ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか? 作:食卓の英雄
特に生態系描写やそこに生きるものについて作り込まれているので、没入感がすごそうでいいね!
「信っじられない!?何でそんな代物を気軽に渡しているのあなた達の仲間は!?」
目を剥き、ありえないとばかりに声をあげるヘファイストスに、ヘスティアは物怖じしつつも全面的に同意する。
なにせ、やっていることと言えば神の呪いにも匹敵する代物を無断で押し付けたようなもの。
「……まあ、はい…。その、色々と規格外な人でしたので……」
「…あの人全身黒龍装備でもケロッとしてたからな。強力な素材以上の価値を見出してなかったんだろうな」
「ありえますねそれ」
「ええ…。僕達が言うのも何だけど、それって本当に人間かい…?」
色々と武勇伝と変な逸話こそ残るが、これでもれっきとした人間である。むしろ、身体能力や活躍度でいえば無手でラージャンの気光を凌ぎ切ったり、すでに老齢に差し掛かかり、ボロボロの旧式装備一つで初見のマスターランク古龍と互角に渡り合う人物がいたりするので、英雄的でこそあれ、決して人類の枠は外れていない。
「……まあ、おかげで僕達も上を目指せたのは事実なので……」
「総評は多分人間、くらいですね。……あれで恩恵ないのっておかしくないですか?」
「言うな。それを言ったらベルだってあの戦いは恩恵無しだぞ」
「ヴェルフ!?」
経験者が遠い目で語るそれに、まるで同類かのような扱いをされたベルが驚愕の目を向ける。
話に花を咲かせるのは結構だが、ヘファイストスが話を戻す。
「おほん、とにかく、今は影響がないのよね?」
「はい。これといって特には…」
「ならいいのだけど。何かあったら、すぐにヘスティアに相談なさいよ?ヘスティアも、いいわね?」
「はい!」
「勿論さ!なんたって初めてボクを選んでくれた眷属なんだからね!」
威勢よく返す二人に、そう悪いことにはならないだろうと予感する。
さて、そこでヘファイストスは、最初に呼ばれた理由のスキルへと目を向けた。
「【狩人剥取】…。これは前代未聞のレアスキルね。どこの派閥も喉から手が出るほど欲しいのは、軽く見ただけでもわかるわ」
その恩恵と問題点は、ヘスティアが抱いたものと全く同じだった。
鍛冶師として、この街に本拠を建てる主神としては、流通が広まり需要が満たされるのはいいとは思うが、如何せんそれが冒険者の稼ぎを占めているのが問題だ。
物事には需要と供給がある。通常、ドロップアイテムは武具の素材や調度品、または貴重な薬品やポーションの素材になるもので、稀に取れるもの。
モンスターを倒した所で手に入るかは運であり、強力なモンスターや希少なモンスターからのドロップアイテムは、倒せる数が限りなく少なくなるために、需要は高い。
それが、このスキルならば無理に数を仕留めたりせずとも、発見し倒すことさえ出来れば確実に入手出来るのだ。発見から採取までの手間は同じだが、もとより実力が伴わなければダンジョンでは稼げない。
そして、確実にドロップアイテムが手に入るとなれば、探索系派閥はより深層のドロップアイテムを楽々と集めることが出来、生産系ファミリアは高い金を払ってドロップアイテムを買う必要がなくなる。
実際は、そこまで一極化することはないだろうが、ほぼ間違いなく市場は傾く。冒険者からしてみればたまにしか手に入らない収入源の価値が下がるのは面白くないだろう。
「それに、検証もしなければなりませんよ。一定範囲がどのくらいかとか、剥ぎ取りナイフの定義がどこからか…。など」
「ああ、これが思わぬ所で他人に発覚する恐れもあるからな」
「だね。それと、剥ぎ取り回数と回収可能素材っていうのも気になります。回数もそうですけど、ナイフで剥ぎ取るのに、素材が確率に依存ってどういうことなんでしょうか……?」
恩恵を得るためにも、そして今先程述べた危険性についても、試してみなければそのラインを推し量ることは出来ない。
要検証ということはみな理解し、ヘファイストスはその結果を待たずして提案する。
「そこで考えたのだけど、ヘスティア。【
「君が?」
「ええ、そう。ギルドを通しては騒ぎになるでしょうし、悪目立ちするでしょう?かといって、あなたのファミリアは発足直後で零細も零細。こっちでそれを買い取れるくらいの派閥で、事情も知ってる私のところが適任だと思うのだけど?」
確かにそれは尤もだ。眷属のことを思って提案してくれているのは間違いないのだろう。それに、根は優しく人格者のヘファイストス。旧友ということもあり、大手を振って誘いに乗りたいところだが、ヘスティアには一つだけ気になる点があった。
