前もって言いますが、今回のお話には何処かで見た気がするかもしれない描写が出てくるかもしれませんが、本作はフィクションなので現実における物や人に出来事などとは関係はございませんのでご注意をお願いします。
〇帝国暦950年1月1日夕刻
『…先月にてフォールィネ侯国にて発覚した外国人犯罪組織デッド・ウィ・チューブ・カンパニーによる集団誘拐及び人身売買ですが、帝国出身者だけでなく、銀河連合圏各地からの被害者も少数ながら存在していたことから、その出身者の大半を占めるプラントの市民代表連合が抗議の声明を改めて…』
年が変わってもドゥリュース達が巻き込まれたその事件はいまだに各種報道番組で多く時間を割かれており、帝国では直接的関係のない他の地上世界でも同様で、それはこの世界でのアーヴ社会でも宗教的に重要な聖地となっている地などでも同様だった。
「おい、聞いたかー? この番組でも以前記者が出てたー
「え? マジかよー?」
「“甘蜜の美花ほど根は土を枯らしていく”ってことわざあるけどよー、聞く感じだけじゃー綺麗に聞こえる事ばっか言う連中ほど裏じゃーマックロクロスケってことかよー」
「魔術を用いた戦いとかが見たけりゃー闘技場にでも行けばいいのによー。術式とかで死人や派手なけが人は出ないようになってるのにそこまで非難してるくせしてよー」
「案外さーそういうこと言ってる手前で見れなくてストレス溜まってたから集まったんじゃねーのー?」
(…はあ、14歳になった日で新年最初の日だというのに…相変わらずあの事件のことが何処でも話題になっているなぁ…)
そうして群衆の間でもしょっちゅう話題に上るあの事件に、表ざたになってはいないが観光中に巻き込まれた被害者の一人であるドゥリュースも、マーズテリア神殿総本山にある上階の窓の一つから複雑な表情を浮かべていた。
今のドゥリュースの身は
「
「…はい、かしこまりました。すぐに向かいます…」
そうした警護役に混じる帝国の補佐官の一人の進言を受け、ドゥリュースは紙の書類が並べられている机を離れて移動を始めた。
現在、ドゥリュースは新年到来に伴う帝国の現神教式新年祭の一環で、冬季の長期休館の期間を生かしてフォールィネ旅行を終えた後、
軍神マーズテリアはここ帝国では地上と宇宙のどちらでも最も人気の高い神で、それを奉じる中心であるぺテルーラの大神殿は帝国社会でも影響力が強かったので、新年祭には帝国から訪問する
(…イアス=ステリナと古代エルフ語で呼ばれる旧天川銀河系世界の超古代で最初の文明を築いたとされる先駆者と共に信仰される、千年以上前の“大災害”で異界より繋がり融合したネイ=ステリナ由来の現神族…この世界では地球時代日本で言う神仏習合みたいな感じだなー。まあ…正直こういう宗教面での良くも悪くもおおらか…もしくは雑な感性は受け継がれてよかったと思うけど…、けれどもその規模が余りに大きくなりすぎて、帝国外で広まった地球時代一神教由来宗教勢力が強い他所との対立理由も増えているから一長一短だけど…)
そうした今の自分の立場にも関わる帝国内外の宗教事情を考えながらドゥリュースが進んでいくと、目的の部屋の扉の前にたどり着いた。
「お久しぶりですね殿下」
そして、その扉が開かれると、そこには白と赤を基調とした女性神官の露出度は低いが体の美しいラインがわかる、右目を前髪で隠している黒の長髪と深緑色の大きな瞳をした、地上人出身の人間女性と思わしき美女が姿を見せて鈴のような澄んだ声で挨拶してきた。
「こちらこそお久しぶりですルナ=クリア卿」
その姿に対してドゥリュースが普段のアブリアルらしくないヘタレな態度を感じさせない、幼少期からの教育で染みついた自然な態度で礼節を尽くしていることからもわかるとおり、この時間軸でも彼女ルナ=クリアは先代となっても軍神の聖女として高い地位と影響力、それに見合う人格と実力を誇る人物として存在していた。
〇銀河連合 プラント小銀河 アプリリウス市 首都星系アプリリウス・ワン〇
「…痛いよー」
「お母さん、大丈夫ー?」
ドゥリュースが公務として国事行為に参加してから要人と出会っていた頃、プラントのアプリリウス市各所の病院は先週に起きた貿易港での爆弾テロによる怪我人で今も大勢の人々が寝たり行きかったりしていた。
「…何とか貿易港プラントの崩壊は免れられたが…」
その被害の復旧作業に今も駆られているプラント最高評議会本庁で、現議長のデギン・ソド・ザビはサングラスの奥で、コーディネイターならではの頑健な身でも耐え切れない深い疲労の色を瞳に浮かべていた。
