○帝国暦952年5月5日早朝(
ラクファカールは数千万のアーヴを含めた十数億人の
そして、その各居住領域の配置などは大星災以前の地球のラグランジュポイントに酷似していた。
地球に相当する中心には恒星アブリアルがあり、月に相当する位置には自然豊かな個体型惑星
「…この都市と言い、本当に帝国は都市も地上も美しいな…科学と自然…その両方がこのご時世で極めて理想に近しい状態で調和し合っている。
その居住可能領域宙域点を行きかう何十万もの宇宙船や連絡艇の中の一隻に、ロード・ジブリールが乗る一隻のものもあった。
「その
そのジブリールがいる個人用客室のドアを開いてジト目のドゥリュースが毒を吐きながら現れた。
但しその耳は
「矛盾と付き合わなくてはこの世の中は回らん。ほれ、その象徴の一つがもう見えて来たぞ」
その若造の毒などどこ吹く風という様子でジブリールが指さしたのは、中立国際機関であるD.S.S.Dの帝都研究所のコロニーであった。
「…このご時世でこれが残ってるなんて…ものすごい執念を感じる…」
「君が築いてくれた繋がりが無ければ残っているのも怪しかったがね…」
ドゥリュースは帝国でのリューナクト=ソーレス時代には帝国軍技術科非正規職員枠とD.S.S.Dには二重で在籍し、リュール・ソードリュとして生きてモルゲンレーテに雇われていた時期もD.S.S.Dとは技術交流をしていた身であったので、帝都でその研究施設の一つが残っている事実に驚くと共に安堵を覚える。
そして、その研究所の港から中に入って廊下を進むと、その内部には所属する研究者だけでなく、星界軍や中立諸国、それらに比べて少ないが銀連兵にザフトなど各国の制服や軍服を着た人員も行きかい、ドゥリュースはその彼らと行きかうたびに敬礼するが怪しまれずに済んでいる。
D.S.S.Dは血のバレンタインを契機として急速に帝国と銀連軍参加諸国圏の関係が悪化した後も、帝国含めた各国の大半からその中立性を認められて活動を認められている数少ない組織で、行きかう銀連兵も銀連に属しつつもプラントとの交戦には至ってない所属国の兵士や、退役して関係がないことを証明された人物は活動を許されている組織だ。
ジブリールの姿を見ても驚かれない辺り、彼が世間で公表されている事実と違って生きていることをここの人々は知っていたようで、その多くからドゥリュースは彼を警護しながら案内している武官だと思われているのだろう。
実際のところはジブリールの後をドゥリュースが付いていっているだけなのだが、そんなことを二人は表に出さずに廊下を進み、エレベーターに乗り、幾つもの扉を潜って進んで行く。
「…久しぶりねジブリール。そしてー…やっと
そして最後の扉を潜ると、そこには深い緑色を帯びた黒い長髪をした妙齢の人間の美女が薄暗い格納庫で待っていた。
「こちらも久々だなセレーネ、
「マクグリフ先生!」
二人を出迎えたその美女の名はセレーネ・マクグリフ。
ここD.S.S.Dの中立国出身の人間族コーディネイターの有力技術スタッフの一人で、ドゥリュースがリューナクトとして活動していた時期から技術協力を通じて親交を深めた女性だ。
二世代目コーディネイターだが、遺伝子調整の有無や種族の違いで生じる現在の銀河の争乱に興味がなく、同じ夢を求めて協力し合えるなら出自問わず受け入れられる懐の良さを持っていた。
「…ええ、それと引き換えに…君にはまた血を流させて…血を被らせてしまうことになるわ。
その互いに知り合う仲だからこそ、同じ目標を目指す仲間にして弟みたいに思っていた少年を、再び戦乱の業火の中へ送らねばならない苦悩に表情を歪めるセレーネの背後に点灯が灯され、それまで闇に隠されていた
