〇帝国歴951年2月14日夜(
宇宙空間に無数の火の玉と砲火が上がり、何千もの艦船と何万ものMSや宇宙用小型戦闘艇が互いを撃ち落とし合っていた。
切っ掛けは銀連側の小型艦の一隻が爆散したことで、それをザフト側の攻撃と主張した銀連側艦隊の攻撃が始まり、ザフト側もやられっぱなしというわけにはいかないので応戦を始めたためである。
そして、その戦闘で予想外に押され始めた銀連軍が用いたのが“G弾”であった。
G弾とはBETA(帝国では
オルムス系のブルーコスモスで二重国籍を持つ大星洋連邦の将校は半ば私的なコネで入手したそれをユニウス・セブンの惑星クリュセに向けさせた。
「…で、ですがサザーランド大佐…本当によろしいので…?」
「構わん、さっさとこんな馬鹿なことを終わらせるぞ」
「し、しかしー…」
「これで奴らのどちらにも思い知らせる。銀連の断固たる意志を…さっさとこんな馬鹿げた真似は終わらせるぞ」
「はっ!!」
「真に青き清浄なる世界のために」
こうして狂気を狂気と思わない、人類のほとんどが青き故郷を脱出できなかった世界で故郷を滅ぼした災害の片翼は放たれた。
だが、その放たれた凶弾は何処からか知らない流れ弾によってその軌道をずらされる。
「…え!? 何だあれは…!? こっちの防御磁場や障壁を通過して飛んできてー…!?」
その軌道がずれたG弾が近づいて来るのに気づいた、銀連圏理事国とザフト側代表が秘密会議をしているゼミーシュルの船員の一人の視界を紫色が帯びられている小さな黒い太陽の如き閃光が視界を埋め尽くし、それが現世における彼の最後の光景となった。
G弾が爆発して生じた人口の黒き小さな太陽は、広範囲な戦場に投じられた銀連・帝国・ザフト全勢力からも容易に見えた
「…え? 何あれ…核じゃない…けれど、味方のミサイルが…中立国のコロニーを…!?」
星系間移動が可能な巨大コロニー船であるゼミーシュルの巨体にしても、明らかに致命的なのがわかるサイズの質量をそれから奪っていく黒き太陽に、この頃は一技術士官でマリュー・ラミアスは驚愕していた。
「ハルバートン提督!!」
「…これでますます銀河は苦しくなる、
その光景に彼女とその上司ら真面な面々は深刻であった。
そして、盛大な流れ弾を受けたアーヴ側の多くは深刻な顔を浮かべる余裕すらなかった。
「うわぁアア!? 防御障壁も天窓も破壊されて宇宙に吸われるー!!」
「お、お願いします! ど、どうかこの子だけでも…!」
G弾の黒き太陽の如き閃光で消滅した被害も相当だが、それで生じた巨大な穴を起点とする崩壊を始めたゼミーシュルにいた人々は巨大且つ猛烈な勢いで迫りくる死の手から逃れようと逃げ、多くがそれを叶わずに死の世界である宇宙へ引きずり込まれていった。
「ぬわー! 安全経路はあっちだー!」
「皆ー! まだあと10分くらいは持つから急いでだけど冷静にあっちの道からー!」
広がり続ける崩壊は直撃を避けた別区画にもドミノ倒し現象で広がっていっており、宇宙に投げ出されは
「ああ!? リューにーさっきの地震擬きで橋が壊れちゃってるー!」
そうして逃げ惑う人々に、今回の会議における各国有力者の子弟の懇親会における
「!
そして立場上は彼女を付き添いとしている、アブリアル・ネイ=ドゥアセク・
「ふん!」
その彼の付き人としてサンドリオ・ボルジュ=バイルカニュ・メアリも、女性には似合わない怪力で道を塞ぐ瓦礫の多くを拳と蹴りで粉砕するか打ち飛ばして脱出路を増やしていっていた。
「た、助かった! ありがてぇ!」
「キャアアァ!」
だが、それでも追ってくる天窓のひび割れで吸い込まれる人も出てしまう。
今も長い金髪の同年代の少女が宇宙へ吸い込まれていく巨大な鎖に片手を絡みとられ、それに引きずられるように真空の死の世界へと誘われていく。
「(…あの鎖は…壊すのは無理! 外すのも間に合わない! じゃあ…)ごめん!!」
その数秒にも満たない間の内にネーナは指先から魔力弾をピストルのような要領で撃ちだし、その金髪の少女の手を撃ち抜いて鎖から解放した。
「アアアアアアぁ!?」
「少しグロイけどでかしたネーナ!」
当然、金髪の少女は腕がちぎれた激痛から血と悲鳴をまき散らすが、ドゥリュースはその少女含めた吸い上げられそうな何名かもなるべく引き戻しながら脱出路を突き進んでいく。
「…よし! しまっていっている途中だけどまだあのスピードと遅さなら間に合う感じな扉があった! あそこから次の安全区画に逃げ込めばー…!?」
だが、ようやく少し安堵できそうな領域を目にしたその時、彼らの背後側の頭上より赤い閃光が生じた。
「…え!? あれはたしか…動力炉がある区画!? さっきのでちぎれて…え!? 何あの血のように赤い光は―――!?」
それに他国からの貴族子弟枠で招かれていたステラ・ブレーメルが嫌な予感を覚えたその時、彼女の身を大きな力で遠慮なく投げ飛ばされたような飛翔感に包まれた。
