その日、世界が一変した。
十年前に世界を自在に作り出してしまう存在によって、日常は非日常に侵食された。
なんでもないような日常が一気に幻想によって染まり、非日常が日常になってしまい、混乱を引き起こしてしまったのである。
超能力者たちが異能バトルをしたり、異形の怪人とコスチュームを着たヒーローが戦っていたり、怪物が異世界や宇宙からやってくることが日常茶飯事。
今日も、ここソドムシティではメインストリートで怪人とヒーローが互いに口上を述べた後に戦っているのが行きつけのダイナーの窓際の席からよく見える。
スポーツ実況が映し出されていたテレビの画面が切り替わり、椅子に足を組んで座るペストマスクの人物が映し出される。
『ごきげんよう、ソドムシティの退屈なオツブの諸君?ご存知だとは思うけど、僕は追求の魔王ルヴィム!』
立ち上がったペストマスクは恭しくカメラに向かって、挨拶した。
「追求の魔王ルヴィム!?なんでこいつが」
ダイナーのロゴ入りエプロンを着たマスターをはじめ、店内の客が慄く。
追求の魔王ルヴィム。
十年前、異世界からやってきた、文字通りの『世界を意のままにできる』存在の一人。
ただ、他の魔王の通称を与えられている存在たちと違うのは、ルヴィムはあくまでも自分の暇つぶしが思いついたときにしか行わないという点が異なる。
他の魔王たちが災害とするならば、ルヴィムはある意味でソドムシティの住人たちから愉快犯のように扱われていた。
『君たちは愛しのレディ・マックスの活躍は見たかい?僕も他のオタク共と同様に彼女のファンなんだけど、敵側が相も変わらずのワンパターンで面白くないんだよね。
レディ・マックス登場!レディ・マックスがピンチ!声援を受けてパワーアップ!っていう王道展開は素晴らしいんだけどさ』
画面の向こうでルヴィムは露出度の高い覆面の女性のフィギュアで遊びながら、机に
肌色を曝け出させたことを下心からでなく、満足のいく結果だ、とばかりにルヴィムは口元を見せてニヤリと笑う。
『たまには、こんなオチもあってほしくない?
え?じゃあ、追求の魔王ルヴィムはスーパーヒーローに負けて欲しい?ノンノンノン、そうじゃなーい!!僕は正当なファンだけども。
じゃあ、おしゃべりは終わり!本題に入ろうか』
パン、と音を立ててルヴィムが両手を合わせると、スライムとフィギュアは消失する。
その後、歪な粘土で仕上げたような生き物らしきものが唸り声を上げている。
『こいつは僕の試作品。
名前はそうだな、流体獣スワニーム!
スワンプとスライムでスワニーム!
最近見た怪獣映画が良くってね、自分で作ってみようってなったんだよ。
なんで、ソドムシティで歩かせてやろうってね!もちろん、僕の試作品だから、次元に裂け目を入れて同族呼んじまうかも!
じゃあ、あとは頼んだよ!』
ぷつりとルヴィムの電波ジャックが終わると、どよめきが広がる。
「おあいそはこっち、メニューで出せないものがあるから気をつけてくれよ!
特に手間暇がかかるものは出せなくなっちまうんでね。
俺も死にたくないしな!」
「マスター、こっちはおあいそ!」
「スペシャルホットドッグはいけそう?」
「アイヨッ!待ってくれな!」
慣れたようにマスターがダイナーにいる人間のみならず、異界出身らしい
すると、非常用と注意書きのされたメニューが現れる。
ダイナーのマスターもまた異界出身なのだ。
この街、ソドムシティでは追求の魔王ルヴィムが自分の実験の
『グループの通話が開始されました』。
窓際の席でそのウインドウメッセージが表示されたスマホを少年は開く。
腕捲りしたシャツにストライプ柄のタイを緩く着用した少年は通話に出つつ、伝票を手にひらひらとマスターに向けて振った。
「マスター!代金置いてく!」
「おー、行ってこい!ユウセイ!」
ユウセイと呼ばれた少年の声にマスターは返事を返すと、ユウセイは財布をポケットから引っ張り出し、代金の金額分を置く。
カウンターに飾られている、行方不明になった漫画家の父の色紙に「いってきます」と小さく声をかけて店を出た。
『さて、状況は把握したわね?貴方達。
追求の魔王ルヴィムが産み出した、怪物の討伐。ソドムシティのヒーロー、レディ・マックスの援軍は望めそうだけど、あの放送を見るに冷静じゃないでしょうね。
彼が暇つぶしのために危険な真似を行うなら、私たちガーディアンはマックスを待つだけってわけにはいかない』
通話に出ているのは、四人。
画面に表示されるのは、指示を出している赤い薔薇のアイコンの女らしき声、髑髏のアイコン、ハリウッドの怪獣のアイコン、そしてユウセイのアカウントであるアラビア数字の6のアイコン。
『ボス、今回はハリウッドは暴れていいわけ?』
怪獣アイコン、ハリウッドはつまらなさそうに尋ねる。
物理攻撃が通用しないのであれば、彼女の
『もちろん。ハリウッド、貴女にも出番はあるわ』
赤い薔薇のアイコン、ボスと呼ばれた女の声がドヤ顔をしたのをユウセイは脳裏に浮かべた。
『貴方のパワーならば、衝撃を起こすこともできるはず。物理攻撃が効かないなら、振動を与えてしまいなさい。
超越したパワーはいつだって正義、スマッシュを叩き込んであげるのよ!
