ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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いつもアンチ・ヘイトが必須になるダンまちのベートイベントですが、別にミノタウロスから逃げたりしてないのであれ程言うことはないです


酒の席の失態から始まる交流があるのは間違っていない

 

 ベル達のいる『豊穣の女主人』へと訪れた【ロキ・ファミリア】の面々。

 料理を楽しみながらも聞き耳を立てれば、どうやら彼らは迷宮への遠征を終えての宴会とのことらしい。

 

(確か…ダンジョン探索系のファミリアは派閥の等級がD以上になると遠征の強制任務(ミッション)が課せられるんだったっけ)

 

 ベルは、ギルドで教わった知識を思い出しつつ、都市最大派閥の一つである【ロキ・ファミリア】なら、そういうものなのかと片隅に入れた。

 

 実際問題、ベルやリリルカ達はスキルや向こうの世界でのハンター経験によってかなり下駄を吐いた状態でダンジョン探索をスタートしている。

 エイナに学びながら、その差位や知識を埋めようとはしているものの、やはり先達の話というのは馬鹿にならない。

 何かより深い階層での苦労話なんか聞けないかな、と思いながら耳を傾ける。もちろん、食事の手は止めずに。

 

「女将さん。追加でこの海鮮リゾットをお願いします」

「あ、リリはこちらのパスタをもう一つ追加で」

「あいよ!…にしても、坊主も小人族の嬢ちゃんもその体にどれだけ入るんだい…。ほら!小娘共!休む暇なんてないよ!」

「うにゃー!?宴会用のメニューがやっと終わったと思ったのにニャ!!」

 

 宴会の中、悲鳴を上げる店員とその尻を叩く女将を見て、赤ら顔の主神、ロキがにやにやと笑みを浮かべていた。

 

「なんや、えらい大食いがおるもんやなー。こらうちらの宴会もあいまって、悪いことしたかもなー」

 

 そうは言うが、その普段の態度や蛇顔から、むしろその状況を愉快に思っていそうなロキである。そんな時、一人の獣人の青年、ミノタウロスの件に出会ったもう一人の第一級冒険者、ベート・ローガである。

 

「そうだ、アイズ!お前、あの時の話を聞かせてやれよ!」

「あの時の、話…?」

 

 ベートは顔を紅潮させており、やはり酒に酔っているようである。

 

「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の一匹、5階層に逃げ込んだのを殺ったのがいただろ!?そん時の変な野郎!」

 

 この話を聞いていたベルは、え?変な…?と硬直した。先ほどまでみるみる内に減っていった料理のペースがピタッと停止する。

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出していった?」

「それそれ!奇跡みてぇにどんどん上層に上っていきやがってよ、俺たちが泡食って追いかけていったやつ!こっちは帰りの途中で疲れてきたってのによ」

 

 その愚痴は、あまりおおっぴらに話すものでもなかったが、ベルも何度か経験したことがある。

 苦労して大型モンスターを討伐したと思ったら、帰りの砂上船がディアブロスに襲われて致し方無しに戦ったり、帰り道を追いかけてきたアンジャナフがアステラにまで侵入しそうになったので、どうにかその手前で食い止めたり。

 

 (すごいわかる…)とベルは思った。

 

 特に、ダンジョンはその構造から、行きも帰りも自分の足。それも地下に広がる関係上、ベル達のファストトラベルみたいな楽も出来ない。

 

 実際、下層に踏み入れかけているベルもその疲労はなんとなしに理解しているのだ。それもあれだけの大所帯なら、時間や気にする問題も相応だろう。

 

 聞いた話としては、ベルが問いただしたものと相違なく、酔っていても正確な情報は整理できているようである。

 

「それでよ、いたんだよ、革鎧と武器だけもった貧相な野郎がよ」

「あっ」

 

 ここでベルは気がついた。基本、こちらの革鎧というのは、軽鎧よりも簡素な防具であるものの、それでも重要部位などはより硬い素材などでカバーしていることが多い。

 ベルのレザーxシリーズは確かにマスターランク素材を用いているが、それでもやはり小型モンスターの皮。まして、外見は下位や上位のものと変わりない。利き目に長けた者が、その差を知っていなければ、はたから見れば新人ハンターなのである。

