ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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や、久しぶり。思ったよりも長くなったので分割します


ラウル・ノールドの非凡なる一日(5)

「アンタ、俺と契約を結ばないか?」

 

「え?……ええぇっ!!?け、契約って、専属契約ってことっすか!?」

「いや、そこまでじゃないがな」

「あっ、そうすか…」

 

 まさか自分にも優秀な鍛冶師がつくのかと期待を露わにしたが、あっさり否定されて出鼻をくじかれる。

 

「最初に言ったろ?こっちで売るには、色々とまだ確かめたいことなんかがあるってな。俺の仲間は既にこっちに慣れきってるし、真新しい意見や反応なんかは返ってこなくてな。……かといって、ゴロツキ紛いの冒険者や、右も左も分からねえ新人に渡したって、違いや相場なんかはわからんだろ?」

「まあ、それは……」

 

 ここオラリオに冒険者が多いとはいえ、殆どが下級冒険者。従って、資金が多いわけでもなく、また燻っているものばかり。故に暴力的な者がいたり、逆に慣れていない新人は検証に十分な知識や実力なども保証できない。

 

「それに、アンタなら色々と出来そうだからな。【ロキ・ファミリア】の準幹部っつう立場があるし、資金、実力、知識共に不足はねえ。それに偏った技能や変なクセもないからこっちとしても試しやすいんだよ。……魔法もないって話だし、純粋な武具の試験者(テスター)としては適してる人材って思ってな」

「き、器用貧乏なだけっすよ。自分は、そんな…」

「何かに特化してるとバラつきが凄いからな。むしろ今は大歓迎だ。」

 

 派閥外からのこれまでにない評価を受けて謙遜するも、ヴェルフがそれをも否定する。

 

「で、どうだい?連絡はさっき言ったみたいにギルド経由でするつもりだが、受けてくれるか?」

「それは、願ってもみないっすけど……。何をやるかだけ聞いてもいいっすか…?」

「んまあ、単純に今回みたいな検証から、後はダンジョン探索のお供、或いは試作品なんかのテストとかが主になるな。無理なことは頼まねえし、断ってくれてもいいぜ。…どうだ?」

「そ、そのくらいなら全然…!むしろこっちからもお願いしたいっす!」

「これで契約成立だな。これからも頼むぜ【超凡夫(ハイ・ノービス)】?」

「ラウルでいいっすよ。えーと、自分もヴェルフって呼んでも?」

「いいぜ。いやー、俺は堅っ苦しいのは苦手でな。正直助かるぜ」

 

 こうして、オラリオの冒険者と新大陸の鍛冶師。その初の邂逅が交わされたのであった。

 

「あっと、そうだ。契約成立の品ってことで、こいつをやるよ。勿論、金は取らねえよ」

「これは…宝石っすか?綺麗っすけど…。もしかして、冒険者用装身具っすか?」

「勘がいいな。だが普通の冒険者用装身具とは少し仕様が違ってな…。その装飾品は武器や防具に付けることで真価を発揮する」

「武器や防具…ってことは、ただ身につけるだけじゃ駄目ってことっすか」

「ああ。武具の説明で、スロットってのがあっただろ?このスロットってのは装飾品用なんだよ」

「確かにそんな話をしたような…」

 

 同時に精鋭調査団盾斧Ⅲにも確か一つ空いているという話を思い出す。

 

「スロットには数とレベルがある。数は最大3個。レベルは4まである。ものによって要求レベルが違って、スロットレベルより高い装飾品はつけられないし、スロットを超える数無理矢理身につけても効果はない」

「ってなると、自分がつけれるのは武器についてる1レベルの奴が1個ってことっすか」

「理解が早くてなによりだ。そいつは耐毒珠【1】。毒耐性 Lv1が発動する装飾品だな」

「これも、防具と同じでスキルが発動するってことっすか…!?」

「ああ。スロットの分だけ有効な効果がつけられるからな。つけて損はないぜ。……それに、防具のスキルと効果は変わらなくてな。防具と合わせりゃ、毒耐性のLvは3。これで毒は無効化出来るぜ」

 

 そのことにラウルは絶句する。確かに、並の冒険者用装身具にも強力な効果はあるし、身につける制限もある分、自由度で言えば低いかも知れない。

 

 だがしかし、それでもスキルの効果によっては破格の性能となる。

 

 ただでさえ冒険者用装身具は特殊な効果に見合った価格をしており、神秘の発展アビリティ保有者が作成していることが殆ど。

 

 故に希少性も高いのだが、さも当然のようにポンと渡し、今の言い草から、それなりの数は揃えてあると予想できる。

 

 極論、今もらった耐毒珠【1】が3つと、スロットさえあればペルーダや毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)などの危険なモンスターの脅威度は遥かに低下する。

 

 もしもこれが明るみに出れば、間違いなく市場価値は暴落しかねない。

 

「……やばいっすね」

 

