ちなみに、今回のお話には成人向けパートがあってこちらとなっています(https://syosetu.org/novel/382294/23.html)。
○帝国暦949年6月21日夕刻
「…うーーん、あの人によって再び青春の暗黒時代を…しかも公衆の面前で呼び起こされそうだったけど…ラフィールのお父さんのおかげでどうにか切り抜けたねー」
ベッキーによって再び饗宴をぶち壊されそうになってから数十分後、ドゥビュースの機転もあってストレスを感じがちな会場をドゥリュースは離れて、繊細な装飾が施された外灯の照らされたホテル周辺の公園を昔からの友人たちと一緒に歩いていた。
「…あれだけあんなの何度やっても繰り返すなんて…ある意味才能だよねぇ…」
「いや、才能じゃなくて狂気というか…」
「生殖欲求と加齢による焦りをこじらせるとあそこまでなるのかしら…?」
「いや、あそこまでなるのは絶対に超が付く少数派だから…」
そんな状態でも地球での学校時代で数々のトラウマを刻み付けた恩師による新たなそれは、子供達には相当な印象に残っていた。
「…あ、これは…」
そうした状況でも生真面目さから少しでも場の空気を和ませられないかと視線を彷徨わせたアスランだが、そこでこの世界においてある意味で全ての始まりと言えるあるものを目にした。
「…
アスランが目にしたものは、かつて地球時代でアーヴの始祖を生み出したという地球弧状列島の一研究機関が発見し、始祖アーヴを外宇宙探索のために乗せて送り出したという
「よく知っているな其方、これの本物は
「ええ、これは僕たちの故郷でも大事なものですから。“クジラ石”と並んで…これが発見されたことで、僕たち人はもっと遠い所へ行けるんだって可能性が開けたって…」
そのモニュメントを見るアスランの表情には憧憬に似た気色が浮かんでいた。
「ああ、良くも悪くもだな。個人的にはこれさえ見つからなければ戦争などもここまで大きくなることもなかったと思うな」
「…え?」
だが、それはドゥビュースが見せた少々面倒そうな顔で遮られ、アスランは意外そうというか少々棘のあるものを感じた。
アスランを始めとしてコーディネイター、特にプラント住民の多くにとって、アーヴというのは遺伝子調整及びに宇宙進出の先導者として憧れを抱く存在であり、その上層に連なるアブリアルからそのような発言が出るとは思わなかったからだ。
「…時間を遡ることは出来なくても…もっと偉い人たちにクリューヴ王殿下のような人が増えれば…もう少し人間同士の戦争も減ると思うのに…」
「まあ、それを見てもっと強く出てもよさそうだとしたり、それを見てだからあまり無慈悲ではない対応を見せるなというものが出てきそうでもあるがね…それと5人とも、少し耳をふさぎ、目を瞑って私のそばを離れないように。ちょっと面白いものを見せてあげよう」
「…え、なぜ…?」
「不都合かな?」
「素直に従いまーす」
「…あ、は、はい…」
その動揺が収まらないうちにドゥビュースの諭すような声でのその言い聞かせにアスランとキラはますます戸惑うが、静かだが冷たい威圧感を宿したその続きに委縮を覚え、さっさと了承を示したジョセフィーヌに続くことにし、彼女やラフィールにキラ、ドゥリュースと同様に目を瞑って彼の傍らに寄り添った。
その彼らを連れてドゥビュースが近づいたのは、公園にある池に近づいてそれに手をかざした。
「…飛べ」
その水面を見るドゥビュースの瞳は極地の凍り付いた海面のような冷たくそこのしれない暗さを宿した瞳になり、その周囲に澄んだガラスで出来た妖精の人形のような小さき氷の人形が複数生じ、それらは高速で周囲へ飛び立っていった。
「…来たぞ! アーヴの! しかもアブリアル一族だ!」
「ああ! 行くぞ」
「死ねぇ! コーディネイター!」