「それは確かにありがたいけど……。こういう特別扱いとか、なんだか君らしくないような…」
「…何言ってるのよ。私だって一端の鍛冶師で、商人と違うのは、扱うのが自ら鍛った武具というだけ。いつだって材料には悩まされる以上、安定した供給源には心惹かれるものがあるわ。……それに、私自身もっと鍛え直さなきゃと思ったばかりだもの。素材はあるにこしたことはないわ」
そこで、ヘファイストスは自らを燃え上がらせてくれた、異世界の技術を身に着けた鍛冶師へと視線を送る。
「……そっか、君にも何かあったんだね」
「ええ、まあね。……申し訳ないのが、スキルで手に入るのが知っているから、価格はギルドと同じく相場の最低価格になってしまうのだけど……。あなた達は、それでいいのかしら?」
話の矛先が向くのはベル達。苦労して素材を持ち帰る彼らの判断が何よりも大事なのだ。すると、ベルはそれに快諾。
「……本当にいいのかしら?あなた達からすれば面白くない話だと思うのだけど…」
「はい。僕も、このスキルが市場価格を壊しかねないのは分かるので…。それに、あくまで素材の最低価格を下回ることはないんですよね?……なら、その分数でカバーできますし…」
ベルは気負うことなく言うが、途中の言葉でどこか死んだ目のようになる。
「……ああ、銀火竜の紅玉の件ですね…」
「あれは酷かったな……。ハンター以外なら一生遊んで暮らせるって聞いたのに、実際は色々と税金がかかったのとギルドの保証金とかで、食堂60回分くらいまで減ったからな……」
偶々手に入ったそれの噂を聞き、売りに出してみれば多くはあるがそれでも噂には程遠い額になり、意気消沈した思い出を語る三人。
ハンターとしての活動中も、基本的に売値が変動したことはないので、恐らくそれも最低価格で取引されていたのだろう。つまり慣れっこというやつである。
「そ、そう…。ええと、勿論この契約をしても、不満があるなら他所に売りに行ってもいいし、こっちもどうしても欲しければ値上げ交渉にも乗るわ。私としては、基本は安く仕入れることができるだけでも有り難いから、何かあったときはそっちの方を優先する。それでいいわね?」
ヘファイストスは条件を述べ、契約書に記すと、間違いのないようにヘスティアにも見せ、誤魔化しようのない神血による血判で保証する。
「うん、確認したよ。……でも、いいのかい?何かあったときは君たちがやっかみを受けることになりそうだけど…」
「いいのよ。【
「そういうものなのかい?」
「そういうものよ。……それより、あんな厄ネタや未知の世界を知るあの子たちにちょっかいを出される方が怖いのよ。それだけならまだいいけど、万が一あの目玉のことでもバレたりしたら……」
「ああ……うん…」
ゾッとするといったようにヘファイストスが肩を抱く。ベル達も理解はしているようだが、もし不在時に忍び込まれでもして発覚したら大変だ。
面白がりそうなネタから、厄ネタまで完備しているベル達から注意を逸らせるなら、むしろ目立ってもいいとまで言う始末である。
それだけ、黒龍の眼球が与えたショックは計り知れなかった。
こんなものを平然と装備に使い、あまつさえ強い以外の感想を抱かない人間がいるらしい。ついでに言えば、当然ながら装備を作るには素材を加工せねばならず、担当したのは工房の親方だ。
素材だけで圧倒的な存在感を放つそれ。硬度や性質も並の素材の比ではなく、見事武具として仕立て上げた者が恩恵も何も無い人間だと聞いて、ヘファイストスの興味はより一層刺激されるのであった。
「では、本日はダンジョンに行ってスキルの検証ですかね?」
「人目も気になるだろうし、手伝うぞ?」
「そうだね。剥ぎ取りの方もだけど、マップの方もだね。ちょっと前に潜った時は、一層の誰もいないようなところしか通らなかったし、ポイントっていうのがどんな風に出てくるのかも試してみないと」
さて、そんな訳で話は一旦終わりだ。ヘファイストスは仕事中に抜けてきた為に執務室に戻り、ベル達は検証の為にダンジョンへと向かう。
「さて、それじゃあボクも始めようかな!」
そしてヘスティアはというと、いつも通りにジャガ丸くんの屋台でバイト―――――ではない。
ヘスティアは廃教会の中で内職である。
その内容というのも、リリに渡された箱いっぱいに詰められた木の実の中身をくり抜いて、種類ごとに実と種を分けなければいけないのだ。
