〇帝国暦949年11月1日昼
『…先月に病原体封印魔術式が実用化された赤眼病ですが、先日にてプラントでワクチン開発に成功した模様です。ですが、このワクチンは黒紋獣化した患者の治療は不可能とのことで、末期患者に対しては今後も赤眼病原体封印魔術式が今後も使用される通しとなっており…』
レイカと何やら海洋性環境試験場で一悶着が起きておおよそ4か月後、ドゥリュースはその現場であった試験場でS2インフルエンザ(赤眼病)についてのニュースを電脳空間越しに聞いていた。
「…これで軽めの症状での封印処置を施されている患者さん達の治療も進むかな(…それに貢献している要人の一人がうちの母だというのがあれだけど…)」
それにドゥリュースは少し複雑な思いをしながらも一安心という表情を浮かべていたが、脳内電脳空間のニュース画面を別のものに切り替えると、S2インフルエンザによる二次被害や三次被害などの報道が映し出される。
『…
ドゥリュースの記憶にあるガンダムSEEDの設定でも、S2インフルエンザ流行時にはコーディネイターによるバイオテロという風評被害が流れ、強まった差別や迫害に危険を感じたコーディネイター達の多くがプラントなど宇宙に移ったというものがあったが、この世界でも同様のものが銀河規模で起きつつも、帝国方面にも同様の事情で移民や難民が発生して流れ込んできていた。
現在、銀河系では銀河連合側に地球起源人類が、帝国側にはそれ以外の知性種族の大半が暮らしているが、お互いに少数派ながら相手方の主要種族が混住している。
銀河系に暮らす亜人種の多くは銀河系人類と違って魔術文化を身近なものとしてきたが、それで耐性が高かったのもあってS2インフルエンザの流行はそれを囲む多数派の地球人類ほど酷くはなかった。
だが、それで人類コーディネイターだけでなく亜人種まで圧迫を加えられる結果となった。
帝国成立以後は、その主要支配者も含めて大半が非地球人類であることや、遺伝子調整や魔術が一般的というのも手伝っての異物感からの拒否感や嫌悪感が強かったが、S2インフルエンザがそれによる差別をさらに強める結果となった。
『今回の帝国・プラントウィルスによる大惨事を忘れるな! 奴らから慰謝料を分捕ってやれ!!』
ドゥリュースが見ているそのニュースには国外のそれの映像もまた放映されているが、記憶にある限り最初の人生で見覚えのある某不動産王のように、大星洋連邦のある富豪が選挙演説として過激な主張を壇上でして観衆から喝采を受けている場面もその証左と言えた。
「…なーにを休み時間中だからってアブリアルがそんながさつさを感じさせない憂鬱そうに真面目に悩んでいる顔を浮かべてるの? 周りを却って不安にさせちゃダメでしょ」
「…あー、これだよこれ…他所の報道番組の…」
そこでレイカが授業で使用するタブレットでドゥリュースの頭を叩いてきたが、それでジト目になりつつも幾分か表情を軽くしたドゥリュースは彼女にそのニュースを見通した。
「…ああ、大星洋連邦の不動産王で有名なあの…私-この人の言動って古典的なのを感じるから割と好きなのよねー」
「何かスポール一族って毒舌なだけじゃなくって妙な感性の人が多いよね…。それとさー大丈夫かい? こういう未だに赤眼病が遺伝子や霊質解析で
割と悪くない興味を抱いた眼差しを向けるレイカに、ドゥリュースは彼女と共有する電脳映像に彼女の映像を浮かべた。
「あら、真面目そうに見えて意外と下半身に正直」
だが、それはレイカが以前に若くして修技館生徒グループによる広報部活動に呼ばれた際に撮られた、彼女の年齢離れした大人びたスタイルや怜悧さと齢相応の純真さが調和した美貌を明るく見せる水着撮影の時の映像で、見せつけられたレイカは薄い朱色に染めた頬を添えてジト目を彼に向けた。