「…これは、ガンダム…しかも…これって…!?」
今の自分の種族の神話にも見受けられる神の地上の遺跡で見受けられるような偶像を模っているようで、自身にも関りが有りながらもそれであることを隠している
「…ええ、君がフォールィネのターフィチで再発見したG型ガンダムフレーム採用機体にして、君がソーレスとして生み出した永久式疑似星核型粒子炉の二乗連結型、ジブリールが実用化した他物質融合化可能
「…今は管理権がD.S.S.Dにあると言っても、本来の所有権は帝国で今も疑似星核粒子炉と共に貸し出されている状態のはず…それだけの代物であるこの子をどうして今この状況で僕に…?」
今現在の自分にとって最強の剣にして最優の翼が託されようとしている状況に、ドゥリュースは安堵と同時に警戒と恐怖を抱く。
この機体がどこに渡るかで、今現在の星界の情勢がどれだけ激変するかを理解できる頭はあったためだ。
「…本来なら大型の怪獣や未知の細菌やウィルスも存在する外宇宙でも有人で探索しなくてはいけない場合に備えての機体なのは、開発と調整に関わった君も知ってるだろうけど…、その性能の今現在でも引き出せる範囲内でも十分に使いこなせるパイロットは…これまで何度も乗ってもらった君しか結局はいない状況だから、その戦場含めた過酷な環境で最大限引き出した場合でのデータを得たいのが技術者としての望みなのとー…」
「…で、本命は?」
「…詳しいことはまだ言えないけど正直、今このまま行ったら人類が銀河系を出られるようになる前に、人類が銀河系ごと道連れにボンってしかねない状況になりつつあるからよ。人類を外の別の銀河まで届けたい身としてそんな結末は絶対に嫌だし、君も同じでしょ…」
理論と合理性を優先して、理念や偏見を歯牙にもかけないセレーネが苦虫を噛んだ表情で愚痴るようにぼやいたその言葉に隠された状況の深刻さを、ドゥリュースは静かに感じ取っていた。
「…今はその言葉で前へ進ませていただきます。理屈だけで動ける世の中ではないことも、全てを明かさなくては進めないわけではないことは童の身なりに知ってるつもりですから…」
「…君の腹は括られたのはわかったし、実際に向こうへ到着するまでの間にこの子の機能を理解できる頭を持ってることも、ここに到着するまでの間に船の手術室でジブリールの荒療治で監視装置や術式を抜かれるか無効化された後遺症を、向うへ行くまでの間に癒しながらこの子を扱えるようになるまでその身が丈夫なのはこっちも知ってるわ」
「そうですね。そもそもこの子の疑似星核粒子炉の半永久型の方の粒子には、生物の生命活動を活発化させて治癒力を高める効果があるのは(この世界でも)確認済みですし…」
そう言って説明を受けながら着替えを進めてドゥリュースはジェフティの背部にある、二乗連結式半永久型疑似星核粒子炉と一体化したコクピットブロックから出されたシートに乗り込み、機体の現時点での性能や目標宙域への予定時刻、その間に進む我が身の回復の度合いを確認していく。
表面上は傷が無いように見えるドゥリュースの身を包むのは、帝国の
「…そうだな。把握している範囲内だが君に預けたそのジェフティは現時点では最強の
〈…………〉
「…それは…今の君自身での技量でも、記録収集用も兼ねて載せてあるAIのどちらでも可能だ…」
管制室の窓を通してジブリールは、まだコクピットブロックに収納されていないコクピットシートに乗るドゥリュースと確認を進めていくが、途中でジブリールは眉間に濃い皺を多く寄せて口籠り始める。
(…今更隠して…躊躇ってどうする!? もうこの子に…その程度の隠し事など出来んことなどもう知っているだ―――!)
