魔法科高校の劣等生 黒羽の姫と焔の絶対王者   作:レオ2

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真実

 それが夢だと,亜夜子は早い段階で自覚していた。

 だって,今はあれから2年以上の歳月が流れているというのに自分の身体はまだ成長しきっていないものだと一目で分かったし,何より想い人も今より少し背が低く,また妹の筈の深雪への対応がまだ妹に対するそれだった。

 

 亜夜子が達也を好きになったのは,小学生の時四葉本家での訓練において彼女は自分の魔法適性が分からず悩んでいる時期だ。黒羽は…というよりも四葉は第4研の研究の成果から主に精神干渉系の魔法師が多く,それを鍛えるためのカリキュラムも当然存在した。双子の弟である文弥は特に精神干渉系の適正が高く,次期当主候補に上り詰める程の実力だった。

 

 では,亜夜子とはというと,文弥ほど精神干渉系の適正が無かった。それどころか自分がどのような能力を使える魔法師なのかが分からなかった。だから訓練をしてもから回ることが多く落ち込む日々を送っていた。

 そんな時に達也と出会い,彼によって魔法適性を理解し「極致拡散」という亜夜子の得意魔法を習得するに至りそれから彼に恋心を抱いていた。

 近くに深雪がいるとは言え,当初彼女は妹…だから達也が自分に振り向いてくれる機会はあるだろうと腹をくくっていた。

 

 でも

 

 それはとんでもない思い違いだった。

 

 夢の中で亜夜子は,過去の自分をどこか他人事のように思いながら俯瞰的にそれを見ていた

 

『深雪さんの婚約者は…司波達也さんです』

 

 当主直々の婚約者の指名,それは十師族ならそれほど珍しい事でもない。だけど,あり得る筈がないと思っていた可能性が…たったこの一言で全て無に帰った。

 亜夜子ですら,当時その意味が分からなくて――過呼吸を起こすほどに思って…達也のをことを諦めた。

 

 勝てる訳ないと,深雪は今までさんざん達也を支えて来た。それが本当は従妹どうしで婚約者?そんなの…勝てる訳ないと亜夜子は心のどこかで思って…最悪な目覚めだった。

 天井を見上げ,腕で自分の眼を半分隠すような体勢のまま亜夜子はゆっくりと呼吸を整えた。

 

 「こんな夢,なんで」

 

 自分は最終的に,達也の支えになれるだけで嬉しいと折り合いをつけたはずなのに…まるでそれを見越したかのような夢に自嘲的な笑みを抑えられなかった。

 そして,もっと認められなかったのは自分の眼もとに滲む涙だった。幸い,双子でも部屋は別々なので文弥に直ぐ気が付かれる事はないがそれにしても無様だと自己分析した。

 ベッドから気だるげに起き上がる。いつまでもベッドに倒れている訳にはいかない。時刻はまだ早朝であるが,ろくなことを考えていない人間は総じて人間の行動範囲時間を無視してくる。それが後ろめたいからなのか,単純にその時間が都合良いからなのかは知らない。

 

「…あなたは呑気ね」

 

 ぼさぼさだった髪を梳かしながら,机の上に置いていたモニターに目を向けるとそこには1つ下の階に部屋を与えた現時点で要注意監視対象がヨルを抱えたままリビングのソファで愛でる映像を鮮明に捉えていた。

 彼の隣にはベースが置かれていて,まさか深夜に練習していたのかと思ったが…彼の顔は全く何も警戒していない微笑ましい顔だ。自分が狙われている自覚はあるのかと言いたくなる。

 

「…仕事は,うん」

 

 ひとしきり呆れた後,寝ている間に来たメールとかをチェックする。メールと言っても最高純度の暗号化を施されているので部外者にそれが漏れる事はない。

 内容は昨日,焔矢と自分を取り囲んだ天王と魔法師のその後の状況だった。

 

 黒羽の伴野を含めた諜報部隊は彼らの結界を解いた後,深追いはせずに天王も魔法師も逃走を許した。それは彼らの腕がそのざる魔法師たちに劣っているからではなく作戦だった。

 天王の会話内容からして,彼らは自分達と同じく…可能性は低いと亜夜子はまだ思っているが焔矢に魔法力増幅という能力があると確信し焔矢を拉致しようとしたと亜夜子は思っている。彼らを捕まえ吐かせることは簡単だが,どれだけの規模の組織なのかを確かめる必要があった。

 

