勇者と聖剣(仮)   作:バク・ハンマー少佐

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part16 電光と怪物

「そろそろ麓につくんじゃないか?」

 

「そうだな」

 

「それにしても、大きいなバレーク山」

 

北の大地で雄大にそびえ立つバレーク山、流れる美しい川。

自然を感じる、いい眺めだ。

 

「おい、見ろよ相棒。デケェ兎だ」

 

「本当だ、俺の腰くらいまであるな」

 

「ここらへんの動物は川で薄まった聖水を飲んでるから、あんなにデカい」

 

「聖水ってのはすごいな」

 

「ん? 何か集まりが――」

 

 

 

「どういう事だ? 何故全滅しているんだ。もしや既に勇者が?」

 

 

 

「魔族か!」

 

青肌の軍団長らしき魔族と、二十人程度の魔族兵士が血まみれのキャンプ跡に立っていた。

荷車から降りて近づくとこちらに気づき、歩み寄ってきた。

 

「その聖剣、勇者か」

 

「そうだ。貴様ら、あのキャンプ地はどういう事だ? 一体何をした?」

 

「俺達が聞きたいくらいだ。ここにいた我が軍が殺されてる」

 

「殺されているだと? 魔族がか」

 

「そうだ、だが今はそんなことどうでもいい」

 

青肌の魔族は関節を鳴らし、さらに近づいてくる。

かなりの威圧感、そして雰囲気から只者ではないことを感じさせる。

 

「目前に勇者がいるなら、俺はお前を殺さねばならない」

 

「そうか」

 

青肌の魔族は鎧から投げナイフを取り出す。

それは柄が長く、金属になっている珍しいものだった。

 

「いいか一騎打ちだ、邪魔は入らない」

 

「ほう」

 

「この俺、アルヴィーニョ・シルヴァは名誉ある電撃(ライトニング)の名にかけて、負ける気はない」

 

アルヴィーニョ、それがこの魔族の名か。

ライトニングというのは二つ名だろう。

 

「おい相棒。いいのか? 罠かもしれないぜ」

 

「一騎打ちは挑まれた以上受けるのが規律だ。勇者として守らねばならない」

 

「だが」

 

「だからさもしも、アイツラが卑怯な手を使ってきたら、思いっきり魔法でぶっ飛ばしてくれ!」

 

「……わかったよ!」

 

「話は終わったか? 行くぞ!」

 

アルヴィーニョが踏み込んでくるのに合わせ、こちらも踏み込んで近づく。

ナイフを投げて来たため左に回避、ナイフは先にあった木に突き刺さる。

 

「聞いているぞ、聖剣の力。あのドゥランの斧を容易く切断したと、だから決して受けない」

 

横に振った聖剣に対してアルヴィーニョはしゃがんで回避、そして足払いを放つ。

これを踏み止めて斬りかかるが、体と脚を回転させて拘束を解除された。

そのまま立ち上がったアルヴィーニョは裏拳を打ち出してくる。

 

さっと左手に聖剣を持って止めるが。

 

「がわっ!?」

 

全身が硬直し、焼け付く痛みが全身に走る。

痺れたのだ。

 

「何故俺が電撃(ライトニング)と呼ばれているか理解しただろう」

 

アルヴィーニョさは小さな武器を取り出した。

鎧貫き(メイル・ブレイカー)、名の通り鎧を貫く為の武器。

まだ痺れが残る俺の脇腹目掛けて、それを打ち込んでくる。

 

「!! 貫通(ささ)らない」

 

品質の良い鎧を買ったおかげか、少しへこむのみで貫通はされなかった。

痺れがなくなった俺は剣を振る隙は無いと判断し、右腕で頬を殴りつける。

 

「くうっ」

 

よろめきながら、アルヴィーニョは指を立てた。

立てた人差し指を、何かを手繰り寄せるように曲げた次の瞬間。

 

「あぐっ」

 

先ほど感じた痺れが再び、体を焼いた。

アルヴィーニョは、触れたものに雷を流すのではないのか?

