ベル達3人がハンターなのは間違っているだろうか?   作:食卓の英雄

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ラウル・ノールドの非凡なる一日(6)

 フィンの表情は真剣だ。先ほどまでの人当たりのよい顔つきからはうってかわって、まるで僅かな嘘も見逃さないというような瞳にドキリとする。

 

「は、はい。あっ、一応元の価格は3800万っす」

 

 この両名が顔色を変えて問いただすなど、並のことではない。言葉を詰まらせながらも何とか返答する。

 

「それはこれ全部で、だよね?一つではなくて」

「いっ!?そ、そんな誤魔化しなんてしてないっすよ!」

「ああうん、だろうね」

 

 するとフィンは顎に指をやり、少し難しそうな顔をして黙り込む。それが余計に緊張を覚えさせる。

 

「あの…」

「ん、ああ。悪いね。置いてきぼりにしてしまった」

「それはいいんですけど…。もしかして、その装備が何か…?」

 

 あのような反応をされては、自分が気づいていないだけで、何か重大な欠点があるのではないか。品質に見合わない金額や細工などで騙されているのではないか。

 それらの疑惑が脳裏を掠め、しかし反対に自分自身が試し、あれ程の高い性能を誇る装備への信頼と、あの快活とした鍛冶師に限ってそんなことはないだろうという気持ちがせめぎ合っていた。

 

 緊張の眼差しでラウルが言葉を待っていると、フィンは顔つきを和らげる。

 

「いや、うん。ラウルが心配するようなものではないよ。ただ、少し()()()()と思ってね」

「どういうことやフィン?安すぎる言うても、3800万ヴァリスはウチでも一部の眷属(子供)達くらいしか使わへんやろ」

「うむ。儂もフィンに同意じゃな。こんなものをこの値段で売ってるとなれば、ヘファイストスやゴブニュ(大手鍛冶派閥)辺りが黙っとらんじゃろう」

「んー、そんなになんか?」

 

 第一級冒険者としての経験と目を持つ二人は、今一よくわかっていない様な主神にも伝わる様にハッキリと答える。

 

「そんなに。だよ。専門家程ではないけど、僕たちだって装備の鑑定眼はそれなりにはあるつもりさ。その僕たちの共通認識として、これがその値段だというのは安すぎる。どんなに低く見積もっても、第二等級武装程度はあると断言できる。勿論、ここに並ぶ武器防具の全てに置いてね」

 

 フィンの言葉にロキが笑みを引き戻し、性能の高さを実感していたラウルもそこまでかと驚く。

 

 何せ、今現在最高級の品質であり、幹部陣が扱う第一等級武装と比べるとやや見劣りするものの、その性能自体は高く、第一級冒険者であるベートや、都市最高の魔導士リヴェリアの弟子であり、威力ならば第一級冒険者の匹敵するとまで言われているレフィーヤが扱う武装などが当てはまる。

 無論、上記の二名はどちらとも特殊武装(スペリオルズ)や魔導士用の魔装であり、単純な防具などとは比較できないかもしれないが、少なくともLv.4の冒険者ですらそう気軽に持っているものではないのだ。

 

 そんなものの全身セットなど、よっぽど資金が潤沢でもなければありえないのだ。

 

「勿論見ただけだから実際にそうとは限らないけど、少なくとも全てまとめてその程度の価格で売られていいものじゃない。仮にこれがありふれたとしたら、鍛冶派閥からしてみれば相当な暴落が起きるよ」

「あー、そやったらファイたんやゴブニュも黙っとらんなぁ。ラウル、これどこで買ったんや?」

「あ、えっと…。路地裏で売店を出してたので、そこで…」

「これを路地裏で?これ程の腕前なら、ファミリアとして店を構えていてもおかしくはないだろうに…。何という【ファミリア】だったんだい?」

「いえ、その…。作ったのはヴェルフって人っすけど、何でも主神からは派閥名を出さないことを条件に個人での出店を許可されているって話でした」 

 

 普通は高い実績や実力を備えた派閥としては、むしろ名を売るためにブランド価値としても派閥名を押し出す傾向にあるが、今回はそれに当てはまらない。

 

「フム、少し妙だね。これだけの武装が作れるなら真っ当な手段でも直ぐに名を上げられるだろうに…。競合しているとはいえ、【ヘファイストス・ファミリア】も【ゴブニュ・ファミリア】も善神かつ職人肌の実力主義者。新人潰し紛いのことをする暇があれば、自分たちの腕を高める方に力を入れるだろう」

