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ドゥリュースが新たな剣であるジェフティを託されて、リュール・ソードリュに戻って戦場へ帰還してから三日後、はるか遠くのプラントの中枢ではジャブロー攻略の失敗を受け、情報が錯綜して尋常ではない混乱に支配されていた。
「ジブラルタルとカーペンタリアからの報告ですがー…!!」
「生還した艦隊が帰投した星系周辺での銀連軍の動きは!?」
「ドローンの無人偵察だけじゃだめだ! 現地付近の動かせる隊をー…!!」
アスラン・ザラとガルマ・ザビが足早に進んでいる最高評議会ビルの廊下にもそれは表れており、入室した国防委員長執務室も人数は少なかったが動揺は同じであった。
「現在、確認されている情報によれば、相当なサイズのサイクロプスが拘束されていたようでー…」
「消滅爆発の規模からして、銀連圏内で押さえられている遺跡から発掘されたものとは考えずらく…」
「そうか、現地に残した司令官とクルーゼには新たな情報は入り次第にすぐ送らせよ」
その中心には、凶弾に倒れる前のパトリック・ザラの命令でパナマ方面から呼び戻された、最高評議会副議長も兼任しているギレン・ザビ国防委員長の姿があった。
「ご報告です。臨時最高評議会の開催を求めて議場に詰め掛けていたアイリーン・カナーバらクライン派評議員らの拘束を終えました」
「「!?」」
だが、そのギレンに持ち込まれる報告の中には予想の上を良くない意味で行き続けるものが多数含まれていた。
「…それではシーゲル・クラインの行方は?」
「それがかなり以前から周到にルートと協力者を確保していたようで、今現在はその邸宅を調査中でー…」
「…そうか、ならばクラインらと親交があった…カドルら
「…は? ですがしかしー…!?」
報告を寄せ続ける高官らも戸惑う命令を矢継ぎ早にギレンは出し、その逡巡も捨てさせるように言葉詰めで詰めていく。
「躊躇い気を抜くな。漏洩していたスピットブレイクの情報、盗まれた後にジャブローに現れた我が軍の最新鋭機、それと同調して活動していた謎の半永久式疑似星核炉搭載機、我が軍の方の最新鋭機をスパイに手渡したラクス・クラインとその父、ザラ議長暗殺、事態は我々の今の想定以上に深刻だ」
「は、はは!!」
「「……………」」
現在、不安と混乱の中にあるプラント内部の空気と思考の方向を自分の有利な方向へ、それも周りの多くにも不自然ではない形で誘導しているギレンの動きに、若者二人、特にその弟であるガルマは唖然としながらも肌寒いものを覚えていた。
たしかに、スピットブレイクという軍事機密を事前に知られていたのは内部にスパイがいたと考えれば自然だし、シーゲルが公職を退任した後もそのシンパが多いことを考慮すればクライン派のものに流れていたとしても不自然では無かろう。
だが、これまでプラントの自治拡大と地位向上のために活動していたシーゲルの動きを考えれば、彼が銀連を利してプラントを害する密通をするなど考えづらく、せいぜい隠れクライン派の兵士でスピットブレイクに携わっていたものが情報を流したのが自然に思える。
どうもそうした他の可能性の追求を、疑惑を疑惑のままで拡大して有耶無耶にして、自らにとって都合が悪いものにさりげない理由で被せて無力化しているように見え、それがアスランとガルマの冷静さをすり潰していく。
「は、はは!」
その効果を今この場で最も受けていた補佐官らが退室していき、他の人の姿が若者二人だけとなるとギレンはイスに深く座り直して電脳と空中ディスプレイを操作していく。
「…あ、兄上ー…」
「…む、ガルマか…が、場所を忘れるな」
「っ! し、失礼しました副議長閣下!」
そこでとっさに出た肉親への気遣いは心の琴線に触れたかのように見えたが、すぐに振り切られて委縮させて敬礼させた。
「アスランも来たか、もっと近くへ」
「は、はは…」
「状況の概要はつかめたな」