〈こちらから一つ、要望を追加していいですか?〉
「―――っ!?」
だが、教え子の機械音声越しも重なって怜悧さと冷徹さが残酷なまでに感じ取れる声がその苦悩を鼓膜越しに、察して宥めるかのように注がれてくる。
〈…もし、この子が絶対に渡してはいけないとわかっている人たちに渡りそうなのがわかったら…〉
「「「「「…………」」」」」
〈僕ごとでもいいので消滅させてください〉
「「「「「…!!!!!!」」」」」
そのガラス窓と機械音声越しだが澄んだ湖面のように静かな表情を添えた言葉に、対峙する大人たちはその虚飾ではないのがわかる高潔さと、それと対峙して露になる自らの姑息さと卑小さを改めて認識して愕然とする。
〈…ただー、実際にその時が来たらみっともない顔しそうだからー、その時の記録は撮らないか消してほしいんです。僕も男だからー…〉
但し数秒後にはドゥリュースはすぐにいつもの気弱そうな表情に戻るが、それすらも大人たちには自分達の卑屈さを察したような言葉に聞こえた。
「…っ…わかった―――!」
「わかったじゃないでしょうが残念天才系師弟ズ」
だが、ジブリールがいざその時が来た時の怨嗟を第一に受ける先頭に立つ心境で口を再び開こうとしたその時、少女の声音だが豚に止めを刺す屠殺業者のような冷たい言葉がその場に割り込んできた。
「―――あ…そ、その声はあああぶべえーーーーーー!!??」
その声の主に気付いたジブリールは気が抜けたが少し安堵したという感じの顔で振り返ろうとするも、その顔に遠慮なく結構な速度と膂力で蹴りを靴底越しに叩きつけられ、その勢いでそのまま反対方向へ吹き飛んだ。
「あ」
「「「「「えーーーーーーーー!!!??」」」」」
それを間近で見せつけられたセレーネは呆気にとられた表情を浮かべてしまい、そのままジブリールの後頭部は安全装置が作動したのか生じた強化ガラス窓の穴を高速で通過し、研究員たちは只々驚きながら見送るしかなかった。
「…え…あぶちゅうぅううぅううぅ!!??」
「ぶぢゅううぅううううううううぅぅぅ!!??」
ドゥリュースはそれに呆気にとられるだけで回避も防御も忘れ、何者かに蹴り飛ばされたジブリールと真正面からキスしてしまい、そのままの勢いでシーツから吹き飛ばされて二人そろって格納庫の壁に叩きつけられてしまう。
「…全く、急に面会断りの発信が出されてて妙に静かだったから強引に入ってみたらもう部屋の中にはもういないもんだから、来そうな場所まで来てみれば案の定だったわ」
「「「「「レイカさん!?」」」」」
二人を格納庫の壁の汚い張り物にした豪脚の正体であるレイカの突然の乱入に、セレーネ含めた周囲は当然仰天する。
「…最大手スポンサーだからっていい加減にしたまえよ君ぃ!! いつもの突っ込みで銀河の命運を握る超最上位頭脳の内の二つを同時に無駄死にさせる気かー!!??」
「大概にしろやあんた!! 所詮陰キャには人生の終わりを綺麗に飾る権利すらもないって言うんかー…あぐぅ!?」
数秒後に鼻血などで頭から血を流しつつも怒りの咆哮を上げる師弟二人だが、そこで絶対零度の無表情を浮かべたレイカに二人そろって頭を掴み上げられて、ゴンっと側頭部から勢いよく叩きつけられ合ってドアップで彼女と顔を近づけ合わされると、肝が縮む思いで黙らされてしまう。
「師弟揃って出来もしないことを約束しないの」
「…い、いや…ですけどー…戦場に行く以上は百パーセント生還ってのは無理な話でー…」
「は?」
「…え…あ…いや…何でも無いです…」
