度もな。 しかし送られた兵士たちはひとり残らず全滅よ」
化け物か……
「過去に何回も縄張りを変えて各地を放浪しているらしいが、運が悪ぃな」
「うむ……そういえばバレーク山の聖水の泉の事だが、あれって聖剣を清める為のものだったのか? 飲料用じゃなくて?」
「ああ、そうだ。 それに飲料用は源泉の水じゃない、バレーク川の下流にに流れたものを使ってんだ。 源泉は聖剣の為にある」
「……毎日飲めば病気知らずと有名なバレーク山の聖水。 い、泉に行ったらちょっと飲んでみるか?」
「いいねぇ相棒。 遊び心は大事だ。 出発前に城下街で買い物と行こう」
そうしてやってきた城下街の市場。
この国一番のにぎわいを見せ、あらゆる地域の生産物がここに集結する。
米も魚も肉も、衣類も剣も鎧も、宝石も。
「相棒! 鎧を新調しろよ、ボロボロだったぜ」
「あぁー。 あっ、そういえば勇者の為の鎧とかないのか?」
「ないなー。 勇者自身が決める方針になってる。 下手に凝ったものを作っても、実戦ではもっと役に立つものがあるかもしれないしな」
少し、さみしいが、勇者の鎧に縛られて乗り換える事がないのはいいことだ。
防具屋へ足を運んだが、どうにも決められない。
「マーク、見てみろコレを。 なかなか面白いデザインだ」
イボイボが付いた丸っこい兜だ、説明によると南部の地方のものらしい。
「確かに笑えるが、機能性を重視した実戦向きだ。 丸っこい形と段差が衝撃を逃がすようにできてる」
「……じゃ、これにしようかな?」
「おいおい、いくら実戦向きとはいえ流石に示しがつかねぇよ」
「そうだな。 ははは……」
「相棒には、これとかどうだ? マーボル火山地帯で作られた兜」
マーボル火山……確かミュラーもその地方の出身だった。
あの地帯は豊富に鉄や鉱石が採れる、さらに溶岩を利用した製鉄加工技術も進んでいる。
鍛冶師世界中にいれど、ほとんどみな素材はマーボル火山のものを使う。
「すこし、派手すぎやしないか?」
「そうかあ? 勇者ならそのくらいが丁度いいんじゃあないか? しかも顔の見えるハーフヘルム、勇者様のご尊顔を十分に見せつけられるぜ」
「ご尊顔って、お前なぁ」
「顔が見えるってのは大事だぜ? 勇者様の顔もわからないんじゃ、民衆が不安だろ」
そう言われれば、一理ある。
「ひとまずは、それにするか」
次に胴鎧と脚甲、そして籠手を選ぶ。
目についたのは店の端、高い台に飾られた碧と紅のサーコートが付いた鎧。
なんとも色の対比美しい鎧だ。
「あれ、あれがいい。店長、これを売ってくれ」
すると店長の親父は渋い顔をして答えた。
「お客さん、こいつぁやめたほうがええ。“いわくつき”や」
「いわくつき?」
「えぇー……コイツ成金がどうしても金を浪費したくって、世界で一番の鍛冶屋に作らせた代物での」
それなら、性能は問題ないどころか、最高クラスか。
「でも、鎧の届いた3日後、その成金本人も家も燃えてしもた。 けれどその鎧は奇跡的に残っておったんや」
「確かに、いわくつきか」
確かに言われれば呪いの気配なのか、粘つく冷たい感覚が鎧から感じられる。
購入するか迷ったその時、背中に背負っていた聖剣が光を放ち始めた。
「こ……これはまさか」
「な、なんでえ?」
…そして光が収まると、鎧にあった呪いの気配は消えていた。
聖剣が、浄化してくれたということなのか。
「店長、買わせてくれ」
「え、でも」
「いいんだ、売ってくれ。値段は?」
「もうタダでええよ。押し付けられたもんやし。こんな不吉なもんそばに置いときたくないわ」
買い終わって、マークが見つからないと思っているとどうやら向かいの雑貨屋で傷薬等を購入していたらしい。 買い物カゴの中にはトカゲの干物やタランチュラの頭などが入っていた。
ポーションの錬成にでも使うのであろう。
「ようし、出発するかあ」
「ああ」
荷車は動き始める。
向かうはバレーク山、聖水の泉。
「相棒。もしかしたら、魔王軍の軍団が聖剣の力を引き出すのを阻止するために待ち構えてるかもしれねぇな」
「もしそうなったら厳しくなりそうだな。魔王軍の舞台の規模や構造はわかってるのか? あらかじめ内容を知りたい」
「ああ、各軍団長が兵士を率いる体制になってるらしい。人数はかなり差があって3万をこえる大部隊から一騎駆の部隊までな」
