○
「…ごめーん、昨日はお腹の調子が急に悪くなって抜けちゃってー」
「腹が悪いって何を噴出したカーセレーナ? 臭いカレーか汚いトマトジュースあるカァ? どう思う新八?」
「神楽ちゃん生々しいジョークは止めてあげて!」
蒼崎橙子とセレーナが何かの話し合いや取引をした日の翌日、今日もアークエンジェルクルーはオーブとの軍事技術協力に取り組んでいた。
「…ヘリオポリスの時と言い、何処が中立よこの国…」
その中にはテストパイロットという形でキルケ・シュタインホフも混じっていて、彼女は如何わしいものを見る顔をしていた。
「そのオーブとこっそりヘリオポリスでMSを作ったり、アルテミスで強奪しようとしたりしてた銀連の正規兵が何を言ってるのー?」
「おい、お前さんはこの前の怪獣暴走を招いた責任があるんだからなー。パナマでこれをどう言いふらそうと勝手だがその件も忘れんなよー」
『…うぅ…』
もちろん、両津たちの下で彼女はMS訓練を受けることが出来つつも絶賛こき使われている最中であった。
『…皆ー、検証や実験も大事だけど今日は予定通りご家族との面会もあるからあまり疲れた顔をご家族に見せないようにしてねー』
「「「「「はーい」」」」」
前線とは別な意味で色々と疲れる日々が続いているが、映像付き通信越しにスメラギが伝えた要件も含めて今日は比較的明るいニュースの比率が高かった。
○
「…ねー、そこのクールな赤毛混じりの黒髪エルフの君ー? いったいどこから来たのー?」
アークエンジェルクルー達に久々の朗報が入って数時間後、その彼らが居る地下基地の上にある地上の平和な都市の一角で、肥満気味な白人風の男がナンパをしていた。
「つい一時間前にこの店の正面ドアから来たが他に何かいるか?」
「………」
だが、もう見飽きたという顔でPCに電脳を繋いで操作しているメアリにスッと目を細められると口籠り背を丸くしてカフェを後にした。
「これで本日だけで通算5人目ー、もう少し愛嬌良く出来る練習相手として付き合ってあげてもいいんじゃねー?」
「遊びじゃないんだから真面目にしてくれディアッカ…む?」
その中で同じくPCを操作している面々にガルマも混じっていたが、画面はある映像で止まった。
「…おい、この画像は荒いが…」
「ああ、瀑布で多く隠れてはいるが…」
「ああ、この二本の白と赤の爪先のような艦首…“足付き”だ!!」
「「………」」
ハッキングを駆使してたどり着いたここオーブでのアークエンジェルの隠された姿の一端に、アスランとメアリは重い表情を禁じ得なかった。
○
「…お久しぶりですウズミ前代表、このような無能者にもあの子と再会させていただき…」
「いいえ、そのようなご謙遜を…貴方が居なければこの国と貴国の状況は更に悪化していたでしょうから…」
アスラン達が目標に近づきつつあってから数時間後、モルゲンレーテの地下研究所の上の地上にあるオーブ政府の建物で、ウズミとジョージ・アルスターは密かに会談していた。
「…オルバーニ理事総長の案はほぼ修正されずに出されたか…」
「ええ、もう大統領とロビー組織が求めるのは“時間稼ぎ”だけでしょうな。本国のも含めて“ゲットー”に注ぎ込まれる物資が急速に増え続けています…。量産化含めて目途が立ったということでしょう…」
「…差別に反対する者の多くは差別が無くなれば食い扶持を求めて新たな差別を探すように、鎖で繋ごうとするものが鎖で繋がれるものを最も当てにするか…」
「…ええ、歴史が証明し続ける政経の皮肉です。それで…ヘリオポリスから乗り込んできた者達の帰国についてですが…」
「ええ、予定通りに進めましょう。特に
「想像しただけでゾッとして心臓が止まりそうだ…」
