○帝国暦949年4月21日夜
「…あー、疲れたー…」
「やっと荷ほどきに明日の予定の説明も終わったー」
「さー皆ー、それぞれの部屋に行こー」
軌道エレベーターの地上側出入口で一悶着を見てから数時間後、ドゥリュース達は今回の地上演習で寝泊まりする寮に入って各々の部屋に入ろうとしていた。
(…うーん、綺麗で且つ床に開閉式収納棚があるのを除けば最初にいた弧状列島時代の貧乏学生向けのトイレや風呂に厨房は共同使用の畳6畳くらいの個室サイズだけど…一部屋に付き一人というのは驚いたね…)
周囲は今回の自分達の宿泊状況を受け入れている中で、前の人生の記憶とこの星で過ごした幼年期の思い出でドゥリュースは秘かに驚きと安堵を迎えていた。
(…技術屋性分で意見交換や報告を除けばあまり人には会いたくないし…あー、子供の頃はアスランやガルマと相部屋で寝泊まりしていたことが懐かしいなぁ…。時々、女の子のキラやジョセもいたけど幼馴染みで小さかったし…そう言えば、この話をしたらラマウアは驚いてたなぁ…)
一方でその思い出を題材にした思索は横道にも時々入り、今回の実習へ出る前に(自分の前世知識や技術もあってまだ割高だが他国に先んじて実現した)リアルタイム星系間通信可能
「…へー、お兄様って今度の実習先は子供の頃の留学先だったのですねー。地上世界ってどんなところですかー?」
「そうだねー、相部屋してるその頃の友人達と一緒に色々遊びに行ったよ。海とか山とか…」
「へー、私ってそういうところはまだ軌道都市にあるものしか行ったことないので上手く言えませんけど…怖そうですけど楽しそうでもありますよねーー…って、相部屋って何ですか?」
「ああ、他の人と同じ部屋で寝泊まりしたり生活したりすることだよ」
「…え!?」
その時、ラマウアは途中から顔を赤くして引き攣らせて、言葉遣いがぎこちなく出したのが印象的だった。
「ま、待ってください…家族でも
「? 別にこの時って基本は同性でするけど(まあ、うちは居候先の子供のキラも小さかったから同じ部屋だし、時々ジョセが殴りこんだり時々忍び込んだりしてきたけど…)?」
「そ、それでも間違いは起きる可能性は無いわけじゃ…!?」
「え、えーーっとそれは…(しまった、アーヴは同性でも恋愛したり子供を作るのは少数派だけど珍しくなかったから…)」
その理由も含めて前世の記憶に起因する文化的ギャップを思い出していたところ、それを彼にとって今は近くにいる友人の一人が中断させてきた。
「あ、リュース君はそっちの部屋なんだ。じゃあ、次は明日からね」
ドゥリュースの部屋と廊下を挟んで向かい側からレイカが言葉を掛けてきて、そのまま自身の部屋に入ってドアを閉めた。
(…同性での相部屋でもあんなに目を丸くするのに…個室だからって男女が同じ寮に入るなんてなぁ…文化の違いを感じるなぁ…)
それを見治めたドゥリュースは微妙な笑みを浮かべつつも自分の部屋に入って扉を閉め、さっさと寝台に寝転んだ。
ちなみにこの時、廊下の影よりレイカと親しい他の女子生徒などが見てしまっていた。
「…ねぇ、あの二人…」
「あの感じ…ねえ…」
その時の彼女達は悪気こそ薄いがニヤニヤしたゲスイ笑みを浮かべあっていた。
○帝国暦949年6月21日朝
「…ううう、やっと終わったなぁ…地上での訓練…」
「毎日塩辛い海水や異臭むんむんな地上の土に全身が塗れて…」
「機体も重力圏内だから重くて普段と比べて動かしづらかったし…」
「それでいて野外訓練の無い日や夜間も室内で座学だったし…」
地上に降りてから2ヶ月後、生徒達は地上での訓練を大まかに終えて今は愚痴をこぼしつつも訓練場を後にする準備を進めていた。
「まーいいじゃん。これで残り1週間はほぼ観光みたいなものなんだしさー!」
「そうそう、これ見てよーイタリア産スパゲティとかトルコ産フカヒレの汁物とか美味しそうなのがたくさんだしー」
