ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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あの後、【ロキ・ファミリア】ではフィンがロキにヘスティアとの関係性を聞いたり、ちょっと探るようなことはありましたが、あまりに短い描写なことと、会談時に書くことがなくなる可能性があるのでカットいたしました。


それぞれの明日

 

 ベル達【ヘスティア・ファミリア】が今後の目標を定めた日の翌日。

 

 3人と1柱は新たな思いを胸に新しい朝を迎えていた。

 

 といっても、早朝からギルドには駆け込むわけでもなく、優雅に朝食を作っていた。

 

「ふんふふん♪ふふふ♪ふんふふん♪ふふふ♪ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふんふふふん♪」

「上手に焼けました!」

 

 ……とは言っても、ベルは廃教会に肉焼きセットを置いて肉を焼いているだけであり、料理らしい料理はリリが主に作っていた。

 

 ベルが香ばしく肉を焼き上げている間にも、リリの手は止まらない。

 用意するのは近所でも売られている素朴なバゲット。これの中央にエルトライト合金製の包丁を走らせる。

 硬いはずのバゲットにすっと1本の線が走ったかと思いきや、形や食感を崩さないままに溝ができる。

 水洗いしたレタスを、作っておいたソースをかけたアプケロースト*1を挟み込む。

 

 アプケローストのバゲットサンドの完成だ。

 

 そして、レモンや各種スパイスなどを加え、ついでに余っていた雲菓子(ハニークラウド)を溶かして出来た砂糖を少量投入。これらの混合液に、醸造所から出た炭酸ガスを混ぜてクラフトコーラの完成だ。

 

「ベル様ー!」

「もう焼けるよ!」

 

 リリの掛け声に、ベルが素早く反応する。

 先ほど焼いたこんがり肉を一口サイズに切り分け、これまた朝市で買ったばかりの新鮮なピーマンやねぎなどと共に鉄串に刺して火にかけていた。

 

 焼き加減を見て頃合いと見れば、即座にそれを取り上げ、リリの方へと持ち寄る。

 

 木製のトレーに移したリリは人数分食卓へと並べていく。あっという間に配膳は終わり、とても食欲を誘う香りが立ち込める。

 

「うわぁ、すごいね。君たちって料理も出来たんだ。どれもすっごく美味しそうじゃないか!」

「そう言ってもらえて幸いです」

「あちらの世界で、料理長に教えてもらったんです。他の皆様と同じように下積みから始まり、今ではこの通り。……まだまだ料理長やセリエナのおばあさまには遠く及びませんけどね」

 

 思い起こすのは、あちらの世界に渡って間もない頃。ハンターとして活動する前に、調査拠点アステラで何か役立てることはないかと焦っていたその時。

 

 当時のリリは貢献できることを証明しなければ酷い扱いを受けると思い込んでいたために多くの施設で手伝いを申し出ており、その一つが食事場だったのだ。

 

 ハンターになってからも、その縁は続いており、合間を縫っては多岐にわたる技術の研鑽に励んでいたのである。

 

 ベルの方は、ハンターとして活動するようになってから、その料理のあまりの美味しさと様々な効果に感動し、リリが学んでいると知ってから教えを乞うたのだ。

 

 その習熟度は、アステラの料理長を3とした時、リリが2。ベルが1といった所。2人で行うならば、その限りではないが。

 

 ヴェルフは鍛冶に専念しているため、除外する。決して「こんがり肉と調合が出来れば十分だろ。お前らもいるしな」などと任せたからではないのだ。

 

「「「いただきます」」」

 

 そう口を揃え、各々料理に手を伸ばす。

 

「んーっ!美味しい!朝から肉が多いかなと思ったけど、このソースのお陰で全然くどくない!串の方も野菜のシャキシャキ感と肉汁が丁度良く主張し合ってる!」

「うん。美味しい!このバゲットサンドは開花の宴の時の再現だよね?」

「はい。アプケロースとこんがり肉以外は、全てこちらのお店で買ったものを使っています。…あちらの食材は貴重ですからね。栽培できるものもありますが、それも安定するかはわかりませんし。味を覚えているうちにこちらのものでも作っておこうかと思いまして」

