魔法科高校の劣等生 黒羽の姫と焔の絶対王者   作:レオ2

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夜の帳に焔は燃ゆる

 衝撃的…なんて生温い表現では収まらない。まさに鉄球で殴りつけられたかのような心の衝撃は,一夜を明けても収まる事は出来なかった。

 焔矢が四葉の保護の下に暮らせる代わりに云々の話は,正直焔矢的には妥協点どころか魅力的な提案として話が進んだのは喜ばしい事だと思った。

 自分が世間の一時的な注目によってではなく,魔法的な意味でも貴重な人材故に他勢力から狙われるという話は…それっぽい視線を受けたことはあったので直ぐに飲み込む事が出来た。だから護衛的な意味では破格の対応をしてもらったと言っても良いだろう。

 

 だけどまさかその後に…特大の爆弾が投げつけられるとは思わなかった。

 

 結局昨夜は一睡もする事が出来ず焔矢と亜夜子は帰りの車に乗っていた。

 

「…」

「…」

 

 ただし,2人の間に行きのような会話はなくお互い気まずげに外を見ている。

 その理由は”婚約”する事だけではなかった。

 昨日のデザートの時間中に,音羽焔矢と黒羽亜夜子の婚約をほぼ決められてしまった後に焔矢によって少しの猶予期間が与えられたのである。

 その猶予期間というのは焔矢ではなく,亜夜子に対してのものだった。

 

「時間が欲しい?」

 

 亜夜子が自分の婚約によって動揺して口が開かなくなったのを見た焔矢が,真夜に対して時間の猶予を交渉したのだ。不思議そうに問い返した真夜のやけに少女っぽい仕草が嫌でも頭によぎる。

 

「さっき真夜さんは婚約が近道だと仰いましたが,それは契約書でも良いということでもあります。彼女の意志を無視した婚約は,許容できません」

 

 真夜は先程,自分の身を証明する為に「契約書でも良いけど」と言っていた。つまり婚約する必要は一応ない事になる。

 あくまでもの婚約の方が楽だし,紙や文字の上で成り立つ約束よりも感情的に縛り付ける婚約の方が焔矢には有効だという真夜の完璧な分析の下の婚約という手札だったのだが,それに焔矢が異を唱えて来たのに意外感を隠せなかった。

 なぜなら

 

「あら,焔矢さんは亜夜子さんの事が好きなのだと思っていたのだけれど…違うのかしら?」

 

 好きな人と婚約…結婚できるというのに何が不満なのかと,本気なのか冗談なのか分からない疑問符を命一杯浮かべた表情で焔矢を見つめる真夜。

 焔矢は少し言葉に詰まって隣の亜夜子を見ると,彼女も彼女で今何を考えているのか分からない,そんな眼で焔矢を見上げていた。

 

「…それは違いません,亜夜子の事を少なからず想っている事は認めます。ですけど,亜夜子の気持ちを無視してまで婚約したいとは思いません。」

「亜夜子さんがNOと言えば,契約書によって自分の身を四葉だと証明してほしい…という事ですね?」

「お手間をとらせる事は重々承知してます。でも俺は…亜夜子の意志を尊重してほしい。当主からの命令じゃなく…自分で選んだ道を信じてほしい。俺をここに縛り付ける為の”道具”になんてなって欲しくない」

 

 戦闘用魔法もなにも持っていない男が,魔法を使え世界最強に数えられる女性を前に啖呵を切った事は人によって無謀という。だがこれは勇気である。

 生殺与奪の権を握られていたとしても,亜夜子が望むことをして欲しいという勇気だ。…人はそれをやっぱり無謀ともいう。

 

 真夜も四葉の名前を知って,そして自分を前にして自分の命よりも亜夜子を優先する焔矢の行動を見て面白そうに口元に微笑を浮かべた。

 

「あなたって面白い人ですわね。…良いでしょう,亜夜子さん」

「はい,ご当主様」

「お聞きになった通り,婚約をするかは亜夜子さんの判断に委ねます。ただし,そう時間はあげられないわ。七草が音羽さんの事を調べているそうですから」

「わかり…ました」

 

 こういった事情もあって,実際の所焔矢にはそれほど亜夜子の事を気まずく感じる必要はないのだが亜夜子の方はそうも言えない状況なのである。

 それはそれとして,焔矢には真夜から条件が出された。

 1つは引っ越し,基本的に住む場所を亜夜子達が住んでいるビル,つまり前の部屋に引っ越して欲しいという事だった。これは純粋に護衛のしやすさの為でありこの方が都合が良いからだ。

 特に断る理由も無かったのでOKして,取り合えず今日この後は家に戻って必要なものを持って行こうと思っている。

 

「どうして」

 

 そこまで昨日の出来事を頭の中で再生していた焔矢は,隣からかけられた声にゆっくりと振り返った。

 そこには亜夜子が心底不思議そうな表情で真っすぐ目を見つめてきていた。

 

「どうしてご当主様の話に異を唱えたのですか?」

「どうしてって…昨日話したこと以上のは無いんだが」

「…わたしが好きというのも?」

「…改まって聞くな恥ずかしい」

 

 いつもならニヤニヤと笑うような場面でも,亜夜子はそうすることなく逆に少し恥ずかしそうに眼を伏せた。

 普通なら…ご当主の”命令”に背くような事を言っている焔矢を,責めるべきなのだろう。

 だけど亜夜子はある意味真夜を裏切った形なのにもかかわらず焔矢に感謝をしていた。

 

(私はまだ達也さんの事が好き)

