星界の輪廻   作:oosima

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今回、あのアーヴの意外な側面と、あの二人の関係が進展する場面があります。


022 事故は様々な変化の始まりとなる

 〇帝国暦949年7月25日昼 アーヴによる人類帝国(フリューバル・グレール・ゴル・バーリ) バルケー王国(フェーク・バルケール) ファリへー大公国 第5惑星アミトス 衛星マナテル レペス医療研究所○

 

「キイシャアアアアアアアァアア!!」

 

 オルムス人の国でもS2インフルエンザがますます猛威を振るってから数時間後、帝国(フリューバル)において同国最大の医療研究所であるそこにも、S2インフルエンザの患者達が運び込まれていた。

 

「…これでもう患者数は五桁に達しちまったか…」

「いやねえ、これでも向こうと比べたら大幅にましな状況ですよ」

「そうですね、向こうだと今は対異夷(ゼビーシュ)前線が押され続けて難民が大勢出続けて大混乱してますから」

「うちも一応は前線国家なのだがな」

「まあ、初めの頃にこれは当面撃退は無理だと判断したお偉いさん達が境界辺りの(ソード)の大半を封印していったことで星系はまだどこも落とされてはいませんけどね」

「その前からのこっちの警告を終始無視したり反発してきた向こうの国々から遅まきに逃げようとした難民が大勢やられて、それを見殺しにしてきたとか言われていますけど…」

「言いたいことを言いたいようにしか出来ない人達には言わせておきなさい。今はそういう人たちも混じってるだろうこの人さん達に協力してもらって治す手段を見つけることが最優先よ」

 

 そうした患者達やそれにも無関係ではいられない国際情勢にも触れて、研究所の職員たちは悩ましそうな顔を浮かべ合っていたところで、ラムキースが姿を現した。

 

「あ! ラムキースさん! あなたも来るなんてここもとうとう世紀末に入りそうですか―――!?」

「キイシャあアアアアアアアアァアア!!」

 

 その登場に周囲の職員及び研究者達は期待と不安が混ざり合った表情を浮かべるが、そこで彼女が乗ってきた輸送艦(イサーズ)から降ろされているコンテナの一つからそれを破壊して黒紋獣の一人が飛び出てきた。

 

「アア!? 危ない―――!?」

 

 黒紋獣は近場にいたラムキース目がけてその牙と爪を振り向け、周囲の警備員や研究者たちは悲鳴を上げた。

 

「おすわり!」

「ギジャベエ!?」

 

 だが、ラムキースは別世界のMSくらいのサイズと速さはありそうなその黒紋獣の攻撃を避けると、一瞬でその頭上に飛び移って、かかと落としで脳天からそれの頭を床へ盛大にへこむ勢いで蹴り落として気絶させた。

 

「―――いって…ああ、遅かった…」

「「「「「いやいや…」」」」」

 

 それに訳知り顔の面子は同情の視線を黒紋獣に向け、初めて見る者達は非常に微妙そうなものも感じる敬遠のまなざしを向けた

 ドゥリュースは信じたがっていないが、ラムキースは主に地上世界での菌類や植物を中心に研究をしている生物学者としての一面があり、その派生で薬学にも非常に強かったので、S2インフルエンザもとい赤眼病の治療手段開発のために招聘された身の一人であった。

 但し、今さっき見た感じでも、お世辞にも初見のものにはそうは見えない姿を見せることが多々あったりもした。

 

 

 

 

 

 〇帝国暦949年7月26日昼 アーヴによる人類帝国(フリューバル・グレール・ゴル・バーリ) スュルグゼーデ王国(フェーク・スュルグゼーデル) ウルス大公国 惑星サンヘリオス 衛星クィコスト スュルグゼーデ修技館(ケンルー)

 

『…とまあ、そんなことが昨日にあったらしいが特に感染の疑いはなく研究開発をさっそく始めているようだな』

「その連絡を聞いて残念だと感じる自分を通してアーヴの悪評の真実さを感じますよ…」

 

 次の日、その事を通信越しに橙子から聞かされてドゥリュースは少なからず残念そうな顔を浮かべていた。

 

「…とまあ、冗談半分はそこまでにしてその様子だと橙子さんも直にレペス医療研究所に向かいそうですか?」

『まあな、久方ぶりで直に出会いたい品がいくつも出来てしまったがそのための費用が高くつきそうだし…それには今回の報酬がうってつけだし』

「あーはいはい、それじゃー僕は授業兼実験もありますから移りますよー」

 

