魔法科高校の劣等生 黒羽の姫と焔の絶対王者   作:レオ2

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サブタイが思いつかなかった()。だれか命名センスください。


魔法科劇場版決定です!てっきりテレビスペシャルかなと思っていたのでびっくりしましたが,劇場版で亜夜子を見れるのは嬉しいです!
まあ,亜夜子には辛い映画でしかないのだが…公開されたら絶対行きます!

では!


亜夜子先生による九校戦レクチャー

 九校戦の大会イメージソングのタイアップ,前例がないという意味でも焔矢は曲の方向性をどうしようかと悩む。

 どんな感じの作曲か,歌詞はどうするかを帰りながらも考える。

 作曲については仲間達の精神会議によってある程度方向性は決まったが,問題は歌詞の方だ。

 

 焔矢にとって九校戦は一度しか,それも3年前のモノリスコードに出場した司波達也が二科生…つまり劣等生であるにも関わらず日本の魔法師界に君臨する十師族の1つ,一条家の長男との戦闘を真っ向勝負からくだしたというニュースを見て興味を持ったから…中にいる聡にうるさく言われて配信されていたものを見たのが最初で最後だった。

 

 別に他の魔法競技に興味が無かった訳ではないが,それでも当時はプロになる為の音楽活動に力を入れていた為聡にねだられなければ今でもどんな事があるのか知らなかっただろう。…というか,あの時期は焔矢が両親と仲間を失って間もない時期だったのでそんな余裕が無かったという方が正しいのだが。ていうか,聡が中にいるという状況が現実味が無さ過ぎただけなのだが。

 しかし,今年の九校戦は形がどうであれ関わることになったので,先ずは当事者に九校戦が一体どういうもので,生徒達はどんな思いで競技しているのか聞いてみようと思った。

 焔矢の周りで魔法科高校の生徒だったのは2人。その内の1人とはまだ余り話したこともない関係なので当然消去法で婚約者になる。

 さっそくと部屋に取り付けられている内線で亜夜子の部屋に電話をかけてみる。既に夜の20時だが,仕事がなければいる筈だ。

 

「焔矢,どうしたの?」

 

 3コール程で亜夜子が出てきて知らず知らずの内に頬を緩めながら要件を話す。

 

「えっと,歌詞の参考に亜夜子から九校戦について教えてもらえないかなって」

「…?いつものような歌詞じゃダメなの?」

「それでも良いけど…一応タイアップだから九校戦ではどんな事が起きて,生徒達がどんな思いで競技に参加しているのか聞きたいなって。それに,流石に高校生の純粋な競技に世紀末みたいな歌詞を書くわけにはいかないだろ」

「ふふっ…それもそうね。…良いわ,今からそっちに行くから紅茶でも用意しといてもらえる?」

 

 一瞬何かを考えたような間があったが,亜夜子が何時も何を考えているのかは婚約者になった今でも分からないので特に気にする事も無く内線を切った。

 ヨルをペット用ベッドに運び寝させた後,キッチンに入りHARで紅茶を入れる。

 亜夜子との電話から数分後,インターホンを鳴らす事も無く――そもそも取り付けられていないが――彼女は勝手知るかのように入って来た。

 

「亜夜子お疲れ様。砂糖は勝手にどうぞ」

 

 言いながら紅茶の入ったカップと,角砂糖を置く。

 

「ええ,ありがとう。」

 

 亜夜子は焔矢に対して初めて会った頃のように敬語を使うという事はほぼなくなっている。家族の文弥にそうするように,一人称も外行の「わたくし」ではなく,「わたし」だしお礼も他人行儀ではなくなっている。

 しかし,婚約者なので寧ろ敬語の方が焔矢としても気持ち悪かったしこうして打ち解けた態度の方が気楽だ。…未だに亜夜子とその内夫婦になると言われても実感はまだ湧かないが。

 

「九校戦の事よね」

 

 自分の紅茶を机に置いて席に着いた焔矢をいつものようなアルカイックスマイルで見つめながら再確認する。

 

「うん。亜夜子は魔法科高校出身ならそれなりに知ってるかなーって」

「呆れた。私が競技に出てたことご存じない?」

 

 本当に呆れているのか,ジト目で見られるが焔矢は本当に知らなかったのでギョッとしたように眼を見開いた。

 

