ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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なかったので書いた。ベル、ヴェルフ、リリがハンターとして生きてきた感じです。


プロローグ
元の世界に帰るのを躊躇うのは間違っているだろうか


 

「これ、ですか…?」

「ああ、お前から聞いた話から、そうじゃないかと思ってな。新大陸(こっち)にはない文字の書かれた調度品。ヴェルフやリリの方にも聞いたが、間違いないってよ」

「コ、共通語(コイネー)です。間違いありません…。ほ、ほんとにあったんだ…!」

 

 太陽が燦々と輝き、波の打ち寄せる音と野鳥の囁く声が耳に優しく残る。のどかな様相にも思えるが、それよりも賑わいと人々の声が周囲から木霊するその場所。

 

 そのある一角にて、一人の少年と屈強な好青年が卓を挟んで言葉をかわしていた。白髪の少年の背後には、小柄な栗色の髪の少女と赤い髪の着流しを来た青年が立っていた。

 

 潮風が吹き、ぎしぎしと木組みの足場が揺れるも、それは不安を感じることはなく、むしろその確かな反応が却って身を預けられる。

 

 ここは調査拠点アステラ。

 彼らが今いるこの土地、()()()を調査するために建設された拠点だ。海岸から岸壁にかけて、地形を利用した構造になっており、木で組まれた屈強な地面は見ものだ。

 この拠点は未知の大陸ゆえに物資が乏しく、新大陸への航海に用いた船も資材へ転用して補っているため、船の面影を残す建造物が所々に点在している。

 特に、アステラの最上層部、かなり上空には底が抜けた巨大な帆船が岩場に鎮座しており、海にあるはずの船があのような場所に浮いている、というのはかなり目を奪われる。

 

 もちろん、それすら集会エリアとして有効活用している以上、彼らの強かさも垣間見えるのだが。 

 

 そして、彼らが調査するのは、この新大陸におけるモンスターの生態や物資、そして新大陸を発見する足がかりとなった()()()()―――。

 

 とは言っても、長い間謎だった部分も5期団のハンター達の到着によって続々と解明されていったのだが。

 

 ハンター。

 

 それは時には未開の地に足を踏み入れ、時には人々に役立つ資源を採集し、時にはモンスターを(ハントす)る人々の通称だ。

 

 それぞれスタイルなどはあるが、皆一様にハンターズギルドに登録しており、一般人では到底扱えない武具を装備する、この世界の花形とも呼べる職業の一つだ。

 

 危険なモンスターの蔓延るこの世界。移動や資源の回収にも危険が伴う。よって、モンスターを狩る強さを持っているハンターがその代理を行ったり、ギルドや民間からの依頼で人々に危害を及ぼすモンスターであったり、生態系を崩すような存在を狩ったりもする、いわば狩りを重きにおいたフィールドワークの専門家のようなものだ。

 

 因みに、5期団は皆元いた大陸では名の知れたハンターであったり、特殊な技能を持っているエリート集団であったりする。ギルドの本気度が伺える程の精鋭だ。

 

 さて、無駄話はその程度にしておこう。先程の屈強な青年、調査班リーダーは、見つかった調度品を白髪の少年に預けると、腰を落ち着けて懐かしむように語る。

 

「ふっ、あのときは驚いたよ。まさか、ジャグラスの巣の中に一人、装備もつけていない少年を見つけた時はな。思えば、あれが始まりだったな。船旅での遭難者か、密航者か何かとでも思ったくらいだ」

「あはは、あのときは大変でした…。目が覚めたら知らない森にいて、周りには怖そうなトカゲ――ジャグラスがいたので…」

「だろ?」

 

 方や笑い話、方や苦い思い出として語っている両者だが、その言葉に互いの信頼が如実に現れていた。

 

 この白髪赤目の少年の名前はベル・クラネル。栗色の少女がリリルカ・アーデで、赤髪の青年はヴェルフ・クロッゾという。

 

 彼らは調査団に所属するハンターでありながら、ある共通点を持っていた。

 

「まっさか、別の世界から人間が迷い込むなんてな。しかも、おんなじ世界から3()()()なんてな」

 

 そう、ベルを含めた3人は、この世界の人間ではないのだ。当初はまるで信じられなかったが、まるで違う常識と、あちらの世界にはハンターではなく冒険者があり、神が降臨していること、倒せば魔石を落として消えるモンスターなど、差異がありすぎたために納得することが出来た。

 

 処遇をどうするか大変だったのは調査団もそうだが、3人も身一つで知らない世界に投げ出されたものだから堪ったものではない。

 

