○
リュールがキルケ救出のために飛び立って数分後、アークエンジェルは何とかキルケに起こされた騒ぎをどうにか収拾しつつあった。
「…はあ、何とか収まったけど…何かあの子が関わるとUMAや超常現象みたいなのがいつも悪いタイミングで関わってくるというか…」
その場に留まっていた面々はそれに安堵しつつも、スメラギが口にしたようにその懸念は少なからず広まりつつあった。
「…はあ、どうにかあの足がたくさんある幻獣みたいな牛は大人しくさせて森に帰したけど―――!?」
マリューがキルケとバルバトスの飛んで行った方角を向きながらため息を吐いたその直後、その方角から距離と大気による減衰を交えながらも長距離ビーム砲が飛んできてその頭上の大気を引き裂く轟音を奏でた。
「―――おってあれはたしかバスターの!? 何が起きて…!?」
『司令に艦長! キルケ隊員が到達したと推定される地点を観測したら複数のザフトMSを確認!』
「「「「「!!!??」」」」」
それで彼らは久々の平穏(?)がまたしても突然破られた事に気付いて皆が強張った。
○ハニア大星域 銀河中心領域付近 マラッカ星域 シュリーヴィジャヤ星系付近平面宇宙○
時期的に見てもうそろそろシュリーヴィジャヤ星系側通常宇宙に繋がるだろう平面宇宙の中を、規模は大きくはないがよく訓練を積んで実戦経験もあるのがわかる整然とした艦隊が進んでいた。
「…もうあと○○分後にシュリーヴィジャヤ星系に入る予定です。パルミュラからの情報によればアークエンジェルは既に同星系へ入っている頃合いですがー…」
「ザフトもモラシム艦隊を追撃に先回りさせたという情報もー…」
「その辺りは向こう同士でやり合っていればいい。対BETA対策ならまだしも人類同士の争いに我が国が介入せねばならん道理はない」
「…今度もその我が国の国是を通せればいいんですけどねぇ…」
その艦隊はオーブ連合首長国国防軍のものであり、艦橋の方では近隣国家の政情も絡めて少し小難しそうな顔を将校たちは浮かべ合った。
「それよりも今この時期とこの数値が問題ですよ! これから行く先はいつ
「…まー、そうなったら例の大天使には飲み込まれて丸ごと消えてもらう方が良いがなー…」
だが、難しそうな顔を浮かべ合いつつもこの時点で彼らは巻き込まれまいと見做したその口にした事案が、遠慮なく自分達をまきこんでしまうなどこの時点では思いもよらなかった。
○
「…あああばばばばああああああああああ!!??」
オーブ艦隊でそのような会話がなされて数分後、その彼らが通過する予定の海上でキルケは風圧で元々のきつめだが秀麗な美貌からは想像できない不細工フェイスで悲鳴を上げていた。
「ちょっとおおおおお!? 卑怯とは言わないけどこっちが
その理由はキルケがバルバトスの両手に掴まれた状態にあり、バルバトスをリュールが海上を激しい回避運動付きの超高速で滑るように滑空させていたことで、その風圧やそれで生じた水飛沫が情け容赦なく彼女の身へ襲い掛かっていたためである。
「ええい! 相変わらず逃げ足ばっかり速いぜ!!」
「砲撃待ってくださいディアッカ! あの機体の進む先に味方のアッシュが!!」
「おいリュース! あんまりこっちを巻き込むような逃げ方をするな…あー!?」
「あー!? 今度はイージスを足蹴に方向転換してまた避けたぁ!!」
「色々と既視感を覚える光景だ…」
理由は先ほどバルバトスがキルケを見つけて保護した場所が、ザフトのクルーゼ艦隊より派遣されてきたアスランたちによる哨戒区域と重なってしまい、そのまま交戦に至ってしまったためである。
さらに、時の経過とともにザフトの方は増援も続々と来ていたことと、バルバトスは先ほどまで環境試験のために武装の多くを外していたままの状態であったので、あれこれ逃げ回って何とかこの場を離脱しようとするほかなかったのだ。