 

 流石に食材由来のスキルなどは発現しなかったが、どれもクオリティは下手な店よりもずっと高い。シンプル故に、手際の良さが試される品だ。

 

「こっちのは、果実水(ジュース)かい?発泡酒みたいになってるけど…」

 

 リリ製クラフトコーラに口をつけるヘスティア。途端、口内に広がる炭酸の強さと味に、驚きながらも感心する。

 

「けふっ。…ちょっと刺激が強かったけど、美味しいじゃないか。スパイスの独特な味も中々。すっかり目が覚めたよ」

「……おいしいのはおいしいんですが、ボコボコーラには遠く及ばないですね…。炭酸も弱いですし、これでは精々ポコポコーラです」

「ええー?僕はこれでもいいと思うけどなー。売り出したら絶対人気出るぜ?特にお酒が飲めない人や神々なんかに。……それに、これ以上シュワシュワすると、ちょっと強すぎる気もするんだけど…」

「まあ、一応狩猟前のドリンクですからね。市販の材料でというのは高望みしすぎましたか…。折角教えてもらったのですから、活かせる機会が欲しいです」

「ユクモのドリンク屋さんに聞いてたもんね…。あれ、でもそういえば、それで売ってるわけだけど、それなのに教えてくれたの?」

 

 コーラの出来栄えに肩を落とすリリだったが、普通に飲み物として考えれば上々。ヘスティアからの評価もそれはそうかと持ち直し、機会があったらやってみるのもいいかもしれないと頭の片隅に入れる。

 

 そして、当のボコボコーラ自体の製法を、僅かな滞在時間の旅人に教えるのだろうかとベルが疑問を浮かべると、リリはいい笑顔で答えた。

 

「ああ、それはユクモ村に訪れた方が勧めてくれて、暫く新大陸から離れられずに恋しがっていると伝えてあげれば、それはもう快く教えてくださりましたよ」

「うわぁ……。確かにユクモ村に行ったことあるハンターに勧められたってのは嘘じゃないけど……」

「でもいいじゃないですか。そのお陰で世界を超えてもこうしてコーラが飲めているんですから」

「それはそうなんだけど……」

 

 確かに感謝はすれど、何だかなぁ。という気分になる。

 

「……ご馳走様でした。それじゃあ、農場の収穫が終わったらギルドに行こっか」

「はい。菌床や鉢も安定してきましたし、古代樹のお陰で困りませんからね。もうじき、普通に消費してもよくなりそうです。……勿論、こちらのもので代用可能な品はしますけどね」

「じゃあ、下処理はこっちでやっておくよ」

 

 かつてのリリの隠れ家に密かに設立した農場。土地の関係で規模はそう大きくないものの、薬草などといったどこでも育つものや、菌床を並べ、一部の植物素材は古代樹のお陰で供給出来る。

 

 リリのかつての主神、ソーマからの質のいい土や肥料の提供も忘れてはならない。

 

 あちらの世界の植物は生命力が高く、環境さえ整っていれば、約1〜2日で採取できるほど。

 主な薬や調合素材の他には、リリが普段遣いするアイテムなんかが育てられていて、ベルがオラリオに来る前から着々と栽培は続けられていた。

 

 ヘスティアは一部のアイテムの下処理や種の取り出しなどにもすっかり慣れ、内職系女神として進化を遂げていたのであった。

 

 これが、新しい【ヘスティア・ファミリア】の日常だ。

 

 先日目的を定めたにしては、あまりに穏やかだが、何も急いで準備しなければいけないという訳では無い。

 ギルドへの問も今日早く行ったところでそう変わらないだろうし、【ロキ・ファミリア】との会談も、指定があった以上待つ他ない。

 

 焦りは却って視界を狭める。いつも通りの日常と備えをしておくことで、いざ何かあった時に即座に動くことが出来る。

 

 そう結論を出した故のことだった。

 

「それじゃあ、行ってきます」

「ああ、いってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

「来たぞー。主神様」

 