その二人の対談は深く重く進んで行っており、軽い空気はほとんど感じさせなかった。
「…ウズミ様、わざわざお会いして下さってありがとうございます…」
ジョージとの秘密会談が終わって数分後、今度はある夫婦がウズミと密会していた。
「お久しぶりですなご夫妻、ですが、その様子だと…」
「ええ、あの子の方が…会いたくないと…」
その夫妻はキラ・ヤマトの母であるカリダと父ハルマであった。
「彼女の様子からして、彼女の真の身元はー…」
「…ええ、ご明察の通りです…」
「私達から、あの子に
三人が囲む机には一枚の写真があったが、そこには茶髪と金髪をそれぞれした二人の赤ん坊と、その二人を抱き上げているキラとどこか似た女性の姿があった。
○ハニア大星域 銀河中心領域付近 オーブ連合首長国 オーブ本星系第一惑星 オーブ本星 オノゴロ大陸 モルゲンレーテ某地下研究所○
「………………」
自分の両親とウズミが密かに会っていることを知ってか知らずか、彼らが居る政府庁舎の地下深くと繋がっている研究所の一角で、キラは黙々とした様子でMSのナチュラル用OSと同調装置の調整を進めていた。
「…ちょっとー、ヘリオポリス初期のサボり魔生活しか知らない子達が見たら驚いて卒倒してぽっくり逝っちゃうような
「…あ、ごめん…」
そこでフレイが薬湯入りコーヒーを持って現れた。
「皆のご両親が上の方へわざわざ会いに来てくれてるんだから、少しくらいは会いに行かないと親不孝よ」
「…アークエンジェルがパナマに入る手前でどの道降りられるんだからそこからでも遅くはないしー、ここで手を抜くとどんな言いがかりを付けられるかー…」
だが、キラはコーヒーを受け取りつつもフレイには見向きもせず、PCと電脳の画面から目を離そうともしない。
「…怖いのね。自分がご両親と今ここで会ったら…何を言うのかわからないから…」
「…うん…」
そんなキラの本音はフレイに見透かされ、画面上に映るその不安で怯えを隠せない顔は更に暗くなった。
「…何で私を…コーディネイターにしたの………て…」
「………………」
それはこれまでの戦いやその中でのキラの立場からして生じない方が不自然な疑問であり、故にフレイはもう一つの疑問が強まる。
(…あのカリダさんとハルマさん、今日会ってみて見ただけでも…凄くしっかりして立派な人なのはわかる。それだったら何でこんな時代でキラに遺伝子調整を―――?)
「はぁぁ…」
「―――ぉ…あ…(まずい、このままの状態でまたMSに乗せて戦場だされたら…士気低下で戦死になるかも…)」
だが、その疑問は目前で見る見るうちにオーラから視認できるまで落ち込み悩みキラの様子でいったん蓋をされてしまう。
「…うーん、こういう時はー…彼氏に励ましてもらうしかないわね…」
「…え?」
故に、フレイは正攻法以外の方法でキラを立て直すことにした。
「…彼もさーここに来たっていう身内との再会を断って仕事を続けようとしてたけどー、何かここの人達も含めた大勢に仕事中断して会ってやってくれってめっちゃ押されて地上に出されたしー…」
「け、けどー…」
「もしかしたらどっかのお偉いさんだったりして、それも異性のとかー…」
「…え!?」
それにキラは初め乗り気ではなかったが、フレイの硬軟入り交ぜた言葉責めで表情から重い暗さは消え、代わりに齢相応の引きつりが顔に生じ始める。
