〇帝国暦949年6月21日夜
「…とまあ、饗宴もやっとお開きになったようだし、僕達も明日くらいには帰るよ」
ドゥビュースが襲ってきた武装勢力を氷漬けにし、ヨルがそれを手引きした某国の諜報員達を締め上げてから数時間後、ドゥリュースはキラと共に地中海東岸部の星界軍駐屯地とその近場にあるヤマト家が旅行中のホテルに戻るべく、アスラン達とお別れの挨拶にかかっていた。
「やっぱりー今は士官候補生だからー自分らだけ豪遊ってのはそのメンタルにはきついー?」
「あー否定はしないけどさー…」
『…現在、アーヴ帝国領地球で開かれている銀河連合安全保障理事会諸国及にプラント理事国家群によるプラント処遇についての協議ですが、プラントの理事国による各理事国本国への分割編入を含んだ自治権と参政権付与について新たな動きが…』
「…今は条件付きながらー、何か良い感じになってそうな感じだけどー何かこれを盛大にへし折りそうな不吉な旗を感じとれるっつーかー…」
そのお別れの場面でも映し出されているテレビ画面越しに見えるニュースをドゥリュースは指さし、面倒くさいことは嫌だという顔色全開な様子を見せていた。
「…大丈夫だよ、どっちにもいる過激な人が言うような…プラントと銀連本国群で戦争だなんて起きたりはしないよBETAもいる状況で…、グレンさんやジブリール先生も色々な人たちの所を回って上手く話しを進めているようだし…」
「…だと良いけどさ~、いつの時代も過激な考えをこじらせちゃう人や凡ミスなんてなくならないし…、その二つが結びついてプラントの一つにこっそり独断で持ち込まれた核がドカーンと撃ち込まれたりして―――!?」
アスランは考えすぎたという様子で宥めようとするが、ドゥリュースが原作知識からくる不安を口にしたところで彼の額を強烈なデコピンが襲った。
「君がそんなことを言うと現実に起きそうな気配がするから止めなさい」
「―――ぇってあいてー!?」
「…あ! そうだ! 渡したいものがあるんだ!」
ジト目を浮かべたジョセフィーヌのデコピンされた痛みでドゥリュースがよろけたところ、アスランが何かを思い出した表情で小箱を持ち出してそれを開いた。
『トリィ!』
『スゥー!』
「きゃ!?」
「わ!? これって…?」
すると箱の中から機械的な音声で鳴きながら鳥型の小型ロボットが二羽飛び出てきて、緑の方はキラの肩に飛びついて驚かせ、水色の方はドゥビュースの肩に飛び乗って懐かしさと違和感を同時に思い出させた。
「…久々に二人に会えるって聞けて嬉しかったから…、それぞれのために作っておいて来たんだ…。いずれはーこうして機械越しじゃなくて…直接にそれぞれの故郷を平和に訪れ合えるようになるよ」
「…(…お、おぉ…まさかSEED本編でも強く印象に残ったあのシーンに加われるなんて…なんか感動が…でも…)だと良いけどさー…、あの菩薩みたいだけどその分に警戒心薄そうなレノアさんのことは心配だからー、なるべく職場とかは安全で守りやすい場所を選ぶようにって言っといてね―――」
「だから不吉なフラグを立てるのは止めなさいっての!」
「―――えってまたあいたぁ!?」
まさか自分が好きだった物語のあの場面に現実で加わったという感触に、ドゥリュースは懐かしさに似た感動を覚えつつも、同時に不吉の前兆にも思えてまた不安を口にしてジョセフィーヌにデコピンされて今度は尻餅をついた。
〇帝国暦949年6月22日朝
「…あー、やっと戻れたー。さーとりあえず部屋に戻って昼間からの観光の準備に取りかかろ―――」
「ごめーん、帰って来て早々に悪いけどちょっと臨時の仕事が来て君も来てもらうことにしたからー」
「―――ですよねー…」
次の日の朝、
「…………(…うっわー、二か国くらいの修技館や士官学校の先生とかに同年代の子たちがこんなにも大勢)」
数分後、ドゥリュースは白色の柔道着に着替えて、駐屯地にある映画マトリックスに出てきた和風道場のような基地内道場に出向いて無言になっていた。