 逃げた魔法師と,天王は最終的に同じちんけな今時には珍しい鉄筋コンクリートで作られたビルの地下で集まり話し合っていた。だが,それは少々厄介なことでもあった。

 

「大亜連合…」

 

 この少し前,亜夜子が焔矢とのファーストコンタクトを終えた後達也を狙っていたマフィアを処理する事が出来たのにまたかと頭を抱えた。

 配信ではなく,生ライブという形をとる焔矢が珍しいのもあるのだろうが彼の存在は思ったよりも世間を賑わしているようだ。その事に内心舌打ちしながら,髪を大学に通う為の大人っぽいミディアムレイヤーをかけ今時珍しくも無いイヤリングをしながら容姿を整える。その間に夢の内容は意識の端に追いやっていた。

 

(最近は少し多いように思うわ)

 

 海外マフィアが来ることは…残念ながら達也の例を見ての通りある。だけどそれが活発化したのは達也が1人で一国と争えるほどの戦闘力を持っているからに他ならない。

 ぶっちゃけ焔矢自体はそれほどの脅威でもなく,亜夜子は魔法なしの白兵戦なら負けるかもしれないが(魔法なしでは訓練を受けただけの女の子な為),魔法ありなら絶対に後れを取らないという自信がある。

 逆説的に言えば,仮に焔矢の能力が本物だったとしても彼が死んでしまえば――というよりも紛争地において彼はとんでもなく邪魔な人間である。それでも彼らが焔矢を欲するという事は…

 

「それでも魔法力増幅というのは魅力的なのね」

 

 しかし,そのメカニズムも何も今は分からないし偽物の可能性だってある。それでも彼らを放っておくわけにもいかず,今晩…彼らの掃討作戦が行われる。四葉と取り合いになった事が運のつきだと思っとけと思いながら亜夜子は情報端末の電源を消した。

 亜夜子は一旦鏡の前に立ち自分がどう見えているかのポーズを取りながら,なんとなしに焔矢の部屋のモニターを見て…

 

「ちょっと…ッ!」

 

 画面の中の焔矢が,ヨルに少し多めの朝ご飯を入れたかと思うと部屋を出ていくではないか。まだ朝の時間帯とは言え,狙われている身だというのに勝手に出かけようとする焔矢に対して憤りを隠せない亜夜子だった。

 彼女は直ぐに出かける準備を整え,彼の後を追った。

 

 

 ★

 

 

 早起きは焔矢の得意技と言ってもいい。

 どれだけ遅くまで練習しようとも,大体は臨んだ時間に起きる事ができる。最近はヨルを抱っこしながら寝ていたらその傾向が強く,例え寝る場所が他人の家のソファーだったとしても例外ではなかった。

 昨日…ではなく既に今日だが,満足するまで練習を終えた後寝室で寝ていたヨルを抱えそのままソファーで眠る事に成功した。

 

「良い天気,だな」

 

 亜夜子の恐らく両親が所有するであろうビルを出て背を伸ばした焔矢は,周囲の気配を警戒しながら歩き始めた。学校ではない。学校には今日,諸事情でお休みすると言ってある。

 ではレーベルのスタジオかと言われたらそうでもない。この時間から行ったって迷惑なだけだ。

 それならなぜこんな朝早くに家を出るのかと言うと

 

「…天王さんが俺を引きずり込むつもりなら,彼を呪縛から解放しないといけない。彼だけじゃない,復讐なんかに囚われた人たちも」

 

 焔矢は組織を拒否した時点で彼らのコミュニティに加わっていないが,あの暗殺者に対して復讐しようとする人間の心当たりはまだある。

 あの事件で,嘆き悲しみ,慟哭を上げていた遺族の姿を…焔矢は自分の眼で見て昨日のことのように思い出せる。

 だけど復讐に時間を費やさせる事なんて…焔矢には出来なかった。昨日の天王の追い詰められ,唆され,まるで自分を最後の希望だとでも言いたげに光明を指したあの狂気の眼を焔矢はしっかりと見ていた。

 見ていたからこそ,止めないといけないと思った。それが…残されたもの,仲間から大事なものを託された自分に対してかけた制約であると焔矢は思っている。

 

「でも…あの人を巻き込むわけにはいかないからな」

 

 そうやって自嘲気味に笑い,背後のビルを見る。その上の階にいる,自分を一日だけとは言え泊めてくれた女性。昨日は結果的に彼女を巻き込んでしまい,これから先も彼らの標的になってしまったかもしれない人。