 何とか絞り出した言葉は、その一言だけだった。

 

「あー…。だろうな。だが、そうは言っても、スロットがある防具なんかは相応の性能になるからな。そう広まりはしないと思うぜ」 

「……まあ、確かにこれだけあっても無意味ってことっすもんね。自分の防具もスロットはないし。そう考えると妥当……なんすかね?」

 

 そう自分を納得させて言葉を飲み込んだ。

 早速とばかりに精鋭調査団盾斧Ⅲに嵌め込み、この場は解散となった。

 

(適当に見て回るだけのつもりだったのに、思わぬ収穫っすよ…!借金問題はあるっすけど、ヴェルフの言葉を信じるなら、そこまで長引きそうでもないかな…)

 

 新しい装備。それも超上質なものが一式に、それを作り上げた鍛冶師と早い段階で関わりを持てたということもあって、ラウルは上機嫌に鼻歌を歌って黄昏の館(ホーム)へと帰還した。

 

 しかし、ラウルはこの時浮かれるあまり気づいていなかった。

 

 街を見て回っていったかと思えば丸1日帰ってこなかった男が帰ってくるやそわそわと心ここにあらずといった様子で、翌日にヴァリスの詰まった袋を持ってこそこそと本拠を出ていった。

 

 特に、金の持ち出しに関しては前科のある男が、である。

 

 それを見られていた場合、どう受け取られるのか。火を見るよりも明らかであった。

 

「あっ、お帰りなさいラウルさん。団長が団長室に来るようにと呼んでいましたよ」

「へ?」

 

 

 

●●●

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)、黄昏の館の一角。団長であるフィンの団長室にて、招集されたラウルは目の前に座りこちらを見据えるフィンに緊張を覚えていた。

 

「あの、団長、自分に用って、何ですか……?」

 

 いつもなら、様々な業務の連絡役や教え子として振る舞っていたであろうが、今回はその様な柔らかな雰囲気はなく、またフィンだけでなく、主神であるロキやガレスまで控えているのだから、余計に言葉に詰まってしまう。

 

 そんな緊張した面持ちのラウルへ向かって、フィンはいつもの柔らかな笑みを消し、団長としての顔で向かい合っていた。

 

「ラウル。君は一昨日に街を見て回ると言ってから、そのまま帰ることなく朝帰りしたよね?」

「は、はい…。何も言わずにダンジョンに潜ったのは本当に申し訳ないと思ってるっす」

「せやな。それは昨日帰ってきたときに聞いたわ」

 

 確認するようなロキの言葉にフィンが頷く。

 

「うん。それは分かっているよ。でも、君は何だか昨日からそわそわとしている様子だったからね。とは言っても詮索はする気は無かったんだけど……。君、今朝朝食後にこそこそと大金を持って出ていったそうじゃないか」

「そっ、それは…!」

「あんまりプライベートに干渉するのもどうかと思ったんだけど、ちょっと普段の君と比べても様子がおかしくてね。それに、ほじ繰り返すのも悪いんだけど、君には前科があるからね。………一応聞くんだけど。運営資金を掠めたりなんて、してないよね?」

 

 一見美少年にしか見えないフィンの眼光は、しかして怜悧な輝きと追求の念が籠っていて、ラウルは思わず硬直してしまう。しかし、それでも決定的な誤解だけは解こうと声を張り上げた。

 

「そっ、そんなんわけないっす!俺が持ち出したのは、自分の貯金だけです!そんな、ファミリアの資金を持ち出したりなんて…!」

 

 ラウルの必死の弁明にも、フィンは顔色を変えることなく見つめていたが、ロキが頭を横に振ったことからその空気は一変した。

 

「だろうね。まあ帳簿を確認した限りでは勝手に持ち出された形跡はないし、分かってはいたんだけどね。念の為、聞かせてもらったよ」

「ロキはともかく、儂までいる必要はあったのか?ラウルは既にそんなことをするタマではなかろう?」

「いやぁ分からないよ?いつの間にか僕たちをも出し抜く程の頭をつけている可能性もあるしね?」

「い、いえそんな…!」

 

 どうやら、フィンは最初からラウルは資金の持ち出しなどしていないと分かっていたらしい。

 

「大丈夫だと思ってはいたけど、そこに限らなくても使い込んでしまう質だった君が、街を見て回った後にこの行動だ。また娼館にでもハマってしまったんじゃないかと、アキが相談しに来てね」

 

 爽やかに笑いながらフィンが告げると、ラウルの頭にはしっかり者の同期の姿が思い浮かぶ。

 その心配性というか、姉のような世話焼き具合に苦笑を零すラウルだったが、次のフィンの言葉に息を詰まらせる。

 

「それで参考までに聞きたいんだけど、君は一体何を買ってきたのかな?」

「え、遠征で失った防具と武器っす。たまたま街でいいのを扱っている所を見つけて…。向こう側からの好意で、その試しに付き合ってダンジョンに……」

「成程。それなら納得だし、大方それによる割引なんかも言われたんじゃないのかい?君の目にかなう武器防具なら相応の値は張るからね」

「さ、流石団長っすね」

 