「メアリそんな懐かしそうな顔を浮かべている場合か! 君の機体の重力操作兵器で何とか奴の動きを止められないか!?」
「どうにか抑えようとはしているんだがガルマ…それを展開しきる前に奴はギリギリで避けきるのが…!?」
何とか包囲網を掛けてバルバトスをこの場に押しとどめ続けているアスラン達だが、そこでメアリが乗るベヒモスのレーダーに例の反応が示される。
「バルバトスを発見しました! 周囲にはG全機及び多数のバビとアッシュを確認しました!!」
「何とか間に合ったわね! Aプランで包囲網を崩してバルバトスを救出! それから即座に○○分後に現れる季節性短期ゲートを通過してこの場を脱出するわ!!」
それは当然アークエンジェルで、周囲にはもう既に発艦したMSの姿もあった。
「…ふ! 足付きめ餌に喰いついたか! よし! 我が艦隊も全兵器使用自由―――!?」
だが、その姿を、天空を行きかう無数の超巨大水流に潜むザフトの宇宙水陸対応可能艦ボズゴロフ級の母艦よりモラシムが見てほくそ笑んだその直後、この地のザフト全将兵が最も恐れる警報が鳴り響いた。
「は! 直ちに足付きへ攻撃―――!!」
「―――うってやめろーーーーー!!」
「―――いっべーーーーーーーー!?」
そこで新入りそうな艦の砲撃システム担当が攻撃開始しようとしたとき、先ほどのほくそ笑みとは一変して真っ青になったモラシムの拳で新入りが殴り飛ばされて止めさせられた。
「て、提督!? どういうつもりで―――!?」
「おお落ち着けハレヴィ隊員!」
「今ここで下手に暴れたらこっちが終わりです!!」
「―――えってもがぁ!?」
それに予備兵員扱いで今は艦内にいたルイス・ハレヴィは驚くが、周囲のザフト兵に抑え込まれてしまう。
「…!? ザフト側が急に包囲を解いてバルバトスから離れていきます!」
「チャンスよ! 今すぐにリュール君をアークエンジェルへ戻させて―――!」
「駄目ですラミアス艦長! それとノイマン操舵手も今すぐに艦を停止させてください!!」
「―――えぇぇぇ!?」
敵の動きが止まった理由がわからないマリュー・ラミアスはすぐに味方を救助しようとするが、魔術反応系レーダーを担当していた
「王一等兵どういうつもりだ!?」
「…こ、この船に…
「は?」
「!?」
それにナタルは初め戸惑うがその聞きなれない単語に戸惑うも、同時にスメラギの顔が訳知りそうにギョッとした。
「全機直ちに交戦停止命令を発して! 我が艦も一切の攻撃を禁止します!!」
「!? 司令官なぜ!? 正気ですか!?」
「正気よナタル! まさかこんな中心領域で…
「な、なんですその
電子戦担当で眼鏡をかけた男ダリダ・ローラハ・チャンドラII世がその先ほどから上がる単語に反応する。
「…開拓が進んだ中心領域ではもうほとんど起きなくなってるけど、プラントにイリ―シュなど辺境では今でも時々で起きる現象よ!! 風が一切止まって自然的な魔力の流れが消える領域が帯状に広範囲で出現する現象が!! その名称が
「で、ですが周囲の自然的な反応が消えたくらいでは戦闘を止める理由ではー…!?」
「全部とは言わないけどこれはほぼ
ナタルの食い下がりにスメラギが苛立ちを隠せない様子でその理由を口にしようとしたその時、周囲に巨大な光球が生じて雷鳴と暴風をまき散らす。
「な、何だぁ!?」
「な、何とか艦の姿勢をぉぉ!?」
ヘリオポリス崩壊の時に勝る乱気流に艦橋も大きく揺れて、艦の窓も強い光に埋め尽くされて視界を焼かれそうな心地になってしまう。
「……お、収まったか…?」
「しゅ、周囲の反応を確認し…!?」
十数秒後、揺れと光に轟音が収まって周囲を確認したアークエンジェルの艦橋クルーが目にしたものは、その多くの予想の範疇を越えるものであった。
