〇帝国暦949年11月21日深夜
「…確かに観光第一で来たけどさあ…こういうデスゲームっぽいイベントは聞いてないんですけどぉ!?」
「「「「「………………」」」」」
内部から切り刻まれて吹き飛んだ石柱の破片を蹴り飛ばしつつ、つい先ほど石柱に押しつぶされて死んだと思われた少年になったはずのリュース(ドゥリュース)が怒りの叫びを上げる姿に、周囲は呆気に取られてしまっていた。
「…あ! そうか! これってリアル臨場感追求型脱出ゲームか!」
「な、なるほどなー…でもよく出来てるよなー」
「それじゃー、次のステージにはどこから行けるんだー?」
「さっきの映像を流してた装置はー…っと、あの子が蹴り飛ばした岩で隠していた壁板ごと壊されてバチバチっと火花みたいな演出をしてるしー…」
その結果、拉致された人々は思考の幅に余裕を取り戻して現実的な答えを出し、安堵の空気が広まっていく。
そんな周囲にお構いなく、リュース(ドゥリュース)は今回のイベントへ無断で巻き込んだだろう運営側に文句を言おうと、先ほどの自分が蹴り飛ばした岩で崩れて露わになった映像機器の残骸に近づいていった。
(眠らされている間に
そう不満を内心で口にしながらもリュース(ドゥリュース)が手を機器の通信コネクト辺りに近づけると、手はその形をした水銀のような色に変わり、その一部が変形してUSBコネクトのような形状へ変形して、火花を上げている通信機器のそれへ繋げた。
〇帝国暦949年11月21日深夜
「おい! 何だ!? さっきから映像が途切れたままだぞ!?」
「せっかく帝国の平和ボケしたアーヴや亜人共の醜く面白い死にざまを見れると思ったのに!」
「今回のデスゲーム公演に出るために表向きは難民支援事業として莫大な金を費やしてきたんだ!」
リュース(ドゥリュース)がこの状況を仕組んだ側に文句を言おうと色々し始めていた頃、その彼に楽しみにしていた映像を見れなくされた人々が、この島で極秘裏に設営されたパーティー会場で文句や非難をぶちまけていた。
(…表向きは難民支援活動を装いつつ、秘密を知っている大口支援者を対象にしてデスゲーム事業を行うデッド・ウィ・チューブ・カンパニーのイベントに巻き込まれるなんて…、前々から帝国でも事業を拡げようってしてる情報は入手してたけど…。人様の無血無傷魔術式陣仕様コロシアムには世間で文句をつけてて、裏ではしっかと本物の生死の競売を楽しむなんていい趣味してるわねぇ…)
そのパーティー会場で働くスタッフの一人を締め上げて何処かに隠し、それに扮した状態で潜入しているイェランは周囲で声を荒げているデスゲーム観客達に冷めた眼差しを向けていた。
リュース(ドゥリュース)はリアリティ重視脱出ゲームと思っていたが、今現在の彼らはマジモンのデスゲームに巻き込まれてしまったのである。
(…とりあえず、外部に連絡して報せつつも証拠を押さえていかないと…無論、あの子達二人の救出もなるべくしつつ―――)
「ぶべぇ!? な、何だああ!? 勢いよく上から水がとんでもない量で流れ込んできたぞぉ!?」
「―――ぅ…え?」
この状況のまずさをこの短時間で調べ上げて見せたイェランは外部と通信できる箇所を探しに行こうとするが、そこで天井に見える換気扇の幾つかから大量の鉄砲水が降り注いでくるのを目にしてしまう。
「ブぼべええええ!? な、何だこの水はアア!?」
「し、知るかぁ! 早く逃げないと溺れ死んでしまう!」
周囲のデスゲーム観客達が自身の身を見る見るうちに引きずり込んでいく鉄砲水に恐慌状態を起こされていく中、イェランはその混乱の隙をついて他のスタッフから離れたタブレットを奪うと頭に内蔵されているタイプの
『…えーーっと、どうにか入口の幾つかは開けたけど…』
『あ、本当だー。あそこから出れそうだぞー』
『次はどんなのがステージかなー?』
『皆さーん、あまり少人数での行動はしないでくださいませー』
その画像は大分荒いが、映像先の部屋の機器からこの島の
「(…あー、事情を知らないままに外に出ようとここの