「それと水系遊戯もたまに遊ぶなら新鮮な感じがしそうだしー」
一方で、生徒達は残りの時間は自由時間になるので希望を見出していた。
この2ヶ月間の間に地上での訓練は殆ど終えて、残りは地上側との交流会及びその上でのレポート作成という名目はあったが実質自由時間となっていたのだ。
今現在の彼らは島嶼ごと星界軍の訓練施設として管理されている、乾燥帯気候に属する西アジアの西海岸付近にある島から対岸の都市部にある星界軍の地上基地に戻り、その残りの1週間を有意義に過ごすための荷造りをしている最中だった。
「…さー、やっと終わったわねー私の可愛いあなた達、まー初めての地上訓練にしては良い感じに終わったわね」
「はい、レクシュ教官、お褒めに預かり後裔です」
その荷づくりが終わって生徒達が並び終わったところで、此度の地上訓練の現場教官責任者であるレクシュ・ウェフ=ローベル・プラキアが語り掛けた。
(…うーむ、アニメや漫画でも見たけど気さくで優しい雰囲気が出ているなー)
言葉を聞く生徒のドゥリュースのそう多くない星界原作知識にあるように、彼女レクシュは星界原作におけるヒロインにして、この世界では何度か話をして友人になっているラフィールの
「それでは此度の地上訓練の最後を言い渡します。こちらに集まればわかると思うけどあそこに見える対岸の地上の都市部とそれに隣接するこれから残り1週間を過ごす軍の施設が見えるわね?」
「はい、見えます」
「…ところでー、迎えの輸送機や輸送艇が見えませんけど…いつ来るのでしょうか?」
(あ、まずい…この流れは)
但し、人間性は優しくてもそれが実際の訓練でも甘い形で反映されるとは限らず、その事はこの場のレクシュが証明する気配をドゥリュースは感じ取った。
「あら、そんなのは来ないわよ。あそこに見える寮にはーあなたたち自身の手で帰るの」
「「「「「!!!!!!????」」」」」
そして、実際にレクシュが優しい微笑みを添えて言い放ったその通達に、生徒達から声にならない悲鳴が上がった。
「この島にある素材を使って乗り物を作ってそれを操舵して帰るもよし、飛んで帰るもよし、泳いで帰るもよし、歩いて帰るもよし、それで一人で帰るのも他の人と協力して帰るもよし、詳しい注意事項はこちらの用紙に書いてあるわ。あなた達が怪我したり流されたりしないように私達が見張りにつくはするわ。そこで助けを求めて向こうに帰るのもいいけどそうなった場合は今回の訓練の成績は減点になるから気を付けなさい。それじゃ♪」
そのショックから生徒達が立ち直れていない間にレクシュは要点を説明すると、両手を大きく上げた状態で地面の砂浜が大きくへり込む勢いで飛び立ち、海面へ降りたつとまるでローラースケートを履いているかのように海面を滑り抜けて彼らの視界から消えた。
「…くっそー! レクシュ先生め優しい顔していつも急にきついのを喰らわせてきやがる!」
「ごちゃごちゃ言うな! 既に飛んだり泳いだりできる家種持ちや、移動系魔術が得意な連中は続々と向こうへ帰っていってるんだから!」
数分後、生徒達は島に残されている資材を組み立てたり、中にはそれぞれが扱う魔術で樹木を加工して筏を作ったりしていた。
「…うーん、さすがはラフィールの
その筏を作ったりしている面子の中にはドゥリュースもいた。
「…わざわざ飛ぶのや泳ぐのが苦手な子と混じって筏を作るなんてドゥリュース君ってもの好きだねー。冷酷かつ非情なのが長所のアブリアルなのに…」
「いやねえ、一人で泳いだり飛んだりして帰るのは簡単だけどさー、それをみんなの前でやったら実際に現場で逆になると見捨てられる可能性が高くなりそうな気がするっていうか…」
「ほほう、人に付け込みやすい甘さと受け取られかねないこの場面を損得だと弁解するとはなかなかの商売上手ねー」
そして、その隣ではドゥリュースにとって奇妙なことにレイカもいて、同じく筏作りに加わっていた。
