星界の輪廻   作:oosima

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今回、アークエンジェルの良心たちにとって色々と胃が痛くなる要素が多めです。


127 樹海での曲解なる糾弾

 ○C.E(コズミック・イラ)71年5月2日朝(帝国暦952年5月2日朝) 大星洋大星域 大星洋連邦左下端部 銀河中心領域付近 パナマ星系 惑星ジャブロー○

 

 地球起源人間系星間国家の大半が所属する銀河連合の主力軍である銀河連合軍の総司令部は、その最大の大国である大星洋連邦の領域内に存在しており、別時間軸に存在する人類統合体の上下反転L字型領域のくびれ部分の銀河中心領域に近い星系群の一つに存在する。

 その星系であるパナマは大星洋連邦に属しながらもその下に位置する南星洋合衆国とも繋ぐ銀河交通の要衝である。

 惑星ジャブローはそのパナマ星系で唯一の大規模有人が可能な惑星であり、大陸の緯度の影響で地表の大半が亜熱帯や熱帯のジャングルに占められていた。

 

「…あの戦いから、一度も追撃を受けずに総司令部へ到着か…」

 

 そのジャブローのジャングルから突き出た巨大なテーブル状の岩山の大地下鍾乳洞を中心として築かれた銀連軍総司令部に、アークエンジェルは巨大な滝で隠されたメインゲートの一つを通して入りつつあり、その光景に同艦司令スメラギ・李・ノリエガは憂いを隠さない表情を浮かべていた。

 この到達を成し遂げた者達の中で、それをもっとも支えてくれた子供達を自分が建てた作戦で失った以上は当然の反応だろう。

 ちなみに、その入港してきているアークエンジェルをPC画面越しだが忌々しそうに見る存在がいた。

 

「…しかし、これだけの犠牲を払ってここまで来たのが艦一隻とは…教科書の戦史にも載りそうな偉業だな…サザーランド大佐」

『守っていたのがコーディネイターの子供、それもアーヴ混じり…というのを除けば…の話ですよ。バスク・オム中将』

 

 銀連軍総司令部の司令室の一つで、アークエンジェルを画面越しに見る一人である赤いゴーグルで両目を隠した銀連軍の艦隊司令官の一人バスク・オムは皮肉めいた笑みを浮かべ、それにモニター越しで同じ派閥のウィリアム・サザーランドは相槌を打つ。

 バスク・オムの前の画面にはほかにも複数の人物が映し出されていた。

 

『アークエンジェルにはどのように?』

「次の指示までは現状維持において艦内待機で休んでおけと言っておけ。外部との通信も禁止だ」

『無暗に喋られても困りますからね』

『ああ、我らの旗頭であるGATシリーズがコーディネイターに汚されたなど話にならん』

「…ジョージ・グレンの告白も、結局は化け物(アーヴ)の同類にならねば奴らには勝てんと言っているようなものだからな…」

『…全ての技術はより昇華して次へ引き継がれており、それにふさわしい担い手ももう既に育っています』

「…こちらももう“単眼の巨人”の調整は終わった。全ては順調だな」

 

 バスク・オムの画面が操作されてここジャブローの地下深部の一角が映し出されるが、そこには無数の拘束具で地下鍾乳洞の床に拘束された白くのっぺらぼうのような巨人、それの周囲で活動している大勢の銀連将兵の姿があった。

 

『…全ては“真に青き正常なる世界のために”…』

「…ああ、その通りだな…」

 

 サザーランドが通信越しに放ったその言葉を契機に、バスク・オムは笑みを浮かべて画面は消えた。

 

 

 

 

 

 ○C.E(コズミック・イラ)71年5月5日朝(帝国暦952年5月5日朝) 大星洋大星域 大星洋連邦左下端部 銀河中心領域付近 パナマ星系 惑星ジャブロー 査問会○

 

「「「「「…………」」」」」

 

 到着してから三日後、ようやく上陸を許されたアークエンジェルの指揮官達は新たな緊張に包まれていた。

 今の自分達が呼ばれたこの場所がこれまでの行軍についての状況報告が主である査問会であるのもあるが、そこには思わぬ人物がいたためである。

 

「…銀河連合軍第四艦隊司令官、バスク・オムである。此度の査問会には無視できぬ要素が幾つかあるゆえにその確認のために来た」

「ありがとうございます。閣下…」

 

 この場に来たその思わぬ人物バスク・オムにスメラギは特に緊張が強かった。

 

「…つまり、君はそのストライクに同乗した時点で、電脳を用いずにボード入力であれだけ高速かつ綿密にOSの書き換えを行った時点で、その少女キラ・ヤマトがコーディネイターであることに気付いたと?」

「はい、あの状況であれだけの行為をしたとなると、そう考えるのが自然かと…」

 

 そのバスク・オムも加わって査問会が進んで行くにつれて、その緊張には別の種類のそれも加わっていく。

 