 

 その気持ちがあったからこそ,婚約者を決められるという事に胸が苦しくなってしまっていたのだ。そしてそれは焔矢に対してもそうだった。

 別に焔矢の事が嫌いという訳ではない,人間としては所々に欠陥はあるが総評としてはどちらかというと好きに入るのだろう。だからこそ,仮定の話とは言え焔矢が婚約者であればいいと思っていたのだ。それにもし無理なら昨日あの場で婚約を拒否したはずだ。

 だけどいざそれが現実になってみると,思ったよりも素直に事実を受け入れる事が出来なかった。その理由はやっぱり達也の事が好きという意識だった。

 

 だから考える時間が欲しかった。こうして答えを亜夜子に委ねられた今,亜夜子にはそれが出来るのだから。

 達也が好きだという自覚がある中で…果たして自分は隣にいる男を愛せるのだろうかという疑問を解決する為に,少しの間思考の闇に囚われるのだった。

 

 ——自分は本当に,焔矢の事が好きなのか

 

 ★

 

 国立魔法大学,全国に9つある付属高校を卒業したものが入学を許可されるこの大学では普通の大学のような授業の他に,魔法に関係する授業も当然ある。

 そもそも魔法師を育成するための機関なので当然であるが,魔法も理論的なことだけじゃなく実技も勿論含まれている。

 

「姉さん!」

 

 魔法の実技中,いつもなら余裕の筈の課題をしていた亜夜子だったが文弥の切羽詰まった声を聞いて意識を覚醒させた。

 それと同時に展開中だった起動式がファンブルを起こしてしまい,反動で少しよろけてしまった。亜夜子の背中を近くで同じ実技をしていた文弥が支えてくれることによって事なきを得たが,周囲の人間は亜夜子を珍しそうに見ていた。

 亜夜子が実技でミスするなんて事は一度も無く,それも当然で亜夜子はあの四葉の一員であるので寧ろ出来て当然だと思っていたのだ。

 そんな彼女が,初歩的なミスをするなんてどう考えてもただ事ではなかった。

 

「文弥,ありがとう」

 

 一見いつもとそれほど変わらなさそうな態度に見えるが,亜夜子の様子が可笑しい事は文弥は当然気が付いている。

 そしてその理由も,焔矢との婚約をどうするかで悩んでいるのは知っていた。

 

「姉さん,今日はもう良いんじゃないかな?」

 

 この実技は元々規定の記録を出す事が目標であり,亜夜子は思い悩む前にそれをクリアしていた。クリアしていたからこそ焔矢との事を考えてしまい,結果実技を失敗してしまった。

 今回は文弥が声をかけたことによって大事にはならなかったが,集中しきれていない亜夜子をこのまま参加させるのは危険だと思ったのだ。

 

「…そうね,少し早いけどお暇するわ」

 

 授業はまだ20分ほど残っているが,そもそも規定記録は達成しているので大丈夫だろうと考え亜夜子は先に実習を終わらせることにした。

 このまま集中しきれないのに続ける方が危ないからだ。

 

 実技の教室を出て,亜夜子はそのまま学食へと向かった。もう既にお昼の時間帯に差し掛かり,せっかく授業を途中で抜ける事が出来たのだ。普段は激込みな学食で何か食べようと思ったのである。

 

 そう,ただそれだけの純粋な考えだったのだが…

 

「亜夜子」

 

 ありきたりな定食を注文し,プレートを持ってどこか空いている席に座ろうと席を探していた亜夜子の耳…絶え間ぬ肉体的なトレーニングによって焔矢とは別の意味でよく心に響く声が聞こえた。

 そちらの方へ目を向けると,窓際の席で達也がノートパソコン型の情報端末を広げてこちらを柔らかい笑み見つめていた。

 達也がここにいるのは少し珍しく,恐らく授業中の深雪待ちなのだろう。

 

「達也さん!」

「席を探しているならここを使うと良い」

「恐縮です。それではお言葉に甘えさせていただきますね」

 

 周囲の亜夜子を誘おうとしていた男子面子から達也に刺すような視線が向けられるが,達也は気にする事も無く向かいの席を勧めた。

 

「文弥はどうしたんだ?」

 

 この時間は同じ実技の時間,別に大学内でいつも一緒にいる訳でもないが特別理由がない限り別行動は珍しいなと思ったのだ。

 

「今日は…少し早めに実習を切り上げさせてもらいましたの。文弥はまだ実技室に」

 

 そう言うと,亜夜子がどこか不調なのも達也には当然丸わかりであり,そしてその理由も知っていた。

 だがそれを先ずは指摘することなく,亜夜子に食べるように勧める。亜夜子は言葉に甘えて定食に手を付け…それも半分ほど無くなった時,達也の方から切り出した。

 まるで世間話をするかのような軽い調子で,ただ他の生徒の声に紛れるようにだ。

 

「音羽焔矢と婚約するそうだな」

「…っ,ご存じだったのですか?」

「日曜日,母上から知らされた。」

 

 数年前までは叔母上と言っていた達也だが,今では戸籍上は真夜が母親なので人の眼が多いここでは母上というようにしている。

 

「おめでとう…というのは少し違うが,亜夜子が珍しく悩んでいる原因はそれ位しか思いつかない」

「まあ,達也さんったら私が普段から悩みがない猪突猛進女みたいな言い方ですわね」

「そこまでは言わないが,亜夜子も見えない所で悩む事はあっても外ではそれを出さない人間だろ。」

 

