タイトルから何かを察してもらえると助かります。
本当は全部書いた時に3万5千字位あったので流石に多すぎて疲れるかなと思ったので二部構成にしました。
では!
焔矢の九校戦のオープニングから約一週間後である日曜日,焔矢がマフィアの野望に巻き込まれて初めての休日でそれほど時間は経っていない筈なのに,心とのあれこれが遠い昔のように感じる。
亜夜子と焔矢は,結局心には兄の存在は忘れてもらう事にするという結論に至り心は現在元の自分の家で過ごしている。
あの日以降学校を休んでいた体になっていたのも,先日取っ払い彼女は再び学校に登校し始めることも決定している。それに伴って彼女は亜夜子を通して焔矢に生徒会長にはならなくても大丈夫だよとも伝えてもらっている。
もともと生徒会長の打診は焔矢に近づくための口実であって,本気でやってもらおうとは思っていなかったと後から知った。
彼女も今では焔矢と同じように少し監視付の生活をしているらしいが,それなりに平和な生活を謳歌しているようだ。
因みに音楽科高校の学費や衣食住を頼っていたマフィアの繋がりが消えたため現在はそのまま四葉がそれらを出している状況だ。高校3年のこの時期に学校をやめるなどすればこれから彼女がするであろう外聞的に諜報活動にも影響が及ぶだろうし,心は元もと大学とかにも行くつもりはなかったのでそう言う話で決着したのだ。
「ヨル,今日は亜夜子と出かけてくるからお留守番お願いな」
そんなこんなで平和を甘受していた日の事,焔矢はいつものような紅いジャケットに白シャツに黒パンといういで立ちで亜夜子とのデートの準備を整えた。
今日も1人でお留守番してしまうことになるヨルに言うと,ヨルは既に慣れたものなのかキラキラした眼で答える。
時刻は既に朝の10:00,天気は良好で若干遠い所に雨雲はあるらしいが新しい天気予報によると東京にそれが被ることはない。
「焔矢,行きましょ」
そうしてヨルとなんか会話をしていたら,いつものように亜夜子が音も無く部屋に入ってきて…焔矢の恰好に目を細めた。
「ああ,行こう亜夜子」
「ちょっと待って」
「え?」
行こうと言った本人が,何故かストップをかけてきて焔矢は呆けたように亜夜子を見る。
亜夜子は,焔矢の事をジト目で見ながら彼の周りを一周して何かを検査するかのように見て回る。ジャケットの裾を捲ると,パンツのベルトに引っかかるようにポーチがあったりするのを見て目を細める。
なんだか見定められているみたいで落ち着かない焔矢は思わず問いかける。
「あ,亜夜子…どしたの?」
「あなた,前々から思ってたけど他に服はないの?」
よく考えたら亜夜子は焔矢のファッションというのをそれほどのパターン見たことがない。こういった休日の時は大概がこの紅ジャケットに白シャツに黒パンというはっきり言って結構ダサいようなものか,スーツか,学校の制服くらいしか亜夜子は焔矢の恰好を見たことが無かった。
焔矢の今の恰好自体はステージ上でなら彼の二つ名も合わさって映えるのだが,日常生活では先ずありえないというのが亜夜子の考えだった。
あとはパジャマと柴犬パジャマ位で,彼の服のレパートリーの少なさにお洒落をする亜夜子という女性から見たら信じられないというのが正直な思いだった。
「え,いや…ないけど?」
亜夜子は焔矢を呆れた眼で見てから,彼の寝室へ入って行く。勝手に男の寝室に入るのは色々問題がありそうだが,焔矢は別にそう言うのを気にする質ではなかったので黙って彼女の後をついて行く。
彼女はクローゼットを開けていて,ハンガーにかけられている上着の類を見て…どれもが蛍光色なのを見てため息をつきたくなった。
他にも見てみたが,白シャツの類が多くビジネスとかなら別に良いのだがせめて休日くらいはポロシャツにしてほしいとか思った。
もしかすると一番マシに出来るファッションは制服なんじゃないかと思う位服のレパートリーが無かったのだ。
「予定変更,渋谷行くわよ」
「えっ?!」
当初の予定では自然公園に行ってのんびりして,池袋で映画を見て,焔矢が中野の実家に取りに行きたいものがあるという事だったので途中の新宿でご飯を食べるというのが大雑把な予定だったのだが,亜夜子の一言によって予定が変更された。
まあ,元々亜夜子のプランに焔矢が付いて行くみたいな形だったのでそれは良いのだが何を一体変更するのだというのか。
取り合えずクローゼットから引っ張り出した帽子を焔矢に被らせて2人は調布のビルを出た。ヨルは主がいなくなった部屋を見て首を一瞬傾げたが,直ぐに自由だと言わんばかりにくつろぎ始めたのだった。…主がいてもくつろいでいるが。
ビルを出た2人は最寄りの個別電車の駅へと向かい,そのまま渋谷にまで個別電車を動かした。隣り合って座る2人,こうした光景も今や日常茶飯事なのだがデートという目的の為にこうして座るのはもしかして初めてじゃないかと焔矢は思った。
2人が個別電車で座っていた時はまだ婚約していない頃でデートという意識は無かったし。
それはそれとして,焔矢は家を出る前に被らされた帽子の唾を持ちながら聞いた
「亜夜子,この帽子いる?」
「貴方,有名人なのは自覚あるの?」
亜夜子は前々から思っていたが,あの杜撰なファッションもそうだが彼は余り変装を日常生活でしていない。無名の頃なら別に良いのだろうが,今では彼の動向自体世間には注目されている。
焔矢の音楽というスタイルがバンドなのもあるし,魔法を使って音楽をするというのもあるし,その魔法が現代では類を見ない精神召喚魔法であるならば魔法師も非魔法師も焔矢の事を注目するのは当たり前だとも言える。
レーベルの個人情報にもちょっかいをかける人間が最近は増えていると聞いているし,黒服からも焔矢の通学中にも調査しようとする輩がいるというのは聞いていた。
「自覚は…あるけど俺に気づく奴なんていないんじゃないか?」
探そうと思わない限り,が付くが割と焔矢は真面目にそう思っていた。そりゃあ,ハリウッドの女優だとかVRアイドルの中身の人とかならまだ分からないでもないが――それこそ亜夜子とかも間違いなく魔性の美女だから注目されるだろと眼で訴えてみる。
すると亜夜子は悪戯をする表情を見せてあざとく笑った
「私といれば注目されるじゃない」
黒羽亜夜子という人間は,間違いなく美女にカウントされる。小悪魔のような雰囲気を醸し出し,それが却って男性の注目を集める。なんなら,色香という意味では司波深雪やリーナよりも上だというのは本人も弟である文弥も思っている。
結果,亜夜子が1人で街に出かけた際にはナンパをされることは大量にありその視線に気がつく度に亜夜子は隠形の腕を駆使して避けて来た。
だが,今日に関してはそうやって逃げる事は焔矢がいる以上出来ない。だから亜夜子には焔矢に男避けにもなってもらわないと困るのだが世間では女性ファンの方が焔矢は多い。
それで今度は焔矢が注目されるようなら本末転倒で,彼の誕生日と同時に婚約を発表するまで彼と四葉の関係は知られてはならないので帽子によって目立つ白髪を隠して欲しいのである。
「まあ,それもそっか」
焔矢は亜夜子が自分の事を美女或いは美少女と呼ぶことを知っているし,それが事実なのは知っているので亜夜子の言葉を否定せず何だか釈然としないものを感じながら頷いた。