 加えて、ここは満足な都市ではなく調査拠点。モンスターの生息領域の隙間に作っているような場所だ。もっと安全な場所に行かせようにも、当時は特殊な潮と海域のせいもあって、渡航は困難であったのだ。

 

 そんな彼らは暫くこのアステラで保護された後、いつまでもお世話になるばかりではいられないと、ハンターになることを決めたのだ。

 

 そんなことも今は昔。かつては頼りなく、弱々しかったベルも、今ではどこにでも胸を張って出せるハンターへと成長していた。

 

 調査班リーダーは、ベルのギルドカードに目を落とす。

 

 そこに記されているのは本人の情報とギルドとの登録事項であったり、色々とそのハンターにとっての情報が記されているのだが、中でも注目されやすいのが、その階級。

 

 まずは下位。登録したてのハンターはここから始まる。ハンター生活をこの階級で終える者も少なくない。

 次に上位。ベテランハンターとしてかなりの腕が見込まれており、ハンターの中でも一握りであり、小さな規模の村や街であれば、それだけで英雄と呼べるほどの階級だ。

 

 そして、最後がMR(マスターランク)。上位から更に限られたごく僅かな人員がなれる、ハンターの最高峰。その実力、正にG級。ちなみに以前の体制ではG級だったが、下や上と比べてどの程度か分かりにくいとのことで、少し前に制度が改定されたらしい。Gってなんだろうね。

 

 そして、ベル等3人はそのMRのハンター。即ち、全ハンターにとっての憧れの存在として言っても過言ではないのだ。

 

「……立派になったな」

「…はい。調査団のみなさんのおかげです」

 

 つられたのか、ベルも腰に佩いているベルゲルヴァトラをそっと撫でる。特殊個体のベリオロスの牙から作られた双剣は、加工されて尚凍てつくような冷気を発している。

 ヴェルフやリリも、感慨深げに己の武装と、それにまつわるエピソードを思い返していく。

 

 同じ世界だからと組まされて、それでも反発しあい、互いの本音を曝け出した言い合いで更に仲が深まったり。神にも形容される古龍に、調査団のハンター達と共に立ち向かったり。

 

 この世界に来てから、たくさんの出来事があった。決して楽な道ではなかったけど、それでもかけがえのないものを手に入れることができたと自負している。

 

 思い出に浸っていた所を引き戻すように、調査班リーダーが先の調度品を指さした。

 

「……さて、話は戻るが、これがお前たちの世界のものだということはわかったな。竜人族のハンターが見つけてくれた先に、境目みたいなのがあったらしくてな。どうにもほんの少しずつだが広がっていってるらしい」

「それが、リリ達のいた世界に繋がっているんですか?」

「多分な。ベヒーモスやゲラルトさんの件もあったし、どうにもそんなものが発生することがあるみたいだな。次はいつ発生するか分からないがな」

「…そうか、あんたには世話になったな」

「おいおい、俺は手が空いてるハンターだっただけだよ。ヴェルフは工房の親方のほうが世話になってるだろ」

 

 茶化すようにリーダーは笑う。そして、今後のことについて話し始めた。

 

「さて、例の境目だが、今見張っていてくれてな。このままのペースなら、人が通れるようになるには一日はかかりそうだって話だったからな。今夜、お前たちの送別会をしようと思ってるんだ。………だから、今から向こうに持っていく物の準備をしておいてくれ。何、お前たちの物ならどれでも好きなだけ持っていくといいさ。じいちゃんも許可は出してるし、反対するやつなんていないだろうしな。分かったな?それじゃ、さっさと支度をやってくれ。こっちに暮らして長いからな。積もる準備もあるだろう」

「…はい」

 

 「よしっ、解散!」と、いつもの作戦どおりの号令に従って帰路についた3人は、会話もそこそこに荷物を纏めるべくアステラに備えてある自分たちのマイハウスに帰宅する。

 

 3人とも上位昇格時に個別の小屋を貰っているのだが、隣り合わせに作られているため、実質的にはほぼ同じ家に住んでいる。

 

 ドアの前で別れて、木製の扉を引いて中に入る。

 

「ただいま」

 

 そこは中々広い個室であり、けれど大きなベッドにアイテムボックス。防具などがあるため少々手狭に感じてしまう。

 

 最近は忙しくて掃除をサボっていたからか、少し隅にホコリが被っている。雑多に並べられた道具に、上等なカーペット。壁に立てかけられた武具の数々に、モンスターの調査書や、開きっぱなしの調合書達。