「え,出てたの?だってあの時はまだ黒羽が四葉の人間って明かしていなかったよな?」

 

 あの時はまだ亜夜子たちは黒羽と四葉の関係を明かしていなかった関係で,秘密主義を抱えている四葉がそんな目立つような事をしていたのかと驚いた。

 そう言う意味では当時モノリスコードに出ていた達也と元妹の深雪も大分暴れていたらしいが,あの2人は既に次期当主だと決まっていたから寧ろ世間との交流の意味で暴れてるのかなと勝手に思っていた。

 

「ええ,あの時はご当主様からの命令で”目立て”って言われてたから」

 

 しかし亜夜子は事も無く頷いた。

 彼女の何気ない言葉を聞きながらも,焔矢は亜夜子たちはやっぱりすごいんだなと思っていた。なぜなら”目立て”と言われても,目立てるほどの実力がなければ…それも周りと比べて突出した力の差が無ければそれを達成する事は出来ない。

 なぜそんな時に目立てという任務が下ったのかは知らないが,最強の魔法師集団というのは伊達ではない。

 

 紅茶を一口,優雅に口を付けた亜夜子は気を取り直すように息を吐きソーサーにカップを置いた。

 

「話を戻すけど,九校戦は通称で正式な名前は全国魔法科高校親善魔法競技大会と言われます。長いので九校戦って言われてるの」

「親善…なのか?」

 

 モノリスコードのバチバチにやりあっていた事しか知らない焔矢にしてみれば,あれが到底()()には見えなかったのだが,亜夜子は特に気にする事も無く「親善よ」と言い放つ。

 …まあ,実際は亜夜子が初めて出た九校戦ではパラサイドールの大亜連合強硬派の使用実験があったのだが脱線してしまうから黙っておくことにした。

 

 そうして亜夜子は九校戦の詳しい事をレクチャーを始める。

 選手とエンジニアのこと,優勝の決め方,肝心の魔法競技のこと,そして優勝する事によって得られる学校のメリットなどなど…凡そ教え終えた亜夜子は焔矢の反応を伺う。

 焔矢は家にいる時によく見せるリラックスした雰囲気ではなく,プロとしての表情で考え込んでいた。

 亜夜子は別に急かす事も無く紅茶を嗜む。

 そうして何事かを少し考えていた焔矢は意外な気持ちを抑えられなかったようだ。

 

「…体育祭の激しい版みたいなものをイメージしてたけど,戦略性やエンジニアの腕とかも必要になってくるんだな」

「そうね,危険度で言えば体育祭の比ではないし作戦スタッフがいるのも九校戦ならではって感じよね」

 

 魔法が使われるのは当然として,決して魔法力だけが勝敗を決めるものじゃないんだなと言うのは聞いて見なければ分からない話だった。

 学校の威信をかけた戦い…というのも,焔矢にとっては余り馴染みのない感覚である。焔矢は大体いつも”音羽焔矢”個人としてか,”Alter Ego”として自分達のプライドをかけたステージを繰り広げる。

 だから特別学校に愛着を持っている訳でもない。出会えた人達には思う所があるが,それで学校ラブになるかと言われたら別にそうでもないからだ。なのに威信を賭けろと言われても,自分なら取り合えず負けたくないから自分の競技は頑張るとしか思えないなと。

 

「因みに去年はどこが優勝したの?」

「去年は第一高校よ。去年で5連覇で今年も期待を寄せられているみたい」

 

 今年の1年には十文字家にきた娘や,他にも有望な選手がいると亜夜子は風の噂程度でしっていたのでその期待も分かると思っていると,第一高校の名前を聴いた焔矢は一瞬眼を細めたが,直ぐに思う事があったのか首を傾げた。

 

「亜夜子あんまり悔しそうじゃないな?」

 

 自分が学校への威信とか言っていたのに,5連覇と言った時の亜夜子の表情は別にそれほど悔しいと思っているようには見えなかった。

 亜夜子は肩を竦めながら,それでも自慢げにしながら

 

「だって私は自分の競技で優勝出来たから良いもの」

 

 それを聞いて焔矢は亜夜子は自分と同じ類の人間だったらしいと知って少し嬉しくなって微笑んだ

 

「亜夜子が出た競技,ちょっと見てみたかもな」

 