「…やったー、これでここに残ってる全員があそこまで行きつけるまでは持つ筏が出来たぞー」
それから数分後、島にある樹木や蔓など植物性素材を原料とした筏が完成してドゥリュース達は素直に喜んだ。
「それじゃー皆で出港ねー。風も丁度良く対岸まで吹いてるし」
「はい、コウキ先輩」
それに乗り込んだドゥリュース達を取り仕切って回りからもそれを認めらているそのコウキと呼ばれているのは、月明かりに照らされた夜の海原の様に落ち着いた黒のロングヘアを長い三つ編みにしてに琥珀の美麗な瞳をして左目の下の泣き黒子が目立ち、肌の艶からしてドゥリュース達より少し年上だがそれ以上に大人びた雰囲気を持つ先輩の少女。
彼女のフルネームはアイシンギョロ・スューヌ=ヌルハチ・
昨年に15歳の身でスュルグゼーデル
名前からわかる通り、彼女の先祖は他国から来た王族系の亡命者である。
この世界の帝国は、星界原作と所々で歴史が大幅に変わっている影響で(但し、ドゥリュースはそう思っているがそもそも彼が知る時点での原作でも4カ国同盟の歴史はそこまでまだ掘り下げられていない)、亡国から難民などが逃げ込んできたり、その指導者を先祖に持つアーヴは珍しくなく、それは名前にも出ている場合もあった。
コウキの先祖は、こちらの世界でも(領域等は大幅に変わるが)存在するハニア連邦からの移民で故郷を追われた少数民族の末裔であった。
「…いやー、前期主席入館生のコウキ先輩がいてよかったですよ~! お姉ちゃんなんか自力でどうにかしなさいって先に帰っちゃったんです~!」
「はっはっは、そんな大したことはしてないけどそんなに感謝したいなら存分に敬いなさい称えなさい♪」
「(…うーーん、名前と言い姿と言いもう最初の人生でMMDとかでよく見た萌王EXの康熙帝だよなぁ…。その元ネタ通りに超優秀且つ性格と指揮力は良いし…元ネタみたいな承認欲求の強さは玉に瑕だけど…)そう言えばさー、コウキ先輩って13歳の時点で模試や模擬訓練でも既に1位の成績を出して既に各修技館から入館の誘いは来ていたでしょ? それがどうして15歳になってから入館したんですか?」
「…うーーん、成績を見た時はさーもう入ってもいいかなーって思ったんだけどねー、あんま若い打ちから早く入って先のことばっか見るのは詰まんなさそうだなーって思ってねー。攻略本呼んでから電子遊戯のぞむよりも頭まっさらな状態でやり始めた方が何がどうなってるかなーって感じに楽しいでしょって感じでー…?」
それから櫓をこいだり、魔術で風を吹かしたり、水流を操ったりして基地に向けて出港しだしてから数分間、コウキとドゥリュースを中心に一行はお喋りとプチ航海を楽しんでいたが、そこで何名かが向かっている先の港より異変を感じた。
「…ん? 何か基地の近くにある海水浴場で何か人々が混乱してる?」
「…むーー、ちょっとこの昔の人みたいな航海を楽しみたかったけど…ちょっと急ぐわよ!」
進行方向先の異変に気付いた一人であるコウキが目を細めてその手を帆に向けると、強い風が吹いて筏はこれまでとは比べ物にならないスピードで進みだした。
「…ちょっと! これは何の騒ぎですか!?」
一方、異変に気付いたレクシュがその海水浴場に先回りして事情を確認しようとするが、そこで地元の漁師が血相を変えた表情で彼女に駆け寄ってきた。
「先日に捕獲した外来種の
「な!?」
「キシャアアアァアアアアアァアアァ!!」
その漁師の言葉にレクシュが表情を険しくした直後、その近場の海面を突き破ってもはや小型ボート以上のサイズは最低でも越すワニガメよりも凶悪な姿をした大魚雷亀が咆哮を上げつつも周囲の人々を襲い始めた。
「キャアアアァ! 助けて!」
「危ない!」
「ギジャア!?」
今も幼い一人の少女がその大魚雷亀に嚙み殺されそうになるが、その牙は一瞬で距離を詰めてきたレクシュの蹴りで顎諸とも牙を蹴り潰された事でその場は事なきを得た。
