〇帝国暦950年1月5日朝 銀河連合 プラント小銀河 首都星系アプリリウス・ワン○
「…そういうわけで、市民の間には既に不安から買い溜めに走る動きが多数出て、食料品価格上昇に止まる気配は見られません」
レノア達の元まで実生活悪化に関わるニュースが届いてから三日後、プラント最高評議会でもその悪影響に対処するための緊急会議が開かれていた。
「…今回の原因となった帝国での大誘拐及び人身売買事件の今現在の状況は?」
「帝国が容疑者を中立国のノルド王国に引き渡し、同地で聞き取り及び現地フォールィネにも銀連(銀河連合の略称)の査察団が入りました。ですが、新ソ連はともかく反帝国感情が強い大星洋連邦とEUの査察員の調査から見ても、帝国の関与は現地代官よりも上で黒いつながりは今のところですが確認されていません…」
「まあ、かの帝国の防諜体制と治安対策の厳格さと精密さは大星洋連邦の国家情報庁や連邦警察庁が認めているところですからな。銀河連合圏最強諜報機関と名高いオルムスのマサダ機関の明らかになっている犯ざ…失敗の9割以上はアーヴ絡みのものばかりです…」
「そのためか、身柄を返還された要人達の公開質問や尋問は始まって三日と経たずにご本人たちの体調不良を理由に中止されたようです。どうやら自分達にとって都合の悪い証言や情報ばかりが出てきたことに理事国側はご不満だったようで…」
「まあ、その辺もナチュラルとコーディネイターの差と言ったところではありませんかな?」
評議会の話し合いはその原因となった事件に絡んで脇道にずれ、嘲笑や共感を帯びた発言に切り替わったりもした。
「事件であらわになったスキャンダルを談笑の種にするのは会議が終わってからでも出来る。今の我々が最優先すべき課題はそのとばっちりでこちらまで食糧問題悪化の影響が出てきそうだということだ」
その脇道から話を本題に戻したのは、この世界におけるプラント最高評議会
何せ今現在この銀河系はBETA*1によって銀河連合圏を中心に次々と各星系を陥落させられていき、それに伴う失地星系拡大と難民の増加、徴兵対象拡大による労働力減少が原因で食糧事情は余裕に乏しい現状にあった。
そこで、元から農業用地に向いた惑星がさほど多くない上に、理事国から農業開発に厳しい制限を掛けられているプラントにとって、今現在人類宇宙全体の食糧庫となりつつある
「…それにつきましてはハニア大星域左下端部に位置する*2グ・ビンネン商業ギルド連合*3との秘密交渉で朗報が入りました」
「カナーバ議員、それは南星洋合衆国*4との秘密裏のパイプ建設のための交渉で進展が?」
「はい、BETA現象起因と思われる高温性星間ガス異常発生に伴う居住化惑星における急激な温暖化対策技術の秘密支援を条件に、食料を優先して輸出してもらえることが可能となりました」
「おお! よくやった!」
「向こうは上に位置する大星洋連邦による経済植民地化政策で不満が高まっていたところで、農地拡大のための開発で不足していた労働力を補うために新ソ連やその衛星諸国の星系陥落で生じた難民を受け入れるも、それに紛れた工作で反大星洋感情が表に出て反大星洋政権が近年多く生まれましたからなぁ」
「そうした各国と社会主義陣営国の票を得られれば、今度の銀河連合総会及び理事会における交渉でも進展させるのは夢では…」
そのプラントにとって目下最大の問題である食糧事情で改善策の成功が確実となれば、評議員達はそれまでの悪化し続けていた状況からの好転と言う反動もあって喜色も隠せなくなる。
だが、好事魔多しという言葉が示す通り、今回の朗報にもそれとは無関係ではいられない新たな凶報が舞い込んでくることになってしまう。
「評議員の皆様! 失礼します!」
「!? 何事だ!? まだ会議中だぞ!」
故に、その喜色に水を差すように血相を変えた表情で補佐官が入り込めば、反動で驚きが示されるのもあり得る話であった。