 達也に自分の性格を言い当てられてやっぱり敵わないなと自嘲する。

 

「流石,ですわね」

 

 そう言って亜夜子はそっとCADを操作して机を中心に遮音フィールドを展開する。四葉の女性の婚約,などという話はそれなりに影響力がある話。

 まだ確定もしていない段階で他の人間にそれを公開させるような事はしたくなかった。達也も情報端末を折り畳み,亜夜子の話を聞く体勢を取った。

 

「彼が嫌いなのか?」

「いいえ…性格に少し難ありではありますが…人間としては評価が出来ます。」

 

 そう,婚約自体には嫌悪感はそれほどない。寧ろ何も知らない男性よりも焔矢の方が気楽の付き合いを出来そうだし,彼を弄ぶのは楽しい。

 それに自分が四葉の家系だと知っても態度を変えることなく接してくれる。四葉と聞いて態度が豹変する人よりかは亜夜子も素を出せる人間だ。

 

「私の意志を尊重してほしいとご当主様に啖呵を切られた時はどうなるかとも思いましたが,それだけ…彼に大事にされているのだと思うと悪い気はしません」

 

 焔矢の口から,自主的ではないかもしれないが好意を伝えられている。亜夜子位になると接しているだけで大体好意があるかどうかは分かるが,それが嬉しかったのは初めてかもしれない。

 中学も高校も,そして大学の同級生の大体は下心ありきなものが多いので余計にそう感じた。

 焔矢の場合,亜夜子から見ればむしろ下心を隠すのが苦手な人間に見えるし反応も分かりやすい。それが却って付き合いやすさを生んでいるのだ。

 

「じゃあ,どうして悩んでいるんだ?」

「…達也さん」

 

 悩んでいる理由を聞かれると少し答えにくかった。

 なぜなら,婚約を素直に受け入れられない理由に「まだ達也の事が好きだから」というものがあるのを亜夜子自身が分かっていた。否,分かっていたというよりかは縛られているという方が正確かもしれない。

 自分の初恋が,もう叶わない事を知っている。それでも達也という男性は亜夜子にとっての理想の男性であり…盲目的に崇拝する人だ。

 だから,この恋に決着を本当の意味で――達也をキッパリと諦めない限り…自分は婚約に踏み出せない。

 

 ここまで婚約に悩んでしまうのは,焔矢の事を憎からず想っているからであり亜夜子自身も既に自分が彼に持つ好意を自覚していた。

 出会ってから,一緒に天王から逃げて,真実を知って,敵対して…ステージの彼を見た。

 

 普段のどことなくかまってあげたくなるような雰囲気を持つ彼が,ステージ上では”王者”として君臨したあの日のライブは未だに亜夜子の脳裏にこびりついている。

 普段とのギャップにらしくもなく鼓動が早まったのを覚えている。

 

 だけど…その想いが今達也に向ける好意と同じなのかは,正直分からなかった。

 今まで達也にしか恋をしてこなかったから,それと同じものなのか分からなかった。

 いや,そもそもで自分は今,達也の事が本当に好きなのだろうか?

 

 達也に恋をしていると思っているからこんな悩みが出るのなら…簡単にそれを確かめる方法があった。

 

 

「好きです」

 

 

 以前までなら言わなかったであろう愛の告白,どうしてか今は恥ずかしがることも無く言う事が出来た。その時点で…今の自分が達也に向ける感情がなんなのかを推し量る事が出来てしまった。

 その事を自覚するのと同時,達也はまるで動じる事も無く淡々と返した。

 

「悪いが,その想いに応える事は出来ない。」

 

 それは玉砕の言葉だった。

 その結果は亜夜子の予想通り過ぎる言葉で――不思議と落胆の気持ちは無かった。

 別にワンチャンスがあるとか思っていた訳ではない。ここで彼が断わらなければ,寧ろ彼の評価を堕としていたであろう問いかけ。

 

「そうですよね」

 

 だから苦笑交じりにそう言って1つため息をついた。

 達也が亜夜子にとって敬愛する存在なのは変わらない。自分に魔法師としてのアイデンティティをくれた達也を尊敬し,彼の為に邪魔者を排除しようという想いは変わっていない。

 変わったのは…彼に対する異性愛がもうなくなっていた事だった。何食わぬ顔して達也の言葉を受け流した亜夜子はその事に自分が一番驚いていた。

 

「亜夜子,俺がいうものでもないかもしれないが…欲を言えばお前には音羽焔矢と婚約してもらいたい」

 

 その内心の驚きを凌駕する話が,まさか達也の口から飛び出てくるとは思わず亜夜子はハッと顔を上げて達也を見た。

 達也はいつものポーカーフェイスで,淡々と亜夜子の事を見つめていた。そこに宿る瞳は優しい色があった。

 

「彼の魔法は俺とは違う意味で世界を変える魔法だ。その結果を俺は見てみたい」

 

 魔法師とギリギリと言える青年に対して,達也がこんな事を言うとは珍しいと思った。自分達に害を与えてくる人間に対しては容赦がない達也だが,認める人間は認める。

 今の達也にとって焔矢は黒羽家の傘下に入れてでも守るに値する人間だと思っているという事だ。

 

「だがそれは彼だけでは道半ばで倒れてしまう。」

「…私に,彼を守れと?」

 

 達也の考えは正直,精神云々を抜きにしても魔法演算領域に”誰でも”干渉する事が出来る魔法の副作用の方に興味があり上手く使えるのならそれは絶大な意味を持つ。

 もしかすると,彼の協力によって魔法力増幅をノーリスクで行う事が出来るかもしれない。そう言った打算的なものがあっての言葉だったが…これには達也なりに亜夜子に幸せになってもらいたいという願いもあった。