当初、零細派閥故にバイトを続けようとしていたが、戦闘経験のあるベル達であるが故に稼ぎの心配は無用と言われ、それならばいない間にやって欲しいことがあると頼まれた為に、二つ返事で引き受けたのである。
「…それにしても、見たことない果実だなあ。いや、ボクも植物に詳しいわけじゃないから知らないけどさ」
木の実の上部を切り落とし、尖った形のそれの中身を適切にほじくって、種とワタ用の箱とくり抜いた木の実のカラを別々に入れていく。
「食べれるものじゃないって言ってたけど、全くリリ君はボクをどう思ってるんだか…!」
プンスカと怒りながらも、仕分けの手は止めない。作業量が膨大で、特に個数に指定はされなかったが、どうせなら沢山しておいた方がいいだろう。
そう考えて、ヘスティアは更に鼻息を荒くして手を動かしていった。
「……おや、こっちの方にもあるじゃないか」
熱中してふと顔を上げると、部屋の片隅にもう一つ同じような箱が置いてあるのを目にする。
漏れがあったかと運んで中身を見ると、そちらにはまた異なる木の実が入れられており、リリルカに言われていたものではない。
だが、ヘスティアはそれに見覚えがあった。
それはリリルカに言われて作業の内容を分かりやすくイラストで示したメモ帳。確かそのページの前後に書いてあったイラストとそっくりだ。
軽くしか見ていないが、これもまた同じ様に果実から種を取り除く様に書かれていたので、何らかの用途があるのだろう。
「そうだ、こっちもやっておいたらきっと喜ぶぞ〜!」
言われてこそいないが、同じ処理をするならきっと大丈夫。偏に眷属の為になる行為と感謝。それと自分を見直させるという功名心が故に、ヘスティアはそれに手を伸ばした。
「うーんと、こっちはクルミに似てるけど、大きさは全然違うや。種を取り除くなら、割ったほうが良さそうだね…と」
やもすれば人の頭ほどに大きい果実の割れ目から、見知った形のクルミをいくつか取り出す。ごろごろと出てきたそれに対して、取り出したのはナイフ。
「ふっふ〜ん、胡桃なら前に割ったことがあるんだよなあ!」
ドヤ顔でハンマーを取り出したヘスティアは、硬い地面に麻布を敷いて、その上にクルミを乗せる。
レンガでよく固定して、狙いをつけたヘスティアは、思いっきりハンマーを振り下ろした。
パパパパァンッッッ!!!
「うひゃあぁぁあっ!??」
胡桃にあたった瞬間、大きな炸裂音と共に中の果実が周囲に散らばる。
ヘスティアが手に取っていたのは、はじけクルミ。強い衝撃が加わると破裂し、その性質を利用して弾丸の調合素材に用いられたり、新大陸に於いてはモンスターすらも怯ませるスリンガー投擲弾としても用いられている程の代物だ。
幸いにも、ヘスティア自身には当たらなかったが、強力な外皮を持つモンスターにすら一定の効果を得られるほどの炸裂は、一般人程度の能力しか持たない下界の神にとっては脅威になるのだった。
「…………や、やっぱやめておこう」
狭い室内に散らばったその惨状を見て、ヘスティアはそれが目立たない位置に寄せられていた理由を悟ったのだった。
【狩人剥取】検証結果
「範囲」
・ベルを中心として約30m程
「剥ぎ取りナイフの定義」
・あちらの世界で、ハンターズギルド、或いは一部権限を貰っている地方派出所の認可を受けたものであること。
「剥ぎ取り回数」
・基本的にゲーム同様剥ぎ取り回数は一回。中型以上が二回。
階層主やそれの匹敵する
更に巨大に、強力になると4回や5回と増えていく。ベヒーモスやリヴァイアサンなどが該当する。
「回収可能素材」
・こちらもゲームに近く、剥ぎ取った場所に問わず完全に確率で手に入る素材が変わる摩訶不思議現象。
基本的にはドロップアイテムと同じものが出やすいが、異例の他の素材も剥ぎ取れる。勿論そんなドロップアイテムは確認されていないので、市場にあまり流せない。
似たような性質の武具などに向いている。
また、あくまで剥ぎ取りナイフに剥ぎ取り可能状態を付与するので、誰が倒したものであっても死体が残っていれば剥ぎ取り可能で、逆にベルが倒したものであっても、指定の剥ぎ取りナイフ以外ではこの状態は付与されない。
モンスターの死体は剥ぎ取り可能回数剥ぎ取ると、魔石を破壊、取り出した時と同じく塵になって消滅する。
逆に剥ぎ取っていなくとも、魔石を取るか壊せば塵になる。
なので、荷物に余裕がない場合は魔石を取るか破壊する。モンハン的に見れば余り褒められたものではないが、ここはダンまち世界。残していても生態系の糧にならず、それどころか狭い通路に死体が溜まったり、その死体を漁る冒険者。魔石を食べた種が強化種となってしまう可能性などを考えると、やはり魔石は残さないのがマナーである。