 

 因みに、この目利きはハンター稼業では必須項目とされており、それはモンスターの外観や体表の質からランクを推定することに始まり、剥ぎ取りの際に貴重部位や危険な内臓器官を取り扱うためである。

 

 よって、装備の見た目はハンターの力量を測る一つの目安にもなりえるが、同時にその良し悪しが分からず、上位やマスターランクの差に気が付けない下位ハンターなどは観察眼が備わっていないと見做されたりするのである。

 

 これは何もその力量を侮るものではなく、不意にフィールドで遭遇したモンスターの力量を測る目安としても重要で、これが培われていないハンターが、より上位のランクのモンスターであると気づけずに重傷を負ってしまう例があったり、クエストランクの正確な判定にも使われる重要な項目なのである。

 

 その観点で見れば、ベートはよろしくないかもしれないが、そこはそもそもの素材がこちらのものではないことと、あちらとこちらでは求められる技能が異なり、ベートが純粋な戦士であること。そして何よりあの場においてベートは遠目で、ダンジョンの燐光に照らされる仄暗い空間であったことも、その認知を鈍らせる要因であったことは留意しておきたい。

 

「ミノはそいつがぶっ殺したんだがよ、その後にそいつがアイズにミノ野郎のことを延々と聞き出してよ。しまいにゃ、アイズをおいて独りでぶつぶつぶつぶつ呟き出したんだよ!」

「うひゃー、そりゃオタクやなー…」

 

(あ、あああああ………!そ、そういえばあの時ずっと話して……!し、しまったぁぁぁぁぁぁぁ……!)

 

 ベルがその醜態を話されていると知って頭を抱えていると、横からリリが一言。

 

「ぶっちゃけ、あの時のベル様は学術院のエリック様みたいでしたよ。ハンター相手でもちょっと突っ込みすぎくらいですね」

「うあぁぁぁぁぁぁあ……」

 

 リリルカからのトドメの一撃。同じハンター同士ですらちょっと距離を置く態度など、こちらではさぞ変人に見えることだろう。

 

 とうとう耐えられなくなって顔を突伏する。向こうで暮らしてきた弊害の様なものである。

 

 しかも、その話で【ロキ・ファミリア】はウケている。出来ればあんまり話して欲しくはないが、やはり酒の席ということもあるし、まさか丁度その本人が現場にいるなど預かりしらないので、話すなというのも無理な話だ。

 

「しかしまあ、そいつがグイグイ来るもんでアイズもタジタジだったしよ。正直ドン引きだぜ、なぁアイズ?」

「……」

「にしても、俺たちゃ冒険者だぜ?たかがミノタウロス如きであれだけ迫るってのも、おかしな話だよなぁ?見たところ、そいつはミノは瞬殺してたしよ。自分より圧倒的に弱えミノにどうしてそこまで気にかけるんだって話だぜ」

「いい加減口を慎めベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。稀々その人物がミノタウロスを一蹴する実力を持っていたからよかったものを、本来あそこは下級冒険者の縄張り。一歩間違えば血濡れのトロールの二の舞いだ。その原因を追究するのも当然のこと。礼節を尽くすことはあれど、酒の肴にする権利などない」

 

 そこで、ピシャリと口を挟んだのは緑髪のエルフ。リヴェリアだ。

 リヴェリアはベートを叱責し、ベートも酔っているとは言えど、言い分の正しいリヴェリアへ反論はせずに、水を差されたとばかりに舌打ちを一つして酒を呷った。

 

 ベルの羞恥心タイムの終了である。

 

 よかった。と顔を上げたのも束の間、ふらりと隣で何かが立ち上がる。

 

「うぐぅぅぅぅぅ……」

「か、神様?」

 

 そう、ヘスティアである。

 

 先の先まで潰れていたヘスティアは、今の騒ぎで目を覚ました様だ。が、しかし、その顔は非常に真っ赤で、リリやベルに負けじと飲み食いしていたせいで、ベロンベロンに酔っちゃっているのである。

 これもまた、零細生活の反動である。

 