デギンはBETAによる初のプラント小銀河侵攻の前に起きたブルーコスモスによる爆弾テロで、当時の評議会議長であったジオン・ズム・ダイクンが未だに続く意識不明の重傷となったことで、その後に臨時の最高評議会議長となって当時の混乱をどうにか収めたシーゲル・クラインの次に正式な議長となった中道派のリーダーである。
だが、先のBETA侵攻撃破に伴う混乱で理事国との対立表面化による激務の前に、権力を握った実感よりもそれについて回る激務による疲労の方が目立っていた。
「…ザビ高等評議会議長、また理事国から通達がぁ…」
但し、その状況でも理事国からの資源及び製品供給のノルマを達成するようにとの圧力は続いており、それが立場としては中立派だが心情的には穏健派に属するデギンの心労を更に増やしていっていた。
「またか! そもそも連中がブルーコスモスをろくに取り締まらないから貿易港まで破壊されてそれでS2インフルエンザワクチン供給にまで支障が出ているというのに!」
「それで今度の事件への対処のためと評して今までのテロでは派遣してくれなかった治安部隊を派遣してこちらが準備した自衛組織を抑えてそのデータを潰そうとしやがる!」
「ザビ議長! ただでさえ昨年から続くエネルギー供給ノルマ上昇で市民生活にまで悪影響が出ています! 理事国にもワクチンとエネルギーのどちらか優先にしろと迫るべきです!」
「先月の帝国領で発覚した事件のわかっている者だけでも我がプラントの市民が大勢犠牲になっていたことがわかっているんですよ! それぐらい言わないと市民が鎮まりません!」
それで重く沈んでいくデギンのメンタルとは逆に、周囲のプラントの要人達は怒りで撃こうして声を露わにしていく。
「皆よ落ち着け、今は何処で誰が聞き耳を立てているのかわからん…む?」
だが、悪いことは重なるとはよく言ったもので今もまた青ざめた表情でプラント指導者層補佐官の一人がまた新たなそれを持ち込んできた。
「ザビ議長、病院で入院中であったダイクン前議長の昨晩より急速に容体が悪化し、今朝に亡くなられたと…」
「…そう来たか…」
その報を耳にした瞬間、デギンは人目が無ければ膝から崩れ落ちたい気分となった。
「…! そうか、ダイクン氏がとうとう…」
一方、デギンの長男にして今現在はプラントの諜報部を取り仕切るギレンは自室でその報告に目を驚きでクワっと開かせつつも何処か納得を感じさせる瞳をし、やがて明瞭だが鋭さを帯びた眼光に変わっていく。
「…これは例の準備を急いだ方が良いかもしれません…。幸いにもアマルフィ議員のチームで前に完成させた核分裂強制停止技術…亡弟サスロ氏のデータも用いて…恒星レベルの核融合反応にも干渉可能な装置の実用化も目途が…」
「…! そうか…では、例の新ソ連で表向きは突然の超新星爆発でほぼ全滅したということになっている“第三の遺児”達の協力で進めている研究は…?」
「それはさらに進んでおります。今月中には治安担当と共に現場での使用が可能となります。そうすればブルーコスモスを始めとした鼠共がプラントに延ばしている手はすぐ根こそぎに…」
「…そうか、だが気を抜かずに更なる改良と拡充を…」
そのギレンの眼光は報告の進展とともに強まっていき、それは周囲の部下と思われる者達にも感染していくかのように、彼らの眼光も強まっていった。
「…そう、ダッチの方は失敗…珍しいわねぇ」
『それも無理はないかと…まさか星界軍や帝国警察が地上にまで動ける事態が発生するとは…。その状況でもブローカーのおかげながら船ごと侵入できて脱出までしたのだけでもすごいかと…』
同じ頃、アプリリウス・ワンの惑星の一つの軌道上を並ぶコロニーの一基にある公園の一つで、ウェーブがかった金髪が似合うスラヴ系の美貌をしているが、かえってその美貌にまで走る火傷跡が目立つ女性が携帯電話越しに報告を聞いていた。
「…まあ、大星洋連邦とか自称自由側陣営の連中が右往左往しているのは中々見物だけどねぇ…」
その女性は机に置かれたノートパソコンの画面より、銀河系で自由主義陣営と呼ばれる勢力圏での国際ニュースを見ていたが、そこでも先のフォールィネ事件での混乱が未だに鎮まる気配がないのを示している。
『…いやー、本当に色々と衝撃的な事件でしたねぇ。ショッキングな内容も多いですし…』
『ええ、これで今までは陰謀論とされてきた死傷前提地下闘技場とか、各国富裕層での大規模人身売買など発覚しましたし…』