 椿・コルブランドはヘファイストスに呼び出され、主神室に訪れていた。

 本音を言えば、【ロキ・ファミリア】の遠征直後で、こちらにも仕事が舞い込んでいることに加えて、その未知のモンスターとやらを試し斬りしてみたく思っていた所であったが、一旦それを切り上げて推参していた。

 

 これがそこらのファミリアであれば、下らない用事かと呆れられるケースも多いのだが、ことヘファイストスは下界には珍しい善神であり、おちゃらけた様子も見せない真面目な神である。

 

 無駄なことや無意味な用では呼ばないだろうという信頼あってこそのものだ。

 

 そして、当神であるヘファイストスは、その来訪に気づいて立ち上がる。

 

「よく来たわね、椿」

「主神様のお呼び出しとあってはな。それで、一体どのような案件だ?厄介事などではないよな?」

「もう、違うわよ。……ただ、貴方に見てもらいたい武器(もの)があるの」

「手前に?」

 

 はて、わざわざ見せたいものとなるとなんだろうか。

 

 ヘファイストス自身の武器……そういう風に誇示する性格でもない。新人の武器……自分に持ってくることはまずない。

 となると、何かの依頼であったり、素材の関するものだろうか。そう、今しがた布を取り払ったそれは…。

 

「―――」

 

 思わず言葉を失った。

 

 そこには、総てを滅し破壊し尽くさんとする暴虐な龍の意思があった。

 形状は刀。20Cという幅広の片刃に、2Mを超える長大な刀身。峰側を沿うように、いや、まるで刃と一体化するかのような漆黒の甲殻が伸び、奇妙な刃文は秘めたる力を想起させる。何らかの属性は宿っているようにも感じられるが、少なくとも龍属性(そんなもの)は椿は知らない。

 

 途轍もない力を感じさせるそれは、けれどよく見れば見るほどにその制作者の意思や技術が読み取れるような気がした。

 

 そして、もっと知りたかった。その刃を構成する金属は?その刃文の出し方は?その甲殻に宿る意味とは?何の素材で、どうやって、どのような思いで鍛たれたのか。

 

 その威力は、使い心地は、使い方は。

 

 鍛冶に身を捧げたものならば当然の渇望と知識欲が溢れ出る。

 

(長刀…。手前の紅時雨と比べてどうだ?…いや、比較にもならん。仮にこれと同時に並べられれば、なまくらと評されても可笑しくはない。……これと比較するのであれば、覇竜の大懐剣以外はあり得まい。…………いや、素材の強さという点ならば並ぶかもしれんが、技術においてはこちらのほうが上。……素材の持つ力を極限以上にまで引き出している)

 

 識りたい。触れたい。試したい。

 

「椿」

 

 ヘファイストスの言葉でハッと平静を取り戻す。見れば、椿の手は知らずのうちにその太刀へと伸びていた。

 

 椿ほどの実力者が、否。実力者でありながら、最上級鍛冶師(マスター・スミス)という類稀なる才能を持つ椿だからこそ、この絶世の芸術品の様であり、荒々しくも鋭い刃に熱に浮かされたのである。

 

「あいや、すまんな主神殿。手前としたことが熱に浮かされた。…………主神様が鍛ったのか?……これほどの得物、どうするつもりだ?」

 

 椿が訝しむのも無理はない。いかに鍛冶神ヘファイストスといえど、彼女が直接造った武器は世に出さない。いかに零能の身であっても、至高の領域にいる鍛冶師であることに代わりはない。

 何より下界に自らの力で過度な干渉をしないというスタンスもある。

 よってヘファイストス自身が鍛つ場合、眷属へ出来を見せるためか、彼女自身の日課、或いは何かしらの切羽詰まった理由があったかといった場合が殆どである。

 

 そう考えた場合、目の前の大太刀は単純な技術ではなく、明らかに実戦を想定した造りと魂を有している。

 一体何故急にそんなことを…。と片隅で思考すると、途端にヘファイストスが笑みを零す。

 