 あの気まずい空間に重度の酔っ払いを投入したくない二人としては、どうにかヘスティアを宥めようとするが、「夜風に当たりたいだけさぁ…」とふらつく足で出口を目指そうとするヘスティアに、リリが仕方なく付き添いになって席を立つ。

 

 そんな第二の醜態を晒しながらも、ようやく半ばまで差し掛かった当たりで、ヘスティアがリリルカの支えを外れて「あーっ!!!!」と大声を上げた。

 

「げぇっ、ドチビ!?」

「あ?」

「ロキ?知り合いか?」

「ロキじゃないか!何でこんなとこに君がいるんだよぉ!」

「それはこっちのセリフや!…うおクッサ!?お前どんだけ呑んでんねん酒臭っ!?」

 

 ふらふらだった筈のヘスティアが制御を離れ、ロキの元へと直進する。ロキは見覚えのある体と、そして歩く度にぶるんぶるんと揺れる体の一部に注目し、因縁つけてきたヘスティアへとガンを飛ばす。

 互いに赤ら顔のまま額をぶつけ合うように睨み合うと、互いの手を掴み、そして足元の覚束ないヘスティアは、そのままロキの方へと持たれかかり、押し倒す。

 

「ちょっ、ヘスティア様…!?」

 

 はあ、とため息を吐き、ヘスティアを引き剥がそうとするリリルカ。今もロキが足掻く度に自身の胸にのしかかる、己にはない母性の象徴がむにゅんむにゅんと形を変えて、その八つ当たりにヘスティアの肩をがくんがくんと揺らしていく。

 

 しかしながら、重度の酔っ払いにそんなことをしてしまえば結果などわかりきっており……。

 

「うぷっ…」

「へ?ちょ、待てやジブン、それはレギュレーション違は」

「ウボロロロロロロロロロ―――ッッ!」

「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 こうして、神ヘスティアの尊厳はロキの体の上にぶち撒けられれることとなったのだ。

 

「ほんっっっっっとうに申し訳ありませんでした!!」

 

 そして、数刻。

 

 神ヘスティアの尊厳は、酒場だから慣れているのかテキパキと片付けられたが、肝心の他所の派閥の主神に吐瀉物をぶち撒けた事実は消えない。

 

 現在、ロキ本人は着替えとシャワーのために本拠へ帰っており、ヘスティアも会話が覚束ない様子なので外に出して寝かせている。

 

 主神の責任はファミリアの責任。お互いの主神が会話が出来ない以上、こうして団長同士の話になるのは自然である。

 

 ……まあ、今回はヘスティア側にかなりの非があるので、ベルは平身低頭。小人族のフィンを見上げる形での開始となったのだが。

 

「ええと、取り敢えず顔を上げてくれないかい?」

 

 まさか飛び出してきてすぐさま土下座をされるとは思っておらず、フィンも苦笑いで宥める。 

 

「あ。あの時の…」

「ん?テメェは…」

 

 顔を上げたベルに、見覚えのある二人が即座に反応する。

 

「知っているのかい?」

「…さっきの話で、5階層で会った人、です」

「……ベート、間違いないね?」

「ああ、こいつだ」

 

 これにはしまったとフィンも少し目を瞑る。リヴェリアや、その話で笑っていた他の面々もその場に本人がいたのだと知って少し気まずそうだ。

 

「取り敢えず、僕は【ロキ・ファミリア】団長のフィン・ディムナ。君は?」

「は、はい。僕は【ヘスティア・ファミリア】団長のベル・クラネルです。……今回は、僕達の神様がそちらのロキ様にご迷惑をお掛けしてしまって、本当に申し訳ありませんでした」

「【ヘスティア・ファミリア】……。すまないが、聞いたことがないね。オラリオの外から来たのかい?」

「…へ?いえ、つい2週間前にも発足したばかりのファミリアですけど…」

 