 達也は…亜夜子が何となく自分を想ってくれていたと知っている。あの深雪との婚約発表の時,一番に動揺し倒れてしまった彼女を見ればどれほど鈍感な人間だろうとそう思うだろう。

 

 だが,現実として自分は深雪しか愛する事が出来ない。亜夜子の手を取ることは出来ない。達也も冷血漢ではなく,人並みに人を思いやることは出来るし亜夜子にも幸せになって欲しかった。

 けれど自分が深雪と婚約した以上,”女性”としての幸せを掴む為には自分以外の男性を見てもらう必要があった。そこに現れたのが焔矢だ。

 亜夜子に彼の事を想う気持ちがあるのなら,自分の打算的な考えを除いても…その未来を掴んでほしかった。

 

「違う,支えてあげたらいい」

「——っ」

 

 その言葉の違いは,亜夜子自身が一番分かっている。

 達也は亜夜子が焔矢をバックアップしてあげたら良いと言っているのだ。違うやり方で世界を変える彼の前を守るのではなく,支えてあげろと。

 それを亜夜子と焔矢が婚約する理由の1つにすればいいと,そう言っているのだ。

 

「もしもここで婚約を断ったとしても,次に呼ばれる婚約者が彼よりも魅力的な保証はない。そして今度は考える時間すらないだろう」

 

 達也の言うようにそれは亜夜子も考えていた事だった。

 仮にここで婚約を拒否するという選択をしても,自分が誰かと婚約し子供をもうけなければならないというのは純然たる事実だ。今回焔矢と婚約しなくても,その内誰かと婚約——今度ばかりは強制的にさせられてしまうだろう。

 そしてその事を考えた時…亜夜子は嫌だなと思った。いくら当主の命令だとしても好きでもない男と結婚し,子供を作るなんてとも思った。それは女性的な本能であり,本能を抑えて当主の命令を遂行するだけだ。

 それなら…焔矢の方が良い。

 

 どちらかマシな理論のせいで焔矢に対しての想いが軽薄に見えるかもしれないが,焔矢の事を好いていない限りそんな結論すら出ないのが亜夜子という人間だ。

 この考えの帰結は亜夜子とって珍しいもので…それだけ心の中で焔矢という存在が大きくなっている証拠だった。

 

「亜夜子が彼の事を嫌いでないのなら,考える価値のある話だ。」

「…そう,ですね」

 

 達也の口から太鼓判を貰った亜夜子は…フッと微笑んだ。

 

「流石です,達也さん」

 

 少し前とは違い,陰りが無くなった笑顔の亜夜子の姿がそこにはいた。

 

 

 ★

 

 

 時刻は既に夜21:00,夏に入る季節と言えど夜は涼しい気候であり散歩日和であるが,焔矢の姿はレーベルのスタジオにあった。

 仲間の精神体を召喚しながら一曲通しでやっていた焔矢は酷く息を乱していた。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 汗が吹き出しまくっている焔矢が余りの消耗量に膝をつくと,周りの仲間が少し霊体を保てなくなりながらも駆け寄った。

 

「焔やん大丈夫か?」

「ちょっと…きついかも。」

 

 彼らの霊体を安定して召喚する為にこうして皆スタジオに出していたのだが,どうやっても7曲位するのが限界でそれ以上は想子を出し過ぎず,彼らの霊体をうまい具合に召喚する事が出来ず乱れてしまう。

 歌いながら彼らの姿を維持するのはそれほど大変であり,あのライブの時に10曲彼らを召喚し続ける事が出来たのはライブで分泌されたアドレナリンによって無意識化で調節出来ていたからに過ぎなかった。

 その技術が難しいからこそ焔矢はこれまで彼らを姿を見えない霊体…つまり雑に彼らの情報体を作る想子をバラまきまくっていたのだがこれからはそうはいかなくなった。

 だからこそこの魔法を早い所使いこなさなければならなかった。

 

「無理するな,今日はここまでにするぞ」

 

 大地がそう言うと,全員焔矢の返事を待たずに霊体を飛散させて彼らを構成していた霊子が焔矢の中に吸い込まれて行った。使いこなす前に焔矢が潰れてしまえばそれまでなので,そうなる前に強制的に魔法を解除したのだ。

 精神体の彼らだからこそ出来た芸当である。

 

「分かってるよ,今日は終わる」

 

 無理をしても良い事がないと身をもって知っているので仲間達の警告に素直に頷いて少し椅子に座って休憩をしてから帰る事にした。

 ここ最近はライブのインタビューだったり,Alter Egoとしての収録だったり生徒会の事だったり,最終的には四葉家本家に行ったりと練習の時間が上手く取れなくて今日ほどがっつりやったのは久しぶりだった。

 

 まだ次のライブも決まっていないから良かったと思う反面,早くまたライブしたいなーと思いながら焔矢は息が整ったので帰る事にした。

 今日はギターを使わなかった,というより今日は皆を安定的に召喚する方法の研究の為使わなかったという方が正しい。

 そう言う訳で焔矢の荷物は軽く,スタジオの設備の電源を切り受付の人に会釈しながら出ると涼しい夏の風が身体に纏わりついた。

 

「今日は…飛ばし過ぎたな」

 