 

 不思議な女性,というのが焔矢にとって彩(亜夜子)の第一印象だ。初めて彼女を見た新宿御苑で,まるで景色と一体化するかのように優雅にお茶を嗜む彼女の姿。同年代の女子よりも数段大人で,美人な人。年齢は聞いていないが,年上だとは思っている。

 昨日のように,過去を思い出して醜態をさらしそうになった時も優しく手でさすってくれた。両親が死に,しばらくそんな事をされたことが無かった焔矢は正直…涙が出そうだった。

 忘れたい過去も,自分の能力のせいで出来ない。永遠に1人で向き合っていた過去の残影を…彼女が一緒に追ってくれたのが焔矢には嬉しかった。

 

 偶に垣間見える本性とでもいうべき小悪魔的な要素も…今の焔矢にはただのチャームポイントにしか見えなかった。自分はもう,虜になっているのかもしれないなと嘲笑いながら彼女を巻き込まないために…

 

「行くか」

 

 目指す場所は天王の家,まだ住んでいる場所が変わっていないのならまだ中野に一軒家を構えているはずだと覚えていた。というか,過去の記憶にあった。その記憶を頼りに天王の家に向かおうとビルを抜けようとした時…人影が立った。

 

「…ッ」

 

 まるで蜃気楼かと思うほどに,見事に消した気配。焔矢が気が付けたのではない。焔矢は彼に気が付かなかった。彼が黒ずくめの服装をしているにもかかわらず,この朝の時間帯に目立つ格好をされていたにもかかわらずだ。

 いつの間に,という考えは直ぐに捨て去った。それはもう些細なこと,この状況で並々ならぬ気配を持つ男が現れたのなら焔矢にとって大事なのは彼が味方か敵なのかのどちらかだ。

 

「こんな朝早くから,どこに行くんだい?」

 

 まるで近所のおじさんのように軽い調子で,黒い帽子を目深にかぶりながら問いかける。焔矢は目の前の相手と,自分の力量さを肌で感じまるで金縛りに会ったかのように動けなかった。

 否,これは力の差から感じるプレッシャーだけではない…もっと,別の何かが…

 

「…あんた…まさか」

 

 その時脳裏をかすめたのは,あの地獄の日。

 自分が暗殺者に命を拾われたあの日…周囲に広がる燃え盛る炎の中で虫の息の仲間達が,自分よりも状態が良い焔矢に口々に逃げろだったりを叫んでいる中…倒れてしまった焔矢に近づいた暗殺者。

 その時申し訳なさそうな顔をしていた暗殺者と…目の前の黒づくめの男の顔が…重なった。

 

 咄嗟の事に呼吸を早くし,意識が心を守るために全ての情報をシャットダウンしようと過呼吸を起こし始めた焔矢をしみじみとみて男はどこか,悲哀に満ちた表情で呟いた。

 

「…完全記憶能力というのは本当のようだね」

「あんた,なんでそれ…を」

 

 そこまで言って焔矢は,脳が危険信号を発し続けていると分かっているのに精神力だけで意識を維持しつつも…目の前の男が自分の能力について知っている事の理由を探った。

 昨日話した通り,この能力の事は家族とかつてのバンドメンバーしか知らなかった事で少なくともこの男がそれを知っているのはおかしなことだった。

 全員死んでいるのに…その後,レーベルの人間にも話さなかった自分の能力を知っているのは…昨日,口が軽くなって打ち明けてしまった彩(亜夜子)だけだ。

 

「あ…や」

 

 彼女が…目の前の男に教えたのか?

 というか,こいつよく見たら彩に似ていないか?

 とか,もはやこの期に及んでどうでも良い事を考えて――逃げなければ,と反射的に思った。

 

「君をここから逃がすわけにはいかない。事が済むまで,眠っていてもらおうか」

 

 瞬間,焔矢は反射的に横に飛んだ。

 焔矢は自分で魔法師と名乗っていない通り,魔法師が魔法を発動するような兆候を掴むことは出来ない。それでも悪寒を感じる事は出来る。それは人間が生存する為に手に入れた本能と言ってもいい。

 

 焔矢がいた場所のエイドスに,何かの魔法が作用したを感じながらどうするか頭で考えた。

 

(どうする,なんの魔法かも分からないのに背を向ける訳には行かない)

 

