ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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ラウル・ノールドの非凡なる一日(1)

 

「はぁ…」

 

 一人、オラリオの街並みを溜息をつきながら歩く。

 とぼとぼ、という効果音が似合いそうな程に気分が落ち込んでいるらしい。

 

 年の頃は20程だろうか。平々凡々な見た目の冴えない男性だ。

 

 彼の名はラウル・ノールド。あの都市最大派閥【ロキ・ファミリア】に所属する第二級(Lv.4)冒険者だ。

 

 冒険者の過半数が一度のランクアップもしておらず、偉業を成した上級冒険者であっても、Lv.2が殆どともなれば、Lv.4というのはそれなりに大きな規模のファミリアのトップエースともなれる程の人材である。

 

 しかし、さしものLv.4ともいえど、【ロキ・ファミリア】内では二軍の一員であり、その層の厚さを感じさせる。

 そんな彼は、主力を支える二軍メンバーの中でも中核的存在。主力メンバーだけでなく、下位団員達の指示や意見を聞き入れるなどと中間管理職的な立ち位置にもいたりする。

 

 Lv.4という実力を持ちながらも、腰は低く、どこか頼りない印象を受けるものの、ファミリア内では地味ながらも多岐にわたる活躍から「器用有能」などと呼ばれていたりもする。

 

 そんな彼を一言で表すならば凡夫という言葉であろうか。

 オラリオの冒険者からすれば、ごく一握りの存在に何をと思うかもしれないが、美男美女揃いの【ロキ・ファミリア】において、どこにでもいそうな外見と雰囲気、何がしか突出した特徴があるわけでもなく、逆に切り出すほど劣っている面もない。

 総合的に見れば十分に凄いのだが、どうにもパッとしない。そんな彼だからこそ、神々も【超凡夫(ハイ・ノービス)】という二つ名を授けたのだろう。

 

 本人の自己評価は上を知っているためか高くはないが、それでもその人柄や、腐らず努力する姿などから仲間からは慕われており、団長であるフィンも指揮官として育て上げていたりするのだが…。それはいったん置いておこう。

 

 さて、そんなラウルがこうして歩いているのには理由があった。

 

「やってしまったっす……」

 

 先日、ラウルの所属する【ロキ・ファミリア】は遠征から帰還した。未到達階層を目指して進んだ遠征は、50階層までは順調に進んだものの、その先にて異常事態へと遭遇してしまった。

 

 フィン、ガレス、ベートらと共に班分けされて進んだ先では、醜悪な芋虫のようなモンスターと遭遇してしまい、その強力な酸にやられてしまったのだ。

 

 当然それだけではない。あの時に酸を食らってしまったせいで、自分よりも遥かに優秀な幹部達が自分を庇ったまま逃走せざるをえなくなり、結果的に足手まといになってしまったのである。

 

 異常事態に初見で完璧に対応しろ、というのは酷ではあるが、それもダンジョンに潜っているのなら覚悟の上だと言われるであろう。

 

 加えて、その強酸のせいで軽装鎧に剣も半ばから溶けてしまった。特に剣に関しては貰い物ということもあり、結構な愛着があったので、気分が沈んでいる。

 

 渡した本人である同期のアナキティに謝った際は気にするなと言ってもらったものの、その同日の宴でロキのセクハラ発言に乗っかかってしまったことで冷ややかな視線が向けられてしまったのも理由の一つだろう。

 

 今現在、【ロキ・ファミリア】自体は遠征終了から数えて3日。後始末などをようやく終えて、各々休暇や買い物などに勤しんでいるのだ。

 

 それは二軍の一員として支えていたラウルも同様である。

 

 そんなわけで、落ち込んだ気分を晴らす目的と、それついでに色々と物資などをみて回ろうかと思った次第である。

 

 【ロキ・ファミリア】は最大派閥の片割れであり、当然ながらファミリア内にも備蓄や予備の装備はある。

 

 ただ、当然それはラウル個人が勝手に使っていいものではない。否、ちゃんと言えば普通に許可されるのだが、それでは気晴らしにはならない。

 

「悩んでも仕方ないって言っても、こればっかりはどうにもなぁ…。っていやいや!今は気晴らしには来てるんだから、気落ちするようなのはダメダメ!…っし!とりあえず最初に行く所は…と」