確かに下手に目立ってレーベルに迷惑をかけたくないし,何より亜夜子とのデートを邪魔されたくないのが本音だったので素直に帽子の着用を受け入れた。
「それで,渋谷で何見るんだ?」
割と今日は荷物持ち覚悟で来たから取り合えず何を買いに行こうと思ったのか問いかけたが…いきなり予定を変更したことからも何を見るのか直ぐに予想が出来た。
「あなたの服よ。」
まあ,服のレパートリーの少なさを見ての予定変更なので当然とも言える。
「え,えっと…別に俺今ので困ってないんだけど」
しかし,焔矢にしてみればあの数種類の服を着まわすだけで別にこれまで困った事ないし平日であれば大体制服で通してきたこともあって本当に困っている訳ではなかった。
一応服に関してはまだ焔矢の実家に置いているが,ビルの部屋に置いてあるのと似たり寄ったりである。
そんな焔矢のファッションに興味なさそうな言葉を呆れたように聞いた亜夜子は論法を変えた
「焔矢が困らなくても私が困るの。ステージ衣装ならとってもカッコいいけれど,日常生活では目立ちすぎるわ。」
ステージでならカッコいいというフォローを言いつつ,目立ちすぎるという事で遠回しに杜撰という亜夜子の言葉の裏の言葉を読み取った焔矢は「えぇ」と思ってしまった。
しかし,まあ…確かに街中に紅のジャケットは目立つだろうし,白髪のもあいまって人々にどう思われるのかは想像に難くない。今でこそ有名人だから焔矢だと分かるが,似たような恰好でライブハウスを荒らしまわっていた時はジャケットというトレードマークが要注意人物の張り紙として出回っていたくらいだ。
別に他人にどう思われようが焔矢自身は構わなくて,音楽で黙らせるのが常だったから良かった。
だが,これからはAlter Egoの音羽焔矢であると同時に黒羽亜夜子の夫として過ごす事になる。今はまだ婚約の段階だが結婚するのは既に決定事項であり焔矢自身も亜夜子の事は好きだからそれ自体は何とも思わないのだが,自分の評判のせいで亜夜子が困るのは確かに困る。
結局,焔矢は亜夜子の予定を受け入れ渋谷で降りると某有名ショッピングモールへと向かった。
(それにしても…)
焔矢は街を歩く中で集まる亜夜子への視線を見て,ふと思った。
今日の亜夜子の恰好は,シンプルにフリルがあしらえられている純白のクラシカルワンピースにリボンがついたカチューシャといういつもの小悪魔的なファッションではない,大人らしさと清楚さが共存している可愛らしい姿だ。
更に,ベルトを締めているせいか亜夜子の華奢でありながらも大人らしい身体のラインが惜しみなくさらされていて…焔矢にしてみればどっかから舞い降りた天女みたいだなと一瞬思ってしまう位には美しい。
名前的には黒とかの方が似合いそうなものだが,今日の彼女は敢えてなのかは分からないがこの夏真っただ中に相応しい色合いで…焔矢は個別電車の中では見惚れてた。
流石に外に出ると普段通りに戻っていたのだが,代わりに亜夜子に注がれる下賤な視線を感じて…なんとなく嫌だなと思った。
「焔矢」
「亜夜子…ちょ」
そんな事を考えてしまったのを亜夜子は気がつき,困ったように焔矢を見てから…自分の腕を焔矢に絡めた。年は亜夜子の方が上だが,背丈は焔矢の方が高い。
自然と亜夜子は焔矢を見上げる形になり…
「…っ」
「ふふっ,どうしたの?」
恥ずかしそうに眼を反らした焔矢をからかうかのように聞いて,焔矢は耳を赤くしつつも,亜夜子の歩幅に合わせる。
亜夜子的にはまだ焔矢は女性への扱いはまだまだと言った所だが,こうやってさりげなく合わせようとしてくれるのはポイントは高い。
「亜夜子こそどうしたんだよいきなり」
これまで外で亜夜子が焔矢の腕を絡めた事があるのは,まだ2人が婚約していない頃,激辛ラーメンを食べる前までの話でありあの時は焔矢に対しての感情が分からなかった亜夜子が焔矢をドギマギさせたいが為にやったのが最初で最後だ。
それもあれだって周りに人がいないから出来た事であり,今は日曜日で休日。様々な人間が亜夜子に見惚れてしまう中で腕組みをされるとは思っていなかった焔矢が戸惑うのも無理はない。
予想通りというか,周囲の反応として焔矢を睨むような視線が増えた。亜夜子の予想通りというか,焔矢への嫉妬で焔矢が見られてしまっているという事だ。
おまけに,ファッションビルが立ち並ぶ街なだけあって,焔矢の今の姿が浮いているというのもあって「なんであんなダサい奴が」みたいな視線がもっとも多かった。
亜夜子が腕を絡めた事にもギョッとしたように眼を見開いた人が多い中,亜夜子はさも当然というように言い放った。
「あら,私は”デート”してるだけよ?」
何が可笑しいの?とも言いたげに楽しさとあざとさが同居している美しい笑みに,焔矢は一瞬眼をパチパチとした。以前はこの言葉にからかい以上のものを見つけられなかった。
だが,今はこの言葉の意味が理解出来て…なんか他の人の視線を気にした事が馬鹿馬鹿しくなった。
「…行こうか」
「ええ」
焔矢の陰りが取れたのを見た亜夜子は,淑女の笑みを浮かべ2人はそのままファッションビルへと向かったのだった。
★
どうしてこんなことになったのだろうかと,焔矢はビックリするくらい冷静に目の前の2人を見ながら思っていた。
焔矢が知っている情報では,四葉の次期当主であるはずの女性とその婚約者である男。世界的に数えても上から数えた方が早い,男の方は間違いなく世界最強と言っても過言ではない。
魔法師だけじゃなく,世界的な意味でも一番今有名人だろう2人がまさか都心で普通にデートをしてるとは思わなかったのである。
「達也様,こちらなんてどうでしょう」
「深雪が選んだものなら間違いないだろうね」
なんだか目の前でピンクのフィールドが形成されながら件の2人は1つのメニュー表を見ていて何を頼もうかと思っている所だ。
焔矢の隣では亜夜子はニコニコしていてそれが逆に不気味だったりする。
(俺が視線に気がついてしまったばかりに)
なぜこんな事になってしまったのか,根も葉もない言い方をすれば焔矢が達也の視線に気がついてしまったからである。
時は遡り1時間くらい前,焔矢と亜夜子はファッションビルのメンズフロアにて亜夜子が焔矢の服を選んでいた。
「焔矢,これ試してみて」
このメンズ専門店には,着用者の身長や体重に体型に合わせて映し出されるカメラから,専用のタブレット端末から指定の服装を映し出す事が出来るというシステムがある。
過去大学の入学式の為のセレモニー用の服装を合わせる時に,文弥が亜夜子たちの着せ替え人形にされていたあれと同じ奴である。
店に到着した亜夜子は,取り合えずと言って店の服を幾つか見積もり件の鏡型のモニターに焔矢を立たせた。
すると,今焔矢が着ている紅のジャケットではなくシンプルに黒のテラードジャケットが現れ下のシャツは白のポロシャツへと変わりオーソドックスな姿になった焔矢が現れる。
高校の制服に近い恰好なのだが…亜夜子は首を捻った。
「シンプルだけど…余り焔矢には似合わないわね」
因みに,亜夜子の頭には今の焔矢の身長や体重,それに体つきのデータなどほぼ全て入っているのでそれを元にしたシンプルなチョイスだったのだが…ぶっちゃけ似合わなかった。
