○
『…昨日にてパトリック・ザラ氏がプラント最高評議会議長に就任しました。穏健派である前任のシーゲル・クラインと異なり、強硬派であるザラ氏が就任したことで戦争の更なる激化が懸念され…』
マウア(ラマウア)が春の豊漁祈願祭で太鼓役として参加した日から一週間後、その町でもプラントでの政情変化に関するニュースが入って来ていた。
「…はー、デギンさんがブルコスの馬鹿に吹っ飛ばされてどんどんきな臭い感じになったプラントもここまで行くとはなー…」
「帝国の戦争なんて当たり前な空気が嫌でそれ言った自分が出るのも当たり前なアーヴがもっと嫌で向こうに移った日々も懐かしいよー」
「いやぁ、血のバレンタインが悪目立ちしてるだけで、プラントにいた頃もさぁテロがしょっちゅう起きてて理事国派遣の警察や駐留軍はほとんど見て見ぬふりだったぞ」
そのニュースに最も嫌そうな顔を見せるのは、嘗ては帝国の制限選挙式立憲君主制体制を嫌ってプラントに移住したが、今度は同地での自治権要求運動や独立運動の過激化による混乱を疎んでオーブに再移住した元帝国人である。
プラントで自治権要求運動や独立運動が起きた時、その中心にいたのは銀連圏から移住した人間系コーディネイターであった。
「…キルケや極左連中が見たらわめき散らそうな光景だなぁ…」
そんな彼らがたむろしている地上のカフェで、本日のリュールとネーナは昼食を取っていた。
「いやねぇ、外のああ言う人たちをあれこれ言う前に自国内の難民や不法移民に亡命者とかをどうにかしろって話でしょ―――?」
「あ、こっちにいたんだ」
二人がそんな同郷の人にぼやいていたその時、ここ最近にて会話を楽しむようになった知人が誰かを引き連れて現れた。
「―――お…って誰かと言えば沙慈君じゃない。誰? その人ー?」
ネーナが見たその地人の少年は沙慈・クロスワード。
ここオーブで暮らす民間人の少年で、今現在リュール達が暮らすモルゲンレーテの極秘地下研究所の一般公開区画地上施設でアルバイト中の学生である。
ネーナ達を他国から来た技術者としか思っていないその沙慈は彼女達の前にある人物を紹介した。
「あ、この子はルイス。僕がいるクラスに前は居た子だよ。この子が事故に遭った時に助けてくれたアーヴの人がいるって来たんだけどー、名前と容姿からしてもしかして君なんじゃないかってー…」
(…え? リューにー…確かこの子ってー…)
(あーうん、確か僕の方はセレーナがターフィチで開いたパーティーで知り合って、ネーナの場合はゼミーシュルがG弾の流れ弾でぶっ壊された時に崩壊していった船内から助けたってー…)
リュールとネーナにも見覚えのある沙慈が連れて来たその知人は、今現在はザフト軍に所属して今はモルゲンレーテに作業員兼技師として潜入しているルイス・ハレヴィであった。
「…あ、たしかあなたってゼミーシュルで真空中に投げ出されそうになっていたあのー…良かった。
「…あ…うん…やっぱりー、あの時のアーヴの子なのね。ありがとう…あの時は本当にー…」
だが、ルイスが何処か影を帯びた調子で命の恩人にようやくお礼を言えていたその時、彼女にとって聞きなれない声がそれを深まるのをよしとしなかった。
「リュールさーん、エリカ先生からワークローダー用OSのバグが見つかったから見つけたすぐモルゲンレーテに戻せってお達しですー」
モルゲンレーテの地下研究所で知り合った研究員のアスカ夫妻の息子で、今は地上の方で子供や小型知性種族でも改造なしで乗れるワークローダー研究のモデルパイロットという名目で乗らせてもらっている今年で14歳となる少年である。
「…またぁ!? 昨日だって徹夜続きだってのにさぁ!?」
「まー文句を言わないでおこう、こういうのは農家の家庭の親と同じで上はもっとむっちゃ働いてるからー…あ、悪いけどお二人とも僕らはここらでー…」
「…アーヴは
そのシン少年が伝えた残酷なお達しにネーナとリュールはそれぞれ表向きの反応は違うがうんざりした瞳でカフェを離れねばいけなくなり、ルイスは偵察任務中なのも忘れてそれを呆然と見送った。