弾ける視界の中で、その原因がわかった。

それは先ほど投げたナイフ、そのナイフとアルヴィーニョを繋ぐ線の間に、俺がいたのだ。

 

――話を聞いたことがある。

戦場で高い旗に雷が落ちる話、高く突き上げた剣に雷が落ちる話。

ではあの柄の長いナイフは、まさにその旗や剣の役割ではないか?

あのナイフに雷が向かい、その通り道にいた俺が感電したのでは?

 

理解するも、動けない、脳は働いても体は痺れたままなのだから。

 

「終わりだ」

 

今度は隙だらけの俺の喉に鎧貫きが迫る。

 

(頼む! 動いてくれ俺の体よ!)

 

思いが届いた。

体は反応し、鎧貫きを掴んで奪い取る。

 

「馬鹿な!?」

 

アルヴィーニョは俺が鎧貫きを掴んだことで驚愕の声をあげる。

 

「うおおおおお!!」

 

驚いている内に顔面に向かって拳を放つ。

 

「くうっ」

 

アルヴィーニョは受け身を取って距離を離し、すぐに立て直したが鎧貫きは俺の手元に残った。

また仕切り直しだ。

 

「では、そろそろ出力を上げていくぞ」

 

空気がピリつき、アルヴィーニョが青い雷光を纏っていく。

 

「これは耐えられるかな?」

 

アルヴィーニョの全身に薄く青い亀裂のような物が走る。

 

「やってやるよ」

 

アルヴィーニョは両手に八本ナイフを構え、低く投げてくる。

だが悉く俺の横にそれて外れていった。

最初から俺に当てる気がないのだ、となると狙いは雷しかない。

 

「喰らえ!」

   

アルヴィーニョは地面を強く踏みつける、それが攻撃の合図ということは誰の目にも明らかだ。

地面に電気が走る前に、跳んでヤツの蟀谷(こめかみ)に空中で蹴りを放つ。

 

「ぐおっ」

 

自ら吹っ飛んで衝撃を軽減されたか。

だが体勢は崩したようだ、利はこちらにある。

 

「来るか!」

 

アルヴィーニョが投げナイフを三つ、俺の頭に向けて投げた、だがこんな物中心の一つさえ横に避けてしまえば――

 

 

 

いや違う!

頭を下げろ!

 

「チッ」

 

今、しゃがんでいなければ食らっていた。

本命は中心ではなく両端の二つだ。

奴が雷を通せるのは本体とナイフの間だけではない、ナイフとナイフの間にも通す事ができるのか。

 

「よく気づいたな。だいたいは皆、食らった後気づくんだが……なっ!」

 

また投げナイフ!

一体どれだけの量を携帯しているんだ?

しかしまた同じ攻撃なのか、それはありえない、先程から手を変えてきたこの男が同じ攻撃をするわけがない。

絶対に何かを狙っている、警戒だ。

雷を通せそうなナイフは見当たらない、今までの行動から一度通したナイフは再利用できない事も分かっている。

 

 

 

投げられたそれを避け、風を切る音が遠のいた後再び近づくのを感じた。

後ろを振り向くと投げられたナイフがアルヴィーニョに向けて戻っている。

奴は雷で物を引き寄せることすらできるのか、だがそれを避けるのは簡単だった。

そしてそれが奴の手元に戻る前に、新たなナイフは投げられていた。

 

「くっ」

 

そしてまた新しいナイフが投げられる。

次々と、投げられたナイフは外れても弾いても奴へ戻る、ナイフは段々と量が増え苛烈になっていく。

 

「気づいたか?」

 

アルヴィーニョさかなりの速度で後退し、距離は離されている。

ナイフはもはや8本ほどになって、依然増え続けておりこれを全て捌きながら近づくのは至難の業だ。

投げたナイフを手元に引き寄せ再び投げるアルヴィーニョの姿はさながら、ジャグリングを行う曲芸師だ。

 

ただナイフを投げているのなら、被弾覚悟で無理矢理近づけばよいのだが、間違いなく雷を通してくる。

一度痺れてしまえば次々と被弾し何度も雷を流される、流石に連続で食らえば命はないだろう。

 

「もう終わりか!?」

 

「まだだ!!」

 

まず前にローリング!