 亜夜子が意識しているのかは分からないが,少なからず自慢げにするその競技を見てみたいと思い口にすると亜夜子は「待ってました」とばかりに焔矢の部屋に備え付けられているモニターに向け「キャビネット 2098年度 ミラージ・バットオープン」と音声認識コマンドで伝えるとモニターに光が宿り音量も自動調節によってあげられる。

 画面の中では,競技の開始を今か今かと待っている少女達…赤と黒のドレスのような姿で余裕綽綽といった様子で待っている亜夜子の姿があった。

 

「…綺麗だね」

 

 今よりも化粧は少しゴスロリチックではあるのだが,彼女にはよく似合っていてユニフォームとでも言うべきなのか,恰好も実に様になっている。

 何故か小悪魔のようなイメージがさらに強くなっているが,焔矢にはこれ以上の感想は浮かばなかった。そして言われた亜夜子は照れる事も無く,画面の中の彼女と同じように艶やかな笑みを浮かべた

 

「ふふっ,ありがと。」

 

 からかっているだけだと心では分かっているはずなのに,彼女のそんな顔を見ると恥ずかしくなってしまう。顔の熱を必死に誤魔化す為に顔をモニターの方に向けると,どうやらこれは準決勝らしく4人の女が開始の合図と共に一斉に夜空に浮かぶ光に飛び――亜夜子の姿が霞んだかと思うとなぜか既に空で光をスティックで叩いていた。

 

「はあっ?!」

 

 ちょっと光景として意味が分からなさ過ぎて驚愕の声をあげてマヌケ面する焔矢を,亜夜子はケラケラと笑う。彼女的には焔矢の今の表情がよっぽどツボに嵌ったらしい。

 口をあんぐりと開けたまま焔矢は画面の中の亜夜子の姿を追おうとするが早すぎて到底視認が出来ない。せいぜい見えるのはブレスレット型のCADを操作する時位でそれ以外はほぼ姿が見えないのだ。

 あっと言う間に第一ピリオドの終了時間が迫る中,焔矢はようやく笑っている亜夜子の方に向いた

 

「これ反側じゃねえの」

「ふふっ!失礼ね,ちゃんとルールには抵触していないから大丈夫よ。」

 

 笑い方が砕けている時点で亜夜子がどれだけ焔矢に気を許してどれだけツボっていたのかが分かるが,焔矢はジト目のままで問いかける。

 

「いやでも…ほぼ瞬間移動だろこんなもん」

「実際術式は疑似瞬間移動の応用だしね。」

 

 応用というよりも,物体の慣性を消して物体を空気繭で包み,繭よりも1回り大きい真空チューブを作りその中を移動するという加重・収束・収束・移動の4段階の魔法からなる疑似瞬間移動だ。

 九校戦では空気の繭と真空チューブが他選手の妨害になってアウトになるのだが,亜夜子はその二工程を省きルールに抵触しない疑似瞬間移動で得点を重ねているのだ。

 まあ,焔矢にはそれを理解する事が出来ない為「そんなものなのか」と相槌を打って圧倒的大差で勝利を収める亜夜子を見て…亜夜子はミラージ・バットの映像を消した。

 

「え…決勝は?」

 

 思いっきり決勝も見るつもりだった焔矢は少し不服そうに言うと,亜夜子は顔を変えずして

 

 「どうせ私の優勝なのですから,見る必要はないわ」

 

 実際は,決勝では第一高校の七草泉美が自分の得意分野であるミラージュバットであと一歩まで追い詰められた時の映像を見せたくなくて切ったのが実情である。

 確かに勝ちはしたが,優雅に,余裕に勝つことを信条としている亜夜子にとってあの時は少し信条を崩してまで勝ちに行った戦いなのでそんな自分を焔矢に見せたくなかっただけだ。

 

 焔矢はジト目で見るが,亜夜子は飄々と受け流した。亜夜子の考えを読み切れなかった焔矢はため息をつくと,話を大会に戻した。

 

「でも…亜夜子みたいに得意分野,それも魔法力が突出していたら作戦もなにもあったものじゃない気がするんだが」

「その通り…って言いたいけれど,一筋縄にはいかないのよね。」

 

 焔矢は過去,魔法師の適性検査のようなものを受けそこで魔法演算領域になにも無かったことから魔法師としての才能がないと言われてから魔法の事をそれほど知ろうとは思わなかった。