「……ウオオオオオオオオ…」
「ボオオオオオオオオ…」
アークエンジェルの周囲を、同艦を優に超えるサイズを誇る怪獣の群れが取り囲んでいたためである。
「―――あ…怪獣類の群れの…ね…それも最低でも…主力艦以上サイズの…」
「「「「「…………」」」」」
スメラギなど元から知っていた一部の面々が泣いているか頭を抱えているのに対し、マリューやナタルなど多くの知らなかったかもしくは初めて目にする面子は言葉を失って絶句してしまっていた。
「…とにかくこちらから攻撃をするのは禁止よ! こちらから攻撃を仕掛けない限り向こうはギリギリ触れない程度に避けてくれるわ! ザフトも大人しくなったのはそのためよ! だから―――!?」
十数秒の静寂の後、スメラギが対処法を指示しようとしたその時、艦のレーダーに小さめだがエネルギー弾系の攻撃の反応が感じ取られた。
「―――あ…今の…反応は…?」
「…え、えーーっと…出します…」
周囲の反応が無表情となってく中、艦内の映像にある機体が映し出された。
『…あ、あの司令…艦長…僕は…そちらが見ればお分かりの通り…何もしてないと思いますけどー…』
その画面にはバルバトスの中より真っ青な苦笑いを浮かべているリュールの姿も映し出されるが、もう一人の方にアークエンジェル艦橋メンバーの意識は向いた。
『…あ…あ…アア…あああ…あ…』
そこにはバルバトスの手の中に収まったままだが、自衛のために持たされていた魔力使用ビーム式拳銃を構えていて、最大出力で放ってしまった後なのがわかるキルケ・シュタインホフの酷く焦燥して引きつった顔が映し出されていた。
「「「「「…ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」」」
「「「「「…何してんだぁぁあああアアァアアアアァアアアァアアアアアァ!!!???」」」」」
数秒後、怒りの形相で暴れ出した怪獣類の群れの中で、銀連とザフト問わずその場にいた全員は悲痛な絶叫と涙を流した。
「…何故だーーーーーーーーーーーーー!!??」
「アアばばっばばばばばばばぁーーーーーー!!??」
当然、元凶を抱えているバルバトスはリュールの必死な形相による操縦で怒りの猛追をしてくる怪獣達から逃げ回らなくてはいけなくなり、その手に掴まれたままのキルケは再び風圧と恐怖の嵐に晒されることになった。
その結果、怪獣の群れは一旦だがザフト艦隊とアークエンジェルの双方から離れることとなる。
「…は、ははは! 馬鹿なナチュラル共め! 自らの尻に火をつけおったわ!!」
「…え、で、でも…モラシム提督…何かあれに追われてる…あのバルバトス…何かしょっちゅう進路変更してますけどー…!?」
それを始め嘲笑するザフト側であったがやがてそのわずかに生じた余裕もすぐに消えることになる。
「「「「「キシャアアアアアアああああああああああ!!!!!」」」」」
「あー!? バルバトスがこちらにー!?」
「それを追う形で怪獣の多くも我が艦隊に向かってきてますー!!」
「「「「「ええええええーーーーーーーーーーーー!!??」」」」」
「…な、何とか助かった…! ソードリュ少尉が自ら犠牲となって敵の目を引き付けている間にそれを無駄にしないためにも反応からしてもう○○秒後に出る予定の季節性短期間ゲートでこの宙域を脱出する―――!?」
「「「「「あああぁアアアァアアアアアァ!!!!!」」」」」
「―――うってええええええええ!?」
それを視認したナタルは割とひどいことを軍人らしい理由で補強して実行しようとしたが、その罰が当たったのか、怪獣の群れの一部がザフトではなく自分達の方に向かってくるととうとう絶叫した。