「…そういう意味で見せたんじゃないよ。今回の赤眼病がはやる前は一族特有のその瞳はかつて毒々しさを帯びつつもそれも飲み込んだ紅玉の如き美しさと言われてたのにー、今ではー感染者に間違われやすくなっている理由になってるて言うでしょ?」
ドゥリュースが言うとおり、アーヴはともかく素人目が見るにはスポールの紅瞳と隻眼病の赤眼は見分けが付きづらかったのである。
「大丈夫よ。同じアーヴの人にはほとんどわかるし、わからない人が多いところでも非感染電子証明書を持ち歩いてるし、正確な情報が流れてもいちゃもんを付けてくる人たちには負けるような口には育てられてないし、それで逆上して物理で仕掛けてくる人には証拠抑えながら対処できるように色々と鍛えられているから♪」
それを交えてドゥリュースの少し笑みを浮かべた指摘に、レイカは綺麗だが何処か浅くないストレスからくる蔭を帯びた微笑を返した。
「で、何のために尋ねてきたの?」
「あー、これから来る冬の長期休館*1でどうしようかって考えていたんだけど…母の知人が経営している地上の旅館が、ようやく赤眼病対策による行動制限令が緩和されるんだけどまだ客足の回復には遠いから、宣伝用に来てくれないかってこの券を渡してくれたの。でも二人分も貰ったから私一人だけで行くのは何だし…そっちも予定がなければ…。というかあなたってこういう仕事に興味関心が乏しくてこのままだと将来は公衆の場で褒められない対応しかできなくなって、その時の不祥事系の取材でこっちまで取材が来たりして有難迷惑なことになりそうだから…」
「…え、何それ…?」
だが、ドゥリュースが渡されたその旅券と資料に視点を移すと、レイカの表情は何処か薄い朱色を添えて何やら様子を不安げに伺ってくるものに変わっていくが、彼に気付かれることはなかった。
「…そう、あの二人は上手く揃って旅行に行くことになったのね…」
数分後、別の部屋の中でレイカとドゥリュースのそのやり取りを聞いていた女性がいた。
水色のウェーブロングヘア―を三つ編みにして左肩に遊ばせ、サングラスで隠れているが紅玉のような瞳をしていて、どことなくレイカと似ている美貌をしていた。
「…まあねぇ、けれどいいのかい本当にぃ? 元からあんまり君とあの子は仲がそんなによくはなかったけどさぁ…スポールの娘がアブリアルに
「若くて且つスポールとして不出来だからって我が娘がアブリアルにあの程度にしか苦手に思われてないって親として心配なのよ。不安なら情を排して理屈で説明してあげましょうか?」
「―――えって…あ、はい…失礼しました…」
その美女に小柄な一人の少年を思わせるアーヴ男性が
(…さあ、とりあえず今回の旅で…普通のお淑やかなスポールとガサツなアブリアルの関係になるか、破綻するか、今のままの感じで関係を成長させるか…少し見物ね♪)
少年に比べて美女は何処か嗜虐心を多分に浮かばせつつも、奥底ではどこか未知なるものに対する好奇心に近い期待感を匂わせていた。
〇帝国暦949年11月21日昼
「…は~~、やっと行動制限令が緩和されて良かったー」
「うわー! お母さん! すっごく綺麗な海ー! 海面には人がたくさん遊んでる大きな水草が浮かんでるー!」
スュルグゼーデ
宇宙港の地上部分は赤道辺りに建設されていてコバルトブルーの海原やサンゴ礁が広がっており、その上を人が多数乗れそうな大きな現地生物である円形状の回想が浮かんで、そこで海洋レジャーなどを楽しむ人々の姿が見えた。
「…うわーお、すごく本当にきれいな風景ですなー(あかん、もしも宇宙空間基準でも冬の時にこんな南国観光地全開なところでアブリアルだなんてのがばれたら…めっちゃ人だかりが出来て胃が重くなりそう…)」
そうした地上に降り立つ旅行客の中に、サングラスを付けてキャップ付きの帽子を被って長くとがった耳などを隠してはいるがドゥリュースの姿もあった。
「…え? あの子…なんかいけてなくない?」
「目元はわからないけど…」
