○帝国暦949年6月21日昼
「………………」
海水浴場における大魚雷亀の襲撃から数時間後、キラは血の気が引いて白くなった無表情で、星界軍のその施設の取調室に座っていた。
「何をそんなに怖そうな顔をしているの?
「!!!!????」
そのキラに背後からレイカが綺麗に感心した微笑みで現れるが、彼女を見やった瞬間にキラはぶわっと冷や汗をだらだらと描きだした。
「…あ、あのー…レイカさん…あの後…リュ…ドゥリュース…殿下…は…大丈夫ですか?」
「? 彼なら大丈夫よ。普段はアブリアルらしく見えなくても、大雑把が一番の特徴のアブリアルでそれを押し通せるための丈夫さは根っこから染みついているもの」
「…そ、そうですか…それは良かった…」
レイカに今もっとも気になる男の安否を聞いてキラは少し安堵するが、その内心は彼との最初の別れの前の晩で正体を明かされた時以上に混乱が続いていた。
「…そ、それで…あ、あのー…レイカさん…私…さっきあんなことしちゃったらどうなるんですか…?」
「…んー、そっちの国で普通に流布している私達に関する噂が全部正しければー…一族郎党で皆の首がすっ飛ぶんじゃないかしら?」
「!!!???」
それに従ってキラが恐る恐る問いを投げ掛けると、レイカが少し悩んだ表情であっさり言い放ったその酷薄な答えに、キラは冷や汗を更に増して脳内にある光景が目に浮かぶ。
『この忘恩の無礼な小娘め! 一族郎党打ち首じゃー!!』
『『『『『『……………』』』』』』
『はわわわわわわ!?』
その中でSEED原作通りにキラの両親をしているカリダとハルマ、加えてこの世界には存在する両方のキラにとっての祖父母が諦めた表情で、真ん中に泣き叫んでいるキラの7人が揃ってギロチン執行寸前に掛けられている姿があった。
「…い、いやアアアァ―――!?」
「そんな多くないけど人が集まっているところで昔みたいな泣き声を上げないで、恥ずかしいから」
「―――ぁぐう!?」
遂にキラが恐怖と後悔で現実の方でも泣き叫ぼうとしたその時、背後から現れたその懐かしい声の主の手が伸ばされてきてその手を塞いできた。
「ブブブブドゥドゥドゥドゥリュースゥウゥウゥウゥ!!??」
「だーからもうそんな周囲に迷惑を掛けるなって…ほら、周囲が驚いて目を丸くしているって」
久々に直の対面に望めた幼馴染みと、その頬に出来た赤い手形にキラは直視したくない現実に引き戻されて瞳が潤い始める。
そのキラの泣き顔にレイカは興味と同時にある欲望が生じ出していた。
「…何!? この子…凄く可愛い…い、虐めたい…! ハアハア…!!」
「え、何々? 何この人…!?」
「口にまで出すのはやめろ」
「あいて」
若さゆえの未熟さからかその欲望は言葉や荒い息などに現れてしまうが、間近にいたドゥリュースに髪を引っ張られてこの場では敢え無く断念されてしまう。
「…あ!? ででで殿下さっきは助けてもらったのに失礼なことをして申し訳ございません! 頬の方は大丈夫ですか!?」
「あーもうそんなむず痒い反応は止めてプリーズ。あんな青春の苦めな思い出なんてこのニュースでもう吹き飛んでるから」
その光景に始め呆けたキラだが直ぐ正気に戻って謝罪を始めるものの、ドゥリュースは何も気にしてない様子で空中に映像を投影させてあるニュースを映し出した。
『…ご覧ください。先ほど地球の東地中海海岸で現行犯逮捕されたブルーコスモス過激派が連行されていっています。犯人グループはオルムス人のようで…』
「あ、さっきのあれってこれか…」
それを見てキラの顔に別の不安の色が浮かぶ。
オルムス人とは、この世界では地球時代における唯一神系二大宗教の根源となったある唯一神教を奉じていたある少数民族の分派で、表向きは古代における祖国の南北分裂に伴って別れた後にその北側祖国が他民族に吸収されて消滅したとされつつも、実際にはその別れた方の南側祖国の方の民族を装って生き延びていたという民族の末裔だ。
今現在は銀河連合圏で大きな影響力を持つが、帝国で絶対多数派となっている(エウシュリー系要素が強いが日本の神仏習合な感じで
そのオルムスだが、(帝国…というよりもアーヴにそんな気はあんま無いのが絶対多数派なのだが…)帝国に信仰を長らく且つそれ以前にはないレベルで酷い圧迫をされてきた関係で、アーヴと帝国やそれに関係するとみなす遺伝子調整技術を非常に敵視していた。
