解散した後、俺は騎士に地下牢の方へと案内してもらっていた。
「ここが入口だ」
地下牢の中はひんやり冷たく石畳には苔がびっしり生えていた。
「昔は50を超える捕虜がここにおったんだ……」
「50!? すごいですね……」
「それでも死者数を考えたら少ない、生き残って捕虜になるのが奇跡のような……そんな戦争だった」
(俺も聞いたことが無い……)
「ワシのせいでもあるがな」
(え?)
……………
地下牢に見張りはおらずただ松明が照らすのみ。
しかしそれがおかしい、大事な人質に監視もつけないなんて。
「奥の方に軟禁されているらしいですね」
そうして向かっている途中、ふと背中に悪寒が走った。
そして俺は直感的に振り返ると……
「はわっ!? “
次の瞬間振り下ろされた亡霊騎士の大剣は引っかかった天井をものともせず地面まで達した。
「ぐぅっ!」
直撃は避けたが胸にかすった。
「な、なんだあ!? 小僧大丈夫か!」
大柄な死人は口を開いた。
『王国軍め……我らを……よくも……』
騎士がはっと気づく。
「そうか……こやつ元敵軍の騎士か、王国軍への恨みを利用されるとは……」
「まずはこいつを倒さないと……!」
次に放たれた横薙ぎは壁を通り抜けながら迫ってきた。
亡霊だからではない、あまりの力に通り抜けているように見えるだけだ。
「受けるなっ! 小僧ぉ!」
右から薙いだ剣は左側の鉄格子を切り裂いて半周し、俺はその下に潜り込む。
「つあっ!」
渾身の突きを放とうとするが。
「小僧!こっちに避けろ!」
「うおっ」
こちらよりも速く剣を振られて攻撃のタイミングがない。
あの俺と同じ位はある特大剣を直剣のように軽々と……
「しかし何故亡霊騎士が……? 黒幕は
「考察をしてる時じゃないですよっ」
「小僧! ワシでは亡霊に攻撃を通すのは無理だっ、お前に任せる!」
「はいっ」
「ワシは隙をつくる……! 頼んだぞっ」
そう言って騎士は亡霊騎士に突撃する。
「小僧ォッ 目を抑えろ!」
とっさの指示に対応し目を塞ぐと手の空いた隙間から尋常ではない光が流れ込んできた。
(何か使ったのか!?)
亡霊はこれをまともにくらい動きが止まる。
「やはり光に弱い亡霊系、一瞬だが怯んだな! 今のうちに拘束して……」
勢いよくロープを取り出して拘束しようとした騎士だったが、やはりただの光では効果が薄いのか特大剣の一撃を横腹に叩き込まれてしまう。
「ミュラーさぁん!」
そのまま吹っ飛ばされた騎士は壁に激突する、が、鎧のおかげか切断はされていないようだ。
しかし鉄格子も軽々破壊する攻撃を耐える鎧とは……?
『《おまえ》……覚えているぞ……』
「グフッ ……!」
(み、ミュラーさんを知ってる!? まぁもともと地下牢にいた騎士なら、おかしくはないが……)
『かつて我らを……卑劣な兵器で……虐殺した……男! わァすれたとはァいわさんん!』
「……! ……悪いのう、忘れたどころかハナから記憶すらしとらんわい……」
『何ィッ……?』
「そんな昔のこと……どうでもいいだろう」
騎士が俺にハンドサインでこちらに伝える
“すこし まて 攻撃 しろ”
意図は理解した、
「まぁその程度でやられるとは、相当弱小の騎士団と見えるな グワーッハッハッ!」
『貴様っ……貴様ァーーッ!』
怒りに任せて亡霊は剣を振りかぶる。
そしてそれが騎士に到達する前に……
『グッ!?』
俺は体に突きを放つ、今度は確実にヒットした、鎧
を貫き背中から胸へ剣が通り抜ける。
『うぁ……なんだ……カラダが……消える……おれは……俺はまだ!』
亡霊は聖剣の力により浄化され力を失い消えてゆく。
『おおォォおれはまだ!! まだああァァ……』
断末魔を上げた亡霊は叫び切る前に……完全に霧と化し、鎧だけが残された……
「ふぅーーっ 寿命が縮んだわ」
「大丈夫ですか?」
「あぁ……少し打っただけだ……」
騎士は残った亡霊の鎧を悲しげな表情で見ていた。
「スマンなぁ……本当に思い出せんくて……ワシは……」
「……そういえば相当恨まれているようでしたが過去に何か?」
「おそらくコイツ……ワシが若い頃に捕まえた騎士だ……致死性の毒
致死性の毒瓦斯……考えただけでも恐ろしい、亡霊の恨みもまぁ合点がいく。
「まぁ昔のことだ。 さぁ、人質を助けに行こう」
あまり話したくない話題なのか騎士は強引に話を終わらせて地下牢の奥へ向かうと、牢獄に入った人質の夫妻が見えた。
「マルク坊っちゃん、大丈夫ですか」
「ミュラー様!」
「ミュラー!? 来てくれたの!?」
年端のいかない城主の息子は騎士が姿を見せると顔を明るく光らせた。
「あぁ、今開けます、鉄格子から離れて」
そう言うと騎士は小型の爆弾を鍵の内部へ入れて強引に解除した。
「ま……い、今のところここが一番安全だからしばらくいてもらうわけですが、よろしいですか? 夫人殿」
「えぇ……く、黒幕は倒していただけるんですか?」
「もちろんです、任せてください」
「ミュラー……」
「坊っちゃん、大丈夫です安心してください」
騎士はそう肩を持ちしゃがんで城主の息子に言った。
そこにあの厳しい騎士の姿ではない、優しい老人の姿があった。
「よし! では合流地点へ行くとするか……」
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「ここが別棟かぁー」
「本棟ほどではないがなかなかの大きさだ」
オレとアリシアは別棟に来ていた。
相棒……今はジャックと読んだほうがいいか、あいつは上手くやれてるだろうか……心配だ、もしも身に何かあったら……
「よし、入るぞ」
侵入したところで既に違和感があった。
「ここは兵士がいないのか?」
不思議だ、結界の維持という充用な役割を果たす岩に監視をつけないなどあるのか?