『この事件が国際政治的にも深刻な悪影響を及ぼすとの話ですが…?』
『ええ、今回の事件で逮捕された加害者にはこれまで難民支援で重役を担っていたか、大手の支援者を務めていた人物が多数含まれています。現在各国で強まっている難民排斥を主張する極右には格好の口実になるでしょう』
『更に帝国との関係悪化にも拍車をかけることが予想されます。現在の帝国の宰相は中道派ですが難民政策には受け入れ厳格化と流入制限を主軸としていました。現地の代官は親連合派が多い左派所属でしたが、こちら側での調査でも信頼性が高いと判断された情報からも、最低でも犯罪を知りながら黙認していたか協力していた可能性が高いとのことですから…』
『難民受け入れの寛容化推進と対帝国関係改善を訴えていた大星洋連邦のオマハ政権には少なからざる打撃となるでしょう。逆に今現在の野党及びそこでの大統領候補となっているあの人物は大喜びするでしょうねぇ…』
『…先ほどアーヴ帝国の現保守派代表が公式記者会見の場で、“今後からこのような催し物を見たい方は主張を問わず、我が国の出席者と観客どちらの安全にも考慮された闘技場のご利用をお勧めする”との皮肉を…』
それは同じ銀河連合圏に属しつつも、彼女の所属先とは思想的に対立する陣営の内情を映し出しており、彼女に愉快そうな表情を浮かべさせた。
『…次に大星洋連邦最大野党の大統領候補となっているあの人の先日に行われた公式会見での映像を流します』
やがてそのニュース画面は大きく変わり、ドゥリュースが見れば恐らく最初の人生での記憶にある何処かの問題発言ばかり取り上げられるあの不動産王的な既視感を感じさせる大柄なヨーロッパ系の男が演説台に上っている姿が映し出される。
『今回の件で我々を今まで陰謀論者と嘲ってきたダミー・リベラル派の化けの皮が剥がれた! だが! 今回の件でようやく尻尾を掴めたディープ・ステ…失礼! ダーク・ガバメントの本体は今回捕まった連中をトカゲのしっぽにして逃げ切ろうとしている! 今はまだ見つかってないが今回の件を突破口に我々は必ずあのダーク・ガバメント本体に必ずこの言葉を突き付けて見せる…』
『『『『『………………』』』』』
その男の言葉を彼の演説会場に集う人々は固唾を飲んで見守っており、それを見た男は数秒の沈黙を置いたのちに、拳を高く突き上げてこう高らかに宣言する。
『…アブリアル共! お前たちはリストラだ!!』
『『『『『ワアアアァアアアァアアアァアアアアアアアアァアアアアアァ!!!!』』』』』
『『『『『USGS*1!! USGS!!』』』』』
そうして叫ばれたその男の暴言要素を隠す気のない宣言に、会場に集う何十万もの群衆から大歓声が巻き起こった。
「…クックックック、あの国の選挙とはいつも祭りのようで面白いな」
『まあ、その辺については同意見ですが…帝国の方はまだこちらの調査でも現地の代官よりも上の存在とのつながりを示す証拠はまだ見つかっておりません。幾つか入手できた情報も荒唐無稽なものばかりでー…』
「ほう、どのようなのだ?」
『…何でもフォールィネ事件で誘拐されて救出された被害者の中に、アーヴが混じっていたとか、それが
「酒場の席でのジョークでも使えん類だな。今後もそちらは現地での調査を続けるんだろう」
その演説に滑稽そうな笑みを浮かべた女性は帝国側現地での話の幾つかを聞くが、現実はもっとそれ以上に奇であることをこの時点では完全に理解しきれていない彼女は失笑と共にこの場では聞き流した。
「…さあ、私も最前線へ貼り付けられ続けている祖国へ戻る前に、恩人たちへの土産物を買っていこう。スミルノフ少将やラトロワ中佐達へのな…」
『出来ればこちらの分もよろしくお願いできますかな? ミス・パブロヴナ』
やがてその女性パブロヴナがその場を後にすべく立ち上がったところで、ノートパソコンは別のニュース映像を映し出す。
『…続いて先月に帝国のウルス星系サンへリオス・ぺテルーラで開かれたレヒリオン教マーレ教会教皇聖下と現神教マーズテリア神殿ヴェルゼリモ聖下の会談についてのニュースです。マーズテリア神殿の先代聖女ルナ=クリア氏が難民支援事業の継続について…』
「………ッ…」
そのニュース画面に映し出された、今現在ドゥリュースが帝国で出会っている女性の姿に、パブロヴナは一瞬だけだが複雑な表情を浮かべた後にノートパソコンの電源を切った。
今回、色々と各方面がきな臭くなってきている感じが立ち上っていましたね。次回にはその影響を受けている各現場の様子も映し出される予定です。