 

 フィンは腑に落ちないと言った様子で顎に手を当て頭を悩ませる。

 

 何せ、全てがチグハグ。性能は紛れもなく高いが、価格が低すぎる。無名故の商策だとしても、これならばもっと高くした方が変に疑われないし、何より稼ぎになる。

 しかも名を売った方が箔はつくだろうに、わざわざ隠している。個人の主義ならばともかく、主神からの許可とあれば、上の懸念も理解したうえでの行動となる。

 

 派閥が弱小だから自衛のためという推測も出来たが、第2等級武装相当で全身を揃えられるほどの武具をそう売れるとなると、最早そういった話ではない。

 何せ、冒険者の街オラリオにおいて、冒険者達の生活と密接に関わる鍛冶派閥の成長は喜んで然るべきだ。

 無論ヘファイストスとゴブニュにとっては喜ばしくはないかもしれないが、少なくとも冒険者達からすれば有難い。他派閥の介入も、これだけの実力があるのであれば火種になるだろうし、ギルドも黙ってはいないだろう。

 

 故に、フィンの疑問はどうにも結果とは結びつかないのだ。そう考えている間も、ガレスはアロイシリーズ等を見てウンウンと唸っていた。

 

「む、この額当てに使われているのはもしや竜の鱗か?」

「はい。えっと木竜(グリーンドラゴン)極光竜(ブルードラゴン)の鱗を使ってるっす」

「ほう…。下層の稀少種と中層の宝財の番人の竜種とは…。中々贅沢じゃな」

「そうですよね。実はどっちも自分が倒した奴のドロップアイテムで作ってもらったんすよ」

「…何?自分で倒しただと?以前の遠征ではどちらにも遭遇していないが…。持っていたのか?」

「あっ、いえ、その…。一昨日、ヴェルフとダンジョンに潜った時に…」

「そのヴェルフとかいう奴と二人でか?いくらお前さんがLv.4とはいえ、下層は危険じゃろう」

「いえそれが、ヴェルフは明らかに自分より強くて…。一応、木竜の方は自分一人で倒せたっすけど……」

 

 その情報にガレスは眉尻を上げ、フィンも珍しく意外といった様子で目を見開く。

 

「待った。ラウル、君は単独で階層主とも比較される木竜を倒したのかい?」

「あっ、そ、そうっす!色々とあって忘れてたっすけど、あの木竜を倒せたんすよ自分!あの装備のお陰と、ヴェルフが他のモンスターを介入しないようにしてくれてたとはいえ、一人で!」

「ロキ」

「嘘やないで。いやぁ、あのラウルがな〜。もしかしたらランクアップしててもおかしくはないかも知れんな…。後で更新に来てな。まだ遠征の分も終わっとらんけど、特別や」

「お、お願いするっす」

 

 色々とあって喜ぶ暇もなかったのか、ラウルが興奮気味に語るそれに、フィンとガレスは素直に感心するように眺めていた。

 

 何せ、あのラウルである。優秀ではあるのだが、派閥の為でもないのに、そういった冒険をするとは思わなかったのだ。

 

 少々予想外だが、期待を上回ってくれることに不満などない。

 

 不満はないのだが…。余計にその情報がヴェルフという鍛冶師を分からなくさせた。

 

「ガレス、どう見る?」

「うーむ、難しいな。儂個人としては安い上にラウルの成長に一役買ってくれたのには感謝したいところじゃが…」

「ああ。ラウルから見ても明らかに強いなら、最低でもLv.4の中でも上澄み。ともすれば第一級冒険者でもおかしくはない。……だけど、僕はヴェルフなんて名前に聞き覚えはないし、何より鍛冶師でそれだけの実力を持っているなんて、椿以外には知らないよ」

「余計に分からんな。それだけの力があれば、下手なファミリアがちょっかいをかけても黙らせることができるだろうに」

 

 鍛冶師として名を挙げるだけの実力があり、武力による介入も跳ね除ける力がある。だというのに派閥名を隠し、市場価格の5分の1以下の値段で殆ど捨て値に近い価格の売値。

 

 あまりに謎だ。趣味や愉快犯と言われた方が納得出来る程に。

 

 まさか本気でこちらの相場が分からない訳ではあるまい。いや、よしんばオラリオ外の地で活動していたのであれば、更に高くなる筈だ。

 そもそもこのレベルの武具に必要な素材となればやはりダンジョンの方が入手しやすく、加工可能な鍛冶師も多いからである。

 