 

 レベル4の使用に耐えうる装備がそこら辺に雑多にあるなどとは露ほどにも思っていないが、適当に見て回るのも楽しみの一つなのだ。いざとなれば申請して新たな武具をファミリアから借りればいい。そんな軽い気持ちで始めたものである。

 

 当然、真っ先に行ったのは【ロキ・ファミリア】でもお世話になっている大手鍛冶派閥である【ゴブニュ・ファミリア】や【ヘファイストス・ファミリア】。

 

 そこではオラリオでも屈指の鍛冶師達が日々切磋琢磨してより良い装備を日夜作っている。

 展示されている装備群を見ながら、男として、冒険者として当然の憧れや、その惚れ惚れするほどの出来にほうと息をつく。しかして、第二等級武装や第一等級ともなれば、値は相応。

 

 派閥単位ならともかく、個人で第一等級武装など、それこそフィンやガレスなどといった大幹部でもなければ到底手が出せない値段をしているのだ。

 

(そこも大派閥の利点っすけどね…。ああ、でもあの未知のモンスターにティオナさんの大双刃(ウルガ)が溶かされて…)

 

 ぞっとする。それは何も自身にかかった強酸を思い出しての恐れではなく、高価な超硬金属(アダマンタイト)を大量に使った肉厚・幅広・双刃の三拍子揃った武器が溶かされたことによる資金の問題である。

 

 確かあれは1億ヴァリスを超えていたはず…。と経理も学んでいるラウルは顔を真っ青にした。

 

「うーん、やっぱり手頃なのは中々見つからないか…」

 

 Lv.4にとって手頃、という武器は確かにあるが、それでもやはりその分だけ値は張る。

 

 頑張れば手が届きそうなものもある。ワンランク落としてそこそこの性能で間に合わせることもできる。

 

 だが、この派閥単位で補填に走っている今、自身の為だけに高い武器をせがむというのは今の心情からすれば受け入れられず、ましてや予備があるにも関わらず、少なくない金を出してまで性能の落ちる装備に身を包む趣味もない。

 

(そう都合のいいものなんてないっすよね…)

 

 分かっていたことだが、やや気落ちして店を出る。仕方ないから、普通に予備の武器にするかと決め込んだ。

 

 さりとて、直ぐに直帰するわけではない。

 せっかく気晴らしも兼ねているのだ。目的のためだけに通ってなければ即帰宅では味気のない。

 

 どうせなら、普段は行かないような通りや店を眺めるのも新鮮でいいかもしれない。

 

 ラウルはオラリオに来てから既に8年以上が経過しているが、それでもあまり行かないような店や新たにできた店もある。

 

「何か面白いものないっすかね…」

 

 オラリオ北西部はギルドが位置する区画でもあり、冒険者が集まることから、自然と酒場やら武具屋、道具屋などが軒を連ねていき、今では冒険者通りという名がついていたりもするのだ。

 

 故に、ラウルの散策には事欠かない。と思っていたものの、どうにも食指は動かされない。

 

 たまに見かけない店はあるものの、そういった真新しい店は、当然ながら派閥未所属(フリー)か、新参派閥(ファミリア)によるものが多い。当然ながら、居を構えて長い店には品質も品揃えでも叶うことはなく、また高レベル冒険者のお眼鏡に叶うものは殆どない。

 

 強いて言えば、飲食店や酒場などはあるものの、それだって既に昼食を済ませているラウルからすれば何の意味もない。

 

 それは落ち込んだ気分からか、はたまた自身の求めるハードルに届かないと理解しているからか。既に予備を使うのだと決めているからかは分からなかったが、適当にふらふらと色んな店を眺めては、視線を外して歩いていく。

 

(う〜ん…。今こうしてぶらぶら歩くよりも、ダンジョンで少しでも資金繰りに駆り出したほうが良かったか…?いや、でもそれには武具とかポーションの用意も……)

 

 気晴らしには来たはずなのに、何もしていない今の時間を有意義に使えたのではないだろうかと悩んでしまう。

 

 普段のラウルならそんなことはないのだろうが、様々な要因が重なった結果である。苦労人気質の中間管理職というのは伊達ではない。

 