 家は既にヨルと一緒に再びあの部屋へ引っ越ししていて,ヨルは今文弥が預かってくれるという事だったのでお言葉に甘えて預けている。

 というか,ヨルも文弥の事が気に入ったのか,文弥がヨルの事を気に入ったのか…どちらにせよこの1人と一匹は良好な関係を築いている。知らない所では亜夜子もそれなりにヨルに気を許している。

 そう言う訳で以前よりも安心して練習に行けるようになった。

 やっと色々落ち着いて初めての練習だったのでつい,長時間やってしまった。

 

(ヨル怒ってるかな~)

 

 と思いながら歩いて最寄り駅まで歩こうとした所…

 

「…」

 

 いつか見た光景が、再び目の前に広がっていた。通り道の公園のベンチに座り、ミディアムレイヤーの髪がさらりと揺れる。

 違うのは、あの時のゴスロリ風のファッションではなく、今回はリボンとフリルが施されたワンピースを纏っていることだけだった。

 彼女は…亜夜子は憂いを帯びた表情で星空を見つめていた。

 

 彼女はまるで夏の風のように自然と一体化し、美しい花のようにその場に佇んでいた。

 

 亜夜子は焔矢に気づくと、ゆっくりと立ち上がり、優雅に焔矢のもとへ歩み寄った。一歩一歩、踏みしめるように歩く姿は、どこか神聖な雰囲気を漂わせていた。

 そんな彼女に,少しばかり見惚れて固まってしまった焔矢はハッとするとほんの少しの笑みを浮かべた。

 

「2日ぶり,かな」

「そうですわね」

 

 2人が直接会うのは日曜日以来であり,その後は焔矢の引っ越しだったりがあったのだが亜夜子は今日まで焔矢の前に姿を現さず同じビルに住んでいるはずなのにかち合わなかった。

 まあ,同じビルに住んでいると言っても階は違うし,そもそも大学生と高校生では生活のリズムも違う。焔矢はプロとしての仕事や練習もあるので会わなかったのは必然だったのかもしれない。

 メールのやり取りも無かったので正真正銘今日が2日ぶりの邂逅だった。

 

「迎えに来てくれたのか?」

 

 亜夜子が隣に並んで一緒に歩き出したのを見て問いかけると,彼女は感情が読めないアルカイックスマイルで焔矢を見て,問いには答える事はせず逆に質問してきた。

 

「初めてここで会った時…焔矢さんはどう思いましたか?」

「それは…天王さんの1件も含めてか?」

「いいえ,私と再会したことです」

 

 正確には…あれは偶然の再会ではなく,偶々あの日が焔矢の懐に入るチャンスだっただけだ。

 あの日の前日,盗聴器で亜夜子は焔矢がヨルにスタジオで練習してくると話していたを聞き,何の変哲もない夜の下で公園で相席した美女と再会する…そんなストーリーで彼に会いに行った。

 ただ仕事の為に,あの時は別に焔矢の事なんて意識はしていなかった。自分の想子が引き寄せられてしまうというアクシデントはあったけれどそれが焔矢を意識する理由にはならなかったから。

 

「そうだな,今にして思えばあれは偶然じゃなかったんだろ?」

 

 焔矢も彼女の正体を知ったからこそ,あの時に亜夜子が眼の前に現れたのが偶然じゃなく,必然だったのだと今は理解できる。亜夜子はそれ位の事を普通にしてくる人間だと,あの時とは違い今は知っているのだ。

 

「ええ…前日にヨルちゃんに言っていたでしょ?」

 

 そう言われて焔矢は,前日にヨルに向けて「明日は夜までスタジオで練習してくるから留守番頼んだぞ~」と話していたのを思い出した。

 焔矢は今は家族がヨル以外にいないのもあってか,偶に予定をヨルに話す事がある。

 今の今まで忘れていた会話を彼女が知っているという事は,逆説的に盗聴していたという事なのだが…正直もう今更過ぎてどうでもよく思った。

 

「私は貴方を利用する為に近づいた」

 

 それは嘘偽りのない亜夜子の当時の気持ちであり,焔矢を仕事のターゲットくらいにしか見ていなかった。罪もない彼を捕縛する事に多少罪悪感はあったがそれだけであった筈だった。

 それが今はそんな事をしたくないと思う自分がいる。

 

 なんて自分勝手なのかと,自嘲の笑みを浮かべる。

 そして焔矢はこの話を聞いてどう返すのか――もう殆ど予想は出来ているが。

 

「どう思うって言われてもな…俺実害はそれほど受けてないし…」

「それは天王との事があったからです。それが無かったら…きっと今のようにはなっていません」

 

 ピシャリと天王がいなかった場合…つまり,大亜連合と天王達の事が無かったらきっと亜夜子たちは焔矢の魔法を勘違いして捕縛し…実験動物にしていたかもしれないということ。

 焔矢も土曜日のディナーの時の話で,もしも事前に判明していなければ問答無用でそうなっていたかもしれないと思ってはいた。

 こうして亜夜子と隣り合って歩くことも無かったはずだ。

 

 四葉の人間によって大切なものを奪われ,あまつさえ自分すら四葉の人間に奪われたかもしれない…亜夜子はそう考えるだけでゾッとしてしまう。

 今ここにあるのは奇跡の上で成り立っている現状なのだと嫌でも思い知らされた。寧ろそうなっていた可能性の方が高いのだと亜夜子は思っていた。

 だからこそ,破滅に導いたかもしれないあの日の再会の事を聞いたのだ。

 

「仮定の話に興味はないな。」

 

 だがそんなIFすらも,焔矢はバッサリと切り捨てた。

 