「…何ていうか…あの人達ってブルーコスモスとかにも大きな影響力を持ってるって言うけど…アスランが言ってたようにアーヴって特にあの人達にとっては相性最悪だって思うよね…」
「? 別に僕らは彼らが今回みたいに何かやらかしをしたりしない限りは他の人々と同じように接しているつもりだし、やらかしても他の人達と同じ量刑にしているけど? 向こうが生命の創造は神の領域として禁じている遺伝子調整をしているから結果的に学術系では遺伝子調整普及する以前は向こうが占めていた質のいい人材が占める分野が奪われてるんだって言われたり、向こうが神は唯一だから神秘はその神の御業で人は犯してはいけないとの理由で宗教上使えないこっちの魔術を普通に使って向こうの科学偏重なそれらよりも広範囲を高速且つ良い具合に仕事していたり、それで信者とかがバンバンこっちに流れていってるような状況になってるって言われたり、アーヴは人間じゃないから律法上従えられないって地上に籠るもそれで向こうが得意にしてる各惑星のオルムス系コミュニティのネットワークはアーブに宇宙を抑えられて他の星の同胞と協力しての諜報が極めて困難になってるって言われたり、そう言った宗教上の矛盾を表向き無視して帝国内に侵入してアーヴの権利と任務を得て子供に継がせて自民族に役立てようとしても、アーヴ身分になって以降に生まれた子供は生物的アーヴにしないと権利や財産は継がせられないって法で決まってるから苦渋の思いで生物学アーヴにしたら、そうした子達に宿命遺伝子から犯罪を通報されて御用になったりしたニュースを何度か見ているくらいしか…」
「いや、向こうから嫌われている理由を知っているじゃない」
「…まー、そんなこっちに文句ばかり付けてきながらも、銀河連合圏内では地球時代から金融や情報産業を握ってきたおかげで影響力絶大で、その煽りで向こう側はアーヴに年月ごとの程度の差はあっても基本敵視し続けてきたから、他の人達はともかく僕みたいなのには何時さっきみたいな事態に襲われるかって不安なんだけど…」
「あら? 実際に襲われてそれへ対処している時のあなたって戦場でのあの人達みたいに瞳はキラキラとしているけど」
ドゥリュースがニュースについてキラと子供の頃の様に何処か感覚がずれている感じのお喋りを楽しんでいると、彼の頭に丸められた書類がポンと軽く振り下ろされた。
「あ、先生」
「え、あ? この人がリュース達の先生って…(う、うわーー…レイカさんもだけど…この人も凄く大人びていて綺麗ー…)」
書類を振り下ろしたのはレクシュで、彼女の登場にキラは呆けた表情になって見上げてしまう。
「あらま、ここへ事情聴衆の為に連れて来られた時は凄く暗そうな顔をしていたのにいつもは表情豊かな泣き虫さんみたいね」
「…あ、あぅ…」
そのレクシュに微笑まれてキラは顔を赤くして恥ずかしそうに視線を横にずらしてしまう。
「…えーーっとそれでご用は何でしょうかー? やっぱりー、こちらが貸し出している形とは言え向こうの租界に緊急救助的な形とは言え無断で入った事に対する抗議云々でしょうか?」
「そうかどうかはあなたの頭の上にある巻物から確認なさい」
一方のドゥリュースは面倒くさそうな顔を浮かべつつも自身が手渡された巻物の内容を確認し始めるが、それはやがて奇妙なものを見る表情へ変わっていく。
「…えーーーっと…あなた方は…わがオーブ国民の救助にご尽力なさってくださったので…感謝の意を表明します…?」
「…えっとーーー、普通に…感謝状…??」
「ええ、感謝状ね。それでー向こう主体の晩餐会にこっちの要人も何名か出す必要があるのだけど、それにあなた達も加わってもらう事になったから」
「…はい!?」
「え?
そして、ドゥリュースはそれに絡めたレクシュからのその誘いを受け、引き出し屋が迫ってきている事をいきなり告げられた陰キャの引きこもりのようなショックを覚え、その隣にいるキラは嫌な共感を覚えてしまう。
生まれは違っていても中身が程度の差はあれ内向的なのに、陽キャ的イベントからの誘いが掛けられてきましたね…。
果たして、主人公たちの胃は(外部干渉的な物理的な意味も含めて)大丈夫なのでしょうか?(笑)