いや似合わなかったは語弊があり,普段の焔矢を知っていると”らしくない”と感じたのだ。
「焔矢が白髪のせいでさらに老けたように見えちゃうし」
焔矢の
黒のジャケットのせいで白髪と,白シャツが強調され過ぎていて良いとは思えなかった。
「いや老けたって…まあいいか」
焔矢も自分が老け顔に見られる事があるのは自覚している。ステージではそんな事はないのだが,日常生活の苦笑いしている部分など見るとそう思われても仕方がないことだと偶に言われる。
よく見たら普通に顔つきは若いし,イケメンに入るのだが白髪という先入観のせいでそうみられない事が多いのだ。
しかし,自分がいくつか試したシンプルな服装は焔矢には余り似合わず…焔矢が今日着てきた服の方が似合っているように見えるのは何となく悔しいと亜夜子は思った。
「こうしてみると,焔矢の紅のジャケットってあなたに合うのよね」
一度試着のものをリセットした亜夜子はそう呟く。今や紅のジャケットを見慣れていたから亜夜子は杜撰だとか思っていた訳だが,こうして黒に白とシンプルなものを合わせても余り焔矢には似合わなかった以上一周回って蛍光色の方が焔矢には様になっていた。
しかし,蛍光色はどうやっても目立ってしまうし焔矢にシンプルなものが似合わないと知らない人間からしてみればそんなものは知った事ではない。
だから蛍光色以外の基本となるものが必要だと亜夜子は思った。
「身体は引き締まっているからシャツだけでもいけると思うけれど,意外に肩幅もあるからどこかのガードマンみたいになっちゃうのよね…」
亜夜子はなにやらぶつぶつ言いながらタブレットからあれこれ試してはみる。
「そう言えば,焔矢ってどうしていつも上を羽織ってるの?」
そこでふと気になった事を思い出し,亜夜子の着せ替え人形になって若干虚空で羊を数え始めていた焔矢に問いかける。
焔矢は基本的に夏だろうが春だろうが,この紅のジャケットもそうだが何か上着を羽織っている事が多い。というか,部屋の中でも着ているくらいには亜夜子は焔矢がシャツ一枚という姿を見たことがない。
せいぜいがそれこそパジャマの時か筋トレしている時位で,でも焔矢自身は他人に見せられない程何か酷い怪我がある訳でもない。あっても事故の時の跡位だが,現代医学の発達によってそれも殆ど見えない。肌を隠さないといけないようなものがないのにどうして上着をよく羽織るのか。
亜夜子はいつもの焔矢の恰好の先入観からジャケットから探していた訳だが,焔矢に特別な理由がないのならもっと違う選択肢もあると思ったが故の問いかけだ。
問いかけられた焔矢は焔矢で,そんな事を聞かれると思っていなかったのか目を丸くして,少し考えたように眼を閉じた。
「どうしてって…うーん,なんとなく上を着ていないと落ち着かないし,あとは多分俺くらいしかないけど」
そう言って焔矢はジャケットのポケットに手を入れると,そこから現れたのはボイスレコーダーだった。
「ジャケットのポケットがこいつを入れるのに丁度いい位置だから,かな」
「…一応聞いておくけど,いつも録音してるの?」
焔矢の所持品の中にボイスレコーダーがあるのは知っていたが,勝手に作曲したものを録るのに必要だと思っていたのでまさか日常生活でそれを入れていると思わなくて,昔の亜夜子の焔矢への感情が分からなかった時期の”恋する乙女”の自分を録音していないでしょうね?と,若干睨みつけながら問いかける。
そんな亜夜子の視線の意味を何となく理解した焔矢は苦笑交じりに答える。
「いつもじゃないし,多分亜夜子が思っているような地雷は入ってないから大丈夫だよ。」
「じゃあ何に使ってるのよ」
「歌詞や作曲のインスピレーションが湧いた時に使うんだよ。例えば…」
焔矢はぱっとメンズ店を見渡し,何かを思ったのかボイスレコーダーをONにして
「衣替え,季節,ドレス」
と言ってボイスレコーダーを切る。
「こんな感じで, 思いついたワードを適当に吹き込むだけだよ。前第一高校行った時も録音はしてたし」
「ふーん,直ぐに取れるように胸ポケットに入れられる上着が都合良いって事ね」
亜夜子には今のワードがどう歌詞に繋がるのか全く分からなかったが,取り合えず焔矢がボイスレコーダーを持っていること自体は納得した。映像と一緒じゃないとワードの意味があるのかと一瞬思ったが,焔矢には自分の記憶が映像として流せるので大丈夫なのだろう。
そのデータの中に自分じゃない自分のデータがあるのかは後で焔矢に提出してもらって確認するとして,ちゃんとした理由があるのなら焔矢的にもジャケット…というか上に羽織る方が良いのかもしれない。
いつもと全く違う恰好の焔矢を見てみたい気もするが,それで焔矢の調子が悪くなってしまったら元も子もない。別に今回だけが焔矢の服を選ぶ機会という訳でもないし,今回は焔矢の希望通り上に羽織るものを込みにしたファッションの方が良いだろうと考えた。
「となると…」
そこまで考えて,亜夜子は店を見渡して…何か思い至ったのかタブレットを操作する。すると目的のものが見つかったのか,一瞬画面の中で確認して頷き焔矢にまた鏡型モニターの前に立つように言う。
「おぉ」
そうして亜夜子が選んだのは,今まで焔矢にありそうでなかった類の恰好でありオリーブドラブのロングコートで,ウエストを帯のように太い紐で縛り赤黒いTシャツに今まで通りの黒パンという服装だった。
白髪がオリーブドラブの色に違和感なく合わさっており,赤黒いシャツというのも焔矢の世紀末観とした曲に準ずるものがある。”音羽焔矢”という個人を端的に表した良い恰好と言うのは,焔矢も思った。
「凄いな亜夜子」
だから背後でどこかドヤ顔をしている亜夜子に言うと,彼女は自慢げに笑う。
「ふふっ,気にいった?」
「うん…そうだな」
もう一度モニターの自分を見て,自分の中でもしっくりと来て焔矢も満足そうに笑った。
亜夜子もシンプルな色合いから外したオリーブドラブという軍のような色合いの服をは最初どうかと思って外していたのだが,焔矢の好戦的な性格を知っていると自然と合わせる色として出てきていた。
そして焔矢らしさと言うのを付け加えるために赤黒いTシャツにしたが,これまた焔矢にはよく似合っていた。
「じゃ,取り合えずこれね」
「うん,わか…取り合えず?」
思いっきり服買うのが終了だと思っていた焔矢は,亜夜子の取り合えずというワードに疑問符を命一杯浮かべた。
「え,まだ見るの?」
「当たり前でしょ?たったの1セットじゃ足りないんだから,そのコートとかにあう他の服も見るわよ」
オリーブドラブもまあ,どちらかというと目立つのだろうが焔矢の紅よりはまだ色としては大人しい。
だからこのロングコートを起点にいくつかのパターンを溜めそうと亜夜子は思ったのである。
似たような服しか持っていない焔矢にしてみればこの1セットだけでも大分違うのだが,生憎服の価値観は亜夜子とは全く違うので彼女はこれだけに満足する事が出来ず,2人はそのままいくつかのパターンを試していくことになったのだった。
「♪♪」
と言っても,実態は亜夜子が選んだものを焔矢が試着するという流れであり焔矢は人形状態である。元々焔矢にとって服とはただの布みたいな所もあり,こうしてガチで誰かが選んでくれる事になるとは思っていなかったのである。