 そんな事をすれば狙ってくださいと言っているようなものであり,一瞬で意識を刈り取られることは想像に難くない。というよりも,どんな魔法か分かった所でそれに対処する術が焔矢にはない。

 焔矢に魔法が避けられたことに一瞬驚いたような表情を見せながらも,直ぐに淡々とした眼に変えて抵抗する彼に問いかける

 

「君は自分が何をしようとしているのか分かっているのか?あの連中に話し合いは通じない。真っ先に君を手に入れようとするだろう」

「…あの人もあんたも,まるで俺の事を欲しがっているような言いぐさだな。いや,似たような意味じゃ…彩も同じか」

 

 相手の男は聞き覚えのない名前に一瞬眉をひそめたが,それが自分の娘の偽名だと気が付いたのか表情を伺えないよう帽子を深くかぶる。

 焔矢は焔矢で…最初から亜夜子に裏切られていた事を悟り胸の中に信じたくない感情と,納得してしまう言動の数々を思いだして…歯を食いしばる。失望と絶望…そして自分の人の見る目の無さを嘲笑う。

 震えた声を出した。

 

「彼女もあんたの仲間か。すっかり騙されたよ,なんでこんな回りくどい事をしたのか分からんが…そうと決まって捕まってやる気にはなれないな」

 

 失望しながらも,それでも戦意をギリギリのところで持ち直してどうやって目の前の男から逃げおおせる事が出来るのかを必死に考える。

 

「信じてもらえないかもしれないが,現時点で我々には君を傷つける気はない。」

「現時点って事は,何かが判明したら俺を傷つける気ってことだろ。そしてその何かが…あの人が俺を欲する理由であんたらは俺が奴らの手に落ちないように邪魔をしてるって所か」

 

 ついでに言うなら,思いっきり気絶か…命を刈り取るような魔法を発動させたのは個別情報体であるエイドスに干渉した時点でそれを肌で感じて焔矢は気が付いている。到底傷つけるつもりがないなどという戯言を信じる気にはなれなかった。

 目の前の男が,4年前の暗殺者だと知っているからなおさらだ。

 

「それが分かっているのなら,大人しく部屋に戻れ。」

「4年前,俺の大切な物全てを失うきっかけを作ったあんたの言う事を素直に信じられると思うのか?」

 

 焔矢が何気なく言った言葉,瞬間…焔矢の背後で息をのむような小さな声が聞こえた。それは小さな悲鳴に近かったかもしれない。それ位,寸前まで焔矢はそこに人がいるのに気が付かなかった。

 条件反射で背後を見た時,そこにいたのは集中が乱れ隠形が不安定になって姿を現していた亜夜子だった

 

「彩…っ?!ガっ?!」

 

 その事に一瞬動揺し,隙を晒した焔矢に男が…黒羽家現当主,黒羽貢が一瞬で接近し焔矢を気絶させた。倒れ行く焔矢を支えると,亜夜子の方に目を向けた。

 さっきの真実に,亜夜子が動揺したように見えたのは貢の気のせいなのではない。それも一瞬の事で亜夜子は直ぐにいつもの様子に戻った。

 

「亜夜子,ご当主様からの命令だ。彼を部屋で軟禁し…今夜の作戦が終われば彼を四葉本家に連れて行く」

「お父様,それでは…」

 

 まさかと眼を見開く亜夜子に,貢は頷いた

 

「彼の能力は…本物だった」

 

 四葉としては,戦力増強に拍車をかける事が出来る能力の持ち主だと分かって喜ぶべき事だろう。亜夜子も,焔矢が悪人か後ろめたい事がある人間だったのならきっと何も思わなかった。

 何故貢が能力を本物だと決めたのか,それは分からない。だけど…当主からの命令に,亜夜子は逆らえない。

 

「はい。分かりました。」

 

 その取ってつけたような鉄仮面のような笑顔が…貢には焔矢を案じているように見えた。まるで,そうであってほしくなかったと思うかのような,そんな顔に。

 

 




お疲れさまでした!

という訳で暗殺者=貢でした。知ってたって人多そう()。
貢が焔矢を助けたのはFateの切嗣と似たような理由で,巻き込んですまない的な意味が強いですが,仕事である以上今は焔矢を気絶させました。


では,明日も同じような時間に出しますのでよかったら楽しみにしてくれたら嬉しいです!

どのお話見たい?

  • 達也&焔矢(UBW強化話?)
  • 空澤&焔矢(亜夜子についてあれこれ話す)
  • 貢&焔矢(修羅場)
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