ナイフが仮に刺さっても瞬時に回転で地面に奪われる。

雷が流されることはない。

だが、限界はある。

自分の後ろの地面に刺さったナイフ、剥がしたナイフに雷を地面から流してくるだろう。

 

「はあっ」

 

その前に空中に跳ぶ。

このまま奴に聖剣を食らわせてやる。

 

「同じ手が、俺に通じると思うかっ!」

 

投げナイフを直接俺に向けて投げてくる。

 

「空中なら回避できないと思ってたか!?」

 

体を捻って回転、横向きに聖剣を地面に叩きつける。

これで粗方横には回避できた、だが――

 

「思ってるよ」

 

狙いすましたナイフの一投が、俺の脇腹に突き刺さっていた。

 

「実際()()だしな」

 

これでは雷を流されてしまう……が俺には秘策がある、これならどうだっ。

俺は鎧抜きをアルヴィーニョに向けて投げる、ナイフとアルヴィーニョを繋ぐ見えない線に沿うように。

すると雷は俺の体に流れず、鎧貫きは青い光を纏いながらアルヴィーニョに向かう。

 

「なっ、電気が吸われっ――ぐわっ!」

 

雷を纏った鎧貫きはアルヴィーニョの手に当たる。

隙ができた、そして俺は既に間合いに入っている。

射程圏内だ、確実に当たるように聖剣を振るがアルヴィーニョはまさに雷の如き速度で回避する。

 

「こうなったら脳味噌に直接流し込んでやる!!」

 

頭を掴もうと腕を伸ばしてくる、そうはいかない。

兜と頭を繋ぐ顎にあるベルトを噛み切る、革製なので可能だ。

そして頭を振って兜と頭の間に空間を作り、一気に頭を下に引く。

こうなると装着が外れ、兜だけが空中に残る。

だが他人には一瞬の間装着しているように見えるのだ。

 

「なっ!?」

 

目論見通り、アルヴィーニョは兜を掴んで雷を流した。

だがもうそれは俺に繋がっていないのだ。

 

「この!」  

 

今度は手刀を繰り出して来る、これは腕を聖剣で抑えつつ滑らせて脇腹に斬りかかるっ!

 

「ガハッ」

 

聖剣がアルヴィーニョの脇腹を抉る。

そしてアルヴィーニョは追撃させまいと雷を纏った脚を繰り出してきた。

聖剣を振り切って隙ができたのもあって、避けることはできず、ガードするしかなかった。

雷を纏っていては動かないよう踏ん張ることもできず、距離を離されてしまう。

 

「ぐああっ!」

 

アルヴィーニョは激しく出血した患部を抑えて苦しんでいる。

と、思った次の瞬間、アルヴィーニョの手から青い雷光が放たれる。

 

「くっううっ」

 

出血は完全に止まっていた。

ま、まさか患部を雷で焼いて塞いだのか。

 

「ハァ……楽しい、こんな戦いは久しぶりだ。では、さらに出力を、上げよう。はあっ」

 

アルヴィーニョは直剣を取り出し雷をまとわせ、さらに刃を飛び出し雷自体が巨大な刃となる、それは魔術師の使う“魔術の大剣”に酷似していた。

規模は比べ物にならないほど大きいが。

 

「臆したか?」

 

「いいや、全くだね」

 

「そうか。これは俺の家系に伝わる奥義の一つ、“電光の剣”だ。まぁ直系なら皆習得する技でな」

 

「で?」

 

「お前は俺の家系より強いのか? 試させてもらおう」

 

雷の剣を縦斬りとして繰り出して来る。

縦斬りにもかかわらず圧倒的な範囲攻撃だ、右に回避するが後ろにあった木は一瞬で黒焦げた墨になった。

雷の剣は一瞬で横切りの薙ぎ払いに移行した、それもそうか。

本体はあの小さな直剣一つ、重量は変わらない、攻撃速度は遅くならないのだ。

故に避けられない――!

