ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか? 作:食卓の英雄
早めに原作展開に入りたい反面、今のうちに描写したいところなども多いジレンマ
「はあっ…!ふっ、せい!」
「そらよっ!」
ベルの新スキル発覚から二日。ベル、ヴェルフ、リリルカの3人はスキルの確認と、
ここは第8階層。本来ならば冒険者登録は疎か恩恵を授かって5日目の人物が潜るような階層ではないが、そんなことは今更だろう。
「はあ…さすがお早いですね。分かってはいましたけど、あれだけ集めてもこの早さですか。リリが出る幕は当分はなさそうですね」
リリルカがそう言い、冷静に処理に向かうと、警戒を続けながらもベル達もならう。
今しがた全て倒し終えたモンスターの名は『キラーアント』。ヒューマンと同じ程度の体躯を持つアリ型のモンスター。7階層から出現し、身に纏った頑丈な甲殻と、硬い外殻を活かした鋭い鉤爪による攻撃を行い、防御を攻め崩せないまま鋭い爪で致命傷を負う。これまでの階層に出現するものとは勝手が異なるゆえに、ここまでに冒険を積み重ねてきた冒険者達が餌食になる。
故に、冒険者の間では『新米殺し』と呼ばれている。
加えて、キラーアントは仲間を呼ぶ。ギルドの情報によるとピンチに陥るとフェロモンのようなものを発散する様で、とことん甲殻と相性がいい。
とはいえ、これだけ長々と語ったとして、こうも大量のキラーアントが転がっていては、その強みもかたなしだ。
「ふう、やっぱ大剣は次々来る小物には向いてないな…」
「そこは適材適所ですよ。リリだって、死骸を寄せるだけで終わってしまいましたし…」
「いや、リリスケの場合はむしろこんな上層で貴重なリソースを使わせるのもなあ…」
今回は殲滅速度で遅れを取ったヴェルフがぼやくと、リリルカが慰める。とはいえヴェルフの言ったことも正しく、武器の行使などに、こちらの世界では補充の難しいアイテムを消費するリリルカは、今のうちはサポーターに特化した方がいいのは確かだ。
「このくらいなら大丈夫かな。それで、分かったかな?」
「ええ。これだけ試せたなら十分です」
さて、キラーアントは危険を感じると仲間を呼ぶのだが、一撃で仕留めることも可能なベル達は、何故こうまで大量のキラーアントと戦うはめになっているのか。
「やっぱりキラーアントのフェロモンの範囲は階層一つ分に満たない、くらいですかね。範囲自体は広いですが、よっぽど中央で意図して時間でもかけない限り、階層中の個体が集まることはなさそうです。既に集まっている個体はそのままですが、マーキングしておいた個体の動きが止まったので、途中で倒せればフェロモンも死骸と一緒に消えるみたいですね」
リリが語るのは、キラーアントの習性を改めて検証した調査結果である。
そう、ベル達はキラーアントの群れに出くわしたのではなく、その逆。仲間を呼ぶ習性を利用して、その範囲と効果の程を詳しく調べることにしたのだ。
情報自体は冒険者間でも知られており、ギルドの情報としても乗っているが、ダンジョンという閉鎖空間故の全体把握の難しさと、命のかかった環境というだけあって、詳細な効果までは明確にされていなかったのである。
おおよその指標などは語られていれど、それも個々人の感覚や偏った狩り場によるもので、そもそもそれらを熟知しているようなこの階層に慣れている冒険者は、キラーアントにみすみす仲間を呼び寄せさせ放置などはしない。
冒険者の命に関わる問題とは言えど、荒くれ者や粗忽者の多い界隈。ギルドの依頼として見ても、その状況で安定して検証を行える人間となると、より上位の冒険者となり、上位の冒険者にとって、己の階層より遥か格下の一モンスターで、対処法も知られているそれに態々時間をかける意味などない。
だが、キラーアントの話を聞いたベルは違った。エイナの教鞭により上層のモンスターの特徴などを学んでいる最中に出てきたキラーアントへの愚痴と、生き物らしい習性がそうさせたのだ。
「よっぽどの位置でもなければ、キラーアントが階層を超えて集まってくることはなさそうですね」
「うん、何回か試してこれなら、態と集めようとでもしなければここまではならないって分かったね」