 神がいないためその真偽は分からないが、自身の直感と、ベルの態度から嘘ではないことを確信する。

 フィンが最初からそう問うたのは、一言で言えばベルの立ち振る舞いや、その身につけている装備を目にしたからである。

 上等な衣服としての質を落とすことなく、それでいて第二級冒険者…ともすれば第一級冒険者の纏う装備に近しい品質のブリゲイドαシリーズを目にしての判断だ。

 流石に最上位鍛冶師など、高レベルの鍛冶スキル持ちが鍛えた金属鎧などに比べれば劣るだろうが、それでも革鎧としては一級品。

 ベルの立ち姿からして、装備に振り回されている訳でもなければ、自然体で纏うそれから、フィンは外で相応の冒険やツテを経ているのだと思っていたが、違うらしい。

 

「2週間前?…オラリオに来て、それでミノタウロスを倒したのかい?」

「はい…。あっ、一応、ファミリア結成は2週間前なんですけど、僕自身は2年ほど活動していたので…」

「なるほどね…」

 

 フィンの指が微かに動く。フィン自身の観察眼で、嘘は言っていないことは分かるが、それはそれとして何か口に出していないことがあるな。と指が告げているのだ。

 そして同様に、ベル自身がそうして観察されていることを理解している。

 

 そこで、いったん思考を打ち切るフィン。今は目の前の相手の考察よりも、対話が必要である。

 

「それよりもすまなかったね。うちのベートや団員達が君を酒の肴にして」

「いっ、いえいえいえ!それは酒の席ですのでお気になさらず!…というか、その、僕もちょっと突っ走り過ぎたところがあるので、あまり気にしないで頂けると幸いです……。それと、その、そちらの神様の汚した衣服や、精神的なショック分の賠償金は必ずお支払いします…!」

「ははは、それも気にしなくていい。ロキが酔って他の神とのちょっとしたトラブルや、吐瀉物に塗れることなんて何度かあったし、君も言った通り酒の席の出来事。それでも気にするのなら、君を嗤ったことを許してほしいのだけど…いいかな?」

「そのくらいでいいのなら…」

「うん、互いに怨恨はないってことにしよう」

 

 おずおずと立ち上がるベルに、フィンが手を差し伸べる。

 

 そして、革手袋の上からでも分かる、厳しい鍛錬の証が如実に伝わってくる。

 

(…これは、最低でも第一級冒険者クラスはあると見てよさそうかな?)

 

 この世間知らずそうな純朴な少年は、フィンの知る限りでは名前すら聞いたことのない人物だ。オラリオの外において、否、オラリオ内においても第一級冒険者というのは最高峰の冒険者で、その名を知らないはずも無い。

 オラリオ内ならば間違いなく周知されているし、オラリオ外ならば、余計に話題にならないはずが無い。

 

 そんなちぐはぐさを不思議に思いつつ、けれど出来るだけ礼節を尽くすようにして観察を続けることにした。

 幸いにも、まだ神同士のあれこれは残っている。機会はまだある筈。頭の中で予想図を描きながら笑みを浮かべるのは、流石【ロキ・ファミリア】の頭脳といった所だろうか。

 

 ゲロで宴を中断されつつ、フィンとの和解もあってか、場は落ち着きかけていた。そこで、ベルに声をかけようとアイズがおずおずと近づく。

 

「あの…」

「あれっ?」

 

 しかし、ベルの視線はアイズには向いていない。その行く先はベートの胸元。正しくは、ベートが首からかけている牙を通したネックレスである。

 

「……あれ、雷狼竜の牙?ジンオウガがいたのか?」

 

 その呟きは酔いを冷ましている当人に届くことはなく、しかし、アイズ・ヴァレンシュタインの耳には入っていた。

 

(あれ?ベートさんのネックレスに使われてるのは、ダンジョンでは確認されてないモンスターだってフィンが…)

 

 悶々とした疑問を抱えたアイズは、立ち去るベルを引き止めることも出来ずに、迷いを帯びた目で双方を見て立ち尽くすのであった。




はい、というわけで今回やらかしたのはヘスティア様でございます。
まあ、貧乏根性抜けてない頃に、子供がバカスカ食べてるのについていこうとしたから、ベロンベロンに良くない酔い方をしてしまった形になります。
ですがヘスティア様は責めないであげてください。むしろ酒頼んでたのはリリです。15杯くらいグビグビ呑んで、ヘスティア様がアルコール度数が低いと勘違いして呑みまくったという裏話があります。


おや?ベートの様子が?
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