「…う、うわー…凄いー…」
数十分後、モルゲンレーテのシンでも行き来できる地上施設の一角で、薄いエメラルド色の短髪で金色や茶髪に近いメッシュが入ったヘアーで目が隠れている、13才位なのが肌艶からしてわかるけど、それにしても背の育ちは遅く見えるアーヴの少年がガラス窓に手を付いて好奇の眼差しを向けていた。
「…うわー、シンめワークローダー…こんなボトムズみたいな作業機械でドッジボールとはいえ両さんをあそこまでー…ってボトムズって何を言ってんだろ僕?」
そのアーヴの少年が窓ガラス先に見ているのは、超強化ガラスコアに簡単な四肢が付いた作業用ワークローダーで構成された二チームが広い室内コートでドッジボールをしている光景で、その中にはリュール達も混じっていた。
「うおおおお! 行くぞ両さん!」
「儂に挑むなんぞ百年早いぞシン坊主ぅ!」
「アア! シンお兄ちゃん左の斜め後ろにボルボさんが右手を構えて回ってるぅ!!」
その中で両津とシンは信じられない勝負強さを発揮しており、後者の方を先ほどのアーヴの少年は応援しながら鋭いアドバイスをしていた。
「…あの子、観客で余裕があるのもあるけど…選手の動きもこの短時間でよく見てるなぁ…あの子って誰?」
リュールは試合中だがその鋭い観察眼とそれを可能とする認知能力の早さを持つ少年が気にかかっていた。
「ああ、あの子はピクシーですよ」
「知ってるの? シン君」
「ええ、帝国から移住してきた子です。けれども移住してきた時はまだ赤ん坊だったから本人はほぼオーブ人で、両親は向こうでもう亡くなっているらしいけど地上人ノームお姉さんと共に移住してきたんです。ただーそのお姉さんドロテアさんは父さんの仕事と手伝いで良く国外にも行くからーほぼうちで育っててー、もうほとんど僕の弟でマユのお兄さんですよー…」
「…ふーん…そうなんだ…(何なんだろう
「ほんのわずかだが隙ありシュートォォォォ!!」
「―――うぐふぅぅ!?」
その移住アーヴの少年ピクシーに不可解且つ妙に強い既視感を覚えて意識が無意識に割かれたリュールだが、そうして生まれた僅かな隙は遠慮なく両津の殺人シュートでコートへ沈められるのであった。
このように、アークエンジェルクルーも交えたオーブ側の軍事技術開発は進められ、その間にアークエンジェルの修理も終わって出発の日付も決まって通達されるのであった。
○
「…オーブに潜入している工作員より昨晩時点での報告です。足付きは○○時間後にオーブを出港して本星系へ入る模様です…」
「…そうか、やっとか…!」
リュールがある同族の少年に妙な感覚を覚えて約2週間後、アークエンジェルと一度交戦しかけたが怪獣の大群で甚大な被害を負わされたそのザフト艦隊で、艦隊提督のマルコ・モラシムは獰猛な笑みを浮かべたが、その表情には少なからぬ焦燥も滲み出ていた。
「モラシム提督、我が艦隊は先の
「連中の戦力は足付き一隻とそれに同伴している機体だけなのはわかっている。ジャブローに煙たがられている連中にはろくな補給や増援が回ってないのも確認済みだ。戦えない者達はカーペンタリアへの療養に回した今でもこちらの戦力が悠に上だ」
側近達は懸念を口にしてはいるが同様の焦燥は抱えており、待ち遠しかったというものが多数を占めていた。
「…ですが一体、何なんですかこの命令は?」
それ故に国防委員会本部からほぼリアルタイムの直通で届けられたその命令に、モラシム達は不審とそれ以上の憤りを覚えていた。
「…この前の怪獣共の暴走を招いて我らに押し付けおったバルバトスのパイロットを生きて保護しろなど…!?」
その彼らの不審と怒りに困惑は、本国から送られてきた極秘指令書の第一面に載せられていたリュール・ソードリュに向けられていた(本人にしてはとばっちりとしか言いようがないけど)。
次回、ガンダムSEEDの方で何名かの重要キャラにとって色々な分岐点となった、あの鬱要素多めなパートに入る予定です…。