「…で、ですが信じられません。ラクスがスパイの手引きをしたなど―…!?」
その上でアスランは公私が混じる思いで噛みつくが、その言葉を遮るように空中へ投影された画面によってそれは封じ込められてしまう。
画面にはアスラン達に拝領される予定の新型MSの一機が映し出されており、荒い画面だが盗み出した人物と目される内通者と、それと共に映し出されている婚約者の姿で口籠るしかなくなる。
「証拠も無しに彼女へ嫌疑を掛けたりなどしない。残念だが彼女は未発表ながらも国家反逆罪の逃亡犯なのだ。何を考えているのかはまだ知らんが彼女を今もっとも止められ得るのは貴官だけなのだぞ」
「…は…はい…」
否定しがたい証拠とその人物との関係にも触れた問いに、生来の性格からアスランは反論も憚られる沈痛とした思いになる。
「アスランにガルマ、此度の事態を受けて貴官らは議長直下特務隊に任命して任務を与える」
「「!?」」
その反論しづらくなった雰囲気を読んでか、ギレンは言葉を畳みかけてその責任感の重さから断りづらい状況を装っていく。
「ガルマ、貴官はまず天の川へ再度向かってされたフリーダムとそれに同調して動いているこのMS仮称“
「…え? そのような過剰な…!?」
「アスランはラクス・クライン拘束に協力し、それが終わった後もガルマの任務が終わっていない場合は合流して彼を副官として任務を引き継げ」
そうして一方的な言葉の連射を終えるとギレンは別方面への通信を繋ぎ始めるが、そこで疑問を呈する冷静さを取り戻したアスラン動揺しながら尋ねる。
「お待ちください。機体のみならず接触していたと思われる人物や施設の全排除ですか?」
「…今回、奪取された“フリーダム”及び貴官に任せる“ジャスティス”、ガルマの“レジェンド”、未定のデスティニーは…G元素とNジャマーキャンセラー使用型の疑似星核粒子炉で動いているのだ」
「「!!??」」
その予想のはるか上を行く深刻且つ衝撃的な答えに若き二人は言葉を失うまでの衝撃を受け、同時にギレンが出した苛烈にも思えた命令が妥当且つ底冷えさせるものになった。
「そんな…何でそのようなものを!?」
「プラントはG元素による破滅的破壊を封じるためにNジャマーを用いたのではなかったのですか!?」
同時に、多くのものから家族を奪ったG元素を兵器として復活させたことに、その一人であるガルマは非難の声で疑問を上げ、アスランは祖国の理念を裏切るような行動をしたことに疑問を上げた。
「…勝たねば全ては無意味となるのだ! それにはあれが必要なことは
〈………………〉
その二人の言葉を遮るように割り込んできた空中映像には、Nジャマーキャンセラー開発者である評議員のユーリ・アマルフィの重い表情があった。
「…貴官らに課せられた任務の重大さは理解したな。心してかかれ…」
「「…………」」
もはや二人は反論を許されない雰囲気になりつつある以外、理解が出来なくなっていった。
「…最終チェックが終わるまでには八時間かかる。電脳使用でいいからそれまでにマニュアルを叩きこんでくれ…」
数十分後、ズムシティにある軍の極秘研究所所属の工廠にて、アスランとガルマはユーリの説明を受けながら自分達に与えられることとなったその機体を見上げていた。
機体の形状は用途や搭乗者の特性に応じて大幅に異なるが、後背部分には疑似星核粒子炉搭載機の特徴であるコーン型スラスターが外されるか、その装甲が開かれるかして見える内部の機器には、核やG元素使用なのが見えるマークという共通点があった。
「…ラクスのことは残念だよ。あの子…メアリも彼女の歌は好きだったのに…ニコルは今こそ落ち着いているが…ロミナの方は今回の件でまた塞ぎ込み始めて…」
「…いや、その件は…」
それを見上げながら多くのものへ不審を募らせるアスランだが、戦友の死とそれを殺した子供の頃からの友、それからくるかこの躊躇いが今回の事態を招いたのではとまで思い始める。