「どれだけ仮定を築こうと,今の結果が全てだ。過去がどうであろうと,俺にとって大事なのは今だけだ。」

「今…だけ」

 

 そこは未来もという所じゃないのかと亜夜子は思ったが,未来もある意味IFの存在ではあるので入っていないのかもしれない。それか焔矢に言わせれば未来も今の積み重ねだからとか言うつもりなのだろうかと思った。

 でも,亜夜子の意識に”今”という言葉は不思議とこびりついた。

 

 過去,司波達也の事を慕い好きだった。それは今も変わらないと思っていた。慕うという意味ではその通りだ。

 だけど…異性としての”好き”ではもうなかった。

 それが亜夜子の”今”だった。

 

「…さっきの答えだけど」

 

 焔矢の言葉を反芻していた亜夜子に,どこか躊躇うような声色にしながら話しかける焔矢に亜夜子は再び目線を向けた。

 

「俺は…最初は怪しいなと嬉しいなが半分位だったな。」

「半分?」

「いやだって普通に考えてつい数日前に会った女性が偶々公園にいるって可笑しいと思うだろ?」

「それも絶世の美女だものね」

「…一目惚れだったから嬉しいって気持ちも本物だった」

「~~っ」

 

 ニヤニヤしながら茶化すように言った亜夜子だったが,思わぬカウンターを食らって顔を赤くしてしまう。

 

「まあ,そう言う訳で今ではあの再会は良かったと思ってる。その後の天王さんの事も含めてな」

 

 天王との事が無ければ,亜夜子が焔矢の過去を直接聞くことも無かった。当時は黒羽貢によってあの事故での詳細な情報は握りつぶされていた,亜夜子に伝えられた情報も事故死としてのものだった。

 でも実際は黒羽貢の介入によって起きてしまったもの,焔矢以外の口からであれば貢本人か真夜に聞かなければ分からなかった事だろう。

 …まさかその時に仲間の精神が焔矢の中に移動したとは夢に思わなかったけれども。

 

 そうして焔矢の言葉を聞いて,亜夜子は少し先を歩き振り返った。

 彼女の長い髪がひらりと翻り,背中に手を組み上目遣いで焔矢を見上げた。その表情はさっきまでの憂いを帯びたものではなく,何かが吹っ切れたかのようなそんな表情をしていた。

 

「亜夜子?」

 

 今までにない…でも不思議と違和感もないどこかの青春漫画の一幕に,焔矢は訝し気に名前を呼ぶ。

 

 

「私,焔矢さんと婚約します」

 

 

 そんな一生に一度かもしれない大事なことを,亜夜子はいつもと同じ…もしかするとそれ以上に小悪魔のような微笑を浮かべ…ドキドキなんて昔的表現だが,それすらも一切皆無…ただ事実を,自分が決めたことを淡々と告げた。

 

「え…?」

 

 余りにあっさりと言われたせいで呆けた表情をした焔矢を,亜夜子はクスクスと笑う。今の焔矢の顔が今まで見たことがないほどバカっぽい表情で少し笑いを抑えられなかったのだ。

 だけど焔矢は焔矢で亜夜子が言った言葉の方が信じられなかった。

 

「てっきり…断るのかと思った」

 

 その理由はこれに掌握されている。

 焔矢自身はどちらかというと亜夜子の事が好きなのはもう認めざる負えない。でも亜夜子が自分の事を好いているのかと言われたら別にそうでもなくないか?と客観的な分析として思っていた。

 だから望まない婚約をさせたくなく,真夜に猶予期間を設けてもらったのだ。あくまでも亜夜子の意志を尊重する為に。…例え,婚約という在る意味のチャンスを逃しても…亜夜子に幸せになって欲しかったから。

 

「あら,どうして?」

 

 亜夜子は亜夜子で拒否されると思っていたと言われ興味を持ったようだった。

 

「いやだって,なんか悩んでいたみたいだったし…他に好きな人でもいるのかなって思ってたから」

「…あなたって意外に観察力あるのね」

 

 本当に意外に思ったのか目を丸くして褒めてるのかけなしてるのか分からんことを言う亜夜子に,気がそがれたかのように肩をガクッとさせた。

 そんな焔矢の反応を笑う事なく,亜夜子は彼の言葉を肯定した。

 

「焔矢さんのおっしゃる通り…私は達也さんの事が好きでした」

 

 そうして,意外にもあっさりとその事実を告げ,焔矢は落としていた肩を上げ亜夜子と真正面から見合った。

 彼女が他の男を…司波達也の事が好きだったと言われて,少し胸がギュッと締め付けられ謎の敗北感が起きた。

 比べても仕方がない事だとは理解しているけれど,それでも胸に来るものがあって…好きなんだなと改めて自覚した。

 

「私に魔法師としてのアイデンティティをくれて,魔法の師匠という事柄以上に惹かれてました。」

 

 焔矢は亜夜子が昔,自分の魔法特性が分からず悩んでいた事を知らない。達也との出会いも,それによって亜夜子がどれほど救われたのかも知る由もない。

 だけど,その時の事を思い出す亜夜子の表情は懐かしさと,当時の思い出が蘇っているのか無意識の微笑を浮かべていて…本当に大事な思い出なんだなと窺い知る事が出来た。

 でも,だからこそ…

 

「…じゃあ,どうして俺と?」

 

 言った後に,焔矢は意地悪な事を聞いてしまったと自戒した。

 この聞き様によっては「達也が無理だったから俺に()()()()()のか?」という質問になってしまう。達也が婚約している事は世間的に有名で,それも現当主の決定によるもの。いくら亜夜子でも現当主の決定には逆らえない。