しかもその怪獣達の先頭は、先ほどキルケが焦燥と混乱のために撃ち放ってしまったエネルギー弾を顔に受けてしまった、ムカデのような体に人間の女性のような顔とそれとは別にヌタウナギのような口から鋭い牙を覗かせている怪獣であった。
「ちょっとおおおおおおお!? 何かこの前にバイトで行った彼岸島星系の炭田地域の姫って皮肉で呼ばれてた怪物をそのままデカくしたような怪獣がこっちに向かってきますよおおおおお銀さあああああん!!??」
「オオオオオ落ち着け新八いいぃ! もう直に次の星系へのゲ―トが出て…!?」
当然、猛烈な勢いで近づいてくる死の津波にアークエンジェル、特に艦の外に出ていたMS隊メンバーは恐慌を起こすが、その彼らの前で幸運の女神が微笑んだのかちょうどよく次の星系に繋がるゲートが出現した。
「良かった! 全力であの中に駆け込んで! 平面宇宙の中なら大質量の怪獣は速度が大幅に遅くなる…!?」
だが、マリューが救いの神を見出したそのゲートから、今度はオーブ国防軍の艦隊の先遣部隊が姿を現した。
「…ってなんだあれはー!」
「ザフトと銀連それぞれの艦隊が怪獣に追われてるぞー!?」
「後方の本隊へすぐに伝えろ!」
「この星域に入るのは危険だ!」
当然、シュリーヴィジャヤ星系に出たばかりのオーブ側は現状に思わず絶句し、直ちに引き返そうとする。
「…あれは我が国の…助かった…後で怒られはするけどー…」
それを見たアークエンジェルMS隊メンバーの一人に猛特訓でなってウィンダムの内の一機に乗り込んでいたカガリは、オーブ艦隊に向けてアークエンジェル側には伝えていない暗号で秘密通信を放つ。
「…オーブ側艦隊より通達! 我が艦隊に今の状態で接近すれば敵対行為と見做して砲撃すると!!」
「そんな…ここまで来て―――!?」
『大丈夫だアークエンジェル!! もう話は着けた!! すぐにオーブ艦隊の中に逃げ込め!!』
「―――ええええ!?」
数十秒後、伝えられた通信にマリューが悲痛な声を上げるが、途中でカガリからの通信が割り込んできた。
「あぁ、もうカガリが通信を入れたからには大丈夫だ。このままの勢いでオーブ艦隊の中に入ろう」
「キサカさん!?」
「大丈夫です。オーブ艦隊の皆さんの砲手は達者ですから怪しまれない程度に撃ちはしても沈めてきたりはないでしょう」
「玉三郎君!?」
更にカガリと共にパルミュラで乗り込んで来たメンバーが訳知り顔で相槌を打ってきた。
「ああ!? このままだと怪獣に追いつかれますよー!?」
「…く! 最大船速で突入!!」
『…警告に基づき砲撃を開始する…』
「対怪獣用閃光弾放てー!!」
こうしてこの場の勢いと混乱にほぼ押される形で、アークエンジェルはオーブ側が放った砲撃と閃光の中に飲み込まれた。
○
「「…………」」
昼間でザフトとの交戦に入ると思いきや、思わぬ怪獣との遭遇戦になって数時間後、仲間たちと共に平和な一時を過ごしつつもその最後が慌ただしくなっていたのが見える跡地で、夕日に赤く照らされながらリュールとセレーナは静かにたたずんでいた。
その傍には、先頭を続けるのが難しいまでに損害しているバルバトスとウィンダムの姿もある。
「…大丈夫か?」
「は、はい…何とか…」
「元から体力があるのはわかる。昼間の動きからして大事にはならないだろう…」
一方、隣の島の山に隠されてリュール達とはお互い見えなくて感じづらい位置に、顔を熱で魘されているのか赤くして横たわっている霞と、それを看病しているカガリとアスランの姿があり、傍には大きく破損したウィンダムとイージスの姿があった。
(((((…遭難しちゃった…))))
そして、五人の現状はその彼らが再認識したその一念が示していた。
またしても強引すぎる展開になってしまいましたが、次回はガンダムSEEDで特に人気が高いあのカップリングの進展が中心になります。