(そういや…母さんにこうされたのっていつが最後だったっけな)
亜夜子の着せ替え人形になっている間,ふとそんな事を考えた。紅羽が死んでから早すぎる反抗期に入った当初は,正直母との関係は良くなかった。
といっても焔矢が1人で拒絶しただけなのだが,家族との溝も深まっていた時期だった。
だから小学4年の夏から中学1年の夏が終わる頃まで,音羽家は寒冷期だったと言っても良い。
服とかは母が買って来てくれて,部屋のタンスに入っていたものを適当に着ていてその時に自然と気にいった色合いというのが今の紅をメインとしたものだった。
昔の…今のように着せ替え人形になりながら母が嬉々として服を選んでくれていたのはいつの頃だったかと考えていると…
「——ッ!?」
不意に,自分の事を見る気配を感じ取りその冷たさによって焔矢の背筋は思わず凍り付いた。
これまでの…自分の事を狙う賊とは訳が違う。奴らは大概が焔矢を何かしらの手段で直接視認してくるものだった。亜夜子のように光の屈折と望遠の魔法によって遠目から見てくるという事も過去にはあったかもしれない。
だが,今感じた気配はそんな生易しいものではない。焔矢自身も知っている…これは,情報次元であるイデアを通して視てくる視線だ。
「…焔矢?」
段々と焔矢の着せ替えをするのが楽しくなって来た亜夜子だったが,唐突に焔矢の身体が強張ったのを見て首を傾げた。
亜夜子自身もこうやって着せ替えを楽しんでいるが,それでも周囲の警戒を怠った訳ではない。それに,今は伴野もいる筈なので焔矢を狙う賊なら自分達が気がつかない筈がない。
「…亜夜子,下がって」
「ちょ」
亜夜子が何かを言う前に,焔矢が強引に亜夜子の腕を掴んで自分の後ろに下がらせた。
そうして亜夜子を自分の背中で隠しいつでも逃げ出せるように臨戦態勢を取りながら,自分をイデアを通して視て来た輩を逆探知の要領で距離に置き換えようとした時
「すまない,驚かせるつもりはなかったんだ」
いろいろな服がある奥のスペースから,1人の長身の男が両手を上げ交戦の意志がない事を伝えながら2人に近づいてきて…
「達也さん?!」
焔矢の後ろにいた亜夜子が焔矢もビックリするくらいに驚愕を表すように彼の名を呼んで,焔矢は「えっ」と思い切り固まって…司波達也を見返した。
なんどかニュースで見たことのある,確かに世界最強に数えられる魔法師である司波達也だった。
「亜夜子,久しぶりだな」
ビックリして口を半開きにして臨戦態勢を焔矢が解いたのを見て,達也も両手を下げ背後の亜夜子へ柔らかい笑みで言った。
「ご無沙汰しております。達也さんもお買い物に来られていたのですね」
達也に対して亜夜子は外行の,四葉の淑女としての振る舞いに戻りながら艶やかな笑みで達也に返す。
もっとも,亜夜子は達也だけがここに来たわけではないだろうとも思っていた。
なぜなら…
「達也様,こちらを着て…あら?」
さっき達也が来た方向から様々な男性の視線を集めてやって来たのは,達也の婚約者である四葉の次期当主…
(司波深雪,だったか?)
なるほど,確かに綺麗だと焔矢は彼女を見て思った。
顔のパーツがきっかり左右対称になっているのもそうだし,彼女を構成するパーツの1つ1つが綺麗と形容するにはなんら不思議もないほど揃っていたのである。
これは確かに美人と言っても良いのだろう。
だが…
(なんか,作り物みたいだな)
人に対して思うような評価じゃないのは分かっているのだが,テレビやネットとかでも見た時から思っていた事がこうして面を合わせてみて本格的に思ったのである。
確かに美人なのだが,逆に完璧すぎて作り物という方が焔矢にはしっくり来てしまうのである。…まあ,そんな評価を口にする訳でもなく亜夜子と深雪が何やら微笑ましく話しているのを見ていると,
「深雪,彼を置いてけぼりにするのはよくないよ」
達也が亜夜子との会話に夢中になり始めていた深雪を若干嗜むように言うと,彼女もハッとした後に焔矢の方に向いた。
深雪は淑女としての所作で丁寧な挨拶を披露した
「司波深雪です,どうぞお見知りおきください」
「音羽焔矢です。こちらこそ,よろしくお願いします」
どっかのスポーツ漫画のように握手…は別に焔矢はする趣味は無かったので簡易的な挨拶して亜夜子に目線でどうするのかを訴える。
亜夜子もさすがにこの事態は想定外だったのか,さっきは目を丸くしていたが元から亜夜子はいつか焔矢を達也に会わせたいと思っていた事もあり…
「達也さん,深雪さん,よければこれからランチでもご一緒しませんか?」
(ええええええ?!)
見惚れてしまうほど美しい所作と笑顔で何を言い出すのかと思えば,まさかのランチ同伴のお誘いで…
(こうなった訳か)
回想を終えた焔矢は,楽しそうにメニューを見る2人を横目に自分も亜夜子とメニューを見る。
因みに,焔矢は結局亜夜子によってチョイスされた服やらコートやらを購入していた。
「…ハンバーグで良いかな」
4人がやって来たお店は洋食がメインであり,日曜のこの時間帯であれば混んで良そうなものだったが達也がご飯と決まった時に速やかに予約してくれたファッションビルにあるお店の1つだ。
しかし,テナントの1つと言っても個室が完備されており4人はそこに案内されていた。予約した達也がゆっくり話したいという事での配慮だったのだが,まだ四葉との関係を隠さなければならない焔矢としては個室の方が助かった。
焔矢の注文が決まり,亜夜子も当たり障りないメニューを注文して…4人は改めて向かい合い達也が名乗った
「改めて,司波達也です。先程は失礼いたしました」
一応,焔矢とは初対面だからか敬語で話してくれているのだが焔矢としては敬語で話される方がなんか気持ち悪かったので,自分も名乗りながら付け加えた。
「音羽焔矢です,達也さんで良いですか?」
その問いに深い意味はなく,純粋に隣の深雪とまだ名字が一緒だからというのが大きな理由だ。司波兄さん司波妹さんでも別に良いのだが,流石に年上に向かってそんな呼び方を出来る程仲良くもないだろという消去法だ。
幸い,達也の方もよく聞かれるのか焔矢が想像していたよりも柔和の笑みを浮かべて
「ああ,俺も焔矢と呼んでもいいか?」
「はい,大丈夫です」
「それじゃあ焔矢,これからよろしく」
言いながら達也は右手を差し出してきて,少し意外に思いながらも焔矢も右手を差し出して握手を交わした。
「よろしくお願いします。敬語は大丈夫ですよ」
「分かった。」
握った達也の手はよく鍛えられているのかどちらかというと硬かった。袖から伸びる腕も無駄なく鍛え上げられているし,鍛えた筋肉のおかげもあってか声も聴きとりやすい。
なるほど,筋トレを頑張ればこういう効果もあるのかと既に音楽に繋がる事を思いながら手を離した。
「先週の九校戦の開会式を見させてもらった。The Last Resort,九校戦に相応しい良い曲だ」
…真夜もそうなのだが,普段から別世界の人間だと思っていた人から自分の曲の評価をされることにとんでもなく違和感を持ってしまうのは正常な反応なのだろうかと焔矢は思った。
「ありがとうございます。あの曲は…まあ,九校戦のタイアップ曲以上の意味があったんですけど第三者から見てもそう言って貰えるのは嬉しいです」
