○
「…うーん、とりあえず場の状況が状況だったから食料は海の家に結構残されたままなのが良かったなー…。他のものは流れ弾でやられたものが多いけどー…」
「まーこっちとしてはもう君がいる時点でもうこんな無人島でも衣食住の心配はいらないってのは前の遭難の時にわかってるけどー…」
怪獣の大群との交戦(というよりそれからの人類側の一方的な逃走)より数時間後、この星に取り残された形となったリュールとセレーナは海の家を拠点としてその場を色々片付けつつあった。
「とりあえずソーラーパネルと潮力発電機は今も動いているから、これで電力を供給してMSの救難信号は発せられているわ」
「まー多少の部品なら錬金術系でその辺の岩塊や砂から作れたものと交換できるし、この時期のこの星は季節性短期間ゲートを利用しての船舶が通るから、その船に拾ってもらえれば帰れるだろうね」
「そうね、この時期にこの辺りを通りかかる船の量を考えればー…まあ、君のことを考えれば助けてもらう船は選ばないといけないけど…」
「うん、ありがとうセレーナ。それとー…あの場で何とかキラが乗るストライクにギリギリ投げ渡して逃がしたキルケ…死んでないと良いけどなー…」
「…いやーねー、あの性格を考えればー…あんだけの災難を起した後の処遇を考えるともうあそこで怪獣の餌にでもなった方が幸せかもしれないようなー…」
「その辺はあまり考えないようにしようセレーナ、むしろ今の時点では凄く個人的な問題がー…」
「何ーその問題ってー?」
「その楽園追放されたばかりだけどそれを全くにしてない感じなイヴみたいな格好は何?」
水着姿で見上げるリュールの視線の先には、葉っぱと蔓で出来た露出度の高いビキニ衣装になったセレーナが果物を取っている姿があった。
「…だーって仕方ないでしょー、さっきの戦闘の時の怪獣が放った火炎かMSビームだか知らないけど流れ弾でー、食料と機械以外の物資は衣服含めて燃えちゃったんだからー。残ってる衣服はもしもここの生活が長引いて寒い時期になったりしたときのために残しておかないとー…。それにー君だってガン見してるじゃない♪」
「ガン見は否定しないけど…お互いあれだけ激しく怪獣から逃げ回った後の疲れた身じゃー急に体調崩してもおかしくないでー…あ」
それを男の下心主体で見守っていたリュールだが、言い訳したようにセレーナが思わず足を滑らせて樹木から離れるとすかさずその下に回ってクッションになった。
「…いたたたた! あのたかびー娘が馬鹿な事さえしなきゃ…戻ったら絶対いびりまくってやる~!!」
リュールが下になってくれたことで大事にはならずに済んだが、痛がって涙目になるセレーナは恨み言を口にする。
「…あー、それだけ言えるだけの元気があるならそんな心配はしなくていいかなー…」
彼女の下敷きにされつつも特に痛そうな様子を見せず、静かにだが感慨深そうな顔を見せるリュール。
今現在、彼の水着のクロッチの上にはセレーナの健康的で立派な尻が葉っぱショーツ越しながら押し付けられていたためである。
「…あら、そっちもあれだけ激しく動き回って皆を逃がした後で、ここの寝床の整理や狩りとか頑張ったのに…こんだけ大きなテントをさっそく張り始めるなんて…大丈夫そうね♪」
リュールもまだまだ元気なのを自身の尻への堅さと熱さに大きさで確かめたセレーナは、彼に乗ったままクルッと回って彼と向き合った。
「…ここでの時間がいつまで続くかわからないしー、もしかしたら最悪ずっとここに居なくちゃいけないかもしれないしー、お互い色々ともう大人の階段を駆け上がった身だしー…今は他に人の気配もないしね…❤️」
「…………まあね…」
こうしてお互いの熱と自身を見つめる顔を少しの間で感じ合った二人は、自然と唇を重ね合った。
○
「…あ、こっちの魚は焼けたぞー。それと米っぽい豆粒で出来た白米もどきも無事に炊けた。毒物検査機で確かめたから大丈夫だー」
リュールとセレーナが南国の開放的な空気に背中を押され合ってから数時間後、夕日が沈んだばかりの近くの無人島のある洞窟で、カガリは飯の支度を終えていた。
「ああ、ご苦労。霞、これを―――」
「おい、霞は病人だからこっちの粥を食わせてやってくれ」