 だが、一方で国外ほどではないにせよ例のS2インフルエンザの脅威の強まりに、世話になっている人としばしの別れを近づけさせられつつあることも自覚し、ドゥリュースはそれを悟られたくも無かったのでさっさと通信を切って次の場所に向かった。

 

「…ほー、あれが例の水中戦仕様兵装“海士(ザーマ)”か」

 

 数分後、クィコストの元々は峻険な地形を生かしてそこに地上から大量に運んだ海水を流し込んで作り上げた広大な海洋性環境兵器試験場にて、ゼツィーリュが新鮮なものを見る顔を向けていた。

 彼の視線の先には、蟹のような二本の鋏と蠍の尾のような装備が付いたカブトガニを思わせる外部装甲を頭に被せるように付けたスローネが何体も水中で鮫のように高速かつ自由に動き回る姿があった。

 

「この中で一番いい動きをしているのはー…やっぱりレイカだなー」

(…概ねの形状はガンダムSEED二期に出てきたフォビドゥンヴォーテクスを改良したものなんだけど…中の機能とかは色々とこの世界に合わせて実用化させたGNドライブ…こっちでは粒子炉に合わせて改良しているのが上手くいったかな…)

 

 水中カメラや試験機体などから送られてくる映像は試験場の管制塔にも映し出されており、そこの技術者陣には別の場所から歓声を上げる

『…やーっぱり右蟹腕部兵装の反応が左側に比べて三十分の一秒は遅いですね』

「む、本当か?」

「ああ、まだこのあたりの思考結晶ソフトのプログラムに粗が…」

「まだ若い連中だけにやらせるとなー…」

 

 そうしてスローネの操縦適正訓練兼同期のテストパイロットもしている一人のレイカだが、彼女は正確に機体の不備さや欠点を正確に把握して管制塔の技術者たちへ正確に伝えていた。

 

「スポールは誰に対しても大抵口が悪いですが、そのために人や物を問わず対象の欠点を正確に把握してその改善策を見出す能力を持っているにしても…やはり彼女のそれは同世代の他の同族に比べて高いですなぁ…」

「ああ、これなら今後のスローネの正式機体試験用操縦士に名を連ねそうですなぁ――――?」

 

 試験で得られるデータと見出されていく改善策に技術者陣や教官達に軍の高官達は満足げな反応を見せるが、そこで大型魔術結界天窓越しに見える貨客船の一隻に不審な動きが見えた。

 

「―――あ…ん? あれはサルース系諸国船籍貨客船のジャイーラ号? 何か妙な動きが…!?」

 

 それに管制塔にいた面子の一人が気づいて訝しんだ顔を上げたその直後、そのジャイーラが後方より爆発を起こしてこちらに向けて火を吐きながら落ちだしたのが見えた。

 

「ええ!? 何か他所の船が吹き飛んだぞ!」

「しかもこちらに目がけて猛烈に落ちだしてきてる!」

『緊急警報です! 当修技館海洋性環境兵器試験場目がけて小型貨客船が爆発事故を起こして墜落しつつあります! 破壊すれば広範囲に被害が拡大する可能性が高いと見込まれたので不時着予定地点へ軟着陸させるべしと判断が下されました! 同試験場及び周囲の施設におられる皆さんは速やか且つ安全に所定の安全区画へ避難してください!』

「えぇ!? マジでぇ!?」

「いや! 天窓の複合結界の向こう側から明らかにこっちへ近づいてきてるぞ!!」

「いかん! 皆ー逃げろー!」

「アア! あんた飛べる家種持ちだからって狡い!」

 

 その放送と頭上から近づきつつある隕石の姿を見て、人々は一斉に猛烈な勢いで逃げ出した。

 

「…あれは…まずい!」

『え!? ちょっと待って!』

 

 それはレイカもまた同じく見ていたが、彼女は逃げるどころか真逆に自身が乗る水中戦装備スローネを操縦してその貨客船ジャイーラに猛烈な勢いで向かった。

 

『レイカ!?』

「あのまま下ろしたら試験場の地上部分に落ちて爆発して中の人が! 少しずらして水の中に不時着させるの! そっちは鎮火促進と消火直後にすぐ水を抜く準備をして!!」

 