「それにしても、これは一体どんな金属を使って作られたんだろう。最初は超硬金属(アダマンタイト)かとも思ったけど、どうやら違うみたいだし…」

「さてな。しかし、これだけの加工を可能にしておるのだ。技術は確立していると見える。……そういえば、試しに付き合ったとか言っておっただろう。オラリオでは見ない製法や素材故に、その試しとやらを提案したのではないか?」

「オラリオでも受け入れられるか、ということかな?となると、何か仕掛けがありそうなものだけど……」

 

 まじまじと見た所で品質のいい鎧だという事しか分からない。本職ではないのだから当然とも言えよう。それに苦笑し、素直に聞くことにした。

 

「ねえラウル。別に価格で選んだ訳じゃないんだろう?もし良ければどこを気に入ったか教えてくれないかな」

「えっと、最初は何となく気に入ったくらいだったんすけど、自分のレベルには見合わないかなと思ってたら、店主が奥からこいつを出してくれまして……」

 

 ラウルは語る。装備との出会いの経緯から、防具の着心地、堅牢さ、そして付与されているスキルのことを。

 

 やや興奮気味に続けるラウルの言葉を、フィンとガレスは神妙な面持ちで聞いていた。

 

「成程…。ただでさえ完成度の高いこの防具それぞれに、複数の特殊効果か…。ベートのフロスヴィルトの様な目に見えた機能はないものの、それぞれ冒険者用装身具や発展アビリティ、スキルに近い作用を持っている、ね」

 

 情報を噛み砕いて、側頭部を指で叩くフィンは、少し考える素振りを見せたかと思うとこう言い放った。

 

「…うん。絶対にこんな値段で売られていいものではないね。むしろ一つだけでも納得出来る金額、いや効果によっては安いとすら思えるよ。うん、それに聞く限りでは他にもいろいろなスキルもあるんだろう?正直に言うと、僕もちょっと欲しいと思ったね。ガレスはどうだい?」

「儂か?儂にはもう少し重装備の方がいいが…。うむ、悪くない。少なくとも予備の防具よりはこっちのが上等じゃろう。儂に合うものがあれば、確保しておきたいとは思うわい」

「うわー、この二人がこんだけ言うとはそのヴェルフ?って奴中々凄腕やなー。そんなもんを格安で買えてラッキーやったなあ。木竜も一人でぶっ倒した言うし、もしかしたらラウルの時代が来るんちゃうか?」

 

 両者からの評価は高い。するとロキは茶化しに入ったが、その防具自体の性能は認めているらしい。

 すると、やはり残った精鋭調査団盾斧Ⅲも気になるのか視線が集まる。

 

「もしかしてそっちの剣にも何か特殊効果でもあるのかな?」

「盾の側面が刃になっておるが、いざとなればこっちで斬ることも可能ということか」

「あ、それなんすけど…」

 

 ラウルは盾斧を手に取ると、天井の高さを確かめながら、剣を盾と連結させ、斧モードへと合体させる。

 

 ガシャンと機構音が鳴り、斧が中央から展開し剣の先に滑り出る。

 

 突然の変形にフィンとガレスは呆気に取られ、最初に立ち直ったのはロキだった。

 

「カッケエェェェェェェ――――!!何やそれ何やそれ!!剣と盾が合体して斧に!?合体&変形!その上合体の仕方もガシャガシャしとってええ!それはもう男の浪漫っちゅうもん分かり過ぎやろー!」

「おぬしは女神(おんな)じゃろう」

「かーっ!何を言うかい!人も神も全員どっかしらに男の子の気持ちを秘めてるんや!こんなもん見せられたら黙っておられるかい!」

 

 ロキは興奮した様子でチャージアックスを構えるラウルに飛びかかろうとして、危険だからとガレスに首根っこを掴まれて停止する。

 

「剣と盾に加えて、斧の機能まであるのか…。合体して、扱いの異なる武器へと変形する。そんな武器は見たことがなかったから正直驚いたよ。……うん。確かにこれらはオラリオには馴染みがない技術で作られている様だね。……うん、特に問題はないよ。呼び止めて悪かったね。ゆっくりと体を休めるといい」

「はい。失礼します!」

 

 そう言うと、ラウルはそれらの武具と共に部屋から退室する。それを見届けた団長室に残った二人と一柱。

 ガレスは怪訝そうにフィンへと問いかける。

 