 その寂しさを埋める為に自分と婚約するなんて言うのか?と。

 少なくない嫉妬感と,誰かを比べた時に劣っているけれど代わりだと言われているようで…焔矢は嬉しくなかった。だからこんな意地悪な言葉が出たのだと今なら分かる。

 

「言っておくけれど,貴方は達也さんの代わりじゃありませんよ?」

 

 亜夜子は全てを見透かしたようなアルカイックスマイルで焔矢との距離を,手を伸ばせば触れ合う距離まで詰めた。

 人間にはパーソナルスペースというものがあり,他人が侵入してきたときに不快に感じる距離があるが,逆に言えば親密度が高ければ自然その距離は近くなる。

 空間の広さには個人差はあるが…亜夜子は今,焔矢の空間に入って来ていた。

 焔矢は…その家族の距離感に嫌悪感を持たなかった。

 

「最初は…愚かな人だと思っていました。力もないただの人間が世界を変えるなんて馬鹿馬鹿しいとさえ思ってました」

 

 それは焔矢に会う前の亜夜子の,彼に対する考え方だった。

 達也という今まさに世界を変えようとしている人がいるからこそ,力も無い癖に”たかが”音楽で世界を変えられると思いあがっていると思っていた。

 余りに容赦のない言葉に焔矢苦笑いが抑えきれずにいたが,同時に今までは仮面をかぶっていた彼女が本当の意味で今,素で話してくれているのだと理解して口を挟む事はしなかった。

 

「ですが,あなたに会って,考えに触れて…音楽を聴きました。」

 

 彼と初めて対面した時,優しさに触れた。

 個別電車,そして天王達と対峙して彼の考えを知った。

 そして…彼の音楽を聴いた。

 

 音楽に興味がない自分ですら振り返って,震えてしまうような熱い音楽。

 それは焔矢の仲間と共に鳴らす不滅の音,本気で音楽で世界を変えたいと願う焔矢の魂の歌。

 

 音楽という枠組みを超え,魂から魂へと震わせられた亜夜子の心は…きっとその時に定められていた。

 

 亜夜子はそっと,自分の手を焔矢の頬に添えた。焔矢は一瞬他者に触られることに慣れていないせいでビクッとしたが,それ以上に自分を見つめる亜夜子の顔から眼が離せなかった。

 

「今でも…音楽が世界を変えられるとは思っていません。ですが,私は貴方の…貴方達の音楽が世界を変える所を見てみたい」

「亜夜子」

 

 また少し,距離を詰めた亜夜子に今度は後退してしまうことなくしっかりと前に立って…亜夜子の美しさに見惚れていた焔矢の眼が見ていた月に照らされた艶めく唇に微笑を浮かべ,その真紅の瞳に熱を絡ませて一言だけ,甘美的な雰囲気を纏わせて囁いた

 

 

「焔矢,好きよ」

 

 

 少しも恥ずかしがる素振りも無く…否,小悪魔的な笑みでもその両端の耳がほんのり紅くなってるのが見て取れるが道の往来で大胆に告白された事に,焔矢の方が顔を真っ赤にしてしまった。

 身体の奥底からライブから感じる高揚感とは別の,正体不明の感情が吹き上がって――気が付いたら亜夜子と同じように,彼女の頬に手が触れていた。初めて触れた亜夜子の頬は柔らかく,冷たい感触が焔矢に帰って来た。

 亜夜子は一瞬ビクッとしたが,直ぐに挑発的で魅惑的な笑みを浮かべた。

 

「だから私は…貴方を支えます。焔矢が…世界を変えられるように,ね」

「亜夜子…」

 

 少し,信じられないとばかりに目を見開いて固まってしまった焔矢を亜夜子はジト目で,頬をぷくっとあざとく膨らませながら詰め寄った。

 

「乙女に恥ずかしいセリフを言わせて,貴方は言ってくれないの?」

 

 なにを?とは言えなかった。

 いくら鈍感な焔矢でも,ここまで来たら彼女にかけるべき言葉が何か分かっている。でも…まだ少し残っていた疑心の気持ちのせいで上手く言葉に出来ないでいた。

 これも…亜夜子の演技なんじゃないかと,さっきまでは彼女が素で話してくれていると思っていた癖にこんな土壇場でそんな事を想ってしまっていた。

 たったの2文字で良いのに,喉から言葉が詰まって出てこない。

 そんな焔矢を見て,亜夜子は小さなため息をつきながら目を伏せて…何かを決心し小さな微笑を浮かべ

 

「仕方がないわね」

 

 まるで弟に語り掛けるテンションでそう呟き…固まってしまった焔矢の首に両手を回した。

 その咄嗟の行動に焔矢は身体が固まって動けなくなったと思ったら…すぐ目の前に,亜夜子の美しい顔で視界が埋め尽くされて…少しの間2人は身体を重ねて,ゆっくりと亜夜子の方が身体を離した。

 

 焔矢の口元に赤い跡が移り,まるで亜夜子の色を彼に刻み付けられたようだった。

 あわわと肩を震わせる焔矢の事をクスクスと笑いながら亜夜子は両手を焔矢の肩に置く。

 

「これで…分かってもらえた?」

 

 彼が少し疑心になるのも,亜夜子には仕方がない事だとは思っていた。好きならば疑うな,なんて台詞を言うつもりなんて毛頭なかった。

 今まで騙していたのだから…それを上回る誠意を見せる必要があったのだ。

 

