○帝国暦952年4月23日正午(
「…へー…なるほどねー、その亡命アーヴ系のリュールって人に良く助けられたとー…」
〈…う、うん…〉
「はい、ドゥリュース君」
「…う、うん…どうもー…」
そして、その最中のドゥリュースは昼飯時なので昼食を口にしていたが、療養中の身であまり体はまだ動かせられないという時があるという理由で、今は第三者の手で
〈…そ、それでねー…途中で、パルミュラって国でそのリュールって人の友達であるゼノビアって女王様とか、妖怪狸の人達に助けられたりしてー…〉
「す、凄いなー…あのキラがー…そこまで人を頼りにしながらも…自分もそこまでするなんてー…」
画面上のキラが何故か徐々にモヤモヤとした顔になるのに何故か悪寒らしき感覚を少しずつ強めつつも、ドゥリュースは彼女がこれまで経験してきた戦いに絶句混じりの驚嘆をしていた。
「…ドゥリュース君、色々入院中の予定も詰まってるのはわかるけど、まずは栄養を取らないと学業もこなせないわよー…」
「あ…ど、どうもー…」
〈…そ、それからー…〉
そうして話に躍動が付きつつも横から差し伸べられてくる誰かの手による昼食を取っているドゥリュースだが、その隊に画面越しだがキラの目元に何だか影が強まってプレッシャーが強まっていくのを何故か覚えた。
「…そう言えばさー…リュースー…
「…う、うん…今はプラントからの…まだ違うけど…便宜上…大使館扱いされるあそこに親御さんの手伝いがあるってー…!?」
キラの何処か震えているが怖い感じも増していく問いに、ドゥリュースはやや怯えの色が時々隠しきれなくなったところで、二人を繋ぐ画像に乱れが生じた。
「…え? な、何これー…?」
「…ぐはぁ!? や、やっと入れたわ…!!」
ドゥリュースがそれに不審を覚えたその時、部屋の窓の方から誰かが勢いよく飛び込んでくるも着地に失敗したような音と悲鳴が聞こえてきた。
「…え? ア、アグネス…何で…そんな所から…?」
大窓の方を見やると、そこにはドゥリュースが目覚めたばかりの時に立ち上がるも、そこで彼の妹ラマウアが連れを率いて入室してきたところで痴態に気付いて硬直してしまった彼に、シンボルクラッシュをくらわせてきたピンクのツインテールの美少女が大窓の窓枠に尻もちを付いて痛そうな顔で目を回していた。
「…あらま、思ったよりも突破してくるのが早かったわね…」
ちなみに、その姿はドゥリュースの横に立って彼に箸で昼飯を食べさせていた、スポール・アロン=セクパト・
「…あの日に帰った翌日からちゃんと兄さんと話をしようとしたら急に身辺警護の問題とか許可のレベルが違うとかで面会謝絶されて正面からだと会いに行けなくなったからよ…。どこかの誰かさんの大人げない割り込みみたいに…」
「…そ、そうかー…よくわかんないけど…、だ、大丈夫ー…?」
その痛みで悶える可愛い顔から何故か恨み節を醸し出してくる美少女に、何故かドゥリュースは自分には直接の関係はないのに煽りでその一部を向けられているようなプレッシャーを覚える。
「ドゥリュース君、あんまり時間を置くと冷めて味が落ちるわ。この
「あ、うん、ごめんレイカ…あ、本当だ、美味しい」
だが、今は昼飯時なのでスプーンで差し出された高級薬膳料理に意識はあっさり戻った。
「あんた達この状況で飯の話に移るなんて本当に根っこは良い根性してるわね!!」
当然、美少女は二人へ今度は怒りをぶつけた。
「ちょっとアグネス、まだ病み上がりが引いてない少年の前でそんな
「それを煽っているくせにそんなの言えるなんてあんた本当にいい根性してるわね!!」
「いやねぇ、そんな窓から忍び込んでくるなんて人間とは違う器用な真似は猫みたいじゃない」
「そんなのあんたが実家の力を使って私達が兄さんの見舞いをするのは警護名義で正面からは出来なくしたのが原因でしょうが!」
「私は昨今の情勢からすぐに皇族方の護衛と膨張はもう少し手厚くした方が良いと母上を通して皇務省に御進言しただけよ」
「外道よそれ! あんたが実家含めてスポールらしさ全開にしたら私らが正攻法で見舞いに来れるわけがないでしょうがー!!」
特にレイカには強く噛みつき続けているその美少女の名はアグネス・ギーベンラート。
ドゥリュースが母の仕事に連れられてあちこちを回っていた時期に、プラントも参加していた銀河辺境の再開発事業の所在地で知り合って助けて関係を深めた身の一人で、今では父親がプラントの外交関係に携わる高官なために、それにつれられてラクファカールに滞在中の身である。
「…ああ、もー二人ともそんな喧嘩しないで落ち着いてー…」