達也は天霧心とマフィアが焔矢を狙った事を文弥を通して一応知っている。というのもマフィアの当初の狙い自体は結局達也であり,焔矢が狙われたのはその戦力の増強の為だったからだ。
だから文弥はその事を報告すること自体は何ら不思議ではない。心の為にも作った曲がThe Last Resortというのは流石に知らなかったが,焔矢の表情からどうやら複雑な事情があったらしいと達也は思った。
ただ,別に焔矢にその事を伝える必要はないと思ったし焔矢の素直に評価を受けて嬉しそうにはみかんだ表情を見て達也は問いかけた。
「曲名や歌詞にもある”切り札”という言葉は,ただ九校戦の舞台に合っているからという理由だけではないのか?」
焔矢があの曲を歌う時に入れたフレーズで曲名の意味にもなっている切り札。一般的にはジョーカーとも言い換えることが出来る訳だが,彼は一曲にそのフレーズを3回入れて強調してきた。
普通に聴くのなら,九校戦のイメージソングだから入れたと考えるのが一般的なのだが達也はタイアップ曲以上のものがあったと聞いて”切り札”の意味が1つの意味だけではないのではないかと思ったのだ。
「そうですね…今回の曲は個人的に3つのテーマを決めてやって,3つに共通するものをどう形容しようかと思った時に達也さんがエンジニアとして初めて参戦した年の本戦ミラージ・バットの映像を亜夜子に見せられた時の事を思い出したんです」
「あの時の…?」
今度は深雪が自分達の事が出るとは思わなかったのか,興味を持ったように笑みを浮かべて問いかける。
あの試合は深雪にとっても達也の為に負けられないというものがあり,一番の理由に達也が作った魔法で自分が負けられないという思いがあったからだ。
今や懐かしいとも言える3年前の記憶をどこか懐かしそうに深雪は思い出していた。
「はい。あの時2人は試合の途中から飛行魔法を使いましたよね?」
トーラスシルバーが開発した飛行魔法を,当時はまだシルバーと知られていなかった達也が深雪に授けたのだ。
九校戦の本戦に名乗りを上げるだけあって魔法力が卓越していた深雪でも圧倒的大差と言えるほど点差を稼ぐことが出来なかった。当時の深雪は普通なら新人戦に出るのが,本戦に出て上級生たちと比肩する事が出来るというのも普通に見たら凄すぎるのだが,深雪はそれに満足せず優勝する為に…飛行魔法という切り札を切った。
「あれを思い出して思ったのが,飛行魔法があの時の2人にとって最高にして最強の切り札なんじゃないかって。」
「なるほど,だから”切り札”が強調されたフレーズだったのか」
「…?達也様,どういうことですか?」
達也が納得した意味が分からなかったのか,不思議そうに問いかける深雪。
彼女にしてみれば少しよく分からない話であり,切り札というのは…まあ当時の深雪にしてみたらあれは間違いなく切り札だった。しかしこの言葉だけで何が分かると言えばそれこそ九校戦に相応しい位しか考えられなかったのである。
そんな深雪に解説するように達也が目線を向けながら話した。
「飛行魔法は当時実現して間もない時期,だからミラージバットで使われる事はないだろうというのが皆の共通認識だった。だから飛行魔法を使った事は今までの常識を壊したことになる。」
そんな言葉を作った本人が言っているというのも何だか変な話だが,ここまで聞いた深雪は焔矢のいう”切り札”という言葉にはただ一発逆転の秘策の事を言うのではなくこれまでのセオリーをぶち壊す為のものであることなのだと気がついた。
「あの曲には一環としたメッセージとして,オーソドックスよりも常識を外した道もあっても良いのではないかというメッセージ性を感じた。焔矢のこれまでの楽曲とも共通している,現代音楽ではない音楽の事を表しているようにも見えるんだ」
「なんか…そんなに歌詞について考察される事が余りないので少しむずがゆい気がする」
焔矢のあの曲のテーマは3つ,純粋に九校戦に参加する生徒達を熱くするためのもの,2つ目は自分の音楽を見失いセオリー通りの音楽しか出来なくなった心の音楽を破壊し取り戻す事,3つ目は紅羽から始まった己の,そして仲間達との約束と誓を果たすための曲。
それら全てのテーマとして”切り札”という言葉は,元々の焔矢の音楽の方向性もあってこれ以上に無い親和性をもたらしたのだ。
しかし,それはそれとしてレーベルの人達以外とこうやって歌詞について話す事が殆どないのでなんだか背中がむずがゆくなってしまう焔矢。
そんな焔矢を隣の亜夜子は少し呆れたように見ていたが,達也も普段余り音楽に嗜まないからかいくら焔矢との会話の起点の為だったとはいえこうして音楽について話すのは慣れない。
「お待たせいたしました」
なんだか微妙な雰囲気になってしまった時,運よく丁度いいタイミングで個室の扉が開き4人がそれぞれ頼んできたものがやって来た。
「それぞれ来た事だし,食べようか」
達也も焔矢がまだ少し緊張しているのが分かったのか,あくまでもフラットにそう声をかけて4人は少し遅めの昼食を取り始めた。
ご飯を食べている途中であれば自然話題は目の前の食事に移り,亜夜子が仲介役として焔矢と達也そして深雪の会話を広げる役割をしていた。
もともと話術が長けている亜夜子からすれば焔矢と2人を繋ぐこと自体はなんら問題なかった。
「焔矢も料理をするのか」
「亜夜子と会う前までは1人と一匹暮らしでしたし,作曲とかのリフレッシュには割と良いんですよね。」
「焔矢,そんな事言ってるけどこの前も作っている時に歌ってたじゃない」
隣の亜夜子が作曲とかのリフレッシュだと言っているのに,何故か結局歌っていた事にツッコミを入れる。リフレッシュだとか言っても,結局音楽に繋げているならリフレッシュではないじゃないかと。
しかし,焔矢からすれば心外であり
「歌うのと作曲は別腹だろ。」
「そんなデザートみたいに言わないの」
焔矢がツッコむところがどうして歌っている事を知っているではなく,その事を亜夜子が知っていて当然とも言える事を受け入れたうえでこんな会話を繰り広げているのだが,焔矢は亜夜子なら何でもありだと思っているのでその基本となる”なぜ知ってる”という疑問の過程をすべて吹き飛ばしている。
もっとも,今の焔矢達を見ればカップルには見えるのでその会話の裏の事情など特に気にもされないが。
「ふふっ」
そんな亜夜子と焔矢の会話を見て何が面白かったのか,深雪が上品な笑みを浮かべて焔矢は思わず疑問符を命一杯出しながら首を傾げた。
その視線に気がついたのか,深雪は微笑まし気に答えた。
「音羽君は本当に音楽が好きなのですね」
深雪自身は,正直焔矢の音楽性自体はそれほどウケが良いという訳ではなかった。大体全ての優先順位が婚約者である深雪にしてみれば,愛してやまない婚約者と結婚できるという運命を作ってくれた神様はそれなりに信じている。
もちろん全ての事柄を神様とか運命とかに結び付けるつもりはないが,それでも抽象的なものを受け付けてたまるかというばかりの焔矢の曲は深雪にすれば嗜好としては真逆だ。
それでも,こうやって焔矢本人と話してみたら楽曲に賭ける思いと覚悟が伝わって来るし言葉の端々から音楽が好きなんだと伝わって来る。