「亜夜子…」

 

 ようやく何が起こったのかを理解し,意識を覚醒させた焔矢は…そっと亜夜子を抱き寄せた。

 亜夜子も抵抗する事は無かった。抱きしめた焔矢は少しの間,この感情をどう伝えようかと働かない頭で考えて…結局,彼女と同じ言葉しか伝えられないと気が付いた。

 亜夜子の耳元で,震える声で言った。

 

 

「亜夜子,好きだ」

 

 

 言葉にしたそれは,亜夜子の耳に届きニンマリと笑いながら

 

 「知ってる」

 

 亜夜子にしては珍しく,ポーカーフェイスが崩れ…少し涙腺も緩んでいるように見えた。

 告白してされて、本当の意味で自分の気持ちに気がついた亜夜子は、彼の腰に手を回し、涙を見せたくなくて焔矢の胸に顔を押し付けた。

 焔矢はそんな彼女の身体を離さないように,確かめるように抱きしめる。

 

 この瞬間だけ,2人の時間が止まったかのように,静かな時間が過ぎていった。

 夜の月が2人の事を見守るかのように,優しい光で包み込んでいたのだった。

 

 




お疲れさまでした!
以下無駄に長いあとがきで,だらだらと焔矢の裏話書いてるだけです。飛ばしても全く問題ありません。
先に言っておくと,本編最終回は明日の22時位です。



ここまで滅茶苦茶長かったですが,やっと2人がくっつくところまで書けました!
正直メタ的な話をするのなら,亜夜子の相手は原作で出ている空澤の方が全然可能性はあると思ってます。
人となりとか書き方がイマイチ分からないですし作者が昔空澤とそう言う雰囲気になっても亜夜子はフる展開のつもりだったって書いていたので実際そうなるのかは知りませんけれど。

そう言う訳もあって焔矢との絡みというか,付き合い方をどうしようと思ったら先ず生粋の魔法師じゃ無理だなって思ってしまいました笑。
どんなぶっ壊れ魔法持ったところで結局達也に勝てるイメージ出来ないですし,じゃあ亜夜子をどこかで救って惚れさせるみたいな展開も考えましたが,亜夜子がピンチになっている所って想像出来ないんですよね。
大体文弥か達也,あと黒服とか伴野がついていますし,キャストジャミングとかも亜夜子には通用しないですからピンチのさせようがない。そもそもバックアップなので戦場に出る事が先ずないですよね。
誘拐は先ずあり得ないですし,考えれば考える程”ピンチを救う”みたいな展開は無理だなとそうそうに諦めました。そもそもぶっ壊れ魔法師なら四葉は幼少から調査してるだろともなってしまいました。


似たような理由で,幼馴染設定とかも却下してガチのお姫様展開は諦めて,じゃあ達也とは違うベクトルでぶっ壊れに,戦闘は出来なくてもいいやという事で能力が魔法力増幅に決めました。
ただ戦場に出てしまえばやっぱり戦闘系になっちゃうので,無意識に出来ているようになって四葉が調査するの方がまだ現実的だなってなりました。
ではどうやって身に着けたのか,原作者の頭の中が高度過ぎて理論的なものは自分には無理だなって事で精神に干渉した結果なんやかんやあって魔法力増幅になりました!とゴリ押ししました笑。

そしたら今度はどうやって魔法使えないくせに精神に干渉すんねんってなったので,じゃあ精神には精神に干渉してもらえという事で仲間達のくだりが出来ました。
でも想念だけじゃ少し足りないかな,じゃあ近くで精神干渉系魔法が使われて想念だから勝手に干渉できる!みたいにしました。

でも,精神を内に宿しているって文だと伝わるけれど登場人物から見たらそんなの分かんねえな…せや,召喚できることにしたろ。でもやっぱり戦闘用魔法じゃないって事にせにゃならないのか…ってなった時に好きなバンドプロジェクトのMVを見て「あ,音楽があるやん」という結論になりました。

そこから焔矢の行動原理とかが出来ていって,なんとか亜夜子のお目にかかる事が出来るキャラクターになったと思いたいです。
流石に魔法に関わって来なかった人を,自分達の都合で命の危険がある所に引きずり込んだら亜夜子も色々感じないとダメだろうという。まあ,命の危険は焔矢が飛び込んだからのですが。

因みにですが,現実の日本だと焔って漢字は名前で使っちゃダメらしいんです。
ただ個人的事情で「焔」の漢字が好きなんで使いたいな…ゴロ良いの”焔矢”ぐらいじゃね?が焔矢のメタ的な名前の由来だったりします笑。




はい,そんな訳で本編(焔矢と亜夜子がくっつくまでの話)は明日のエピローグで終わりです!
投稿ペースから察してもらっているかもしれませんが,一度書き終わったものを最初の設定とか会話の流れを変えたりしたものを投稿していました。
そんな訳でエピローグ以降,アフターストーリーは完全に不定期更新になります。
一応,焔矢が世界を変えるやり方とか話の流れはあるのですが,どうやっても長くなってしまうのです。
まだ書いている話はありますが,ゆっくりやってこうと思ってるので(完結出来るのかは知らない),気長に待ってもらえると嬉しいです!

取り合えず,アンケートでは亜夜子のお仕置き回が決まったので話を練って書こうと思います。

ではでは,明日の22時です!

どのお話見たい?

  • 達也&焔矢(UBW強化話?)
  • 空澤&焔矢(亜夜子についてあれこれ話す)
  • 貢&焔矢(修羅場)
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