 試しに付き合ったのだけの情報で、割引まで言い当てられたことに、ラウルの頬がひくつく。

 

「何を買ったのか聞かせてもらってもいいかい?」

「い、一応武器と、額当て、胸鎧胴鎧、手甲とグリーヴっす」

「へえ、君が使うものとなれば、値は張ったんじゃないのかい?」

 

 その言葉にギクリとする。幹部陣の専用武装でもなければ【ロキ・ファミリア】所有の武器で事足りる。Lv.4のラウルには少し不足かもしれないが、十分実戦に耐えうる程度の武器はある。

 何なら、繋ぎとして使う選択肢もあったにも関わらず即決で買ったのであれば、それは相応のものとなる。

 ただでさえ上級鍛冶師の作った装備は高い。今のラウルの貯金額を完全に把握しているわけではなかったが、仮にこれがLv.3であったとしても、相当な出費になるであろうことは、言うまでもない。

 

「……2800万ヴァリスっす」

「………ウーン、思ったよりも高い額が出てきたね」

「1日で決めるにしては高い買い物じゃな」

 

 ここで始めてフィンの顔色が変わる。その顔には遠征後の後処理や資金繰りに忙殺されてきた苦労が浮かび上がっていた。

 

「なあラウル?そないに貯金しとったか?前聞いたときはそこまで貯まっとるようなことは言ってへんかったやろ」

「………………借金、したっす」

 

 ラウルの絞り出すような声に全員の眉がピクリと動く。しかしそれよりも早くラウルは慌てて声を上げる。

 

「と、とはいっても!借金は500万ヴァリスですし、返すアテも一応あるっす!無利子ってことと、今回みたいに試し斬りや使い心地なんかを報告すれば、その分の融通も図るってことでした」

「500万ヴァリスね……。君なら問題はないだろうけど…」

「確かに自分の命に関わる装備ならば妥協は出来んだろうがな…」

「ほーん。テスターってわけか。となると、何か新しい奴とか斬新な武器とかなんか?」

 

 その反応は三者三様だったが、仮にも最大派閥。500万程度なら可愛いものだと胸をなでおろす。勿論借金の都合などは考えなければいけないが、ファミリアの運営資金に手を出したり、節約のためにと言って不健康な生活を送るのでもなければ問題はない。

 あくまで使用したのも個人の貯金のようであるし、単純に生活するだけなら黄昏の館にいれば気にする必要もない。

 

 無論返済のアテのない団員や、下級の団員などであったら苦言を呈する所であったが、ラウルは十分に理解しているために、言う必要はない。

 

「そういえば、借金したっちゅうことは予算超えとったんやろ?一体何万ヴァリスしたんや?ウチの在庫よりもええのなんやろ?」

 

 そして、ラウルの問題が解決すれば、ロキの興味はラウルの買った装備に移った。

 

「それもそうだね。他ならぬ君の命を預ける道具だ。僕たちにも見せてくれないかい?」

 

 フィンも便乗して価格に見合った性能か見ようとする。ラウルには色々と教えてはいるが、どうにも商売っ気や強気な取引が苦手なようだ。加えて、目利きもそれなりには良くはあるが、巧妙に騙されれることもある。

 値段に対しての品質が見合っていないものを買わされたりしている可能性も考えての発言だった。

 

「も、勿論っす!団長にも見てもらえるなら!」

 

 そう言って、ラウルは部屋の前に置いていた(自室に寄る前に立ち寄ったため)装備一式を持ち出してフィン達の前に広げた。

 

 薄っすらと青みがかった金属鎧、と竜鱗の額当て、剣斧がその場に転がる。ロキはその芸術品のような澄んだ青みに目を奪われ、軽い気持ちで鑑定を始めたフィンとガレスは目の色を変える。

 

「おお。綺麗な色やなー。どっかで見た悪趣味なキンキラよりうちはこっちのが好きやな」

「……おいフィン」

「これは……」

 

 そう呟いた後、まじまじと無言で見始めた二人に、ラウルは緊張感を覚える。

 

「あ、あの…」

「ラウル。触ってみてもいいかな」

「あ、どうぞ全然!」

 

 高い集中を向けているのか、フィンは視線を逸らさずにラウルに言葉で許可を取ると武具の構造や中身を粗探しでもするかのように隅々まで見ていた。

 

 こうもじっくりと見られると、ラウルも気が気ではないようで、落ち着きなくそわそわと視線を彷徨わせていた。

 

 そして一通り見たかと思うや、ガレスと視線を交わすとそれらを元に戻してラウルへと顔を向けた。

 

「ラウル」

「は、はいっ!」

 

「これ、本当に2800万ヴァリスだったのかい?」

 

 

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