 そうして考え事をしながら歩いていると、いつの間にかメインストリートからやや逸れた道に入っていた。

 

「いつの間に…」

 

 注意力散漫になっていたらしい。そう呟いたラウルは、来た道を戻ろうとして、ふとその道の先に興味を引かれる。

 

 直感というやつだろうか。すぐそこの道を曲がった先には、何か別の空気のようなものがあるような気がしてならない。

 

 それも、ダンジョンなどで見るような嫌な予感とも異なるものだ。

 

「ちょ、ちょっとだけ…」

 

 好奇心に導かれるままに、ラウルは歩を進める。別に、何もなければ引き返せばいいのだ。どうせ気晴らし。何もなくても構わない。

 

 そう心の内で言い訳して、ラウルは門を曲がった。

 

 そこは、何の変哲もない路地だ。メインストリートと違って、大きな店やら何かがあるわけではない。あったとしても露店であったり、比較的規模の小さなものばかり。

 

 期待外れだったかと、少し目を彷徨わせれば、その少し奥。それらの露店とは少しばかり離れた位置に屋台が構えられていた。

 

 メインストリートで見るようなものでもなく、けれどもある程度しっかりした造りのそれが珍しく、目を向けてみれば、そこには鋭い輝きを見せる武具の姿があった。

 

「こんなところに武具店…っすか?」

 

 何だか気になったラウルが近寄ってみれば、やはり看板にも武具を象る看板がある。

 基本、こういった野良の武具店などは大したものはないのだが、どうにも気になって立ち寄ることにした。

 

「ようこそ。見たところ、アンタそれなりに腕の立つ冒険者だろ?」

「うわっ!?」

 

 突然の声かけに驚いたラウルが飛び退く。声の出どころは、鎮座する武具の中にいた、全身を覆う蒼い鎧からだった。

 遠目からでは展示されている商品のようにも見えたため、こうして声をかけられるまで気が付かなかったのだ。

 

「おっと、悪い悪い。驚かせちまったか?」

「あ、いえ。……お店の方っすよね。見ても?」

「ああ、好きに見てくといい」

 

 店主の許可を貰ったとあり、まじまじと眺めていく。

 オラリオでもあまり見ないような重装備に、モンスターのドロップアイテムをふんだんに使いまくったと思われる鱗鎧。武器の類も尋常ではない。大型モンスターのドロップアイテムだろうか。骨をそのまま切り出したような無骨な大剣は、冒険者が扱うそれらと比べても肉厚で、巨大だった。

 それだけではない。盾とセットで売られている片手剣も、普通の片手用直剣に比べれば遥かに分厚く、けれど機能美に優れた鋭利な輝きを放っていた。

 極東で使われるという長刀にも似た武器も、その長さが尋常ではない。いかに人並み外れた冒険者と言えど、あれを己が身として使いこなす人はいるのだろうかと疑問視する程に。

 

 そんな、思わず目を奪われてしまう程の作品に、一体どこのファミリアによるものだろうかとエンブレムを探す。

 

(……全然見たことのないやつっすね)

 

 菱形にXが走ったようなエンブレムが武器につけられていたが、ラウルの記憶にはそのような鍛冶派閥はなかった。

 

 だがしかし、その割には武具の品質はかなりいい。鍛冶に関しては素人のラウルでも、冒険者として経験を積んだ故に良し悪し程度は分かる。

 

 これはいいものである。と。

 

 思わぬ掘り出し物に心を躍らされたラウルは、そのままじっくりと装備群を見ていく。

 

 中でも、目を奪われたのは青みを帯びた金属鎧に、先ほど見た片手剣を、更に大型化して盾の側面にも刃をつけたような武器だ。

 

 だが、店頭に並んでいるものは気になりはするものの、やはり高いグレードではない。レベル3であった時ならば買っても使えたかもしれないが、今買うには少し見劣りするかもしれない。

 

 そう悩み顔を見せていたからだろう。鎧姿の店主?が声をかけたのは。

 

「悩んでるみたいだな。……まあ、見た感じのレベルだと少し物足りないよな。……アンタのレベルは?」

「え…?あ、ああ、自分はLv.4っすけど…」

「ほう…!Lv.4…!…ってなると、こいつはどうだ?」

 