それに微妙そうな笑みを浮かべたイェランはデスゲーム観客席の中央に向かうと、その中心に位置している巨大な水晶玉を思わせる物体の表面を叩いた。
「…ん? あれ…イェランさん…? その恰好は…? それにここは…?」
その音に釣られて物体の中で目を覚ましたのは、ここへ拉致されたときにアーヴであることとその美貌からデスゲーム運営側を歓喜させ、極秘裏に帝国外部へ連れ出す前に余興として水晶玉型複合拘束牢に見世物として閉じ込められていたレイカが目を覚ました。
そして、イェランの背より赤黒いヒョウ柄のような模様と無数の吸盤が付いた長大な触手が何故か出てきて、それは水晶玉型拘束牢の一角を轟音と共に叩き割ってレイカを外に出した。
「…は、速く進まんか!」
「ば、馬鹿を言うな! 足を踏み外せば落ちて死ぬ…ぎゃああ!?」
「し、しまったぁ! 革靴だからて鉄骨から流れる電流で痺れ…あーれー!?」
数分後、デスゲームの観客達は自分たちの用意したデスゲーム会場を通って脱出を試みていたが、その一つである大きな谷間に電流が流れているのでゴム靴でなければ
「…え、えーーっとイェランさん…えー…なにあの人達…?」
「…手短に言うなら—、あなた達を含めた観光客達を誘拐してデスゲームにかけて楽しもうとするも、この施設の
それをレイカとイェランは高所にある岩の窪地から盗み見ていた。
「…と、とりあえずー放っておくのはあれだから…どうします?」
「とりあえずあなたの好きにしていいけど」
「…あ、はい、じゃーお言葉に甘えて…ッ!!」
レイカは今回の保護者の了承を得ると、片足をおおきく振りかぶるがそれは金色の炎が半分形を得た烏のような足となり、その鋭くも大きな爪で岸壁の一角を大きく蹴って切り裂いて、大きな岩塊が生じて重力に引かれていく。
「「「「「うワアアアァアアアあ!?」」」」」
それは下の谷の人のいない箇所に落下して橋のようになるが、当然その大きさから轟音と衝撃波を放って下側を揺らし、デスゲームの観客達を驚かせて悲鳴を上げさせ、何名かは谷底へ落ちてしまう。
「…あーー、やっぱり落ちたか…まー、下にも水が深く張ってあるみたいだから死にはしないだろうけど…」
「まあ、内臓とか金になるものをわざわざ使い物にならなくするとかしないだろうし…まー、高さからして無事では済まないでしょうけど…」
「しめた! あの落石が橋になったからあそこから逃げるぞ!」
「ちょっとぉ! 女性の私は登れないから上から引っ張ってよぉ!」
「お前さんは若いんだから自分で登らんかぁ! 帝愛喝ぅ!」
「ひょ、兵藤会長ぉ! そんなご無体なぁ!?」
「き、鬼道院様ぁ! あれだけお金を収めてるんだからお助けぇ!」
「デ、デリックゥ! 下級生をボコってクリケットで勝つのに協力したんだから引き上げてくれぇ!」
「馬鹿言うんじゃねえ! どうせアルウィン王家縁戚アーデン家とのコネが欲しかっただけのくそが…ぎゃああ!?」
それに気まずい表情を浮かべるレイカ達だが、デスゲーム観客達はその(比較的)確実そうな脱出ルートを見つけると他人と押しのけ合いながら群がっていく。
「…あれ、今度は周囲がガラス張りの細長い部屋に出たけどぉ…!?」
また数分が経過した後、今度はレイカが口にしているような部屋に一行は出るが、そこで部屋の向こう側にある出口付近から左右の壁を繋げる形で赤く細長いレーザーが生じて、入口に集まっていた観客達に高速で迫ってきた。
「ま、まずい! あれは戦艦の装甲の解体作業にも使われる超高威力レーザーを利用したステージだぁ! あれに触れたら抵抗できなく切り裂かれるぞぉ!」
「責任者を出せぇ! 腹を切ってぇ詫びを入れろぉ!」
「ハ、速く出口の真横についてる解除スイッチを誰か押せぇ!」
「馬鹿を言うな! あれだけ何本もレーザーカッターが迫ってきてるのに!」
「に、逃げ…しまったアアァ!? 入口からもう鉄砲水がぁ!」
「ひいい! 儂を助け―――!?」