なにかに一直線の誰かの姿は深雪をしても自分も頑張らなければと思わせてくれるもので,そんな意味では焔矢もそうだったのだ。
だが,焔矢は深雪の言葉を意外なもののように聞いて少し考えるそぶりを見せて…どこか困ったように答えた。
「好き…って言葉じゃ収まらないですよ。音楽は俺の鏡です」
「鏡…?」
隣の達也も含めて2人は不思議そうに首を傾げるが,焔矢の言葉の意味が亜夜子には分かったのかどこか楽しそうに微笑んだ。
「悲しみも苦しさも,恐れも後悔も,怒りも…言葉だけじゃ伝わらない俺の何もかもを表す事が出来る。”俺”だから出来る音がある。”俺”じゃないと出せない音がある。他の誰でもない,俺の覚悟が作り出す音楽は俺の鏡です」
自分の考えや覚悟を反映する事が出来る音楽は,焔矢にとってのアイデンティティと同義であり彼の音楽は彼の考え方や生き様と言っても良い。
だからこその鏡,好きなのは当然として…そんなたったの2文字で音楽を語るのは出来る訳なかったのだ。
「そうか,焔矢にとって音楽は自分を表すものなんだな」
達也がどこか微笑まし気にそうまとめてくれた。
達也にとって深雪への感情以外が乏しくなってしまった今,焔矢のいう自分を表すための音楽と言うのはピンとこないというのは確かにあったのだが,焔矢の表情がどれだけ音楽を大事にしているのかを伝えてきてどこか羨ましさすらも感じた。
焔矢が音楽によって世界を変えるというのなら,達也は魔法を使って世界を変える事になるのだろう。武力的な意味だけじゃなく,社会的にも魔法師が必要な存在とする世界にする為に現在進行形で達也は動いている。
しかし,達也は”魔法”が好きかと聞かれると別にそうでもないと答えるしかない。
魔法は希少な才能だ。身に余る力を持つ少年少女の魔法師にとってそれは優越感と劣等感を植え付け,また達也も過去に自分を心のどこかで劣等生だと思っていた事だってある。
そしてなにより達也にとっては深雪が全てだった。彼女を守るための手段としての魔法であり,それに連なる理論的な分野も学習しこれまでも何度か世界を動かしてきた。
逆に言えば,手段であるが故に魔法を好きという感情は皆無。だから,自分にとっての魔法が焔矢にとっての音楽で,その音楽を自分自身とも言い切る事が出来る焔矢を自分とは違う人間として羨ましさを感じたのかもしれない。
…まあ,達也の魔法も達也自信を表しているとも言えるのだからある意味自分自身とも言えるのだが。
「少しお手洗い行ってきます」
ちょっと遠い存在だと思っていた人との会話が少し恥ずかしくなってしまったのか,思い出したかのように焔矢は席を立った。勿論帽子を被ることも忘れずに。
焔矢からすれば緊張する状態というのは達也も深雪も分かっていたので狭く見送り…改めて達也と深雪,亜夜子が見合った。
「それにしても,亜夜子も彼とはうまく行っている様でなによりだ」
亜夜子の告白のきっかけが達也という事を,焔矢は知らない。
達也もあの後から亜夜子と焔矢が一緒にいる所に会った訳でもなかったので亜夜子と焔矢が順調な交際をしているのを見れて,彼女の背中を押した身としては少し安堵もしていた。
「お心遣いありがとうございます。」
「亜夜子さんもそういう人が出来て良かったわ」
深雪の言葉は聞き様によっては少し嫌味に聴こえてしまうのだが,彼女の言葉が本当の意味で亜夜子の相手に安堵しているのは見ていたら分かるので亜夜子も艶やかな笑みを浮かべつつお礼を言う。
「ありがとうございます。」
深雪も亜夜子が達也を好いていた事を知っている。ライバルとも思っていた事もある。まだ婚約者と発表される前に関して言えば一番の強敵とも言えただろう。
亜夜子は自分が達也を親愛する前から達也の事を尊敬し,好いていた。だからこそ亜夜子には負けられないと研鑽を積んでいた。過去に自分では達也の助けにならない諜報の方面で亜夜子だけが達也の助けになった事に胸が締め付けられたことは今でも忘れていない。
深雪にとって達也が全てであり…達也が婚約者だと言われた時は言葉では言い表す事の出来ない悦びが身体を満たして…発表の場で亜夜子が倒れてしまったのを見た。
達也を譲るつもりはないが,それでも亜夜子の感じたであろうことを思うと少し罪悪感があったのも否めなかった。
だから,亜夜子がこうして命令という事だけじゃなく心から愛する事が出来る人が出来て深雪も本当にうれしいのだ。ライバルとしてではなく,再従妹として,そして女友達としての偽りのない気持ちだ。
「彼とはこれからも上手くやれそう?」
それは結婚,そして出産も含めての事だった。もしかしたら出産の方が先になってしまうかもしれないが。
「はい。少し,困った所はありますがそれも含めて一緒にいて楽しい人ですから」
そして亜夜子も過去に達也に囚われた様子は既になく,艶やかとも言える表情でその問いを肯定した。
文弥とも達也とも,父親である貢とも違う焔矢の性格や趣味嗜好だが弄りがいがあるし,ふとした瞬間に見せる強気な姿は亜夜子も少しドキリとする。
こうして改めて他人から問いかけられると,本当に自分は焔矢の事が好きなのだなと再確認する事が出来た。
微笑ましい会話をして少しゆるふわな雰囲気が漂い始めたが,焔矢が却って来る前に達也は聴きたい事があった。
「彼は精霊の眼を使える訳ではないのだろう?」
さっき,達也は亜夜子の気配が同じ階に感じたから精霊の眼を使ってそれを確認した。近くに深雪がいて理由も無く離れる訳にはいかなかったからであるが,まさか逆に気がつかれるとは思わなかった。
焔矢の視線の敏感さというものが,もはや異常とも言えるのを達也をしても感じていた。勿論亜夜子や文弥を通じて焔矢の黒羽家に対しての感知能力があるのは分かっていたが,それを差し引いても予想外だったのだ。
最初は偶然を装うかと思ったが,気がつかれているのにそんな事をすれば印象が悪くなるだけなので敢えて自分から姿を現し焔矢の不信感を払拭したのだがあの行動も達也からすれば計算外だったと言っても良い。
達也をしても驚かす事が出来る焔矢の感知能力に亜夜子は少し鼻高々になりながらも,何かが起こる前に相談しようと思っていた事でもあったので真面目な表情をして答えた。
「わたくしもそう思っていましたが,限定的とはいえイデアにアクセスをしていますので…」
「これから先,彼の訓練次第では他の人間や物質の構造とかも見られるようになるかもしれない…という事か」
イデアにアクセスし,知りたい情報を感知すること自体が既に異常で達也はそれよりも遥か先の能力を持っているが,達也と比べる時に見劣りするだけで焔矢の眼も間違いなく凄い物だと亜夜子は思っている。
もしも焔矢が本気で戦闘系の魔法を使えるのなら,婚約じゃなくとも是非黒羽に置いておきたいくらいには素晴らしい能力だ。
まあ,実際の焔矢は戦闘自体は多少の抵抗が出来るというだけで魔法師との戦闘では100歩くらい劣る。悪ければ10000歩くらいは劣るだろう。
心に拮抗する事が出来たのは,大地の武道家としての力と心の焔矢に対する好意,そして捕らえる為に多少なりとも手加減していた事が拮抗出来た原因だ。
亜夜子は焔矢の可能性に色々考えた事があるのだが,それらを考えた時にまず考えた事があった。それは…
「焔矢は,自分の能力について過小評価してます。」