「そ、そうは言ってもだなぁレイカ君…こ、この子の性格や実力に過去の所業を考えればぁ…たとえどんなに行かさんようにしてもぉ…こっちには想像出来ん手で強行突破してもっと危険な状態で行くのは目に見えてるしー…、しょ、消去法ではあるがこれが一番生還率が高いしー…」
「まあ、超天才系馬鹿の先生がそう言う以上はわかるとしてー…」
「わかりはするんかい!?」
「何にでも馬鹿と付けるのは止してくれんかね!?」
そうしてお互いいつもの研究所での残念臭丸出し漫才なノリでお互い張り詰めていた気が緩んだところで、レイカのネズミを抑えて絞め殺す鳥類の足のような握力が抜けて開放される。
「…ドゥリュース君、君は死にたいの?」
「いやいや、死にたいわけないでしょ。生きて帰りたいに決まってるでしょ。まだまだやらないといけない研究ややりたいことも山ほどあるんだから」
「よし、それだけ聞ければ十分だね」
「…え?」
そこで見た目の齢相応の男女になったドゥリュースとレイカは向き合って若人相応の声音と言葉になるが、レイカはムッとした表情でそっと優しい手つきでドゥリュースの頬に触れる。
「やりたくないってことは出来ないって内心わかってるって言ってることよ。出来ない約束はしたら駄目よ」
「………」
「約束をするなら出来るものにしなさい。生きて帰るって。アブリアル以前に男の子でしょ」
「………」
その齢相応だが真摯な厳しさと優しさに満ちたレイカの正論に、今の我が身相応の心に引き戻されていたドゥリュースは反論できなかった。
「…じゃー聞くけどさー、どうやってここまで来たか教えてくれる?」
「そりゃ君が只のアブリアルなだけだった頃からその研究の最大手スポンサーをしてきたんだから、ここの人達で私の要望を断れる人はそういないもの」
「…じゃー、君のさっきの我儘全開横槍で壊れた
「性格で地味好きすぎて中身貧乏性のアブリアルの世話の仕方は習ってるから大丈夫よそれくらい」
「「「「「………………」」」」」
そして、苦笑を向けあった両者は正直且つ齢相応の軽口や皮肉を叩き合った。
〈…そう言うわけでお互い情けない姿を見せあっちゃったけど、準備は良いわね〉
「はい、問題はありませんセレーネさん」
数分後、ドゥリュースは準備を整えた様子でジェフティのコクピットに乗り込み、機体のOSを起動させながら最終確認を済ませていった。
〈…思ってみればあの神すら慄いて避けて通るあの
「あーわかりますそれ…」
〈いや、あなた達の先生に母親でしょ〉
「〈それは言わないで!!〉」
それにはいつもの調子で自己嫌悪丸出しの哀願も混じる師弟トークも混じっていた。
だが、それも真面目なものにすぐ切り替わる。
〈…最後に一つ、確かなことも言っておこうか…〉
「…何でしょうか?」
〈…今まで、永遠の平和を主張する者は大勢いたが、その誰もが実現できた試しは一度もない〉
「………」
〈そして、同時に終わらない、永劫に続く戦争を証明できたものもいないのだよ〉
「…馬鹿げた屁理屈ですね…」
〈…ああ、だがどんな科学も最初はそう笑われたものだ…〉
「………」
〈…それを存在させるのがこの世界というものだ!!〉
「ええ!!」
そして、その師弟の会話が一区切りついたところで発進準備態勢は整い、格納庫のハッチは開けられて行って真空中の宇宙空間が見えて、その先に白い稲妻が生じてそれは大型の球体となっていく。
「…短期性人工ゲートの発生及び安定化を確認!」
「座標数値確認完了! 対パナマ星系方面平面宇宙市流域!」
「…リュール・ソードリュ! ジェフティ行きます!!」
そして、向かうべき場所に向けて開かれた道を通して、青い剣はそのあるべき担い手と共に戦いの業火へと飛び立った。
次回、種の方のもう一人の主人公と、そのお父さんの元ネタの弟さんが話の中心になる予定です。