聞いた所によると、規律はかなり緩いらしい。
人も軍団長が最適と判断する人数と人選になるので、理にはかなっている。
「さらに最近、魔王軍から一夜落とし、
「たった一夜、たった一人で城を落としたという、あの伝説のか」
「勇者じゃ軍事的な権力がないのが辛いな相棒」
「ああ」
「心配か?」
「もちろん。だが負けるつもりはない、何が出てこようとどれだけ出てこようと勝利してみせる」
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「ほ、本当だろうな!? 食料を渡せば村人に手は出さないと」
村にて二人が話し合っている。
一人は村長らしき老人。
「もちろんだ。約束を裏切るなんてこと俺は絶対にしない。俺の後ろのコイツらにも、何もしないように言い聞かせておこう。
俺達は簡易テントに宿泊するし、相応の対価も用意してある」
もう一人は青肌の若い魔族。
50人ほどの兵士が後ろに控えている。
「わ、わかった投降する」
「流石はじいさん……賢い判断だ。尊敬するよ俺」
そんなやり取りを家の陰からひっそりと見る若者が一人いた。
手には短刀を携えており、隙を伺っている。
「じゃ、家と宿屋を数軒ほど――」
「お前らに俺達の村を奪われてたまるかぁっ!!」
「ん?」
若者は家の陰から離れ、青肌へ一直線に走る。
離れて控えている魔族の兵士たちも反応が遅れ、取り押さえる前に短刀が届く距離に若者は辿り着く。
脇腹へと短刀を突き刺す前に、青肌の広げた掌が右肩に触っていた。
「ワシの息子なんだ! 殺さないでくれぇっ!」
刹那若者は光に包まれる、そして腰から崩れるように倒れ、その肌は僅かに燻っていた。
「デビット!!」
「安心しろ、気絶しただけだ。じゃあ家をいくつか借りていくぞ」
「デビット、大丈夫か! デビット!」
「……いい息子さんだ」
「え?」
「村の為に勇気を出した、立派な男だ……だから殺さずにおいた」
そう言って魔族達は宿屋へ入っていった。
「アルヴィーニョ様! 将軍様より特別指令が届きました!」
「ほお? 読み上げろ」
「『バレーク山にて、オロン軍と合流し勇者を迎え討ち』……」
「ほう、勇者か! はぁ、楽しみだな。それに味方があの一夜落としのオロンとは」
「『山中にある泉を死守せよ』とのこと」
「防衛戦か……兵士を集めろ! 半分ほど連れて行く。 小隊の数は?」
「100ほど」
「そうか……では向かおう。勇者であれ守り抜いてみせる、名誉ある
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「オロン軍団長、キャンプの準備が完了いたしました」
「ウム、後はここで勇者とアルヴィーニョの待つのみ」
オロンはパイプを蒸して待っていた。
「魔獣の群れだあっ」
「ん?」
見た先には5mほどの熊の群れが山を下って降りて来ていた。
木々をなぎ倒し岩を砕き、そのままキャンプに突撃する。
「全く……」
「オロン様! あぶない!」
熊の群れの進行方向はまさにオロンが座っている場所である。
熊はその発達した前腕でオロンの頭を破壊しようと立ち上がり振りかぶった。
「騒がしいじゃないか」
勢いよく鞘から抜かれた剣は、熊を縦に断ち切る。
刃には血一つ付着していない。
「死にたい者から前に出ろ」
その光景を目撃した熊は恐れず……いや恐怖からオロンに狙いを定め襲いかかる。
「忠告したのにな」
雪崩込んだ熊がオロンを包み、団子状になった次の瞬間。
団子は細切れになり、肉片と血まみれの軍団長のみが残った。
「大丈夫ですか! オロンさま」
「問題ない、それより」
「なんですか?」
「この熊だ。なぜ俺達に襲いかかってきた? ここは聖水の力で肥沃な土地……食うものには困らんはず」
「……さぁ?」
(いや、何よりも変なのは熊の様子だ……まるで何かから、逃げていたような)
「おいおいおい、何だお前らは?」
悪寒――
首に絡みつき、絞め殺す蛇のような感覚を、
「メシを追いかけてたら、魔族共のキャンプとはな」
「軍団長」
「後ろに下がれお前達っ」
「丁度いい、コレクションがまた増えるな。じゃあ、死んでもらうか」
魔王軍 オロン軍 生存者数 0