「言っとくけどそれを煽っている立場には兄さんもいるわよ!!」
「そんなのこの科学技術以外は冷凍野菜並みの感性しかない脳髄に期待するだけ無駄よ」
「…え…ええーーーーー…??」
そんな経緯から自分を兄と慕うプラントの幼馴染と、帝国での嘗ての
〈…ねえ、三人とも…私のこと忘れてない??〉
〈あらあら、これは“修羅場”と言うものでしょうか?〉
その様子は画面越しにプラントのクライン邸にもリアルタイムで届いており、画面上は瞳のハイライトが消えて目元に影が出来て頬に青筋を浮かべた無表情のキラが大きく占めており、その隅よりラクスが何処か警戒しつつもそれ以上に野次馬根性でわくわくした表情でその場を見守っていた。
○帝国暦952年4月23日夕刻(
〈…先日に発表された“オルバーニの譲歩案”ですが今もズムシティ官庁街では受け入れ反対デモが続いており、数は増しておりー…〉
〈各地上世界でも反対デモは拡大していてー…〉
「…………」
昼までの通信越しの修羅場から数時間後、夕焼けがプラント内部のミラーとそれに守られた空を赤く染めていった頃、キラはニュースを見ながら今は平穏な海を眺めていた。
「…キラ、落ち着きましたか?」
「…うん、ここは今…こんなに平和そうなのに…その…外の戦争はニュースでも毎日聞けてて…そこに…ついこの前まで…私もいたと思うと…」
夕日も沈んでいくように見えて、プラント市内各所の夜景が灯り始める。
別世界のまだ人類が太陽系から出られてない時期のプラントは、巨大なコロニーのわりに砂時計と言われるその形の上下の底辺部内分しか居住が出来ない都合で、居住可能人口は大きさの割に少ないという欠点があった。
だが、この世界では
「…ええ、ここに住んでいる方々やその御家族にも、今も戦場へ出向かれている方は多いですわ…」
「………っ……」
その街並みと重ねてラクスは淡々とした口調で継げた事実に、キラは和らいでいた表情に再び翳がよぎる。
そして、自分が友であるアスランと殺し合いをしていたこと、その友の一人でドゥリュースの幼馴染であるメアリを含め大勢の命を奪ってきたことを思い出す。
「…私は…ここにいて…いいのかな? アスランを殺そうとして…その友達を…大勢殺した…私が…」
「ええ、あなたもアスランに殺されそうになった…。そして、そうせねば…あなたのあちらでの友達が殺されていただろうから…」
「え?」
だから、自分の婚約者を殺しかけただろう女性に対するラクスの淡々とした口調はキラを戸惑わせた。
「…そして、守れた人たちもいた。今もここを離れている人達によって、ここで暮らす人々が守られているように…」
「………………」
「それが戦場というものでしょう。違いますか?」
「………………」
「そろそろ雨の時間ですわ。中の方に夕食ももう準備していますので…」
その同性の友人を連れ込む少女のノリのままでラクスはキラを自宅へ連れ戻す。
〈…今だ政府見解もまとまっていない帝国の情勢を持ちだしてどうせよというのです?〉
〈スピットブレイクの調整も終わったのですぞ〉
一方、室内の方でもニュースは映し出されていて、プラントの最高評議会での会議を映し出されているが、それは強硬派が主導権を握っていた。
〈どの道、講和で戦争を終わらせねばいけない以上はかの国を始め中立諸国に仲介を依頼せねばいかんのは避けられん。ましてやかの大国にも今大戦の長期化を憂う勢力がある以上は、そこを糸口にこれ以上犠牲を出す前に講話交渉に持ち込む準備を進める必要がある。なれば攻撃を急いでその不信感を煽る軽挙は避けるべきだろう〉
その流れに抗おうとする穏健派だが今や少数派で、前議長であるシーゲル・クラインは何とか会議の流れを変えようとしておるが、実る気配はあまりなかった。
〈だが、先のオルバーニ案を帝国情報省はもう二か月前に知っておきながら先週の地球における準備交渉で取り上げなかったではないか。公式な見解を出してない以上は彼らの目論見は交渉を名目に戦争を長期化させて我らと銀連のどちらも消耗させようとしているのが本心ではないか?〉
〈血のバレンタインで一番被害を受けたあの国が銀連を後押しするのはー…〉
〈だが、かの国の仲介で講話を早めになったとしても只では済みますまい。否、経済から我が国を銀連に変わって従属させようとする可能性もないわけではない!〉
〈この時期にこんな情報、陳腐な時間稼ぎですよ!〉
実際、超大国故に意見が多くて纏まるのは普段は時間がかかる帝国や、思わぬ苦戦に苦慮しつつも戦前の利権に未練が強い銀連の内情を考えれば、強硬派が声高に主張している内容が概ね正しいだろう。