「のうフィンよ。お前であればその鍛冶師や装備について繋がりを作ろうとラウルに言うかと思っておったが…。お前も分かっておるだろう。あれは格安なんてものではない。第一級冒険者でもあれ程の装備を揃えている者はそうおるまい。だというのに、追及もせずに解放とは、何を考えている?」

「何を考えているなんて、まるで僕が常に何かを企んでいるみたいな言い方じゃないか。……ガレスは気づいたかい?」

「あながち間違ってもおらんだろうに…。気づいたとは、何がじゃ?」

「あの盾に描かれていた模様。何処か見覚えがあると思ったけど…。数日前の酒場の一件を覚えているかな?」

「酒場…。ああ、ベートがやらかして、ロキが吐瀉物まみれになったアレか」

「げえっ、フィン〜、嫌なこと思い出させんなや……」

 

 やはり直近では心に残っている事件だったようで、すぐに二人も思い出したようだ。

 

「うん。その件で間違いないよ。その時に出会った【ヘスティア・ファミリア】のベル・クラネル。彼が身に纏う革帯(ベルト)に盾に刻まれたものと全く同じ紋様があった」

「…ほう。つまりあの少年もヴェルフという鍛冶師の装備を?」

「断定は出来ないけど、何かしらの関係はあるだろうね。それにあちらの主神である神ヘスティアはうちのロキとは不仲だろう?下手に僕たちが出張ることで、何か起こっても可笑しくはないからね。それなら、個人で嗅ぎ回るよりも、今度聞く機会のある相手に尋ねてからでも遅くはないし、そちらの方が面倒にはならないだろう?」

 

 「それに」とフィンは目を伏せて言葉を続ける。

 

「あのベル・クラネルという少年は相当な実力を持っていそうだったけど、その割には風聞は全く聞かなくてね。裏の世界であればそういうこともあるだろうけど、彼はそのような人物には見えなかった。聞く所によるとヴェルフという鍛冶師もラウルの見立てではLv.5以上は確実というじゃないか。そんな人物が、同じタイミングで都市に現れたんだ。関係性を疑うのは自然だとは思わないかな?」

「成程のう。【ヘスティア・ファミリア】か、それに近い関係であると言いたいのだな?」

「まあ推測に過ぎないけどね。少なくとも、不興を買っていいことはない、ってことだけは断言できるよ。……そういうわけだから、ロキも当日は抑えて欲しいんだけど、いいかな?」

 

 装備、タイミング、力、それらの共通点を見いだしたフィンが脳内で予定を立てながらロキへと釘を刺す。

 こうなれば、ファミリアの運営にも関わる団長モードとなるので、ロキも弁えて承諾する。

 

「まあ、ドチビがなんもせんのやったら、大人しくしといてやるわ。ウチかてフィンの邪魔をしたいわけやないからな」

 

 そう言い放ったロキは、もう話は終わったとばかりに団長室から去っていった。その風のように自由な気質の割には、眷属大好きな主神を困った瞳で見送ると、ガレスもこれ以上の用はないと退室しようと歩みだした。

 

 しかし、直後に振り返って、少しの疑問を残した表情を向けた。

 

「フィンよ。確かに理由としては納得出来たが、それにしては慎重過ぎはせんか?仮に今のようなことが起こったとて、ここまですることなどなかったはずだ。……何か、お前が気にかかることがあるのか?」

 

 その表情は長年の戦友の微かな違和感に気づいた老兵の確かなもの。その視線に射抜かれたフィンは「敵わないね」と笑みをこぼして語る。

 

「実を言うと、少し前から指が反応していたんだ。それが何かは分からないし、危機らしい危機もなかったから、放っておいたんだ。……だけど、あの日彼と直接出会ったとき、より強く指が反応したんだ。そして同時に、このオラリオに、いや、下界に何か大きなことが起きるかもしれないと、直感的に思ったんだ。………分からないことだらけだけど、彼が唯一の手がかりなんだ。……打算ありきな答えだけど、納得したかな?」

「下界とは大きく出たな…。しかし、お前がそう感じているということは、強ち間違いでもないのだろう。打算うんぬんは長く共にいるから分かっておるが…。まあいい。その大きなこととやらに気を取られ過ぎて判断を見誤るなよ?」

 

 ガレスの心配するような声に、フィンは毅然とこう返したのだった。

 

「勿論さ。僕は【勇者(ブレイバー)】だからね」

 




これでラウル・ノールドの非凡なる一日は終了。次回から本編へ戻ります。

因みにアロイαシリーズは暫定的に第二等級特殊防具として扱われ、単純な防具としての性能も第二等級防具の中でも上の方になります
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