「
その直後、水面や周囲の茂みから何やら地球時代の中東辺りの戦闘員を思わせる衣装や人種的特徴をした者達が飛び出て銃火器を向けようとするが、それらが火を噴くことはなかった。
「「「「「だーめ♪」」」」」
ドゥビュースが生じさせて放った氷の彫像達が彼らに接触し、その身を氷で瞬く間に包み込んで、池もろとも意識まで凍り付かせたからだ。
『…相変わらず人使いが荒いなルッチ』
『お前が頭だけじゃなく目も悪い馬鹿には漬け込みやすいように見えるだけだ』
何が起きているのかわからず、ただ視界と耳を閉ざして不安から抱き着いてくる子供たちの頭をなでつつ、ドゥビュースは電脳越しに姿を見せたその男に苦い顔を見せた。
『この者たち、単独ではここまで侵入できるような腕も繋がりもあるまい。それを補った者達を辿るためか?』
『そこまで話す義務は王までにはないな』
『母か従弟殿か? それとも先輩の宰相殿かな?』
『お前個人にも話さんといかん義理はない』
そのルッチという男は
「さあ、もういいぞ童たち、目を開けてみなさい」
「………」
「え…あ、は、はい…うわ!?」
「すごい…これがアーヴの魔術…」
それに構わずにドゥビュースは何事もなかったような微笑で子供たちを諭して子供たちに目を開かせると、目の前に広がる氷の美しい彫像や彫刻の世界と化した(ように事情を知らないものには見える襲撃者たちの凍り付いた)池の光景を見せ、キラやアスランなど事情を知らない者達を驚かせて喜ばせた。
「………」
(…父上、何かやったな…)
(普段穏やかでも根本はやっぱりアブリアルか…)
二人に対して気付いている面子でジョセフィーヌは察しているような訳知り顔をドゥビュースの背に向け、ラフィールはジト目を浮かべ、ドゥビュースは諦観を感じさせる笑みを浮かべていた。
〇帝国暦949年6月21日夜
「何だと!? こちらで上手く手引きさせたサルース人共が全員生け捕りだと!?」
「どうする!? アラバスタのコブラ王をアーヴ側組織に見せて暗殺する計画もこれでは成功率が大幅に下がって…!?」
ドゥビュース達が池でその騒ぎに巻き込まれつつも表向きは穏便に済んでから数時間後、彼らのいるホテルに隣接する別の高級ホテルの敷地内にあるその山荘で白人系と思わしき男達が声を荒げていた。
だが、その彼らは途中で自分たち以外の誰かがいる気配を覚えて言葉の一切を止めるが、その一人がぱたりと倒れてひくひくと痙攣しだしてしまう。
「っ!? この傷は…!?」
その倒れたものの米神には茨が深く突き刺さって抜かれたような傷が出来ており、それを見た他の者達は心当たりがあるようだが急速に、その表情は急速に顔から血の気が引いていって青ざめていく。
そこで、彼らの中心にある誰かの影からまるでそれが天に向けて伸びるように形を変え、やがて影は空気へ溶けるように消えて後には一人の女性が姿を現した。
「…あのー、先ほど租界のイタ飯屋さん達と共謀してサルースあたりの聞き分けのない人達を殿下方がおられる施設へ送り込まれたサード・オルムスのマサダ機関の方々ですよね? とりあえず…お聞きしたいことがあるので…
そうして現れた一人の女性は、得物こそ見受けられないが両手の人差し指から禍々しく長い茨を伸ばして血に濡れさせ、頬を恥ずかしそうに薄朱色に染めたヨルだった。
「き!? 貴様は茨姫…!?」
ヨルをその名で悲鳴交じりの声で呼んだ男達の青ざめた表情が示す通り、立ち位置などが変わっても夜はこの世界でもそのあだ名で呼ばれる暗殺者が本業のようであった。
結局、男たちが先に倒れた同僚の様に陸に上がって死にかけてひくひく震える魚のようになるまで、五秒と持たなかった。
今回、重い描写ですけどヨルさんにはギャグ的な清涼シーンも含めてちょくちょく登場する予定です。