 

「相棒ォーーーッ!!」

 

「なにっ!?」

 

避けられなかった、確かにそうだ。

だから信じたんだ聖剣の力を。

この聖剣ならば奇跡を起こしてくれるかもしれない、窮地から救ってくれるかもしれないと思ったんだ。

結果聖剣は雷を弾き、いや曲げたと言うのが正しいのだろうか、その剣先が雷の剣先と触れる瞬間。

雷は聖剣を避けたのだ。

 

「俺の血の“電光の剣”がっ、いやそんなハズは」

 

アルヴィーニョが剣を振るのに合わせてこちらは聖剣を合わせる。

雷の剣は当たらない。

 

「こんな事がっ、あってはダメだ! 避けられもせず曲げられるなんて!」

 

徐々に距離は詰まって行く。

アルヴィーニョの顔には完全に焦りが滲み出ていた。

 

「これが聖剣なのか?」

 

アルヴィーニョ投げナイフに雷を纏わせた、それは本当の雷のような姿でこちらに迫ってくる。

だが、聖剣を構えると簡単に逸れていった。

 

「俺は、俺は電光(ライトニング)なんだぞ。ここで負ければ家系の名がっ」

 

もう数歩で間合いに届く、何度もタイミングを合わせ雷を逸らすのは辛いが。

いよいよ決着の時が近づいてきたのかもしれない。

 

「くっ、こうなったら最大出――」

 

「おいおい? お前達ここでなにをしてる」

 

山から降りてきたであろうその大男を見た瞬間、反射的に体が飛び退いた。

こいつか、こいつが略奪王か。

なんの説明も無くとも、この大男が誰だか一瞬で理解した。

俺の二倍はある身長、圧倒的暴のオーラ、身が竦むような恐ろしい雰囲気。

アルヴィーニョは完全に俺への警戒を解き、略奪王へと集中していた。

 

「るああああっ」

 

「マーク!?」

 

マークが略奪王に向かい、杖から巨大な魔法の剣を発生させ飛びかかる。

剣は三人分ほどの大きなもので、見たことがないものだった。

が。

 

「フンッ」

 

略奪王が腕で払い除けただけで魔法の剣は破壊された。

マークの魔術に何か至らぬ所があったとは到底思えない、それどころかあれはかなり上位の魔術のハズ。

 

「退け! 魔術師!」

 

アルヴィーニョが雷光を纏った金属の投げ槍(ジャベリン)を構えて、略奪王へ放つ。

が、しかし。

 

「ンー?」

 

されども刺さらず、痺れず。

効いていない。

 

「お前達良いもの持ってるなぁ、鎧に剣」

 

略奪王は、“不吉な”笑みを浮かべる。

その場の全員にこれから起きることが決して良いことではないと予感させた。

 

「全部もらっちまおうか……………………殺して」

 

や、やはり皆殺しにする気だ。

会う前まではまだ勝てるつもりでいた、そう腹をくくっていた。

だがここまでとは!

 

「おおおおおおっ!!」

 

アルヴィーニョの体に深い亀裂が走る。

マークも完全に戦闘態勢だ、無論俺も。

 

「はあっ」

  

略奪王は高く跳躍し地面に組んだ拳をアルヴィーニョ打ちつける。

回避された拳はそのまま地面に衝突し、大地が大きくへこみ窪む。

 

「コイツはどうだっ」

 

マークの溜めた魔力は、巨大な光線となり略奪王を襲う。

 

「ぬうううっ」

 

しかし略奪王は片手で食い止め、徐々に距離を詰めてくる。

 

「相棒っ!」

 

「ああ!」

 

例え同じ人間だろうと、この男は数え切れないほどの人間を殺している。

そんな者を討つのも勇者の責務であろう!

 

「くらえっ」

 

光線で視界が覆われている略奪王の腰に聖剣で突くが、全く効いている様子がない。

手応えはまるで、巨大な鉄塊のようだ。

 

「略奪王、なんて奴だ」

 

「なにっ」

 

アルヴィーニョが言葉に反応する。

 

「やはり、略奪王なのか」

 

 

 

 




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