 別に魔法に拘る生き方なんてしなくていいと両親に言われたからでもあるし,同じ時期…焔矢に音楽を教えてくれた魔法師の男にも同じことを言われたからだ。

 

 そんな訳で,焔矢が知っているのは魔法を発動させるために必要なプロセスと,それに付随する単語くらいしか知らないというのが実情だ。

 

「いくら魔法力が突出していても,CADの調整が上手くいかなかったら魔法師は実力を発揮できないばかりか事故を起こしてしまう可能性もあるし私が簡単にしているように見えた疑似瞬間移動も,1年生の時の先輩が試行錯誤してくださって完成したものだもの。それに,自分の得意魔法で勝負するのは当然でしょ?」

「エンジニア…だっけ」

「そう,選手だけが戦ってるんじゃない。エンジニアの人の腕が結果に影響を与える事だってあるの」

 

 そう言って亜夜子は音声コマンドで過去の九校戦…司波達也が初めて参加した年の映像をいくつか出した。

 ほぼ全てが新人戦女子の部だったが,達也が関わった女生徒たちは1人違わずトップ3に入り彼らの作戦も…そして亜夜子の言うCADの調整についてどれだけ大事なのか映像を交えながらレクチャーされた。

 達也の担当した中には,突出した魔法力を持つ者もいたが他にも他校の生徒と横並びの子も担当していた。

 ではなぜ上位独占が産まれたのかと言うと,達也のCADの調整技術と彼のルールをつく作戦の数々が他校を上回っていたからに他ならない。

 

「セオリー通りじゃなくてもいい,戦い方は選手によって変わって力押しかそうじゃないか…こうしてみると面白いな」

 

 亜夜子曰く,ミラージ・バットの時に出た飛行魔法も無断で他の学校の生徒達も使っていたらしいが結局最後に勝ったのは司波深雪で純粋な魔法力と想子量でねじ伏せた。

 だけど,それだってエンジニアの達也が同じ土俵なら深雪は負けないという厚い信頼がなせる業だったし…焔矢が見る限り亜夜子なら当時の深雪にも勝つことは出来ると思った。

 歌詞が浮かび始めているのか,それとも曲のイメージが湧いてきているのか,楽しそうに達也がエンジニアを務めた映像を見ながら色々考えている横顔を見て邪魔をしないように少し冷たくなってる紅茶に口を付ける。

 

 (そう言えば…)

 

 沈黙してしまった焔矢をじっと見つめて亜夜子は彼の体質について考えた。

 焔矢は過去,黒羽貢の身体の一部を使った治癒魔法によって精神干渉系への特性と貢の血縁…つまり亜夜子や文弥に対しての想子の感知能力が特別あるというのを思い出した。

 情報次元のイデアを通じてエイドスに干渉した魔法を感じること自体は魔法師なら多少なりあるが,それを見るばかりかイデアにアクセスし俯瞰し見る事が出来る人間は達也と光宣くらいだろう。しかし,自称非魔法師を謳っている焔矢は自分や文弥,本人は言わないだけで恐らく貢の想子を感知し見分ける事が出来るというのは…今更ながら驚くべきものだと思ったのだ。

 

(焔矢は魔法師じゃないって言ってるけれど…下手な魔法師よりも優秀なのよね)

 

 なぜなら,そもそもイデアにアクセスすること自体が珍しいことであり焔矢はその希少性について気が付いていないみたいだが…一度死の瀬戸際に追い込まれたことで身体が情報次元と繋がったのか。

 それとも貢の毒蜂の逆転術式によるものか身体の一部を使ったからなのか或いは元からそんな異能を持っていたのか…何がどうしてそうなったのかまるで分からないが,きっと焔矢が自分自身で理解出来ていないだけで,彼の身体自体は未知の事だらけなのだ。

 

 そもそも想子量が魔法師でないにしては規格外なのだ。昔ほど想子量が大事だという訳ではないから検査とかでは見逃されていたのかもしれないが,Unlimited Flame Works…精神体召喚魔法を発動する際に溢れる想子の量からして達也や深雪に劣っているか同じ位の想子量はあるのではないかと思っている。