スカーはハリウッドの援護、シックスはいつも通り』
『ハーイ。じゃあ、行ってきまーす!』
ハリウッドは意気揚々と通話を退室した。
『また
お前は楽でいいな、
ボスの言葉に髑髏のアイコン、スカーは皮肉混じりに返した後、通話を退室する。
近くで凄まじい破裂音と市民たちがスマホを見ながら、「髑髏面とハリウッド!?」と言う声がすることから、彼らも行動が始まったらしい。
名乗りを上げるから知られているハリウッドと名乗りを上げないために仲間内以外からはほとんど知られていないスカーが対照的な瞬間だった。
「楽じゃないって。
父さんがいつも無茶振りなんでもできる、って言うから、俺まで期待される気にもなってみろよ』
人通りの少ない路地裏に入り、鼻までを覆う黒豹を模した覆面を着用する。
構成員たちの身バレを防ぐために支給されており、任務中に
覆面の方には仕掛けが隠されているとボスは笑って言っていたのを思い出す。
『でも、貴方ならできるでしょう?
「俺は父さんじゃねえよ」
『シックス。ごめんなさい。でも、』
ボスの言葉にユウセイは吐き捨てるように返すと、続きの言葉が紡がれる前に通話を退室した。
覆面をつけても視界は悪くない、これを着けても大丈夫なようにと訓練もした。
逃げてくる市民と反対の方向に向かっていく。
ナビゲートアプリは近くであるなら必要ない、共に戦う残り二人は派手な戦い方をするからだ。
靴の踵で地面を叩き、青いオーラを噴き出す。
オーラを噴射させ、ゆっくりと空へと舞い上がれば、ユウセイは手のひらの中に青いエネルギーでできた剣を作り出して現場へと飛んでいく。
「ミッション遂行、と」
下には特異生命体迎撃武装行使装甲服、通称・SASと呼ばれる、いわゆるパワードスーツを着た部隊が辺りに現れた追求の魔王が産んだオモチャ以外にも混乱に乗じた異界系の住民を止めることに奔走している
異界と繋がったことは異界の技術を商品にする企業も現れた。
彼らもまたそうした企業の持つ部隊の一つなのだろう。
「ハァァァリウッドォォォォ!スロウ!!」
「あっぶねッ!」
意気揚々とした声と共に衝撃が響く。
動画で見た以上の体躯、百メートルはあるだろうスワニームの巨軀を上空から黒い影のような異形の怪人が叩きつけたのだ。
間一髪、ユウセイがそれを回避すると、スワニームが叩きつけられたことで地面に衝撃が広がり、建物が倒壊していく。
「お、シックスくん。いまきた?」
「いまきた、じゃねえよ!?ハリウッド!」
「文句言うならボスに言いなー?ただ仕事してるだけなんだから」
異形の怪人、ハリウッドはケラケラ笑っている。
怪人の異名を持つ、ハリウッドは凄まじいパワーで薙ぎ払う。
ただし、周囲の被害を考慮しないのと師事しているボスの関係上、クレーターが仕上がる。
「おい、そこ話すな」
髑髏の覆面をつけたワインレッドのシャツを着た男、近くから沸いてきたスワニームを左手のひらを動かすと背後から現れた赤い守護霊のようなものが左方から出てきたスワニームを吹き飛ばす。
彼の名はスカー、ハリウッド、シックスことユウセイと同じメンバーだ。
「これでいつもの連中が揃ったってわけ?」
「お前らと俺を一緒にするな」
いつのまにか、ユウセイ、スカー、ハリウッドの三人が横に並び、スワニームたちが蠢いて一つに変わっていく様を眺めながら、目前の敵を見据える。
「やっちまおう、とっとと」
ユウセイの号令をきっかけに三方向に分かれた三人がそれぞれの得意、ユウセイならオーラの剣で斬る、ハリウッドなら殴る、スカーなら守護霊を操ることでスワニームを完全に消し飛ばした。
彼らはボスの下、超天変地異のような日常で戦う
そして、この街の守護者。
すなわち、ガーディアンである。