UFWもそうだが,焔矢は音楽やヨル,最近では亜夜子のこと以外になるとそれほど自尊心が強いわけじゃない。ステージの王ぶりからは想像できない位自分を卑下をする事だってある。
それでも,誓の為に,そして自分の為に後悔しないと決めているから強いように見えるし実際強いのだが…多分,壊れる時は一瞬だと亜夜子は思っている。
それ位焔矢の根底にある自尊感情は低いと考えているのだ。
だからUFWと,それに付随する能力が従来の魔法とは違う事が分かっていても本当の限界点を見極められていない。
直近で言えば,仲間達との体の共有だろう。焔矢自身はあれの事を,”仲間達の楽器を使っている時に限り”と思っていたのだが…実際はそうじゃなくともやる事が出来た。
そもそも血のようにこの世界では確かなファクターとして迷信じみても使う事が出来るものなら兎も角,どれだけ感情があったとしても楽器は結局無機物であり想念が宿るという事は基本的にない。
そこで亜夜子が考えたのが,彼らが自分の楽器に触れている時には特別彼らの霊子が”楽器に触れたい”という感情の反応しそれが憑依という結果を生んだのではないかというものだった。
だから亜夜子は,焔矢達の繋がりを更に強める事が出来るのならば楽器が無くとも出来るのではないかという仮説を立て…紆余曲折を経て焔矢は仲間達に身体を共有という離れ業を出来るようになっていたのだ。
「彼自身が魔法の事が分からないから,彼の能力が伸びきれないという事か」
魔法を使う上で重要なのは,先ずは信じる事だ。魔法に一度不信感を持ってしまうと事象を書き換えるという事が出来なくなってしまい魔法が使えなくなってしまう事がある。
達也の先輩にもそういう人がいた。
焔矢の場合は少し違う。彼の場合は自分の身に起きた奇跡を信じている。だが,使い方が分からないのだ。なにもかもが表面的なことしか本人にも理解出来なくて,魔法に関して頼れる人間もいなくて全て独学でこの奇跡を形にして来た。
だがそれは酷く遠回りで…焔矢は自分の本当の限界が分からないのだ。だから…倒れる時は一瞬なのだと亜夜子は思うのだ。
「息継ぎの仕方を覚えないと,焔矢は潰れてしまいます」
今はまだ限界点を仲間達のおかげで悟る事が出来ているのかもしれないが,いつか…仲間達ですら気が付けない事で倒れてしまう気がしてならない。
そうならないために自分がいるのだが,焔矢の事についてはやはり仲間達の方が分かっているというのもあって少し亜夜子は無力感があった。
元々焔矢は肉体的な限界まで歌い続け,演奏し続ける癖がある。もっと良いものを作りたい,もっと観客を圧倒したい…世界を変えたいという焔矢の気持ちは分かるつもりだが見ている方は辛い気持ちになる事だってある。
2ndライブの2日前はその典型例で,あの時焔矢を眠らせたのは焔矢が心配だったからというのが今の亜夜子には分かっている。
「分かる。凄く分かるわ亜夜子さん」
…何故か深雪が亜夜子の不安にも似た思いを吐露したことに大きく頷いて,達也も心当たりがあるのか微妙に居心地悪そうに明後日の方に顔を反らした。
「無理をし続ける人を見るのってとても苦しいもの」
具体的には達也たちが高2の時の九校戦の時の事を言っているのだろうが,亜夜子はそれを指摘することなく同じ答えを持った人が身近にいることに感動にも似たような思いを感じた。
だからつい饒舌に深雪に話しかけた。
「その癖自分で限界を見極められないのですよ?心配するわたくしの身にもなってほしいですわ」
「…話を戻してもいいか?」
焔矢の愚痴大会になりそうで余りに彼を不憫に思い達也が話題を戻そうとすると,亜夜子もつい口が緩んでいたのを自覚し口元を少し抑え,次の瞬間には通常通りに戻った。
「息継ぎの仕方を覚えないといけないのは亜夜子の言う通りだろう。彼の場合は何もかもが未知だ。だから正しい訓練というものはないが,強制的に彼の魔法力を制限する方がもしかすると近道かもしれないな」
「お兄様,それはもしかして誓約を…?」
深雪にとってあの魔法は達也を縛り付けた…有用性は分かっているが気持ちとしては余り賛成できない魔法だ。
そんな深雪の頭を撫で,それを否定した。
「いや,誓約では彼の仲間を危険にさらす事になるかもしれない。あれは精神活動を制限する魔法だからね」
この場合の精神という言葉全て同一の事を指しているのかは定かではないが,達也も焔矢の奇跡を壊さずに彼の魔法力を伸ばすか考えた時にこの案が一番初めに浮かんだ。
しかし,リスクも同時に高いため焔矢の精神を束縛することなく彼に制限をかける方法を別に考える必要があった。
簡単に言ってしまえば,焔矢に重りを付けるようなイメージだが亜夜子も同じことを考えたことがある。
「焔矢の場合,自分の想子量に振り回されているので…」
「彼の想子量を制限する方が良いかもしれない,ということか」
「はい。焔矢は自分の力の使い方が余り分かってませんから少量から想子を使う技術を学ばせた方が彼の為になると思います。」
生まれつき想子量が多かった達也や深雪は生粋の魔法師だったのでそもそも想子を暴走なんて事は誓約がかけられている時以外は無かったのだが,焔矢は魔法師としての訓練は愚か魔法師としての心得もなにも身に着けていなかったためこの時期になって苦労している。彼の場合は本当に想子量が多いのも原因の一端だ。
多いからこそ調整の仕方が分からないのである。
「分かった。俺で良ければ彼の為の魔法を考えてみよう」
亜夜子の話を聞いた達也は1つ頷くと彼女に提案した。その提案には亜夜子は愚か深雪も目を丸くしていた。
「達也さん…今はお忙しいのでは…?」
亜夜子とて焔矢の事で達也に頼るという事は一度考えたことはあったのだが,彼の時間を取らせるのは忍びないし何より焔矢自身はまだ自分で頑張っていていつかは完全にコントロールする方法を独力でマスターできるかもしれないと思っていたからその考えを消していたのだ。
だから言外にご迷惑では?と問いかける。
しかし,達也は達也で少し楽しいのか柔和な笑みを浮かべていた。
「丁度彼の魔法についても研究してみたかったから構わないよ。彼の協力次第だが,魔法力増幅のプロセスを是非解明したいと思っていたんだ。」
元々達也の焔矢に対する評価は割と高い事を亜夜子は知っている。焔矢の魔法がそれだけ達也にとっても興味深くつい視てしまう位には研究したいと思っているのだ。
達也の魔法工学の研究者としての血が騒いでいるのである。
…しかし,亜夜子は念のためにいう事にした。
「彼が望むなら是非お願いしたいのですが…焔矢は魔法力増幅の方の事を言われるのは嫌っていますのでそれは念頭に置いといてください」
達也…というよりも生粋の魔法師であればあるほど,魔法力増幅という事柄は惹かれるものがある。無論精神の解明にも焔矢は必要な人材であるが,そっち方面にも需要がある人材だ。
実際今回のマフィアとの戦いはそっちの能力が狙われた。それを知った焔矢がうんざりしていたのを亜夜子はよく覚えている。
それのせいで争いが出てしまうならやっぱり焔矢にとってはあれは欠陥としか言えなくて,それを伝える為の言葉だったのだが…何故か深雪は少し呆けたように亜夜子を見ていた。