つまり、そういうことだ。未だ初心者にとっては厳しい難敵であるキラーアントの情報を残すことで、後の新米、及びにギルド職員の負担を少なくしようとしたのだ。
場所を変え、フェロモンを出すキラーアントの数を変え、とにかくあらゆる手段でフェロモンの効果と、それにどの程度反応するかという結果を手に入れたベルは、興味深げに頷きながらも剥ぎ取りナイフに手をかける。
ベルは、かつては普通の幼気な少年であったが、多感な時期に転移し、自然と共に生き、中でもあらゆる生態系を調査する調査団にいた結果か、生物の習性や生態にも強い興味を抱くようになり、ハンター稼業の傍ら、学者先生たちの元へと訪れるくらいには変わったのである。
「ふう、やっぱり多いですね…。では剥ぎ取りをしますが、ちゃんと一部は魔石を取ってくださいよ?上層なんですから、ドロップアイテムばかりあっても嵩張りますし、何よりオラリオの主産業は魔石なんですから」
「うっ…。わ、わかってるって」
「魔石はねえのにドロップアイテムは多いってことでギルド職員も変な顔してたからな」
そう、以前もベルは倒したモンスターを全て律儀に剥ぎ取っていたが、その際の換金にてドロップアイテムだけを大量に出してしまい、疑念の目で見られてしまったのだ。
魔石は一つもなく、ドロップアイテムはありえないほどに多い。【ヘファイストス・ファミリア】に売るような代物ではないからとギルドに行ったものの、やはり駄目だった。
幸いその時は魔石の方は別口に売ったと誤魔化せたが、これが続けばどうなるか、想像に難くない。
「ま、まあそれはいいから。人が来ないうちに剥ぎ取ろうよ」
「逃げたな」
「逃げましたね」
過去の失敗をあげられ、バツの悪くなったベルは、それを振り払ってキラーアントの山へと向かっていったのである。
「『キラーアントの甲殻』、『キラーアントの甲殻』、『キラーアントの大顎』と『キラーアントの甲殻』…と。結構硬いんなら、新人冒険者用の武具とかに使えないのかな?」
ベルが剥ぎ取り、その度に手に入れた個体が塵となって消えていく光景に順応しながらも、その硬質な手応えを確かめてヴェルフに問いかける。
するとこれまた処理作業に入っていたヴェルフから否定の言葉が入る。
「いや、それは無理だろ。ドロップアイテムなんてのは狙って出るようなもんでもなく、供給は限られてる上に数がいるとなりゃ、もっと価値は高くなる」
「ええまあ、ここ数日でその常識が壊れかかっていますが、リリも同感です」
「上層の新米冒険者くらいしか使わねえのに、新米冒険者じゃ手の出しにくい値段になっちまうんだよ。いくら金属的性質を持ってるドロップアイテムつったって、加工難易度も値段も普通の鉄の方がいい。それに直ぐ先にもっと良いのがあるとなりゃあ店売りしてる奴で凌ぐのが普通さ」
ヴェルフは「勿論こうしてぽろぽろ手に入るならダンジョンで手に入る安価な鉄代わりになるかもしれんが、ドロップアイテムだしなぁ」と続ける。多少はマシだが、殆ど需要はないのである。
「そっか…。じゃあある程度集めたら、後は全部魔石を取るのでいいのかな?」
「リリはそれでいいと思います」
「おう、使い道はあるかもしれねえが、今考えることじゃねえしな」
軽口を叩きながらも、体に染み付いた動きは止まらず、綺麗に、それでいて手早くキラーアントの死骸を処理した3人は、全てが塵に帰ったことを確認すると、探索を再開する。
「あっ、ここ鉱石が埋まってる……のかな?僕達が調査団にいた頃に使ってた目印と同じだし……」
「あ、本当ですね。……このスキルだとこのように表示されるのですか。新発見です」
スキルで脳内に表示されているマップに映った鉱石の印にベルが気づいて足を止めると、常に持ち歩いているピッケル(ハンターの時の癖)でダンジョンの壁を掘り崩す。取れたのは純度は低いものの歴とした
上層で手に入る事自体が珍しく、貴重な金属であるそれは、普通の冒険者ならば思わぬ臨時収入に沸き立つなり、鍛冶師に渡すなりして歓喜する所だが、しかしてその反応はまちまちであった。
「これはっ…、
「これが、そうなの?エイナさんには確か【ヘファイストス・ファミリア】とかが使う様な貴重な金属だって聞いたけど…」