戦死したメアリは本来なら、ユーリの義理の娘となって、その孫であるニコルの子の母になるはずであった。
「…あ、すまない…娘の無念は君が晴らしてくれたが…その仇は…君たちの古い友人だったらしいね…無神経過ぎた」
「…え?」
「…戦争が過酷なものというのは知っているつもりだったが、まさか…そのような残酷な皮肉も突き付けると…思い知らされたらな…」
「「………」」
何時どこでその話をという疑問を浮かべつつも、二人は自分勝手と知りつつもそれで少しは気が安らぐ思いも浮かべそうになる。
「…だというのに! 今もニコルや君のような若者達が戦場に出て…メアリのように犠牲も出ている中で…それを裏切れる連中がいるんだ!? 腸が煮えくり返るよ!!」
「「………」」
故に、二人はそのユーリが急に、否、それまで抑えていた怒りをあらわにして声を荒げ始めたことに、自分達の複雑な思いを表に出すのも憚られるように感じ取っていく。
「…犠牲はもうたくさんだからNジャマーキャンセラーの実用化にも踏み切ったのに…! もしも奴らがあれを手に入れれば…ゼミーシュルのように嬉々としてG弾も核も使うだろう! ジャブローで味方にすらも狂気を隠さなくなった奴らがそうしないはずがない!!」
その話まで持ち込まれれば二人はもう私情を挟むわけにはいかない。
たとえ、その中に自分達へ優しく微笑んで歌いかけて来た少女がいたとしても、課された任務を拒否するわけにはいかなくなった。
「…どうか頼む…アスラン…ガルマ…」
その母を産まれる前に失った孫の祖父となったものの言葉に、抗える言葉を二人は持ち合わせていなかった。
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〈…“レジェンド”の発進基準オールクリア、パイロットのリンケージも良好です〉
自分達の価値観や信じるものが大きく揺さぶられ続けた日も過ぎて翌朝、ガルマ・ザビは表向き平静な様子で自分が拝領した新型機の中で、出撃前の最後の確認をしていた。
昨晩に心中の動揺を抑えながら任務を理由に機体の学習と習熟に務めていた間に、奪われた恩師や皮肉にも自分達が死に追いやった旧友の言葉を思い出して、それが冷静さを戻して視野を広げてくれたように思えたのだ。
『本当の意味で頭が良い子ほど始める前から考えすぎてしまいがちになって、不安ばかり強めて立ち止まってしまいがちになるものだがねー。君くらいの年は6分くらいの出来を描いた思考の元で始めた方が良いものだよ』
『そうそう、しくじってこそ初めて直さなきゃいけない、やっちゃいけないものが見えてくることもあるしー…まあ、子供と思って始めると間違ってナムナムチーンってしなくちゃいけない事態にもなるかもしれないから、死人や怪我人だけには気を付ける程度にー…』
『その齢でそんな地味に重い言葉をそんな空虚で且つ重みのある瞳を添えて言える君は本当に何を経験したのかね??』
血のバレンタインの時、ゼミーシュルでの極秘会談中に味方であるはずの存在が放った死の閃光で散った師と、自分達が戦場で殺した友の、時々当時の年齢や平和な学び舎には似つかわしくないブラックジョーク混じりのやり取りを思い返すたび、どういうわけか苛烈且つ非情な命令を課されている今の状況でも道の可能性を感じられた。
そして、それはこれから向かう先でその二人との思い出がある天の川銀河系ならあるような感覚を
「こちら“レジェンド”、ガルマ・ザビ出ます!!」
その感覚を抱きつつ、迷いを抱きつつもまだそれを捨てるものでしかないとは思えない“若い命”を乗り手として、新たな伝説として名を託された機体は新兵装を載せた左右二つに分かれた円盤状バックパックのスラスターより、赤みを帯びたオレンジ色の粒子を吹かして無限の可能性を体現した存在と思える宇宙へ飛び出た。
次回、種自由の方でこれまで重ねられてきたアンチ系意見を良い意味で解消なされたあの子の、その原因の証拠の一つとなったシーンが中心になります。