○
「…な、なるほど…。帝国の友達の伝手で僕の情報を聞きながら、国外の友人の伝手で国外派遣訓練授業や留学に技術支援要員の名目で出て僕を探していたとー…」
肉親との感動の再会を微妙な形にされて数分後、リュールは獅子堂高嶺がその場として用意したオーブの海浜に面した高級和風ホテルの会食の場で、今は落ち着いてその再会の時を静かにだが深く味わっていた。
「…ええ、そうです。今月の初め辺りで行ったパルミュラで、兄様のご紹介で友誼を深められた友人の助けで駐屯地の兵舎を抜けられて、貴方の気配と魔力の残滓を辿って民間の旅館を変装して泊まりながら追っていって…」
「…凄い行動力だなぁ…大抵流されてその場の火事場の馬鹿力ばかりでその場を何とかやり過ごしてばかりの僕とは…」
「そんな…私が身に付けた学や技の多くは貴方から教えられたものばかりでー…」
そのリュールの再会している相手は、彼がドゥリュースとして生きていた頃の妹である、アブリアル・ネイ=ドゥアセク・
無論、今のラマウアは再会直後の色々露出度の高い(季節は春だが)夏祭り風衣装ではなく、
「…それでお話ですがー、兄様…今現在のお乗りになられている船、ここでお降りになられて
「………っ…」
当然、兄妹の再会の喜びの実感が深まって談笑が進んで行くと話題はそこに行き着いた。
「…まー、正直に今の僕の気分を言うとー…、記憶が吹っ飛んでたのとその間の大量逮捕劇やらテロやらの安全上の理由で少し遠くで過ごせるように適当な記憶に書き換えられた状態なのはあったけどー、自由圏の宣伝を真に受けた移住アーヴや、共産圏のプロパガンダに乗せられてしまった元自由民と大差ないのは否定できないよ…
「それでしたらー…」
「…だから、今ここではまだ戻れないよ」
「…え?」
「今いる船の人達に
その兄妹のやり取りを見守りながら見定める一団の姿があった。
「…今現在、パパラッチや諜報員にドローンの類は警戒術式空間の外周ラインの突破も出来ていません」
兄妹の再会の場を取り持った獅子堂高嶺は二人のいる場から離れたホテルの一室からそれを見守っていたが、その部屋にいるのは彼女だけではなかった。
「…ああ、あの二人には揃って本来居るべき所に早く戻ってもらわないと、彼らを恐れ罵るものも含めて大勢が厄を被る…」
同じ部屋にはオーブ高官の正装に着替えているカガリの姿があった。
「…待たせてすまんな
「父上、何日経ったと思っているのですか?」
その部屋にウズミが遅れて参上すると親子は互いに呆れ顔を向けあう。
「パルミュラの後始末のせいで落ち着いて話し合うのは久しぶりだな。まだ若いのに不相応な恨みも買いおって…」
「反省はしています。恨みがどの道でるのならパルミュラに移る前に
「全く…聡さと鋭さは私より素養があるのに若いというのは危うくもさせるな。故に、
ウズミはカガリの頭を撫でつつも客室の大窓に映し出されたニュース映像に憂いの眼差しを向ける。
『…先日にクリューヴ南部前線からアブリアル・ドゥカーズ元帥ですがー…』
「…
そのニュース画像に映し出される兄妹の同族のその一人にウズミの憂いは深まっていく。
『…先週に投票が始まったプラント最高評議会議長選挙ですが、パトリック・ザラ氏が選ばれるのがほぼ確定した模様でー…』
「………」
続けて流された別のニュースを受けて、カガリはシュリーヴィジャヤの地上世界で遭難した時に言葉を交わし合った男を思い返した。
○
「せい!」
「
「はいよ!」
青い髪の兄妹が異国の地で再会し、その裏でも社会の上役達がそれも絡めて話し合っていた日の翌日の晩、アークエンジェルが隠されている地下施設の上にあるその地方都市では春祭りが開かれていた。
一年を通して熱帯か下がっても亜熱帯の地域が多いオーブの気候や国土が影響してか、そのメイン会場の壇上にて美女達が和風の衣装で和楽器の演奏を奏でていた。
「マウアさん! それ!!」
「はい!!」
その中にリュールの妹であるラマウアの魔術で浮遊する太鼓にバチを振るう姿もあった。
但し、青髪は金髪に変えて
「…はあ、本当に上手くやってるなぁ…陰キャの僕と違って…」
会場には多くの出店が並んで大勢の客が行き来し、海上には多くの屋形船が浮かんでいて、屋形船の一隻に今日の昼間の分も含めた働きに対するねぎらいとして今晩の休みを与えられたリュールの姿があった。