 本人は今でも生まれ持ったその想子量にUnlimited Flame Worksの時に振り回されてしまうらしいし…彼の先祖は一体誰なんだろうと思った。

 戸籍上は深雪の父である司波龍郎のような,特別想子量が多い人間が過去にいたのだろうか。

 

 (…一度,検査させた方が良いかもしれない)

 

 焔矢自身が自分の魔法を負担を最小限にまで軽減する為に,自分の限界点を見極める必要がある。今のように緻密な想子操作技術だけを高めるのはもしかすると遠回りなのかもしれない。

 最終手段だが…四葉家分家,津久葉冬花の誓約の亜種的な魔法で想子量制限した方がもしかしたら焔矢の為かもしれない。

 

「亜夜子?」

 

 つい焔矢の魔法的才能について考察していた亜夜子は,目の前で思考を終えて心配気に顔を覗き込んできた焔矢の顔を見て現実に意識を戻した。

 

「ううん,何でもない。それより話は参考になったかしら?」

 

 一言だけでは焔矢に問い詰められると思った亜夜子は話を九校戦に戻した。焔矢は一瞬怪訝そうに亜夜子を見たが,疑う事も無く頷いた。

 

「ああ,大体の方針は決まったけど…現場の考えを聞いてみたいから…」

 

 一瞬,焔矢の眼がどこか遠い過去を見つめたような気がしたが直ぐに光が灯った。

 

「第一高校に見学出来るか聞いてみるか」

 

 今の時期だと間違いなく九校戦の準備に躍起になっている所だろうし,すげなくあしらわれる可能性はあるが映像だけでは分からない何かを感じる為には熱気を出している生徒達にあたるのが一番だ。

 亜夜子も焔矢の言葉の意味を理解出来ない訳ではなかったので,焔矢がレーベルを通じて見学の許可を取るために大原にメールを打つのを見ながらモニターの電源を切る。

 

 そうするとメールを打ち終えた焔矢は,背を伸ばした。

 

「はぁ…,亜夜子色々教えてくれてありがとう」

 

 どうやら話はこれで終わりなようで,亜夜子にお礼を言うと彼女は小さく微笑んで

 

「貸し1にしとくわね」

「その貸し絶対に高い奴だろ」

「さあ,それはどうかしら?」

 

 言いつつも,既にこの貸しをどうやって清算させようかと画策する楽しそうな亜夜子を焔矢は疲れたように見ていたが…理由はどうであれ一緒にいる時間が増えるなら嬉しいから放っておくことにした。

 

(そう言えば…)

 

 部屋に戻る準備をする亜夜子を見て焔矢はふと思った。

 

(…よく考えたら,俺達って婚約してからデート一度もしてないか?)

 

 いつも会うのはこういった夜の時間で,それもどちらかが伝言があるからとかそんな感じでしか会わない。昼間に会わないのは大体焔矢が用事あるか,亜夜子の方に仕事があるからだ。

 間違っても同じベッドで寝たことは無いし夜を明かしたこともない。

 それ自体は健全なお付き合いとも言えるので良いのだが,婚約してもう直ぐ2週間も経とうかという時期まで来て…デートの1つもしていない事に今更ながらヤバくないかと思った。

 

「それじゃ,部屋に…」

「あ,亜夜子」

 

 そう思った時には,亜夜子が部屋に帰る宣言をしようとしていたためつい名前で呼び止める。いつもと同じような流れだっただけに亜夜子は目を丸くして焔矢を見て,焔矢は少し恥ずかしそうに言った。

 

「一緒に…ヨルの散歩行かない?」

 

 その事が意外だったのか,亜夜子は眼をぱちぱちとさせて恥ずかしそうな顔をしている焔矢を見つめて次第に二やっと笑った。

 

「ふふっ,もう少しさりげなく言ってくれたら満点だったのだけれど」

 

 焔矢の反応から自分でもらしくない事を言っているとでも思っているのか,言葉の尻が小さくなっていたのが”男らしさ”を多少なりとも求める亜夜子的には減点だったが…密かに期待していたシチュエーションでもあったので「うっ」と唸ってしまった焔矢に言った。

 

「でも誘い文句としては合格。」

「どっちなんだよ…」

「あら,これでも褒めてるのよ?…行きましょ?」

 

