怒涛の畳み掛けだったが、真っ直ぐ伝えてくれたのでひとまず状況はわかった。
先程から黙っていたアリシアが口を開く。
「いや、ありえない……! 私には到底あのゴコウ砦が国に報告もなく落ちるなどとは思えません!」
「当たり前だっ! ゴコウ砦がまともな攻城戦で落ちるわけがなかろうが! 言ったろう兵士が操られとると、敵は隠れて徐々に軍勢を増やしておったんだ、ワシらは対応することができんかった……」
老人は青筋を立て、心から悔いた声で話を続ける。
そして落ち着いて来たのか体力が切れたのか段々と静かな声になっていった。
「異変に気付いた時にはもう遅かったんだ……すでに兵士の大部分を洗脳されていた、城主さえもな。 部下も失った……もはやワシ一人だ」
あまりにいたたまれなかった。
「それは……ご愁傷様です……」
「……小僧、お前にはワシがボケているように見えるか?」
「い、いえ」
少しボケているようにも見えるが、しかしここで「はい」なんて答える人間はいないだろう。
「なら良い、まだワシが耄碌しておらんのなら砦を取り返せる。手伝ってくれるか」
「もちろんですよ、兵士たちから助けてくれた恩もありますしね」
その日は食事を済ませると作戦会議に進んだ。
騎士は砦の図を岩の上に敷いて話を始める。
「いいか、たしかにゴコウ砦は鉄壁だ、しかしそれはまともな兵士が居てこその物、操られたボンクラの兵士がいる今のゴコウ砦など鉄どころか腐れ木よ。」
かなりの自信だ。
「では勝算があるんですか?」
「もちろんだ、そしてそれにはこの小僧の力が必要になる。」
「マークが!?」
名前を呼ばれたマークは少年のような明るい笑みを見せた。
まさかの人選だ、いや色々できる魔術師だからおかしくはないが……
「ワシ一人での作戦を立てていたが貴様らが来てくれたおかげでより完璧に近い作戦を立てることができた、この場所を見るといい」
そう言って騎士は砦の裏手を指すが何もない。
「よいか、地図には書かれておらんが此処に隠し道がある、こいつは外に通じておってな、これを
「何故です?何故この男が使われるのですか?」
アリシアが訝しげに質問した。
まぁあの軽々しい性格を見ればこうもなろうが。
「この小僧はこう見えても優秀な魔術師でな、魔術の“変化”を使うことができるのだ、そしてそれを使ってまず侵入して貰う」
「あの“変化を”……? かなりの高等魔術のはず」
「うむワシも驚いたよ。お前たちが来なければ相手の防具を奪うことも考えたが、顔で判断されるかもしれんからな、この小僧にやってもらうのが確実であろう」
「他にも色々できるぜ!“音消し”に“姿隠し”だって……大体の魔術は使える」
いくら優秀な魔術師といえどあまりに態度が軽過ぎて、俺は心配になってきた。
「……マーク、お前にできるのか?」
「おいおいジャーーック、オレをみくびってるのか?」
「心配なんだよ、お前は昔から大事なとこでドジを踏みがちだからな」
「大丈夫だ! 安心しとけ! 実戦でドジは踏まない……」
騎士は話を進める。
「この小僧が兵士に成り代わって砦に侵入、隠し通路を開通しワシらも侵入する」
「それでは……そこからはどうします?」
「うむ、そこからは各自散って黒幕を探す、推測だが……黒幕を倒せば兵士たちの洗脳は解けるはずだ。と言ってもおそらく砦の塔の最上階にいるだろう」
「なるほど……わかりました」
「よし、では今日はもう寝るがよい、魔術の小僧! 探知を怠るなよ」
「わかってるぜジイさん!」
「ではお前たちはあの毛皮の上で寝ておけ、砦から逃げるときに持ってきた毛皮だ」
毛皮は柔らかく、そして暖かった、とても気持ちが良くて洞窟内で寝ているとは思えない。
しかし騎士はゴツゴツの岩の上で座って眠ろうとし始めている。
「あの……いいんですか? 毛皮の方もらっちゃって」
「舐めるなよ! 貴様らとは鍛え方が違うわい、たとえ剣山の上だろうとワシの世代なら熟睡できるわ……絶対にな!」
そう言うと老人はすぐに眠り始めた。
「もう寝てるぜ、スゲェジイさんだな、ジャック。どういう訓練を積んだんだ?」
「訓練もあるが、砦が陥落してからロクに寝ていなかったんだろう」
「さ、私たちも寝ることにしよう。明日本調子が出せないと大変だ」
そうして俺達は横になったが、あまりすぐには寝付けず、少し話をすることになった。
特にマークは探知を張り続けているからか、特に眠れなさそうであった。
「……明日オレ侵入するんだよなぁー責任……重大だなぁー」
「そうだな……期待していいか?」
「もちろんだぜ……そういえばアリシアよぉー、気になってたけどお前って次女だよなー、長女は何してんだぁー」
「私の……姉か、姉様は体が弱くてな……政治の方の勉強をしている……」
「他に兄弟は……いないのか?」
「……兄が一人いた……だが……今はいない」
「そうか……それは……済まない」
「というかぁーなんでわざわざ勇者になんてなろうとするんだぁー? 普通なら……婿を取ったりするだろぉー?」
自分も気になっていた質問をマークが投げかける。
「私は……戦場で戦う父様に憧れていたんだ……それに昔から……品行方正な振る舞いは出来んくてな……どうせ別れるのだから男は突き返してきたよ……」
「そうなのか……」
「まぁ父様はあまりそれを……望んでない……ようだ……」
話の途中でアリシアは眠ってしまった、マークはまだまだ眠れなさそうだが、俺も眠くなってきた……
「俺も……もう……ね……」
「おう、おやすみぃー…………」
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翌日の早朝から俺たちは砦に来て、作戦を開始しようとしていた。
「よし小僧、門が見えるな?」
「あぁバッチシだよ」
「小僧何度も言うが、絶対にミスるんじゃないぞ。ほらコイツが例の品だ」
マークに手渡されたのは麻酔
「マーク・クロフト、期待しているからな」
「任せとけって」
そう言うとマークは“変化”を使って兵士に変装して、少し離れた所から跳ね橋に向かい、門番に話しかけた」