ということは何かを仕込んでいるということ、罠か何かを……
「アリシア……罠に気をつけろ」
「わかった」
一歩一歩慎重に階段を上がる、だがどこを見ても罠らしき構造物はない。
気を付けて上がっているうちに最上階に来てしまった。
そこにいたのは……
「特になにもねぇ……ん? おっ?」
「こ……こいつは……」
魔力で動く血も涙もない戦闘
「アイアンゴーレムッ!! なぜここにいるのだ! それにあの胸の中心……! あれは魔力岩じゃないか」
魔力岩はゴーレムの胸にきれいに収まっていた。
どうやら結界だけでなくゴーレムにも魔力を供給しているらしい。
「ならやることは簡単だな、下がってろ」
「何?」
「お前は頑張ってくれたんだ、今は休んでいてくれ」
「し……しかし、君一人で戦うつもりか?」
心配には及ばない。
ゴーレムは巨大な鉄拳を無慈悲にオレの体全体に向けて繰り出す、まともに喰らえば粗めのミンチになることは人目でわかる。
「マーク!」
アリシアが剣に手をかける。
「問題ない!」
そう、全く持って問題はない。
予想通り、単純な攻撃をしてくる敵、
魔術師にとってこういうやつが最も“オイシイ”相手だ。
「ウーランの魔術“反発”」
放たれた拳は急速にに速度を無くし、オレの面一歩手前で止まる、そして放たれた方とは逆に加速しゴーレムは肩から壁に叩きつけられる。
再び近づいて来たゴーレムは両手でパンチを連続で打ち込むがことごとく反発で対処可能。
20ほど跳ね返した所でついにどうしようか困ってしまったようで、動きが止まる。
ならばここで魔力を貯めて……
(な……なんて魔力なんだ……肌が……しびれる)
一気にカタをつけてしまえばいい。
「“光線”ッ」
瞬間青い光がゴーレムの胸をどころかその後ろの壁すら通り抜けていく。
胸にあった魔力岩は……ポッカリと穴が空き
動力源を失ったゴーレムは膝から崩れ落ちた……
ま、オレの光線だから当たり前だ。
「おい、アリシア」
「な、なんだ」
「黒幕を倒すまでこの戦いのことあ……ジャックには秘密にしておいてくれねぇか」
「いいが……何故?」
「色々事情があんだよ、別に後ろめたいことじゃあない、早く集合地点に行こうぜぃ」
「……あぁ」
別棟から出て集合地点に行くとまだジャックとジイさんはいなかった。
まさか……!? と一瞬嫌な考えが頭に巡ったが、流石にそれはないと思いたいが……
結局壁の影から姿を現した二人を見てやっと安心できた。
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俺が集合地点に来た時、すでにマークとアリシアは待っていたようだ。
「もう終わらせたのか!」
「あぁ、見張りもいないし楽な仕事だったぜ」
「いいなァ、こっちなんて亡霊騎士が出てきたんだ。 特になんてことはなかったが……」
「何?」
亡霊騎士の単語を聞いたマークは急に黙り込んでうつむいた。
そして7秒ほど経つと顔を上げて
「ま、別にいいか」
いや待て
ここでもしも大事な話だったら困るぞ、聞いておくに越したことはない。
「マーク、何を考えていたんだ?」
「いや亡霊騎士がいるのは妙だと思ってさ、まぁ今深く考えることじゃない。 ある程度状況を予測するくらいで問題ねぇだろ」
軽薄なだが頭はキレるやつだ
マークが軽くでも予測してくれるなら大丈夫だろう。
「よし! 小僧共! 突入するとしよう」
「了解!」