「…そして、そのOSの書き換え作業が終わろうとしたときに…オーブがヘリオポリスで極秘にて帝国と研究していたGフレーム使用機体バルバトスが乱入し、周囲のザクを短時間で全て撃破したことで、そのバルバトスに乗っていたリュール・ソードリュもまた少なくともコーディネイターであることに気付いたのだね」

「はい」

「それでフラガ中佐、ザフト部隊が一時撤退した後のヘリオポリスで、バルバトスから降りたリュール・ソードリュがアーヴであることにようやく気付いたと?」

「はい、その通りで…」

「それで、そのリュール・ソードリュは…ここまでの行軍において…どのような存在か…貴官の評価を手短に述べてみたまえノリエガ大佐」

「…はい、我が艦がここパナマに到着するうえで、最も貢献したことは間違いない、きわめて有能な少年であったということは間違いないかと…」

「…ふん、有能な兵士…アーヴがね…」

「………」

 

 その緊張は査問する側の一員であるサザーランドが忌々しそうなのも隠さずに鼻を鳴らすと強まる。

 

「…確かに非凡ではない能力を持っていたのはこちらもこの戦歴を検証して確認した。彼によって出された被害も考慮すればな…」

「…それはどういう事でしょうか?」

 

 階級は中尉だがその過去の経歴と功績からこの場に呼ばれた面子の一人である両津勘吉は眉を顰める。

 

「…こちらからの見解も含めて貴官らの戦績を確認しよう。それで貴官らはそのキラ・ヤマトらがコーディネイター、特にリュール・ソードリュがアーヴであると知ってても彼らに未確認MSも含めたMS部隊の運用を任せていたのだね?」

「はい、あの状況ではそれは最適だと判断しまして…」

「…その点については不運だったと言うしかないな…」

(…不運?)

 

 その間も続いていく査問会の目論見をアークエンジェル艦長マリュー・ラミアスは読み切れずにいる。

 

「…その中でアークエンジェルのMS部隊の一翼を預けねばならなくなったリュール・ソードリュだが、彼の戦績は非常に独断的且つ自己中心的で危険なものが多い」

「…彼の戦績が独断的且つ自己中心的ですか…?」

 

 バスク・オムの否定的な見解にスメラギは眉を僅かにだが顰めるのを抑えきれなくなる。

 たしかに、彼のMS運用や戦術指揮については彼女ら上官からの指示には無いものが多かったが、それらはNジャマー環境下では艦との通信も困難なものが多く、現場の各隊員の判断に任せねばいけない場合も多く、艦の状況もあってその範囲内として判断した。

 

「…まずリュール・ソードリュの危険さが現れたのは、彼がバルバトスに乗ってストライク捕獲を狙うザフトのザク部隊との戦闘に乱入した件。彼はこの件において数的に圧倒的に有利であったザク部隊を壊滅させた。そのことでザフト側はアークエンジェル隊の存在を危険視し、さらなる敵戦力の到来を招いたと言える…」

「…ほー、つまりそのようになるくらいならあの場で降伏でもして残っていた機体や備品を渡して敵さん達の戦力を更に上げても良かったと?」

 

 サザーランドの補足検証に坂田銀時は普段の気怠さと不遜さを滲ませながら揚げ足取りをやり返し、被告人出席禁止裁判の様相を呈し始めた査問会の流れを変えようと試みる。

 

「…別にそのようなことは言っていないよ坂田中尉。だが、我らは軍人である以上は常に最悪の事態を想定して動かねばならん。そうなれば味方側の危険要因もその可能性や詳細を把握せねばなるまい」

「………」

 

 だが、それはバスク・オムの口からだと違和感を禁じ得ない正論で押し通されていく。

 

「…そして、リュール・ソードリュの危険かつ自己中心的な一面は、そのザフトによるヘリオポリス再襲撃において、ザフトが投入した新型MAザムザザーを相手に、友軍であるストライクを何と囮として投擲するという味方を軽視した危険行為からもわかる…」

「あれが作戦なのは当時の両機の通信記録から理解できます! ザフト側があの場に再攻撃を掛けてきたのはストライクとバルバトスの捕獲であった以上は有効な作戦であったとー…!!」

「バジルール少佐、可能性としての話だ。もしもザフトの現地部隊が捕獲は困難と判断して破壊に取り掛かれば、ストライクはこの時点で失われてしまったことだろう…」

「…っ…失礼しました…」

 

 現場の戦術判断で一番リュールと接する機会が多かったナタルはその責任感から被告人出席不許可裁判の様相に抗おうとするも、取り上げられた彼の行為は如何せんに事実なのも知っているのであまり強くは言えなくなる。

 

「…そして、リュール・ソードリュがそうしてザムザザーを撃破したことでヘリオポリスは崩壊したと言える」

「それは結果からの曲解的推測ではありませんか!?」

「認めようフラガ中佐、だが、君が奇襲部隊の指揮官として…MSをあれだけに高度に操作し、あまつさえ並行して人道的見地を抜けばこれほど的確な作戦を戦闘中に発案して実行できる存在…このようなものは放っておけるかね?」