リリはその珍しさと、かつての自身を思い浮かべて喜び、ベルは初めて見る金属をまじまじと見つめている。だがしかし、最も金属に対して深く理解しているヴェルフは、何故だか難しい顔をしている。
「あー、くそ。やっぱ感覚がマヒしてるな」
額に手を当てて、天を仰ぐヴェルフ。その様子を不思議に思った二人は奇妙な反応に訝しげな顔を向ける。
「どうしたのヴェルフ?」
「あー、まあ何だ。簡潔に言うとだな、そのくらいの純度の超硬合金なら、マカライトとそう変わらないぞ?」
その言葉にベルはギョッとする…でもなくすんなりと受け入れた。それはベル自身の目から見ても最高の金属とまでは言えず、そしてそれ以上に信頼する鍛冶師きっての言葉だからである。
「……マカライト鉱石が超硬金属に匹敵するんじゃないかってのは向こうでも思ってたんだが、いざ目にすると、俺の目が肥えてることがよく分かった。……多分、マカライト鉱石をまともな鍛冶師が鍛ったなら、第3等級武装程度はいけるだろうよ」
第3等級武装。それは数多の鍛冶師の中でも限られた存在である【鍛冶】のアビリティを有した上級冒険者以上の鍛冶師がやっとのことで作り上げることが出来る武装の通称である。
勿論然るべき材料、その鍛冶を真剣に行うという前提はあってこそだが、第3等級武装ともなれば上級冒険者の持つ武器だ。
ここで驚くべき点は、神の恩恵によって与えられた発展アビリティである【鍛冶】という下駄を履いてようやく辿り着けるその領域に、恩恵など受けていない向こうの鍛冶師が、ごく当然の様に店を構えているところである。
思えば、あちらの目立った武器工房などでは、マカライトは疎か、より上位のドラグライトやカブレライトまでもが使用されている。
当時レベル1で燻っていたヴェルフとしては、恩恵も無しに高みに至るその姿に、畏敬を覚えたものだ。
「……だからといって、別にどうという訳じゃないが、ちょっと価格の差が随分とあるなと思ってな」
「……そう、ですね。二つを同等の品質として仮定すると、明らかに超硬金属の方が高価に……それこそ数倍どころか数十倍以上は確実です」
「そんなに!?」
ベルは手に持っている鉱石を見て驚愕の声を上げた。こちらの世界の冒険者の常識を知らないベルからすれば、それは朗報であると同時に、何だかこちらでの武器が物凄いボッタクリに見えるのだから。
「あちらと貨幣価値が違うので正確な比較とは言えませんが、アロイシリーズに百万ゼニー使うようなものですね…」
「ひゃくっ!?」
ベルの中では、アロイシリーズとは狩猟に慣れてきた脱初心者にオススメの、手軽で防御力の高い優秀な防具といった印象だったが、それに百万ゼニーなどとても払う気にはなれない。
「……あれ、ってことはもっと上のドラグライトやカブレライト…。それこそマスターランク素材のエルトライトなんていったら……」
恐る恐る、自分が今しがたまで振り回していたクロムクロスⅢへと視線を落とす。
それは度重なる強化の果てにほぼ全てがエルトライト鋼によって鍛造され、更に希少で硬いピュアクリスタルを使い、神にも比される古龍の浄血を吸った双剣である。
「………常識、違うなぁ」
ベルは遠い目で力なく呟くと、リリルカやヴェルフも疲れたように同意した。
その日は、クロムクロスがいつもよりずっしりと重さを主張している様に感じたのであった。
まあ、多分このくらいかなと思いまして…。
大体
マカライト=〜第3等級武装
ドラグライト=第3等級武装上位〜第2等級武装
カブレライト=第2等級武装上位〜第1等級武装
くらいの感覚です。勿論こちらはそれをある程度以上使っている素材の最低値で、合金の割合とか、追加で使った素材による強化などで、更に上がったりします。ただ、ゲーム的な補正というか、硬さだけなら同格に比べて高い感じです。
というか前々から思ってたのが、ダンまちは冒険者に比べて武装が貧弱なのでは?と。
超硬金属製の武装は、それこそレベル4くらいから普通に使えるし、第1等級武装でも、レベル5くらいから。レベル7や8なんて、明らかに武器が追いついてない感じがするんですよね。
ガレスがレベル6でアダマンタイトを殴り壊せたのも、そう思わせるんですよね…。
それと流通している武装との価値のギャップに驚くベル君ですが、今使ってるクロムクロスⅢはベル君の双剣の中だと第2候補にも入らない位の武器なんですよ……