「―――お…あ、すまない…」
その場には彼女と同じくアークエンジェルクルーだが今は熱にうなされている様子の霞が寝かしつけられているのは当然として、何故か看病している男は敵であるはずのザフト所属のアスランであった。
「…霞の着替えも終えたし、ちょっと外の空気を吸ってくる」
「俺が彼女に手を出そうとは思わないんだな」
「そんなのしたら私がお前の乗っていたイージスを壊しても文句はないだろ。まー昼間に出くわしたばかりの時に霞とやり合って周辺をこんな感じにしたお前なら今この場で出来るだろうに、それをせずに看病してくれてる時点でお互いその心配はないと言ってるようなものじゃないか?」
そう言ってカガリが洞窟の外に出ると、そこは巨大な斬撃の痕である亀裂や破壊された岩石、両断されて吹き飛ばされた切り株が広範囲に広がっていた。
「…改めて見ると凄いな。俺も防衛学を学んでいた頃に厳しい猛練習を課してきた蒼木先生も凄かったが…」
「まあ、どっちに生まれても結局は学ぶ意欲と根気が大事というのはお前たち二人を見ればわかるからなー…」
自分も関わった広範囲かつ甚大な破壊行為の痕跡にアスランはしかめっ面になるが、カガリが彼と霞を見比べて感心した顔になる。
「…なあ、彼女もお前も…ここまで出来て…その後でそんな顔も出来るのに…何で銀連軍にいるんだ?」
「…は?」
そんなカガリの顔とあか抜けてない正直な感想にアスランは困惑と疑問を禁じ得なかった。
「いや、別に私と霞は銀連軍じゃないぞ」
「え?」
「元々、実家とあそこの狸達の付き合いの都合でパルミュラに居たら、狸達とお前の同僚達の揉め事に巻き込まれたところで、後から来たアークエンジェルと流れで組むことになった。それで巨人とかで巻き込まれてた土地の問題が色々あって解決した時期がそろそろオーブに帰らないといけない時期でもあったし、泊めてくれた先に世話になった分はもう返したから、帰るにはちょうど良かったあのアークエンジェルに乗せてもらっただけだ。MSに乗ってたのも帰る途中をただ飯食いするのはあれだったから練習して乗れるようにして乗っただけだ」
「…え…えーー…」
故に、そのカガリが嘘を言わずに(色々大事な部分をあえて言わないではいるが)今に至る流れを言うと、言動の虚実を見抜ける感覚を持つアスランはそれ故に戸惑ったというか白けた。
「…そ、そんなドサクサ紛れな屁理屈で…撃ち合いをしてたと?」
「いやさあ、そういうお前らはそのドサクサ紛れをし続けた結果が今の泥沼だろ」
「は?」
故に、その戸惑いが過ぎると今度は不審と憤りが上り始めるが、そのさい先に冷や水を浴びせるようにカガリの言葉は続けられる。
「血のバレンタインの時に仲介をしてくれた帝国が誤射でG弾を撃ち込まれたのとその巻き添えでお前の国の人達も大勢死んだ後、それから銀連全体が非難囂々だった時期に、G弾を実際に撃ち込んじまったサマリアとそこへ横流しした大星洋連邦だけじゃなく、E.Uやその他の中小国の銀連軍参加諸国までニュートロンジャマーをドサクサで撃ち込んだだろ。あれの負債を前線で払わされている連中にはお前たちも混じっているじゃないか」
「…う…」
「それで窮地に陥った銀連軍の連中がパルミュラを屁理屈で占領した後で、それを解放した後で銀連が占領していた土地をちゃっかり全部押さえたら、そこに前は住んでいた狸達と揉め出してそれであの巨人で大損害が出るまではそこから離れられないって状況になっていただろ」
「…それはー…」
「最初のニュートロンジャマーを撒く時だって相手を実際に吹き飛ばしたサマリアと大星洋に限定していれば、他のE.Uとかの反発は買わずに彼らを仲介役に帝国とかを引き出す役にすることだってしやすかったはずだ。それをあの時のドサクサ紛れで銀連軍加盟国全部巻き込んで敵を余計に増やしただろう。実際にG弾なんか使った連中はそのことをとやかく言えないにしても、少なくとも中立国オーブの人間である私が血のバレンタイン云々でとやかく言われなくちゃいけない筋合いはないぞ」
「…中立国って、ヘリオポリスで技術盗用と密通をしていた身で何を―――!?」