「反撃しなけりゃいけなかったとおっしゃるんですか?」

「そうは言わんよ両津中尉、ただ…コーディネイター、それもアーヴの子供に乗り込まれたのが全ての不運の始まりだったと言えるだろう…」

「そんな! 彼らが居なければ我々は…!」

「だが、ヘリオポリス崩壊は無かったかもしれん」

「歴史にもしもは無いとは言うが、もしも彼らがOSの戦闘中での書き換えなど出来ない、数敵戦力差を覆すことなど出来ないナチュラルの子供であったなら…このようなことにはならなかっただろう。だが、彼らはそこにいた」

「…………」

 

 筋は通しているように見え、それに隠されているバスク・オムとサザーランドの偏見と憎悪をマリューは強く感じ始めて膝を強く掻きむしる。

 

「…そして、第八艦隊との合流において、その先遣艦隊との合流地点で起きたザフトとの戦闘において、アークエンジェルはその直前のゼミーシュルでの補給においてアーヴ帝国皇太子の王女ラムレルーシュを保護していたが、リュール・ソードリュは独断で彼女に接触し、彼女を表舞台に出させてその場を停戦に持ち込ませた。だが、それ以上に我が銀連軍に彼女を人質にしたというザフトに宣伝される材料を生じさせ、我が銀河連合に甚大な外交的失点を与えたと言える」

「あれは銀河国際法上に基づく人道的見地を優先した行為です! あの場で彼女を死亡させた場合の危険性の方が遥かにー…!」

「バジルール少佐、それを成したのは我が軍の兵士か? アーブの子供ではないのかね?」

「…それはー…」

「まあ、その件については当のリュール・ソードリュの戦死に伴って必要最小限のコストで済んだと言えるが…」

「…!?」

 

 そして、味方の全滅を防いだという功績すらも糾弾の材料とし、その事態解決の証を功績者の死としようとする査問会に、ナタルは初めて嫌悪の色を露にする。

 

「…その先遣艦隊との合流の直前にもアークエンジェルは味方E.Uの軍事要塞アルテミスを()()()()、合流後に第八艦隊に()()()()()()()()、援軍に来た第五艦隊も()()()()()同艦隊司令官ボロディン中将を()()()()()。その後もパルミュラでの先駆者(フォアランナー)異物の暴走による現地惑星での()()()()()()、シュリーヴィジャヤ星系で怪獣群を()()()()()()()()、オーブ脱出後でのラグナイト危険鉱石層の大噴火状爆発を起こして()()()()()()()()。全てはコーディネイターの子供達が乗っていたばかりにー…」

「曲解です! 彼らはー…!!」

「彼らが何かね?」

「彼らは我々が巻き込んでしまった状況でありながら尽力して我々をここまで到達させてくれた存在でー…!」

「だが、それだけの犠牲を招いてアークエンジェルが肝心のストライクを失ってしまった。そして、その犠牲にはバルバトスとアーヴの少年が含まれている…。そうなってしまった以上は、これ以上の犠牲や醜態は出さないように、責任の内容と所在ははっきりと示しておかねばなるまい…原因も含めてね」

「…!?」

 

 だが、ナタルにとって不幸なことにその嫌悪は一時のものとはならず、むしろそれに確信を帯びた形で強まっていってしまう。

 ここまでは筋を通しているようにも装っていた査問する側は、その装いも無意識にはぎ取って正義と自認するその憎悪と怨嗟を露にし始める。

 

「…我々は()()()()()()()と、コーディネイターと戦争をしているのだ。そしてそのコーディネイターの始まりにして最たる存在…それがアーヴだ」

「「「「「………………」」」」」

「奴らが存在しているから世界はここまで混乱しているのだよ!!」

 

 そのもはや隠されていない個人的な憎悪と偏見を当然の論理とする上層部に、アークエンジェル側は背筋が寒くなる。

 

『モグラ共は! 戦場でどれだけの将兵や市民が犠牲になっているのか数字すら満足にわかっとらん!!』

 

 同時に、アークエンジェル側にハルバートンが掛けたその言葉が重くなり、今の自分達の内外に対する虚しさも強まっていく。

 彼ら上層部にとって死者とは統計上での存在でしかなく、更にその内の死者すらもその数字の大きさと意味を変えるために使うべき存在にすぎず、更にそこへ個人的な偏見や憎悪も正当なものとして乗せるべきものなのだ。

 そうして歪めたものであるはずの数字すらも正しいものと自らにも錯覚させるのが当然の空気となっている。

 これでは、今まで自分達が血を吐く思いで、実際に血を流してきて成し遂げてきたのは何だという疲労困憊に駆られるのも無理はないだろう。




次回、色々と一気に事態がまた動き出す予定です。
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