「…カガリさんもさー。船に乗ってた間もがさつな言い方が多い割には食事の作法とかマナーを子供の頃から仕込まれた動きをしていたりとか、どこかで見たような顔だなーって感じはしたけどー…。なんかあのアーヴの子も何だか庶民的な姿も板についてる振る舞いしてるけどー、所々で教育にも凄くお金や人手をつぎ込める家の子の振る舞いが見えるのよねー。今さっきにあの子を連れていった人も絶対案内人ってだけじゃない目つきで引っ張り出していったしー…私も何度か見たことのある凄い人だったしー…あの子って意外と倍率が凄く高そうよねー。だったら今のあなたの向き不向きを考えるとー…弱った姿をあえて見せて励ましてもらってそこから道連れにするような感じでズブズブとー…」
「……………」
それを見抜いたフレイの長ったらしく煽りまくる言葉に、引きつった顔の瞳にはやや暗みが混じるがメラメラした克己心が蘇りつつあった。
○ハニア大星域 銀河中心領域付近 オーブ連合首長国 オーブ本星系第一惑星 オーブ本星 オノゴロ大陸 某地方都市 某高級ホテル○
「…あ、あのー高嶺さん、今こっちは軍務中の身なんでこういうお高いのがわかる所にこんな格好で入るのはちょっとー…」
キラがフレイに煽られていた頃、半ば無理やり地上へ引き出されたリュールは帝国アーヴ風の礼装に身を包んだ状態であるホテルを引き回されていた。
「君こそ無茶を言わないの。ここで待ってる子にあの格好のままで会ったら赤っ恥どころじゃないわよ」
その彼の手を引っ張る青味を帯びた黒い長髪を伸ばして翡翠色の瞳をして、薄い桜色の着物が似合う美女の名は獅子堂高嶺。
ここオーブに本拠地を置く同国最大の財閥である獅子堂家現当主の妹で、D.S.S.Dでも要職を兼務している才女であり、リュール達とはモルゲンレーテのヘリオポリス支局に彼らが務めていた頃から知り合って関係を深めてきた仲である。
今回のリュールはその高嶺に強引に地上へある人物との面会のために引っ張り出された身であった。
(…安くはないけど上質でもないって感じだけど、故郷の礼装は久しぶりだなぁ…。ヘリオポリス記憶喪失時代のあの時空の流れ方に異常があった未開惑星へ一緒に流れて仲良くなった人たちの中に帝国アーヴの人もいたけどー? その時の誰かとかー…!?)
そんなリュールは久々の故郷の服に懐かしさを覚えながらホテルの広い中庭を案内されていたが、ある一角に入ると静かにだが空気は変わって懐かしい、けれども記憶にある頃よりも存在感を増したある気配を覚える。
「…え…ちょ…高嶺さん…この感じは―――!?」
リュールがその気配に問おうとしたその時、中庭を仕切る石門の一つが開いてその理由が明らかにされる。
「……………」
リュールが案内されたその白い浜辺を利用した広大な庭の中心には一人の齢が近い少女が無言で立ち、彼に目が丸くなった顔を向けていた。
肩にかからない程度に切りそろえられた青髪は陽が沈みかけて落ち着き始めた夜空のような深みがあり、同色の大きくも凛とした瞳と合わさって瑞々しい若さが多くも深い怜悧と才気が調和した美貌を保っており、若鳥のような青々しさが目立ちつつも
普通なら
だが、その青髪から伸び出ている長い耳と竜を模した
「…兄様…」
その少女、アブリアル・ネイ=ドゥアセク・
「…えっとー…何その格好?」
「え? 何ですかそのよくわからないけれど身内の醜態を目にしてしまったようなお顔は…? これはこの辺りで近い内に行われる豊漁祈願祭に参加する女性の正式衣装で、私がここへ来られるように便宜を図ってくださった人達に少しでもご恩返しをしようと、その方々が催されたその祭りに参加を決めたので貸してもらった衣装でー…」
但しリュールは、今現在の実妹の青い法被に白いサラシと白い褌に下駄しか身に付けてない珍態に赤く染まった微妙そうな顔を向け、ラマウアは兄のその顔と言葉によくわからないが何故か羞恥心を急に催して身悶えし始めた。
感動の再会も(ゲスネタもありな)ギャグに変えるのが本作世界、というか本作主人公の(自覚の有無はその時々で変わる)クオリティです。