「ふふっ、違うわよ。これを鍛ったのは私じゃないわ」

「はて…?となると、ゴブニュ神か、或いは他の鍛冶神か…」

「やっぱりそう思うわよね?」

「そう思うも何も……?いや、待て。本当か?本当にこれは…」

 

 主神のどこかからかうような言葉から、即座にその考えに至った椿は、バッと視線を改めてそれに向けた。

 

「ええ、その通りよ。これは(わたしたち)ではなく、正真正銘下界の人間(子供たち)が鍛ったものよ」

「………主神様の、沙汰は?」

「……そうね。正直言って、私がこれ以上口を出せることはないわ」

「――――」

 

 椿が絶句する。

 ヘファイストス。神々の間でも名高い至高の領域に有る鍛冶神が。『口を出せることはない』と言い放ったのだ。

 

 それがどれだけの評価なのか、鍛冶師は知っている。

 

 何より、都市最高、否、世界最高の鍛冶師である椿自身ですら、その様な評価は貰ったことはない。

 その鍛冶師は、既に神域に至っているのだと、他ならぬ鍛冶神から齎されたのだ。

 

 そう断言されて、何を思ったか。

 

 自らでも至らぬ領域にいる鍛冶師への嫉妬か?

 己を凌駕する技術への羨望か?

 はたまた、同じ下界の人間であるにも関わらず、神の領域に至ったそれと比較した絶望か。

 

 ――否、絶対に否。そんなもので折れる心であるならば、疾うの昔に鍛冶師など辞めている。

 

「……はっ、ははっ!ははははははははははははは!!…本当か!?本当なのだな!?手前をその気にさせようという欺瞞ではなく、本当にそれは人間が鍛ったものなのだな!?」

 

 呵々大笑。

 

 椿は笑ってみせた。

 

「やる気にさせようという意思はあったけれど、今の言葉に偽りはないわ」

「ならその目論見は達されたぞ主神様よ…!…何せ、人の身でその領域に至ることが可能なのだと証明したのだからな…!……手前も負けてはいられぬという訳だ…!」

 

 今も燃え滾るような情熱を放つ椿の姿を見て、ヘファイストスは親心のようなものと、少しの安堵を覚えていた。

 

 椿に限ってないとは思っていたものの、その差に絶望して折れてしまう人間もいないわけではないのだ。神として、そのような人間は山のように見たことがある。

 何より、同じ人間という土俵だからこそ、超越存在という誤魔化しが利かない。

 

 故に若干の懸念を覚えていたものの、無用な心配だったようだ。

 

「その鍛冶師は何処の派閥に所属しておるのだ?是非とも顔を拝んでみたいものだが…」

「残念だけど秘密よ。まだ許可が出ていないもの。……ただ、一つ私から言えることがあるとすれば、これを鍛ったのはLv.1で、スキルもこれに関しては作用してないわ」

「Lv.1と…!」

 

 オラリオでも認められる上級鍛冶師は、みな発展アビリティ『鍛冶』を有している。現代の鍛冶師にはこのスキルが必須とされており、この発展アビリティがあって初めて、属性の付与や魔剣の作製が可能なのである。

 

 ……一部、例外ともいえるスキルを持つ存在もいるが。

 

 そして、発展アビリティというのはランクアップ時にしか発現しない。つまり、Lv.1は特殊なスキルでもなければ鍛冶のアビリティを持つことはあり得ない。そして、スキルという線も否定された。

 

 となれば、正真正銘生身の人間のままで神域にまで届かせたということになる。

 

「……いつまでも燻ってはおられんな…!」

 

 俄然、やる気に火がついた。そう言わんばかりに腕を回した椿が、昂る思考のままに鍛冶へと赴こうと主神室を後にせんとする。

 

「あ、それと私彼氏が出来たから」

 

 ノブに手をかけた辺りで、爆弾発言。

 

「?????」

 

 いきなりの宣言に、燃え上がった思いも一瞬忘れ、処理しきれなかった情報に頭が真っ白になる椿なのであった。

 

*1
アプケロース版ローストビーフみたいなもの





尚、ヴェルフはどっかの裏路地に露店を立てて、こっちの冒険者向けに抑えた武具を売ろうとしてる模様。
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