「申し訳ありませんザ、ザラ防衛委員長! 会議中なのはこちらも承知の上です! ですがそれだけの報が入りましたので何卒…!」
「そこまでかしこまらなくていい。それだけの報せが来たのだろう。最も…その様子からして朗報とは思えんが…早めに聞いた方が対策に考えられる時間を回せるからな」
「は…ありがとうございますザビ議長閣下。今年に入ってから帝国は新年式に入り、それでかの国の皇族は公務として地上世界へ降りることが頻繁になっているのですが…」
その驚きで生じた叱責に顔からさらに血の気が引きつつも、補佐官がデギンに促されて新たな凶報を報告しだした。
「…何だと!? このタイミングでか…」
聞き終えた直後、デギンが本会議で初めて落ち着きを崩して苦虫を嚙み潰したような表情に変わり、動揺は他の評議員達にもうつるように広まっていった。
〇帝国暦950年1月5日昼 銀河連合 オーブ連合首長国 ヘリオス星系
「…や、やっと出来たよクッキ~~~~…フレイ~~ありがとう~~~~!」
プラント最高評議会にある凶報が入ってから数時間後、ヘリオポリスの方でキラがようやく成功の評価を出されたクッキーを手に感涙を流していた。
「…ところどころ形は変なのになってるけど味は普通においしくなったから…まあ、今回はこれで成功にしましょう…。ぶっちゃけ…これ以上やったらキッチンがもっとひどいことになりそうだし…」
そのクッキーを同じく手にしているフレイが乾いた笑みを向けているのは、所々が焦げたり破損したりとまるで銃撃戦の舞台になったかのような惨状と化しているキッチンであった。
「(…子供の頃に、パパに連れられてノルドの雪国にある…コーディネイターや亜人にそれと結婚した人たちのいる隠里へ行くまでは…、コーディネイターやアーヴの人達って怖いってイメージがあったけど…この子を見てると根っ子辺りはあんまり変わんないって感じになるわねぇ…)あーキラ、喜んでいるところ邪魔するけどカリダさんが帰って来る前にとりあえずいつもみたいにキッチンを直しましょ―――」
そうして床などに散らばる破片などを苦笑いで拾い始めたフレイであったが、そこでキッチンで無事となっている箇所にあるテレビの画面が切り替わった。
『緊急速報です。三日前の一月二日にてアーヴ帝国のウルス星系の惑星サンヘリオス地上にて、同国の新年祭のためにぺテルーラのマーズテリア神殿での儀式に出席なされていた同国のドゥリュース王子殿下がテロ事件に遭われた模様です。被害状況につきましては…』
「―――ぉ…はぁ!?」
そのニュース速報にフレイはギョッとした表情を浮かべるのも無理はなかった。
「…え!? リュースまた何か大変なことに襲われでもしたの!?」
続けて、ようやく成功したクッキーはそのニュースで驚いたキラの手から零れ落ち、床に当たると無残な幾つものかけらへと変わるのであった。
〇3日前 帝国暦950年1月2日昼
キラ達にその凶報が伝わる三日前、当時のドゥリュース達は難民キャンプの査察団に加わって同地サンヘリオスの一角に設けられた難民キャンプの一つに向かっている最中であった。
「…あちらがサンヘリオスにある国外戦災難民を受け入れている第17難民キャンプ…(…あのアーヴ女ガープに連れられて秘かに出向いた他国の難民キャンプとはここもえらい違いだよな…)」
浮遊飛行車よりドゥリュースが見下ろすその難民キャンプは、憶えている限りは最初の生で生まれ育った弧状列島での震災被災地に建てられたプレハブ建築物群と酷似しており、そこで暮らす人々の表情も疲労や不安こそ見えるが、環境の好転からくる安堵の念の方が強かった。
(…砂嵐やスコールが吹き荒れ…更には銃弾や砲撃が飛び交う中でも、穴だらけのテントにやせ細った身を慰め合うか…そこから逃げても荒野で朽ちるしかない…戦場ばかりだろう環境からここに来れば無理もないか…)
「…やけに現実味を帯びた眼差しで彼らを見られるものですね。まるで…間近で接してきた…いや、まるで実際にあの中でももっと凄惨な状況で少なからざる時を過ごしていたかのようですな」