どうやら、アーヴと遺伝上は同じく旧弧状列島に起源をもつ、銀河連合所属の有力国にして(自称正統な弧状列島の後継国家)である日本皇国からの留学生や使節に混じる少年世代とこちらの同世代の交流試合が予定にあったらしいのだが、アーヴ側の代表少年の一人が急な事故で来ることが出来なくなったので、現時点の動ける訓練生達で今回の交流試合に成績上一番向いていると判断されたドゥリュースがアーヴ側少年少女チームの代表として補充されたのだ。
「「「「「……‥………」」」」」
そうして対峙している日本側の同世代の少年少女たちだが、好奇心や興味など様々な色を見せているが、概ねは恐怖や疑心に蔑みなどの負のそれが程度の差はあれど強く出ていた。
「…………」
そして、ドゥリュースはこうして開かれた柔道の交流試合で先方にされてしまったのだが、相手方の先方の少年は目元を髪で隠し表情はうかがい知れないが、その容姿や事前情報に雰囲気からしてドゥリュースはどのような人物か把握して面倒くささを感じていた。
(…うわあ、もう名前に容姿からしてあのほぼ成人漫画な青年漫画の異世界ハーレム作品の不幸家庭育ちサイコパス邪神の人間時代まんま…。あんなのまで体育特待生枠とはいえ士官学校に入れるなんて向こうどれだけ人手不足と戦況とか逼迫しているんだろう…)
そのようなことを考えている間も話しは進行していき、ドゥリュースと相手方の先方の少年は衆人の注目の中心へ移る。
(…感じ取れる魔力の規模や質で実力は断然こっちが上だけど…勝つと逆恨みであの原作の主人公の家族みたいな犠牲者…はともかくして、そうしようとして逆に返り討ちとかにされるだろうけどその時に向こうは色々可哀そうなことになりそうだから、適当に接戦したのを装って負けよ…!?)
順調に近づいてくる試合開始の号令を前に、ドゥリュースは色々とアブリアルやアーヴらしくない感じの思考に入りかけるが、そこで極めて嫌な感じに慣れた視線を覚えてしまう。
ドゥリュースがその視線に釣られて日本側観客席の一角に目を向けると、そこには向こう風の衣装を着て髪を黒く染めて耳を隠して変装しているラムキースの姿があった。
(手ぇぬいて勝ちを譲るなんて相手も周りも舐め腐った真似したら…どうなるかわかっているわよね!?)
ラムキースは言葉こそ発していないが、その一瞬だが目が笑ってない微笑みを添えて見せた唇の動きで、息子にその意思を確かに伝えてきた。
(…わーってますよちっくしょーーー!!)
「試合はじめ!!」
「この馬鹿が…!?」
その通告をドゥリュースが理解して内心で悲痛な叫びを放った直後、試合が始まって相手方の少年が隙有りと見て嘲りの言葉を吐きながらとびかかるが、その伸ばした両手はドゥリュースに反射であっさりつかみ取られた。
「…は? ぎ…!?」
それに相手の少年はまず初めに何が起きたのかわからず戸惑うが、続けざまにドゥリュースに捕まれた彼の前腕が両方とも握力で握りつぶされてしまう。
「!?」
少年がそれに激痛を覚えて久方ぶりに恐怖を覚えた直後、彼の身はドゥリュースに襟首から掴み上げられ、豪速で畳に顔から叩きつけられて、畳の破片や歯に血を撒き散らしながら意識が闇に沈んだ。
「んなぁ!?」
「うわぁ!?」
「ひィ!?」
その凄惨な光景に、少年に難しそうな表情を浮かべつつも腕自体は評価していた眼差しを向けていた日本側の教官は驚きの声を上げ、後続の日本側代表の少年少女達は恐怖を隠せない悲鳴を上げた。
(やっちゃったわねぇ…いや、この場合はやらされちゃったというべきか…)
それに帝国側から出ていた代表教官の一人であるレクシュは、頬をポリポリと搔きながら苦い笑みを内心で浮かべていた。
結局、ドゥリュースほど悲惨なものではなかったが、後続の代表者達による試合も帝国側少年少女たちによる快勝で終わった。
「…いでえ!? いでええええええ! いでえよおおオオオオオオオ!!??」
「タ、タカシぃ!?」
交流試合が終わって数分後、血まみれになった両腕と顔に包帯を巻いた状態にて担架で運ばれている、交流試合の日本側代表の先方である金城タカシが衆目に構わず悲鳴を上げ、その彼に一人の少女が泣きじゃくって縋っていた。
「…やっちゃったわねぇ…」
「やってしまったな…」
「…あまり触れないで」