「危ない!!」
「―――あ…え!?」
その直後にステラがゼミーシュルで最後に見たのは、先ほどまで自分がいた避難経路に一人だけになったドゥリュースが赤いオーロラのような光に包まれて、そこで扉が隔離壁によって閉ざされたところで彼女の視界は後頭部からの衝撃を添えて闇に染められた。
○帝国暦952年4月20日早朝(
「…ぶはァ!? あ…ァアア…こ、ここは…!?」
一方、
「…ここは…あ、ラクファカールか…」
窓から見える、今の自分の足を支えている巨大な大地が塔の如く伸び出ている姿と、その表面を走る巨大な夜景、その右下あたりから朝日として大きく見え始めた恒星アブリアルからドゥリュースは懐かしさと同時に違和感を覚えた。
「…確か僕はー…ゼミーシュルにいたはずだけどー…あ、あれからどうなったんだろ……!?」
その違和感に押されるままにドゥリュースは電脳で画面を出すが、それを少し静かに注視してやがてギョッとし顔になる。
「…はあ!? 952年の4月20日ぃ!? ゼ、ゼミーシュルにいたのが951年の2月14日だったから…この一年以上の間に何があったんだ!? な、何も思いだせな…も、もしかして…ね、寝ていたのかずっとー……………?」
自分のついさっきまでの夢にも出ていた光景からそこまで経ったことに気付いたドゥリュースは驚いて混乱し、この間に何があったのか確認しようとしたが、そこで視界が歪み始めて見えづらくなった。
「…あ…………れ…??」
その視界の歪みの正体は、何故か自然と、だがとめどなくあふれ出てきた涙であることに気付いた。
ドゥリュースは自分がどうして泣いているのかわからなかったが、涙は止まらず、それに押し流されるように身は自然と動き始めていた。
『…ここに立ち止まることは許されない…いや、自分自身が…許さない…』
無意識のうちにドゥリュースは自然と病床から起き上がって身を包むシーツを剥がすと、病室の扉に向けてフラフラとした足取りで歩き始めていた。
「…行かない…と―――?」
だが、ドゥリュースが扉の前に立ったところでプシュっと扉は自動で開かれた。
「…それでですねー…」
「ほぉ、そのようなことがー…?」
開いた扉で繋がった廊下より入室してきたのは、お喋りしながらでまだ自分が起きていることには気づいていない私服姿の地上人の大人びた少女とラマウアであった。
「―――…あ! ラマウアーーーーー…………………あ、あれーーー…ええーーー………っとぉぉ…誰??」
自分が寝ていただろう1年間の成長を感じさせる妹の姿は、ドゥリュースには当然懐かしさを強く覚えさせたのは自然だが、その彼女の隣に立つ地上人の少女には何故か
「…あ、お久しぶりですリュー…あ、失礼…初めまして殿下…ぁ…」
その深く艶を帯びた黒で毛先に近づくにつれて紫が強まっていく長髪の少女はドゥリュースに気付くと始め嬉しそうに、すぐに安堵と寂しさが混じる複雑そうな表情を浮かべるが、それは数秒と待たずして馴染みがあるものの醜態を目にして手で顔を覆う羞恥の顔になった。
「…えっと兄様…その、起きたばかりのところで無理はありませんが…もうすこし我が身を振り返ってください…」
一方のラマウアは眉を少し八の字にしつつも目は大きな丸となって、頬の朱色で羞恥を見せてはいるがそれ以上に色々な意味で興味津々という感じでの視線を向けてきた。
「…あの殿下、いい加減に我が身を振り返って…私がこの前の見舞いの時に入れた花で…辛うじて
ラマウアの隣で日光は手で真っ赤になった顔を覆ったままだが、指と指の間からチラチラとドゥリュースを見て来ていた。
「………え、何その反の…あ」
その視線にドゥリュースは初め戸惑うが、自分の素肌へ直に触れる大気の感触の大きさでようやく今の我が身がどんな状態なのか気付く。
「…みょ…妙にスースーするかと思ったらこれか…」
今現在、ドゥリュースは自分が産まれたままの姿であることにようやく気付き、非常に気まずそうな顔になった。
「…
そこでラマウアと日光の合間から飛びぬけて出てきた、赤みが強いピンク色のツインテールをした同年代くらいの人間の美少女が頬を赤くしつつも青筋を浮かべた苦笑を添えた拳をドゥリュースの丸出しとなっている足の付け根に結構な速度で叩き込んだ。
「ぐほぉ!?」
男の急所へ完全な不意打ちを受けたドゥリュースは白目を向いて泡を吹きながら後ろ向きに倒れた。
「…ちょっとぉアグネスさん!?」
日光は拳を振るった少女の名を悲鳴混じりの声で呼んだ。
「…え、英雄…色を好むとは言いますけど…聞いていた以上にご立派で逞しいものをしてましたね…」
「…ぐふ…」
何をどうすればいいのかわからないという感じになって顔を真っ赤にしてオロオロしているラマウアの何処か畏怖を覚えている表情を見収めた後、ドゥリュースは再び意識を失った。
次回、目を覚ました本作主人公が現状とそれに至るまでの確認に入ります。