 ドゥリュースが驚きを通信越しで伝える中でレイカは理由を説明しながらジャイーラに接舷すると、粒子炉を最大限に発動させて自身も魔力を最大限振り絞って、船の墜落方向を強引に変えて地上部分から人口海部分へ向かわせた。

 

「おおお! 理論上わかってて先の試験でも証明されたがこの危急の場で船一隻の軌道を変えるなんてすげえ!」

「機体の出力も凄いけど動かしやすい箇所をとっさに見抜くレイカも凄いわ…!?」

 

 部分的に透過された天窓を通り抜けてどうにか被害が少なくなりそうなジャイーラとそれを成したレイカの技量に人々は素直に賞賛するが、そこでレイカ機スローネと触れているジャイーラの箇所が着水する寸前で爆発した。

 

『あぁ!?』

「「「「「うワアアアァアアアあアアアアアアアアァアア!?」」」」」

「レイカ!?」

 

 その爆発による振動と衝撃波は管制塔内部も揺らして人々を驚かせるが、その中にいる分身義体を通して様子を見ていたドゥリュースはそれもろとも飛び出し、水中へ飛び込んだ。

 

「うわあ!? 沈んで完全に着水したぞ!」

「火は消えたのはいいが直ぐにあの区画を氷で仕切って内部の水を抜け!」

「中の人々の多くは長くても三分しか無呼吸状態は持たん!」

 

 それに気づいている有無を問わず試験場の制御班は即座に動き出し、ジャイーラ号の沈んだ箇所を氷属性魔術による壁で仕切って周囲と遮断すると、化学式ポンプ及び魔術を総動員して中の水を抜き出した。

 

「…大丈夫ですか!?」

「ゲホゲホ!」

「こっちの子供は意識がない! 即座に蘇生機能付き担架で運んで!」

 

 数分後、内部の水の多くは抜かれて露わになったジャイーラ号から生存者が次々と救出されていったが、その中にはレイカとドゥリュースの姿はなかった。

 

「レイカの方はまだか!?」

「レイカ機スローネが沈んだ箇所はまだ水につかっていて完全に抜くにはあと十分は必要です!」

「遅くはないか!? あのスポール嫡流とはいえまだ彼女は水中活動系魔術式を身に付けていないはずだ…!?」

 

 それに救出班が焦りを見せたその時、まだ使っている箇所の水面の一角が大きな水柱と轟音を生じさせた。

 

「うわ!? な、何だこの反応は…!?」

 

 救出班がそれに驚きの顔を向けると、水面に意識を失った様子のレイカを抱き上げた状態でドゥリュースが姿を現した。

 

「…さ、さっきの爆発の影響で…スローネの操縦席部分の外殻が損傷した影響でレイカが気絶したところで、隙間から浸水していたみたいで…。それに近づいて気付けたけどまだ僕が扱える魔術や使用許可の下りる兵装じゃ破壊して開けることは出来なかったんでー…分身義体を部分的に爆破させて押し開いて中からどうにか…あう…」

 

 どうにかレイカを救出して陸上へ戻ったところで、ドゥリュースは緊張の糸が切れたのか意識を失ってフラッと垂れ込んだ。

 

「…ッあ…カハ!? あ…え…??」

 

 そうして地面に投げ出されたところでレイカは意識を取り戻したが、そこで彼女がまず目にしたのは彼女自身の胸元に頭を下ろして意識を失ってしまっているドゥリュースであった。

 

「…ぇ、えーーーっと…な、何が起きて…??」

 

 意識が明瞭へ戻るにつれて状況を認識しつつもどうしてそうなったのかまだわからないレイカは、戸惑いつつも自身の胸に頭を預ける男の感覚を拒絶するのではなく、なぜか懐かしく覚え、その感覚に少しでも長く浸りたくなっていった。

 

「ま、まさか…片方はあまりらしくないが…」

「あのアブリアルとスポールで…こんな場面を目にすることになるとは…」

「あ、明日は隕石の雨でも降るのか!?」

 

 それを目にした救出班など集まってきていた周囲の者達は、良くも悪くも奇跡的な場面に出くわしたかのような感覚に陥ってしまっていた。




こういう青春の一場面って、書き手としても読者としてもニヤニヤしてしまいますよねぇ(ゲス顔)。
果たして、自分の娘や息子がこんな感じになったと聞いたら、あの星界二大名門宗家(?)に属するあの二人はどう思うでしょうか?(さらにゲス顔)
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