その様子を帝国側宿舎の屋根から、ゼツィーリュとレイカに苦笑いを浮かべられながらドゥリュースが微妙そうな顔で見ていた。
だが、帝国側の少年少女たちが個人の思いは別として概ね影のない様子で言葉を交わしていたのに対し、日本側は怒りや恐れなどで暗い表情を浮かべ合っていた。
「…まさかあの金城があんな惨敗だなんて…」
「すぐ暴力に走る馬鹿で人質を取るとかいけ好かないやつだったけど…腕の方は買ってたのに…」
「やっぱり遺伝子とかを弄ってる連中には…」
「いや、それが向こうの2名くらいは亜人だが遺伝子調整を受けていない地上出身だぞ」
「はあ!? そんなわけがあるか!?」
「どんなに言おうと負けは負けだ!」
「くそぉ、あんな謀反人の末裔共ばかりが良い目をしおって…!!」
「ですが大佐殿、そのような言い方はこの場では…」
その言葉のやり取りは負の情念を次第に強めていっており、一部はそれを危惧する声はあるが大勢の流れは覆りそうにはなかった。
〇帝国暦949年6月22日夕刻
「…あー、やっと交流とかも終わったなー。夕食は何処で食べようかー」
「そうだねー、パンフレットにはこんなお店が載っているけどー…」
朝方にて面倒なことが起きつつも何とか行事を終わらせた後、やっと自由の身になれたドゥリュースは近くの宿泊先から母親カリダの許可をもらって出たキラと共に、観光も兼ねて食事処を探しに回っていた。
「こんなお店もあるんだー。じゃーちょっと行ってみようか―――」
「へー、アーヴなんざ宇宙で踏ん反りがえってるかせかせか飛び回ってるものと思ったら、こっちでもぬけぬけと出歩かないと気が済まなくなったのかぁ?」
「―――あってまたこの流れですかい…」
だが、そうして平和に残りの自由時間を過ごそうとしたところで、お約束のように素行がよろしくないのが一目でわかる地上人系の青年達が絡んできた。
「え、えーーっと、何の御用でしょうか? 私たちー観光してきているだけでー…」
「は、ガキの内からご機嫌取りたぁこっちの連中はアーヴによく躾けられてるんだなぁ!」
「アーヴなんて機械相手にもそうできるなら俺達ともちょっと付き合わないか…!?」
それにキラが困惑と怯えを見せると、彼女の手は勢いよく隣のドゥリュースに取られてその身は地面から空へ勢いよく飛び立った彼に引き上げられて宙へ舞い上がった。
「…ふう、とりあえずここまで逃げれば気付かれはしないか…」
十数秒後、建物の屋上から他のそれへと蹴り経って行ってさっさとその場から反れることに成功したドゥリュースは、抱きかかえていたキラを下ろしてほっと一息を吐いた。
「…ま、前よりも魔法での跳躍とか飛行とかうまくなったね…あっという間にあそこが遠くに見えるよ…」
キラは驚きつつも遠くなった現場を感慨深そうな顔を向けた。
「あ、キラ、ここが偶然にもパンフレットのお店みたい」
「本当!? じゃー下りて食べてみようか…?」
そこで二人が下の階におりて夕食をとろうと考えたその時、二人がいる屋上に別の二人組が昇ってきた。
「それにしても駐屯地から戻ってきた人達は凄く騒いでいましたねぇ」
「ああ、自信をもって送り出した代表団が全員惨敗だからな…?」
そして、元から屋上にいた二人組と後から昇ってきた二人組にとって、互いに相手は他人とは言えない存在であった。
「あ! 達也!」
「深雪!」
「…え、ドゥリュース…!?」
「キラさん!?」
その二人組はドゥリュースとキラの地球留学時代にできた友人で、ドゥリュースの最初の人生での記憶にある作品“魔法科高校の劣等生”の同名の主人公やヒロインのこの世界での同位体である、達也と深雪の司波兄妹であった。
「…ち! あいつら何処に…!? 上手く馬鹿な連中をたきつけてタカシにあんなひどいことをして恥をかかせたお礼をしようとしたのに…!!」
ちなみにその頃のドゥリュース達が逃げ去った現場では、金城タカシに泣きついていた少女が彼らを探して回っていたが、普段なら美貌になるだろうその顔は苛立ちと理不尽な恨みで醜く歪んでいた。
次回より、今回の最後に出てきたあの兄妹絡みで色々なフラグが進んでいきます。