〈帝国の宗教勢力で最大とはいっても全てを取り仕切れているわけではない、ましてや今の皇帝と不仲な幹部が多い今のマーズテリア神殿では、今の教皇がいかに唱えても…。ましてや全ての意見を吸い上げられる立場ではないのだから…〉
ユーリ・アマルフィが当然の懸念と不審で強硬派の賛同を得ていく。
〈…それでは聞くが、我々は今後…向けられてくる意思全てに刃をもって答えていこうというのかね?〉
〈〈〈〈〈…!!??〉〉〉〉〉
だが、そこで話が強硬策で纏まろうとしたとき、見た目はエルフの二十代初めの青年だが身には玄人な空気を纏う、この場では最高齢で中立派議員であるエルサダ・アファムが口を挟んで周囲に息をのませる。
エルサダはプラント全人口の人口比率では多いが、評議会では今現在唯一帝国出身者であり、帝国の地上人官僚を両親に持って本人も帝国の科学魔導省副尚書を務めていた老練な魔術師にして、
実年齢は記録が正しければ千年以上前に起きた“大星災”とそれ以前を知るエルフでも数少ない存在であったので、その老練な政治手腕と魔術師としての技量の高さから、プラントでは魔導科学を担当しているラドニッツァ市の代表でもある。
そんな色々な理由から影響力も強いエルサダの痛罵混じりの発言は、派閥問わず評議会の流れを大きく止め始める。
〈…その通りだ! 刃だけを手に取るそのような存在として生まれたわけでないだろう! 我々は!!〉
シーゲルのそれに畳みかける言葉にハッとした顔を浮かべるものも出るが、それでも大勢の流れは再び押し始めていく。
〈クライン前議長、個人的感情も交えた過ぎた言葉で
〈…………〉
役職と地位に規定を盾にしたギレンが怜悧な笑みで再起動させた流れの強さをシーゲルは改めて実感して歯噛みする。
〈…外部からのも含めた貴重なご意見は有難く受け入れさせていただきます。かの国含めた中立諸国要人には私からも謝意をお伝えしましょう。その使者として来られたマルキオ導師にも…〉
〈…伝えておこう…〉
そして、シーゲルが重い眼差しを下におろしたところでニュース画面は切られた。
「…この調子じゃースピットブレイクは避けられんな。結果がどっちに転んでもいいようにすぐ動ける準備を急がんといかん…」
その様子はクライン邸に集まっていた
「これを送られた辺り、今は目立って動く時ではないということでしょうか…」
ラクスはその場に降り、彼女の手には以前に帝国のマーズテリア神殿から送られてきた文箱があったが、その文箱の中に白紙で折られたドイサックセミの少し背が開いた抜け殻を模した折り紙が入られていた。
アーヴではジラルハネイから入った風習で、蝉は忍耐と、好機を待つこと、そしてその日に備えての準備を怠らないことを示している。
そして、白とはまだ何物にも染まっていないこと、決まってないがゆえに何物にもなれるとして可能性のシンボルとされていた。
「…“苗植えは土を仕込みながら晴れを寝て待て”とは言ったもんでな、ラマージュにヴェルゼリモのどっちの嬢ちゃんも昔、他にもっと有望な対抗馬が出し抜こうと先に出て潰し合ったりこけたりした後の棚から牡丹餅みたいな感じで皇位を得たって当時は皆が言ってたぞ。まー裏はしっかりと人集めをしていたのも半分くらいあったがな…」
その中に混じる地上人型サンヘイリの男性は、現人類宇宙最大国家の頂点に名実ともに立つ皇帝と、同国宗教界最大勢力の教皇を馴染みのある付き合いである言い方で嬢ちゃん呼ばわりする。
「…あそこの皇帝と教皇を嬢ちゃん呼ばわりなんて…何者ですかあの人…?」
「その二人の一期上の同修技館出身で同じ部活で親交を深めて、皇帝の皇太女時代に向こうの商務省で敏腕を振るってたセダラム氏、だけど皇帝即位に伴って着任した当時の宰相との派閥争いが嫌になって辞任して民間に移籍して、デギン氏に誘われてプラントに来て現在はプラント農業研究会の最高顧問をしてるー…」
周囲の若手の畏怖や注目を集めつつもそのセダラムは構わず、ガラス越しに見える別館で今は休んでいる少女に向けられる。
「…で、ピンクの嬢ちゃんよ。あっちの嬢ちゃんはお前さんの仕込みの人集めで集めた一人かい?」
「…さあ? ですが…どちらの道になろうとも…決めるのは彼女自身ですわ」
その問いかけに、ラクスは穏やかな母のような表情で、けれども瞳には期待と苦悩が混じる光を浮かべながら、別館で休むキラを見守っていた。
次回、本作主人公と種原作主人公(のTS同位体)とその周囲が一気に動き出す予定です。