その迫りくる殺傷力マックストラップに観客達は罵詈雑言や悲鳴を上げながら逃げようとするが、その一人で黒い和服に身を包んだ高齢の老人が倒れて手遅れになった瞬間にある救いの手(?)が差し伸べられる。
「危ない!」
「―――ぇ…!?」
レイカがその金色の炎を纏った片手で老人を頭から掴んで倒れさせてレーザー光線を回避させると、レーザーに傷を幾つか付けられるがすぐさまそれは金色の炎で消されるように回復していき、両手を広げて翼のようにすると高速で出口まで飛びついて蹴るように解除スイッチを押した。
「よし! 皆ぁ早く逃げて―――」
「ひょ、兵藤会長ぉ! な、なんてお姿にぃ!?」
「―――え…ぁ…」
ドアが開くとレイカは観客に避難を呼びかけるが、そこで自分が助けた老人がどうやら少し手遅れだったせいで髪の毛をレーザーカッターで切られて髪型が河童のようになり、彼女の手で押し倒された影響からか足で床を突き破って腰がやばい方向に曲がって白い目で泡を吹いて部下たちに心配されている状態と化してしまっており、彼女にまずそうな表情を浮かべさせた。
「…そこを進んじゃダメぇ!」
「ブごべぇ!?」
「鬼道院様アアアァ!?」
その次に、狭い廊下を巨大な石玉に追われるというステージで、足をくじいて轢かれそうになった日本皇国辺りの警察高官を壁の窪地に叩き込んで轢死から救ったりしたが、サイズの都合から助けられた当人の全身の骨があらぬ方向に曲がってしまってその女性秘書に悲鳴を上げさせたりした。
それから、各ステージでレイカは上手く死人が出そうな事態から観客達を守っていくが、そのたびに何かの代償なのか要人達の何名かは彼女の助けで死こそ免れつつも瀕死の重傷となっていく。
「…はーーー、やっと出られたよー…」
「あー、外だー」
「途中の道には何もイベントがなかったけど、ここからかなー?」
「…ん? 何か少し揺れが…!?」
数十分後、リュース(ドゥリュース)はどうにか自身で開けた作業用通路を通して地上へ戻り、続けてまだデスゲームに巻き込まれかけたことを知らない他の誘拐された人々もぞろぞろ出てきたが、そこで近くの森の中の一角が爆発した。
「うわ!? ここでも何かのアトラクションが―――!?」
「けほけほ! は~~~~…やっと出てこれたァぁぁぁ…」
「まあ、あの状況であなたくらいの若い子なのを考えると上手くやった方よ」
「―――あ? だ…誰!?」
それにリュース(ドゥリュース)は目を丸くするが、そこから立ち上ってきた土煙の中より疲れた様子のレイカと感心した様子のイェランが出てくると目が丸くなった。
「…あ、ド…リュース君! そっちも無事だったんだ!」
「あ…う、うん…まー気分はともかく体は全員大丈夫だけどー…レイカの方も
そこでレイカもドゥリュースの無事を知って偽名で呼ぶのを忘れかけて慌てて修正しつつも喜色を浮かべるが、彼に赤面した横顔を見せられてしまう。
「…え…? それってどういう意味…………え!? きゃあ!!??」
それにレイカが始め首をかしげるが、そこで自分の格好が気絶していた間にデスゲーム運営側によって露出度の高い高品質なセクシーランジェリーの衣装に変わって鎖付きの首輪を付けられていることに気付き、数秒の思考停止の後に羞恥心が一気に高まって悲鳴を上げながら赤面して蹲ってしまう。
「あーもう、とりあえずこれで体を隠すから…有害成分は封じてあるから安心して」
「…た、助けて…ここまで走ったことないから…心臓が止まって死んじゃう…」
「まー、こっちも色々聞きたいことがあるから助けは呼ぶわ(こっちのお上にだけど)」
それを見たドゥリュースが頬をポリポリと搔きながらその身より水銀色に輝く薄絹のようなガウンを生じさせてレイカの身を隠した直後、彼女の開けた穴より疲労困憊とした様子でデスゲームの観客の一人が弱々しい這いつくばった様子で地上に出てきて、イェランはそれかから上空に見えるこの惑星の衛星に存在する
今回、少しですけど本作主役と本作スポール家令嬢の関係に変化が生じました。
次回は、今回の舞台における後始末やおまけが中心になります。