「…ッ…」
その光景に安堵と自虐と言われる感情が複雑に混じるドゥリュースを現実へ驚きと共に引き戻したのは、
彼は対
「…正直、その瞳を持つ方が貴国の御皇族方にも居られるとは…少しですが正直安心しました。前々回の大戦において連合軍の勝利に大きく貢献しながら、その後の銀河連合創設会議にて物別れして参加せずに終わった貴国…。まるで前々前回の大戦で銀河連盟創設を唱えながら議会の反対で参加できずに終わったUSGSの姿を多くの人に思わせました…。その後、難民条約を始めとして国際条約のほとんどにも参加しないままの状況が長く続いた中で始まった今のBETA大戦…。それまで今まで貴国を都合の良い共通の敵としてきた我らの領域から出た難民を受け入れられた事にも個人的ながら納得と感謝の念を覚えられました…」
「…そのような大したことではありません。誼を通じさせてもらっている国々からの注文増加に伴うこちらの地上世界での人員不足…この状況で少なくなりつつある国外市場防衛の必要性が一致しただけなので気になさらない方が良いかと…」
「正直と謙遜はアーヴのあまり知られていない美点の一つですが、しすぎると嫌身に聞こえますからご注意した方がいいですよ」
「…我々が“理念を掲げる国家”にいかがわしさを表明しているのもありますが、貴国らがそれ及びその派生を国民の方々に広められているのも大きいかと。まあ、我々としてもその悪名は色々と使わせてもらいもしましたが…。おかげで他国のように故郷を追われた方々が冷静さを失って闇雲に避難なさって来ることによる混乱と被害はお互いに少なく抑えられました」
「…そ、そうでしたな…お手柔らかに…」
その外交官は車での移動中もずっとドゥリュース達との会話を続けており、時折その言葉に嫌みが混じったりもしていたが、ドゥリュースに身体の年齢以上からくる(偏りはあるが)良くも悪くも豊富な人生経験に基づく修羅場の数々で培ってきた静かな威圧感を添えた皮肉を返されると、齢若くてそういう経験がなかったらしい外交官は卑屈な態度に切り替わる。
「…それですが、言いづらいですが先のフォールィネ事件の影響ですが、くれぐれもあの件は我が国も含めた各国国民全体の総意ではないことは、貴国のそれと同じようであることをご留意していただきたいのです…。今現在、銀河を襲っている脅威に対処するには各国の協力が必要であり、そのためにも難民救済は各国で協力していくことが必要であり…」
「それについては私には直接的な決定権はございませんが、お互いに問題はないことはないにせよ現状の状態を基盤に進めていけば大過には至らないかと思われます。仮に、こうして我が国の地上世界でも集められる合法的な原料を元手に制作した攻撃手段でこの訪問団を襲撃でもしない限りは―――!?」
外交官の何処か縋りだしたような態度に、ドゥリュースは表向きこそ特に何の感情も示さずに可能性が非常に低いその懸念を口にして安堵させようとするも、そこで車窓の向こう側に見える高山の一角から何か激しく燃焼する音と、そこから不安定的な軌道を描きつつも細長い何かが発射されてこちらに向かってくるのを目にしてしまう。
『死ねぇ! コーディネイターの元凶アーヴゥ!!』
『プラントのコーディネイターを支援しおってぇ!』
『アブリアルよ滅べぇ!』
『真に青き清浄なる世界のためにぃ!!』
「―――あって変なことを言わなければよかったぁアアアア!?」
「「「「「うわあアアアアアアアアァアア!!??」」」」」
そして、そこから地球時代の某天井無し監獄に押し込められていた人々の過激派のように手作りロケットをその狂気的な咆哮と共に浴びせてくる姿に、ドゥリュースは齢相応の後悔に満ちた声を上げ、無数のロケット弾が迫りくる光景に一行の多くは悲鳴を上げた。
次回も、アナザーガンダムでもっとも有名なあの自然環境保護団体(?)のご活躍(?)が関わる予定です。