 魅惑的に微笑んだ亜夜子は,エスコートしろと言うように右手を差し出した。それを一瞬,嬉しそうに見て焔矢はそっと自分の手を重ねた。

 2人で手を繋ぐのは婚約を決めたあの日,2人で帰る時の道以来だ。…これは焔矢じゃなくても本当に婚約しているのか?と言いたくなるレベルである。

 

 散歩と聞きつけたヨルにリードを付け,散歩鞄をぶら下げて2人はビルを出た。調布にあるこのビルの歩いた所には昔も今も変わらない多摩川にまで歩いて行く事にした。

 ヨルは焔矢にしっかり躾されているのか,焔矢と亜夜子の間をピタリと張り付いて短い手足でテクテクと歩いて行く。ここら辺での散歩は既に慣れたものなのか,寧ろ気持ちはヨルが先導しているようにも見える。

 

「そう言えば,ヨルの動きが何となく前と違うのは何でだ」

 

 2人で他愛のない話をしながら歩いていた時,焔矢はヨルの歩き方が何となく前と違うように見えた。実際前は犬の典型的な身体をバランスよく支えるように重心を中心に寄せた歩き方なのだが…何故か今は重心が前に偏っていて,もしも走るのならば少し忍者走りに近いものになるんじゃないかと内心で思って亜夜子に問いかけると…

 

「…まさか」

 

 亜夜子もヨルの歩き方に違和感を持ったのか,ヨルをじっと見つめ…やがて何か思い至ったのか現在2人しかいない筈の空間で伴野の名前を呼ぶと,伴野は表情が読めない顔のままスッと2人の背後に現れた。

 伴野の存在に気が付いたのか,ヨルはピタリと立ち止まり次に「ししょー!」と表現しているように背筋をピンとしたお座りを披露する。

 

 そんなヨルの変化は流石に知らなかった焔矢は唖然としてそれを見る中,亜夜子は淡々と切り出した。

 

「ヨルちゃんに変な歩き方を教えましたね?」

 

 証拠も何もないのに当然意識強めな亜夜子の言葉,伴野は否定することなく何食わぬ顔で頷いた。

 本人曰く

 

「忍犬に憧れていましたので」

「時間がある時で良いので癖になる前に即刻もとに戻してください。さもないとクビにするわよ」

「承知」

 

 嵐のように姿を消した伴野にため息をつき,少し焔矢に目を伏せた。

 

「焔矢,伴野がごめんなさい」

 

 亜夜子もヨルの事をそれなりに溺愛しているのか,本当に申し訳なさそうに謝って来られて焔矢は少し調子が狂ったかのように何度も顔を横に振った。

 

「いや,うん…まあ戻してくれるって言ってたから大丈夫だよ…?うん。」

 

 余りに迅速な詰問と自白だったので呆気にとられたという方が正解だったのだが,亜夜子は気が付かなかった。

 そんなこんなで2人は流れる多摩川に置いてあったベンチに座った。河川敷沿いと言っても現代では掃除も行き届いていて,綺麗で,亜夜子と焔矢の間にヨルがすっぽりと収まった。

 

 もう直ぐ焔矢の高校では夏休みに入る時期だが,夜のこの時間帯は程よい風のおかげで散歩をするには丁度の良い時間だった。これが八月くらいだったら少し蒸し暑かったかもしれない。

 川のせせらぎに身を委ねて…2人と一匹の空間で亜夜子は気になっていた事を切り出した。

 

「ねえ焔矢,私達って婚約しているのよね?」

「え,何藪から棒に」

 

 問いの意味が分からなくて横を見ると,さっきまでヨルを撫でていた亜夜子の左手がそっと焔矢の頬に添えられて強引に顔と顔が見つめる格好になった。

 余りにいきなり過ぎたので焔矢は恥ずかしそうに眼を反らそうとするが,亜夜子が許さないとばかりにびくとも動かさない。

 彼女の赤い瞳は蠱惑的に蠢いていて,引き込まれそうになってしまう。魔眼でもないのにこれ程に綺麗で引き込まれてしまいそうになる眼というのも中々ないんじゃないかと思ってしまう。

 

「それなら…1つくらいは秘密を明かしても良いんじゃないかしら?」

 

 ——焔矢は素で彼女の言っている意味が分からなかった。

 

「え?いや…秘密って…殆ど四葉に教えたのが全部だけど」

 