 剥ぎ取ったモンスター素材が纏めて置かれ、備え付けの水槽には初めて釣ったレア環境生物であるカセキカンスが悠々と泳いでいる。

 

「ふう…」

 

 一旦ベッドに大の字になったベルは、天井と周囲を見渡した。既に何度も見慣れた天井に、マイハウスでの鍛錬中に誤ってリリ側の壁を切り裂いてしまった修繕跡。自分なりに纏めたモンスターメモに、その立ち回りや戦い方。

 踏み込みの際についてしまったシワが今でもカーペットに刻まれている。

 

 今倒れているベッドは、MR昇格時に狩猟したバフバロの特上毛皮*1を集めて、ユクモ村から輸入したユクモの重木で拵えられた、外の世界では最上級品のベッドだ。

 因みに、ベルは狩猟報酬から作ってもらったため実感が薄いが、普通に買うならばレンガ造りの一戸建てが建つ程の値である。

 

 このベッドにも3人で集まってこっちのモンスターや土地の本を読んだり、見つけた生物のことや思いついた戦法なんかを語り合った。

 

「…この部屋とも、もうお別れなんだなあ」

 

 ふと口をついて出た言葉が、静かにこだまする。勿論、自分たちの故郷に帰ることが出来るのは嬉しい。

 

(……そう言えば、おじいちゃんが亡くなって直ぐにこっちに来たんだった。あの時は、オラリオに向かおうと思ってたっけ。色々ありすぎて忘れてたな)

 

 帰ったら、おじいちゃんのお墓参りにもいかないと。そう思い、何とか帰る理由を探し始めるも、やっぱり、今の自分の居場所はここなのかもしれないと思い始める。

 

 向こうの自分と比べてみる。

 

 離れの田舎におじいちゃんと二人で暮らしていた。村はあったけど、そこまで交流が深かった訳でもない。そして、家族であるおじいちゃんはもういない。残されたのは、若くして天涯孤独の身になった、地位もない少年だ。

 

 対して、こちらはどうだろうか。

 

 最初こそ躓いたものの、今ではハンターとしての頂点の一角、尊敬を集めるマスターランクの一人。沢山のハンターや編纂者、研究員の人達と関わって、戦う力を手に入れて、調査結果を残したり、新発見をみんなで分かち合ったり。

 調査班リーダーに、団長、大団長。ハンターのみんなに、店員さんたちと、伝説の黒龍を討ち倒した導きの青い星。みんな気の良くて、自分たちの悩みなんて吹き飛ばすようないい人たちで。

 

 どっちが満たされているのかなんて、分かりきっていた。

 

 でも、それでもやっぱり、自分という異物はこの世界に居てはいけないんじゃないのかと。ゲラルトさん達を見ている分、余計にそう思う。

 

 暫く悩んでいると、ノックをする音が聞こえてくる。それも、同時に二つ。

 

「リリにヴェルフ?入っていいよ」

「邪魔するぜ」「お邪魔します」

 

 二人はほぼ同時に入ってきて、互いに目を合わせてぱちくりと硬直する。それが何だか、可笑しく見えて笑う。

 

「おまっ、ベル、笑うこたあねえだろ」

「酷いですよベル様」

「ご、ごめんごめん。それで、二人は何の用?」

 

 重々しく口を開いた二人は、全く同じことを相談した。「元の世界に戻らなくてもいいのではないか?」ということだ。

 

「…そっか、二人もなんだ」

「もってことは、ベルも、なんだな」

「……うん。正直、向こうに戻っても、家族はいないし、今みたいにお金とか、地位があるわけでもないから…。それなら、こっちの仲間のみんなと一緒に居たい」

「…私も、リリも、そう思います。だって、私は、小人族(パルゥム)のサポーターは、卑下される様な存在なのに、受け入れて、親切にしてくれて、そればかりか、そんな程度で差別なんてしないって、断言して……。ここでなら、編纂者として、皆さんの生態調査にも加われますし、マスターランクという立場も…。普通の小人族なら、きっと鼻で笑われてしまう、夢のような立ち位置もあるんです。リリが悩んでいた時に真剣にお話を聞いてくださった総司令に、伸び悩んでいた所を解決してくださった編纂者の方々……。あんな、素敵な仲間は、【ソーマ・ファミリア(元の世界)】では……」

 

 リリの境遇は聞いていた。そんなことをするファミリアがあることに驚いたし、何より平気な顔で人生を狂わせる団長や神様に憤ったこともあった。ヴェルフも、にが虫を噛み潰したような顔で、不愉快そうにリリのファミリアへの罵倒をしたくらいだ。

 