達也の表情はそれほど変わっていない。寧ろ少し微笑まし気で…亜夜子は何か変なことを言っただろうかと思ったら
「亜夜子さんは彼の事が大切なのね」
「——っ」
そんな事を深雪に言われて亜夜子は顔をカーッと赤くしてしまった。
言われてみればその通りで,前までの亜夜子なら達也の頼みからなら例え他人だったとしても「どうぞ」と普通に言っていた筈だ。注意するなんてもってのほかで,それは達也を敬愛しているが故の当然の帰結だったのだ。
だけど,亜夜子は今焔矢には傷ついてほしくないという思いで達也を相手に忠告とも言える事をやってのけたのだ。仕事の物とは違う,完全に個人的な感情の忠告だ。
それは焔矢の事が達也の研究よりも大事だと言っているのと同義であり…自分で思っているよりも焔矢の事を大切にしていたという事なのだ。
深雪の言葉に喉を詰まらせてしまった亜夜子を見て達也は口を開いた。
「分かっている。調整にもクライアントとの信頼関係が大切だからな。先ずは彼の魔法の出力をどうにかする方で考えよう。ベースは誓約だが,亜夜子にも協力してもらうかもしれない。」
あくまでも考え方のベースが誓約で,それを聞いた亜夜子は焔矢の”鍵”を自分にするつもりなのだと察した。
「承知いたしましたわ。」
亜夜子の承諾に頷いた達也は,もしかすると既にプラン自体は頭の中にあるのか何やら少し考えるような素振りをして…個室のドアの方を見た。
そうすると同時,扉が開き焔矢が入って来ていた。
「ん?どうしたんですか?」
自分が出て行った時と微妙に雰囲気が違くて首を傾げる。鈍感に見える癖に雰囲気の変化の機微は感じ取る事が出来る彼に苦笑いしながら亜夜子は「貴方の話をしてたのよ」という。
焔矢はまた亜夜子の隣に座りながら
「…変な話してないだろうな?」
「してないわよ。この話は後でしてあげるから。…所で少し遅かったけどどうしたの?」
焔矢がお手洗いに立ってから10分ほど,若干遅いとも言える時間でだから達也と長話出来たのだがそれはそれとして身体の調子が悪いのかと少し心配する。
焔矢は何でもない事のように首を振った
「大原さんが電話が来て,明日打ち合わせ出来ないかって来たんだよ。」
明日は月曜日だが,今は夏休みの為学校も休みなのでスタジオに行こうと思っていたので問題ないと答えたらしい。亜夜子は「そう」と少し考えたようにして,艶やかな笑みを浮かべた。
「またついて行ってあげましょうか?」
どこか楽しそうにそんな事を言ってくる。亜夜子的にも新城巳の事は抜きにしてもマネージャーは割と楽しかったのかもしれない。
まあ,悪戯心が垣間見えているのは見なかった事にしようと思いつつも答える。
「そんなに気になるなら来るか?」
敢えて挑発するように返してきたことに亜夜子は「可愛くないわね」と思いながらも,飄々と受け流す。
「残念,明日は大学の人達と先約があるからどの道無理ね」
亜夜子は大学の人脈を使っての情報収集もする関係上大学内での人間関係をおろそかにする訳にはいかない。だからよっぽどの急用がない限りは学友の誘いを断らないようにしている。
最近に関しては焔矢絡みの事で余りだったのだが,最近は落ち着いて来たので交流も復活しつつある。
因みに亜夜子の中で焔矢の仕事の打ち合わせは急用には入らない。これは純粋にレーベルと四葉との契約で既に四葉には大原が明日の打ち合わせの内容くらいもう送っているだろうし,大原はマメな人間なので報告し忘れる事は殆どないのを見越しているのもある。
「…亜夜子もちゃんと大学生してんのな」
一瞬亜夜子が来てくれない事に寂しそうな表情を見せながらも,亜夜子が他の人間と関わっている所は余り見たことが無かった焔矢はその事に少し安心もしているようだった。
亜夜子からすれば心外でしかないのだが,焔矢から見れば確かに自分は余り大学生をしていないように見えたので仕方がないのかもしれないと思ってツッコむ事はしなかった。
「私からすれば焔矢こそ本当に高校生してるのって思うけれど?」
その代わりにそんな意地悪なことを言う。
焔矢は歳離れしすぎていて偶に高校生であることを忘れてしまう事がある。彼のハードスケジュールの数々がそれに拍車をかける。それに,焔矢を監視していた時も今も彼が学校の友人と遊ぶような事はほとんど見ない。
せいぜいがコンクールとかを見に行くくらいで,外で遊んでいる姿は見たことがない。
「高校生をしているつもりはもう殆どないな」
そしてその事を本人は何にも思っていなさげに事も無く頷いた。
「少しは躊躇いなさい」
呆れ100%のジト目で見るが,焔矢自身は別に堪えてもいないのか肩を竦め亜夜子は諦めたようにため息をついた。
焔矢は当時自分が通っていた第四高校の同年代の人達よりもずっと大人らしいし,亜夜子のポイント的にもそこが加算されてはいる。しかし,こうして婚約者になってみると彼の高校生活の交流の狭さと来たら少し心配してしまう。
偶に大学でも焔矢の高校生活を盗聴する時はあるのだが,クラスメイト達はよく焔矢に楽器の相談や普通科目の勉強などよく頼られてはいる。
ガラの悪い焔矢でも,過去の経験からお人よしになっているので基本的に答える事はする。焔矢は過去に他の楽器に手を出したこともあって基本的な楽器の知識は幅広く持っている。
だから軽音楽じゃなくとも相談されるくらいには頼られている。だけども学校の外でとなると子の繋がりは殆どないのだ。
「亜夜子は俺の母さんか。」
「気持ち的に?」
「曖昧過ぎんだろ」
その後も続く夫婦漫才のような言葉の応酬を,深雪と達也は微笑まし気に見ていたのだった。
亜夜子が文弥と達也以外の男性にこうして気軽に言い合える人が出来た事を,嬉しく思いながら。
お疲れさまでした!
今回はデートなら定番かもしれない服選び,そして達也との接点作りです。
ぶっちゃけ達也は亜夜子と文弥と焔矢のビルのお隣さんなので焔矢がビルに移住してきたときにはもう精霊の眼で焔矢の事を視ていました。
勿論普通の人間とは違う肉体情報でした()。
本当は本編のどこかで達也が焔矢を助けるみたいな展開も当時考えていたんですが,達也が出るだけで物語が崩壊しそうな気もしたので結局亜夜子のの背中押し位の登場にしてたので初対面です。
尚,早速焔矢の異常性が達也にも伝わった模様。
今現在も焔矢はUFWを正確には使いこなしていません。そもそも使いこなし方を分かっていません。どこが限界なのか,そもそもUFWでなら何が出来るのかが全部判明していないのです。
焔矢がこれが出来ると思っている事も,実はまだ能力の一部だったのもザラにあります(魔法力増幅・精神憑依)など。その限界と使いこなす為のお手伝いを達也と亜夜子がしようかみたいな相談をして終わりです。またどこかでお話拾っていければと思ってます。
では,次回デート終盤です。
どのお話見たい?
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達也&焔矢(UBW強化話?)
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空澤&焔矢(亜夜子についてあれこれ話す)
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貢&焔矢(修羅場)