 Unlimited Flame Worksの事も,自分の身体の事も…魔法師であれば通常外部に漏らさないようにするのが鉄則な筈の自分の事をきちんと焔矢は四葉に教えている。

 焔矢がもたらす効果とかは焔矢達の理解と齟齬があるのかは今の所調査・研究段階だが少なくとも焔矢にはこれ以上の秘密はないと自負している。

 なんならプライベートとかも全部公開しているのだからこれ以上何が秘密にあるというのか。

 

 しかし,亜夜子が言いたいのはそう言う事ではなかった。何故なら疑問に思ったのはつい数十分前だから

 

「さっき,第一高校の名前を呟いた時に様子が変わったじゃない」

 

 少なくとも四葉が調べた限り,焔矢と国立魔法大学付属第一高校との接点は皆無。焔矢は魔法師としての訓練も受けていないし,受けようとも思っていなかったようだし第一高校を出願したという事も無かった。

 では逆に焔矢の瞳の輝きが第一高校によって変わったのか,亜夜子はそれを知りたかった。

 

 焔矢は自分では気が付かなかった事なのか,慌てて取り繕うとしたが亜夜子が強い瞳でジーっと見つめて頬に添えた指を動かさなかった。

 

「別に…知った所で何もないぞ」

「やはり,わたくしたちに話していない事があるのね?」

 

 亜夜子の眼光に,羞恥ではなく畏怖を感じた焔矢は諦めたように言外に亜夜子の言う”秘密”があると認めた。そもそも亜夜子がわざとらしく一人称をわたくしに変えたのはプレッシャー与えると同時に,言外に「場合によっては裏切りよ?」という意味も込めていた。

 こういう所で仕事モードを発揮されるとは思わなかった焔矢だったが,彼的にはこの話は自分の身体や魔法とは特別関係のない話になるから言わなかったというのが正しいのだ。

 それに…ある意味では4年前の出来事よりも,口に出すのは辛い過去の事だったから。

 

 口を割らない焔矢,亜夜子は急かすことなくやがて鋭い眼光を収めて優し気な光に変わった。そして今度は四葉としではなく黒羽亜夜子として聞いた。

 

「四葉の事を抜きにしても…私はただ焔矢の事を知りたいの。」

 

 確かに,パーソナルデータやプライベートの事などもう焔矢のありとあらゆることは四葉には筒抜けであり…意外なことに割と融通が利いているのは実は貸し与えられている部屋だったりする。

 亜夜子たちの一階下ということもあるのかは分からないが,監視カメラも来た当初よりは減ったし亜夜子曰く「寝室は外しておいたわよ」となんかニヤニヤと言われたことがあるのは記憶に新しい。…焔矢の場合練習のし過ぎでソファーで寝てしまう事も偶にあるのだが。

 

 「…亜夜子だって秘密くらいいくつもあるだろ,なんで俺だけ」

 

 そこで焔矢は今まで特に抵抗素振りも無く教えていた個人情報を,珍しく渋っていた。

 焔矢にしてみれば,自分の魔法の事を教えたのはコントロール術が見つかるからかもしれなかったというのもあったからそれほど躊躇いはなかった。

 

 だがこの話は魔法は関係ない。なぜならこれは…焔矢が音楽をするきっかけの過去だからだ。苦い思い出でもあり,人生で初めて無力感を感じた話であり…音羽焔矢の…そして,Alter Egoの原点とも言える。

 知っているのは故人の両親と,仲間達だけだ。

 

 苦い記憶を,それも魔法に関係ない事をわざわざ亜夜子に伝えようとも思わなくて思わずそんな返答に困る言い分を放った。

 その筈だったのに

 

「じゃあ私の秘密も教えてあげる。私のバストは――」

「言わなくて良いから!?」

 

 シリアスな雰囲気だったのに,亜夜子はそれをぶち壊してきて焔矢は思わずいつものようなツッコミを放ち…シリアスな雰囲気を壊す事が目的だった亜夜子は恥ずかしがりもせず,寧ろ顔を赤くした焔矢の顔を嗜虐的な笑みを浮かべて覗き込む。

 

「どうして?十分対価に値する秘密だと思うけど?」

 

 無駄に秘密という所で色香を感じさせる発声をしていたが,それによって焔矢は更に頬を紅潮とさせてしまう。

 