「どの口で陰キャなどとほざいているのですか?」
当然同じ屋形船には他の休息を貰えた面子も混じっていて、その一人である王留美はリュールの過去と経歴に功績を知っているのでジト目を向けていた。
王留美は他のメンバーがアークエンジェルを予定通り降りられるように裏側を固めるため、ここオーブで滞在中に降りることが確定していた。
「外面に対する評価と内面での自己評価が同じとは限らないでしょー…そう言えばこういうお酒の場なら一番に楽しみそうなあの人は何処?」
「ああ、あの人なら昼間の方で十分楽しんだということで今は小遣い稼ぎをしてますわ」
「さーさー! パルミュラ産スパイシーダイオウイカ使用焼イカに焼きそばが今なら五百オーブ円で1コインぽっきりだよー!!」
ちなみに両津はマウア(ラマウア)が演奏している壇上に近い屋台で大勢の客を相手に商売をしていた。
「逞しいなー。あれで欲が過ぎたりする点やそれで調子こいて盛大に回り巻き込んでズッコケる所が無かったらもっと頼りに出来るのにー…。今回も一番安いって理由で上に等身大美女模型が乗ってる痛車ならぬ痛屋形船だし…」
「残念だがあいつのそういうところが無くなるのはあいつの借金が完済される確率よりも低いぞ」
「ボルボさんその辺はもう少しフォローしてあげてー…」
何はともあれ、アークエンジェルのメンバー達は今の所は平穏な日々を過ごすことが出来ていた。
○プラント小銀河 アプリリウス市 首都星系アプリリウス・ワン 首基プラント○
「…次期最高評議会議長就任確定おめでとうございます」
「それでもう戦争は終わったような顔はするな次期国防委員長」
オーブの方で平和そうな晩が過ごされていた頃、その同国と技術面を中心に密かなつながりを持つ勢力の一つであるプラントでは、パトリック・ザラとギレン・ザビが来月には就任する役職で互いを呼び合っていた。
「…それでパルミュラの方で探していた
「は、詳細を隠されていたバルトフェルドは不満を抱いていたようですが、回収したものの解析でマ・クベが成果を出してくれました。それと、現地の帝国軍からの
「あれらを用いるのは連中が“スピットブレイク”の後も負けを認めなかったらの話だ。そして、今の戦争での勝利とは“負けを認めた相手”が残っていてこそ成立するものだ」
「…ええ…それは承知です…」
その場では上機嫌であったパトリック・ザラは、ギレン・ザビの隠されていた不満が微かに出ていたことと、それは自分にも向けられていた事に気付かなかった。
「…それと言えばオーブに潜入しているアスラン・ザラ隊員からの例の報告は?」
「は、メアリ・サンディ隊員の伝手で彼が切り開いた後に続けて潜入できた他の工作員の働きもあるので続々と情報は入手しまして、足付きが同国に居るのは間違いないかと。それはつまり“ゼミーシュルで死んだ王子”もいること…」
「ならば足付きがオーブを出たところで我らが救助し保護する必要があるな」
「ええ、
それは別にして、二人はプラントの勝利という共通の目的で今は一致しているように見えた。
「……ぅうぅ…ぐ…うううおおおおおお!!」
パトリックとギレンの密談より数分後、ザフトの士官宿舎の一室で一人の男が苦悶の呻き声を上げていた。
ガウンから見える四肢は内部で野太いミミズ状の寄生虫が何匹も蠢いているように激しく凹凸し、周囲のガラスや壁には触れてもいないのにミシミシとした音が生じ、実際に小さいがヒビが生じている。
「…ぅうぅ、ぐ…ぅううぅ…ガツガツ! う…はぁアアアアアアぁあぁ……」
机上に置かれているカプセル入りの錠剤をいくらか飲み込むと、男の呼吸は落ち着いて部屋に着信音がなる。
「…これはザビ次期国防委員長閣下、私如きに何の用で…?」
『貴様が謙遜しても説得力などないぞクルーゼ』
苦痛が引ききると部屋で先ほどまで苦しんでいた男であるラウ・ル・クルーゼは、ギレンからのその音声のみでの通信に出る。
『此度の足付きの攻略作戦、特に救出作戦に関してー…』
「…なるほど、あれですか…」
音声のみの通信であったがゆえに、ギレンにはクルーゼが自分に向けての嘲りを口元に浮かばせたことなど気付きようが無かった。
次回、SEEDでは珍しい髭おじさんキャラであるあの人の出番が久々に出る予定です。