 そう言って、奥の荷車から出したのは、ラウルが見ていたものとほぼ同じ外見の鎧と武器だ。ただし、その迫力は先のそれよりも上だ。より上質な金属、環境で造られたのだろうと素人ながらに思わせる逸品。

 

 銘は、鎧の方がアロイαシリーズ。武器の方はチャージアックス?という種類の、精鋭調査団盾斧Ⅲ。

 剣と盾なのにアックス?ⅠとⅡはどうした。そもそも精鋭調査団とは?結局盾と斧なのか?という疑問は尽きないものの、目の前の輝きにラウルはすっかり魅せられていた。

 

 ごくり。

 

 思わず唾を飲み込む。これならば買ってもいいかもしれない。

 

 

「あの、これのお値段って…!」

「アロイαなら1部位500万、武器は……そうだな。1500万ヴァリスってとこか」

「せ、1500万っ…!?」

 

 絶句。確かに良いものとは思ったし、相応の価値があるとは思っているが、それでもこんな場所に、大手派閥のシンボルも入っていないような店で出てくる金額ではない。

 

 そして、聞き捨てならないのが鎧の方だ。

 

「あ、あの…1部位ってことは…?」

「ん?ああ、悪いな。こいつは一式ってことにはなってるが、頭、胴、腕、腰、脚の5パーツで分けて売ってんだ。全部揃えてもいいし、他の種類と組み合わせてもいいってことでな。そこは人によるな」

 

 確かに、大体の場合は鎧は鎧として一纏めに売っていることもあるが、こういう売り方もアリだとは感心したものの、1部位500万。それが5部位ともなれば、それは2500万ヴァリス。武器も含めれば4000万ヴァリスにもなる。

 

 確かにラウルは第2級冒険者で、準幹部と言っても差し支えない。その上娼館に入れ込み、遠征収入をチョロまかす程に金欠だった過去を鑑みて、最近はしっかり貯金をしているとは言えど、そんな金額はない。

 

 貯金総てを掻き集めても1600万ヴァリスとちょっとが関の山。流石に倍以上とあっては諦めざるを得ない。

 

 思ったよりも食指を引かれたからこそ、逆に手の届かない金額に思わず落ち込んでしまう。

 

「…ちょっっと、手が届きそうにないっす」

 

 肩を落として踵を返そうとするラウルだったが、店主が待ったをかけた。

 

「まあ待ちな。この作品は色々とオラリオの規格と勝手が違ってな。それなりに良し悪しが解る冒険者に使って貰って、そこで判断して貰いたいのさ。……まだ冒険者で試してみた奴がいなくてだな、俺も判断基準に困ってるんだよ」

「は、はあ…。そうっすか」

「そこで!だ!Lv.4もありゃ申し分ねえ。いや、下手な第一級冒険者よりは基準としては正確かもしれないな。……そういうわけで、俺としても一度お試しでってのも考えてる」

「お試し…っすか?」

 

 相手側で進む話についていけないものの、悪い方向にはならないかもしれないと、希望を持って聞き返す。

 

「ああ、そいつを装備してもらって、ちょっと試してみてもいいとは思ってる。次いでに、俺の検証にも付き合ってくれる訳だから、値引きや借金の都合なんかも考えるが…。どうだ?」

 

 願ってもない申し出だ。高い買い物故に慎重にならざるを得ないそれに、一度使用感が確かめられるというのは有り難い。

 何よりも、お試しでもいいからその装備を身に纏えるというのは、相手からの申し出ということもあって、抗いがたい魅力を放っていたのであった。

 警戒はあったものの、これを用意できるような人物がわざわざこんな提案をしてまで自分を害するメリットも思いつかず、話した感じも悪人とは思えなかった。

 

 故に。

 

「じゃ、じゃあ…、よろしくお願いするっす」

「ああ、俺はヴェルフだ。アンタは?」

「ラウル。ラウル・ノールドっす」

 

 こうして、ラウルは異世界の技術によって作られた武具と出会いを果たしたのであった。




ヴェルフが着ているのはEXリオソウルαです。
このレベルまで来るともうよっぽどの鍛冶師でもなければ見ただけでは真価が分からない位にはなってます
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