「あー、俺は二人ほど重くはないんだが、向こうだと魔剣だ何だのって五月蝿くてな。俺の技術そのものには目もくれねえ。結局はネームバリューとお手軽高火力な魔剣目当てだった奴らにうんざりしてた所にこれだ。こっちの世界に来て驚いたね。モンスターの素材を剥ぎ取って、様々な方法で加工、接着。時にはぜんぜん違うモンスターの素材も使って強化する。魔剣でも豆鉄砲か何か見てえに耐える様なモンスター達の素材を使った技工の凝らされ切った武装。オラリオにいたら、あんな画期的な武具は発想すら思い浮かばなかった。工房で馬鹿やって、魔剣に対するくだらないプライドも全部取っ払って、俺のこっちでの師匠になってくれた親方にもまだまだ教わりたいこともある。……恩も、返しきれてねえしな」

 

 ヴェルフも、魔剣という付加価値のない自身を、対等な仲間として扱ってくれるこの調査団に、類まれな鍛冶技術を持つ親方に惚れ込んでいるのだろう。

 

 つまりは、全員ここに残留したいということだ。

 

 最初こそ戸惑ったり、違う世界ということに驚いて帰ろうと思っていたが、すべてを捨てて帰るには、長い間居すぎたようだ。

 

 そのことに、自分だけでなくて良かったと、少しの安堵を覚えて、直ぐにそうじゃないと首を降る。

 

 折角、自分たちの世界に帰る機会が来たんだ。これじゃ、なんの為にみんなの力を借りて情報を手に入れたか分からなくなる。何より、絶対に離れないなんてありえないんだ。納得できる別れも、早すぎる別れも同様に。

 

 本当は残りたい。残って、またモンスターを狩って、フィールドを駆け回って採取をしたり、生態系を守りたい。

 

 それでも、それでも。

 

「……ううん。駄目だ。僕は、帰るよ」

 

 名残惜しいのは事実。こっちのみんなとの絆もそうそう捨てられるものではない。だけど、僕には僕の世界がある。帰る手段が無いならともかく、今こうして現れた以上、そういう運命だったと捉えるしかない。

 

「後で、後悔してからじゃ遅いからね」

 

 おじいちゃんのことだってそうだ。いつも居ると思ってた親しい人が、突然居なくなることの寂しさが、なんであの時にいろいろなことをしなかったのかという後悔が。

 

 きっと、今帰らずに残り続けても、みんなは僕達を迎え入れてくれるだろう。

 それじゃ駄目なんだ。きっと、ずっとこの事を頭に抱えて生きることになる。

 

「なら、きっちりと清算をつけて、胸を張って元の世界に帰ろうよ。ほら、僕たちはこんなことをしたんだぞって、この世界に来たことは役に立っているって。……みんなと別れても、その事実が無くなる訳じゃない。出会いがあれば別れもある。だから、寂しくても、前に進もう」

「……そう、か。そうだな。ベルはそう言う奴だよな…。よし、俺も腹が決まった。こっちで磨いた力を、向こうで存分に奮ってやる。……何より、俺がいなきゃ、ベルの装備は向こうの鍛冶師じゃ扱えねえだろ?」

「……それを言うなら、私もです。ベル様とヴェルフ様は時々危なっかしいので。優良なサポーターが必要でしょう?」

「二人共……!」

 

 迷いが決めたわけではない。だけど、迷いに迷って、ずっと迷い続けたままよりは、今この機会に決断した方がいいに決まっている。

 

「うん。そうだよ。だから、こっちに悔いを残さないためにも、しっかり準備して、みんなに挨拶しにいこう」

「ああ、持って帰りたい物は多いからな!」

「私もです。特に、私の場合消耗品やサポートアイテムが多いので……」

 

 そうと決まれば、こうして時間を無駄にはしていられない。

 

 前を向いた3人は、大急ぎで部屋の整理を始めたのであった。

 

*1
モンハンNOWにて毛皮があることが判明。マスターランク名としてつけた。IBにはない(無慈悲)




ベル達はかなりの腕利きですが、実力はベル>ヴェルフ>>リリくらいな感じです。
ヴェルフは同格で集まって、マスターランク飛竜に安定する(怪我しない訳では無い)クラス。
リリは単身で任せられるマスターランクモンスターはあまりいない。その分サポートに特化している。
ベルは青い星、陽気な推薦組らと共に黒龍と最初に戦った。
早めに劫火に気づき、陽気な推薦組も無事だったが、第2形態のブレスを食らってリタイア。その代わり陽気な推薦組が残り、二人でミラボレアスを抑え込んだ。
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