しばらくディベートで押されっぱなしになっていたアスランだが、自分も直接関わっている案件を思い出すとすかさず言い返そうとするが、そこでカガリの背後に現れた危険な気配に気づく。
「いやなぁ、あれにしたってもうサハク家の連中が勝手にしたのは…あぶぅ!?」
「ガアアアアアアアァアア!!」
「―――おって危な…っ!!」
カガリが本人自身もうんざりという顔で言い返そうとしたとき、彼女の脳天にMSサイズくらいはありそうな虎がその巨大な犬歯を振り下ろそうとしたが、アスランが彼女の身を抱き寄せて救ったものの代わりにその片腕で犬歯を防御せねばいけなくなってしまい、踏みつける地面が大きくへこんで片腕にも犬歯が皮膚を切り裂いて筋肉を深く抉り始めていく。
「…見た目とサイズ上に力が強い! おい! あの子を連れて早くここから離れ―――!」
「ぎゃいいいいいイイんん!?」
「―――え??」
全身の骨が軋み始めていく感覚にアスランが歯を食いしばろうとしたその時、彼の鼓膜を震わせたのは虎のそれらしくない悲鳴だった。
「おい、馬鹿猫、今は良い所なんだから邪魔をするな」
「…………」
気づけば能面のカガリが虎の大きくて垂れ下がった大きな舌の一部を掴み、深々と爪が突き刺さって血を流させるまでに握力を強めていたのだ。
「…ぎいにゃアアアアアアアア!!」
そうして少しの無言を経て経って舌を離されると、虎は初めて飼い主に盛大に怒られた猫のように泣きわめきながら森の中へ逃げ込んだ。
「…さあ、さっさとその腕の手当てをするぞ。傷を見せろ」
「…え!? あ…ちょっと待て! 今さっきまで口であれこれ言い合ってた後で…というか一時でもお前は銀連の船に乗ってて俺はザフトでー…!?」
それで何事もなかったように傷の手当てをしようとしたカガリに、アスランは改めて立場を思いだして戸惑うが、カガリは呆れ顔を見せる。
「…はあ? 目の前に怪我人が居たら助けなさいって大抵の親から子供の内に習うだろ。お前も霞の看病をしたことからして同じだろうが」
「……………」
そのまるで根本的な良識を疑っているような言葉にアスランは何も言わなくなった。
寧ろ、言わずにこのまま彼女の言葉を聞き続けた方が良いような感覚になっていった。
○
「…ん、朝か…」
「あ、起きたなー」
ディベートや虎による襲撃があった晩が開けて翌朝、目覚めたアスランの視界に映ったのはカガリであった。
「霞がいない?」
「…ああ、あの子ならもう回復したから周囲の様子を見て周りに行ったが、つい先ほど戻ってきて向こうの浜辺にオーブの船が反対の岸辺に捜索に来てくれたのを発見したのを報せたから―――」
「もうカガリさんをお連れして向こうに戻ります。こちらの荷物も起きた今朝の内に纏め終えたので」
「―――あってうわっと」
いなかったように見えたもう一人の方は樹上からパッと降り立つと、カガリを勢いよく両手で抱き上げた。
「ああ、それと今朝にあの小川の向こうの岩の岸辺を見たらザフトの捜索隊らしきバビがいたからお前ももう荷物を纏めて向かった方が良いぞ」
「…っ…ああ、ありがとう…」
そうして別れの時がお互い迫った所で霞はアスランに背を向けるが、そこでカガリはもう一度アスランに振り向く。
「…私が見てきたコーディネイターに何人かいたが、その中でもお前は色々出来る分に“背伸び”が特に下手だな」
「…背伸び?」
「どういう皆なのか自分で考えろ。こっちよりも広く学を身に付けていける速さは良いんだからな。そっちの故障したウィンダムは面倒を見てくれたお代で置いていく。どのみちこっちは持ち帰れないからな。じゃ」
その掛けられた言葉に首をかしげるアスランの前で、カガリは霞に抱きかかえられた状態で蛙のような動きでヒュンヒュンと森の中へ姿を消した。
「…背伸び…」
アスランは最後に掛けられたその言葉が頭へやけに大きく響き、同時に一晩のうちに自分の視界が広まったような感覚を覚えた。
数十分後、出現した季節性短期間ゲートを介して現れた友軍の偵察隊に、アスランは救出されてイージスガンダムも回収された。
ちなみに、カガリと霞を救助したオーブのレスキュー隊はその数分後にリュールとセレーナも発見して救出した。
次回、主人公にとって色々と胃が痛い事態が連続して起きる予定です。