「そ,そう言うのは言わなくていい」

「じゃあ私はなにを話したら話してくれるのよ。ヒップとか?そう言う性癖だった?」

「少しは恥ずかしがってくれません?!」

 

 いくら周りに人はいないからと言って,そんな下賤なワードが亜夜子から飛び出してくるとは思っていなかった焔矢はすっかりペースを乱されている様だった。

 亜夜子の為に弁明しておくが,普段から彼女はこんなワードを自ら言う事はない。2人(と一匹)だけの状況で,彼が年下だから面白くてからかっているという面も否定できない。

 これが例えば達也相手なら逆に亜夜子が自爆してしまうし,弟の文弥相手でもこんな直接的な言い方はしない。弟の前では下着を付けない事はあるが,あれは弟だから露出が多少多い恰好も出来るのである。

 流石に焔矢相手にはまだそんなラフな格好を見せたことはないが…この分だと人並みの煩悩は持っているようで亜夜子は少し安心した。

 年並みから外れすぎていてそう言った嗜好はないのかなと少し心配していた所だ。

 

「わ,分かった。話すから…からかうのやめて」

 

 結果,焔矢は亜夜子の話術にあっさりと嵌ってしまった。

 ため息を1つついて,どこから話そうかと考えて月を見上げて…

 

「亜夜子は俺が普段使っている薫の方じゃないギター覚えてる?」

 

 焔矢の確認にも似た問に亜夜子は直ぐに頷いた。

 焔矢が薫の技術を使わないといけない時は,彼のギターを使う事があるがそれ以外の時は基本的に真紅のギターを使っているのは亜夜子じゃなくても有名だ。

 亜夜子も直接見せてもらった事があるし,焔矢の事ならほぼ何でも知っている亜夜子が知らないはずなかった。

 

「あれは…元々俺の物じゃなかった」

「え…?そうなの?」

 

 余りにもあのギターを持っている焔矢の絵面が似合い過ぎていて――名前とカラーイメージが完全合致している為——そんな事を考えたことも無かった亜夜子だった。

 次に気になるのは,ではあのギターが焔矢の物じゃないとすれば誰のものなのか。

 

「ご両親のもの…ですか?」

「ううん,俺の両親は音楽はそれほどだったよ。」

 

 それでも焔矢の為に,簡易的なスタジオを作ってくれるほど溺愛はしていたが両親が音楽を演奏している所は焔矢も見た事が無かった。魔法のように遺伝子的な要素が強く意味を持つなら兎も角音楽自体はどれだけ環境と才能があるかによって変わる。

 そして焔矢にはその才能があった。だけどそれは焔矢の両親が見出したものではなかった。

 

「俺が小1の時…今の実家に引っ越す前,近くの公園でよくギターを弾いていたお兄さんがいたんだ」

 

 焔矢はそれ以上もったいぶる事も無く亜夜子に話した。自分の…音羽焔矢がギターに魅入られ音楽に魅入られた時の話を。

 完全記憶能力を持っている焔矢にしてみれば大変違和感のある表現だが…あの時初めて聴いたギターは稲妻のように焔矢を撃ってきてあの激烈な,自分の世界が塗り替えられていた。

 

 これは…音羽焔矢の始まりの物語である




お疲れさまでした!

という訳で,次回焔矢の始まりのお話です。
ただ3万字位あるのでちょっと分割したりする関係で少し後になるかもです。

焔矢は基本的に四葉に対してほぼなんでも情報を開示していますが,この話は魔法と何も関係のない事だったのでこれまで聞かれなかった事です。
亜夜子がそれを小さな変化で気が付いて問い詰めた結果語ることになった焔矢である。


それから亜夜子の話し方なんですが,本文中にも書いた通りかなり砕けています。これは婚約したからというのが大きな理由です。一人称が変わっているのも同じ理由ですね(文弥の前では私)。亜夜子の方も焔矢を家族として認識しようとしてあれこれ変えていっている状況です。


という訳で,次回は焔矢の過去話でその影響でオリキャラ出まくるので軽いキャラ設定集も用意できればと思っています。

では!

どのお話見たい?

  • 達也&焔矢(UBW強化話?)
  • 空澤&焔矢(亜夜子についてあれこれ話す)
  • 貢&焔矢(修羅場)
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