「…む…おい、彼氏の前でなにを…?」
アーヴにしては地上生活が長かった経験からか、ドゥリュースは灰色の半ズボンにノースリーブの白シャツという現地の暑さを考慮した格好をしていたドゥリュースだが、それで自覚はないがアーヴ生来の美しさ自体はあまり隠していなかったので周囲の視線や意識を少なからず集めていた。
「こら、そんな黙りこくって突っ立っていたら迷惑でしょ」
そのドゥリュースを、十代前半とは思えない豊かでありつつも美しい曲線美も持った身を白のノースリーブのワンピース式ロングスカートドレスで示し、つばの広い麦わら帽子を被って青いコンタクトレンズを付けて紅瞳を隠しているレイカが咎めてきた。
「うっわ…凄い美少女…」
「アーヴでも商談以外にも観光で来る人は多い星だけど…その中でも別格だわ…」
「こ、声をかけてみようかなー…っていだ!?」
「おい、彼女の前でなにを言ってんだこら!?」
そのレイカの姿に周囲はドゥリュースを目にした時以上の驚きを示した。
「生まれが生まれからして二つに割れた人たちの間を通らなくちゃいけない時期も来るだろうから、今のうちに慣れておかないと後で周りを巻き込んで誇れない姿をさらすことになるわよ」
「…修技館入る前から既にモデルやらグラビアで活躍して人目に慣れて図太くなってる誰かさんとは違うから…?」
「よー、宇宙から来た物好きそうな嬢ちゃん」
「ここまで来るほどに刺激が欲しいなら俺達とちょっと遊ばないかい?」
そんな人目を多く集める状況でも慣れた様子でさり気なく毒を吐くレイカにドゥリュースは不満が消えそうになかったが、そこでこうした観光地にはつきもののチャラくてガラの悪い男達が絡んできた。
「こんなところにまで無謀とすら思える勇気を見せてくださって面白くしていただきありがとうございます。残念ですが傍らからもう苦虫をかんだ表情を隠せない場面を二人きりで多く見たい、此度も出来れば
「ぬお!?」
それを見たレイカはばつの悪そうな表情を浮かべるが一瞬だけで、すぐにきれいな微笑み(ただし目元は笑ってない)に変わると、ドゥリュースを腕から掴んで引っ張りながら海上へ飛び移り、アメンボのように高速で走り抜けてその場を後にした。
「…ふう、悪い意味での陽キャみたいなのに絡まれそうになって少し面倒くさくなったけど…無事につけてよかった…。まー宇宙港からそんなに遠くはなかったけど…」
数分後、ドゥリュースは目的地のある例の巨大円形海藻の上に登って一安心をしていた。
ターフィチには地球時代に存在した淡水生植物オオオニバスに類似した円形状の葉をして海面上に浮かぶ海草の一種ガフィルーンバが存在し、大きなものになれば家屋すらも載せられる状態にまで成長して長い寿命を持っている。
今回、レイカがドゥリュースを誘って来たホテルのカフィーリュは、このガフィルーンバを多数繋げて構成される海上式リゾートホテルであった。
「おおー、現実に見るとすごいなぁ…」
「…まるで…地上世界で言う…新婚旅行みたい―――」
カフィーリュの地球時代赤道辺りの会場にあったとされる海上コテージを思わせつつもより大規模でしゃれている姿と、それに混じって見えるドゥリュースの背を見て、顔を俯かせてスポールのものとは思えない言葉を小さく漏らしかけた。
「あーはいはい、二人ともよくぞ来てくれたわねー。歓迎するから代わりに宣伝をよろしくねー」
「あ、イェランさん久しぶりー」
「―――ぃ…あ、どうもよろしくお願いしますわー……(まあ、現実はこんなものよねー…)」
だが、その最中にカフィーリュで同じく泊まるアーヴ女性の一人が姿を現し、それにドゥリュースは懐かしそうな声を上げ、レイカは何処か空しそうな微笑みに切り替わった。
次回、色々と主人公とレイカが地上世界で、何処かで見たことのあるキャラクターたちによって色々と振り回される予定です。