だが、他にもまだ怪我人などは出ていないが大魚雷亀は複数見られていた。
「うわぁ! まだ他の亀は近づけられてないけど結構な数が迫ってきてる!」
「どうする? 私は飛べるから直ぐに助けに行けるし、あれくらいなら倒せるけど…」
「いや、そもそもどうして軍の基地が近くにあるのに星界軍は何をして―――!?」
「うわぁぁアアアァ!? 助けてぇええエエ!」
それに大型筏グループは困惑と恐れを露わにするが、レイカに問われている最中にドゥリュースの鼓膜を、成長を感じさせるが懐かしいその悲鳴が震わせてきた。
そして、ドゥリュースが悲鳴に釣られて視線を向けると、その水着に包まれた背を覆う深い亜麻色の長髪とその持ち主の少女に気付いた。
「あ! 亀の方はまだ子供だけどあの子の身体じゃ十分に致命傷にな…!?」
その少女にも大魚雷亀の一体が近づいている事にレイカが気付いた直後、彼女の傍から丸太が盛大に踏み砕かれてその下の海面が大きく水飛沫を上げる轟音が響いてきた。
「あ、もうだ…!?」
一方、襲われていた少女は我が身に大魚雷亀の牙が振り下ろされようとしているのを見て死を覚悟するが、その牙は真横から飛んできた誰かの足で音すら置き去りにして蹴り砕かれた。
「…え?」
それで生じた水飛沫と大魚雷亀の血飛沫で濡れた顔で少女が呆けた表情を向けたのは、成長こそしているが彼女にとって忘れようのないアーヴの少年だった。
「……………」
そのアーヴの少年は片腕で彼女を抱きとめつつ、もう片方の手で牙を蹴り砕かれた大魚雷亀を首から掴み上げていた。
「「「「「………………」」」」」
そして、その周囲はその少年とその状況を、人と大魚雷亀の何方も静かにそこへ視線を集めさせられて静かになっていた。
「…ちょっと、落ち着いて元々居た場所に戻ろうか?」
「「「「「!!!!????」」」」」
数秒の間を置き、その少年がそう短く静かに語った言葉を受け、大魚雷亀は虎に睨まれた狐の様に泡を食った表情で破壊された生け簀へと大急ぎで戻っていった。
「「「「「………………」」」」」
その光景と、何より少年から短くもだが放たれた極寒の極地に裸体で叩き込まれたような威圧感に、周囲の人々は所属を問わず凍り付いた表情で固まってしまっていた。
「…とりあえず、お久しぶりキラ、大丈夫?」
「…う…あ…リュー…ス…?」
それに構うことなく、助けた側のアーヴの少年であるドゥリュースは、その手に救われた少女キラに安堵の念を浮かべていた。
「あーあーごめん、ちょっとイイ感じになってるのを邪魔して悪いけど…あれ」
「た、助けて―!?」
「俺はまだ遊泳魔術だけじゃなく泳ぎも出来ないんだよー!」
「がばばばばばば!?」
「あ」
だが、そこでジト目で割り込んできたレイカの指摘によって、ドゥリュースは先ほどキラを助けるために飛び立った衝撃で筏が破壊され、海に投げ出されて溺れている
「それとその子とどういう関係かは後で聞くとして…その対応はアブリアル以前に男の子としてがさつすぎ」
「…え??」
続けてレイカがジト目と語気をやや強めて言い放ったその問いに、ドゥリュースは自身の片手に何やら大分遠ざかっていたが心地よく柔らかい感触を覚え、けれども嫌な予感も感じて視線を恐る恐る下に降ろした。
「…あ…う…う…ううゥウウウゥ……!!?」
ドゥリュースの視線の先には、彼が回した腕に抱かれつつもその指で水着越しながら胸をしっかり掴まれて、頭が現実に追い付いてその事にようやく気付いて顔が急速に赤くなって涙目になっていっているキラの姿があった。
「…あ、い、いや…これは…その~…不可抗力で…!?」
それに気まずさを更に強めたドゥリュースが引き攣った顔を無理矢理動かして言い訳しようとするも、彼の頬は盛大にキラの手でぶっ叩かれた。
少し調べて見ましたけど、あの主人公のTSイフって本当に多くの人の妄想とかを掻き立てているんだと改めて思いました。