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〇帝国暦950年1月2日昼
『やった! この数のロケット弾ならいくらアーヴの首魁一族でも助かるまい!』
帝国で有力な惑星の一つサンヘリオスにある帝国外難民キャンプの一つへ秘かに設置されたカメラを通して、その機械越しの声は勝利を確信できる光景を目にした喜びに襲われていた。
彼のまなざしはカメラ越しながら無数のロケット弾が、不安定的な軌道ながらも多くが間抜けにも地上に降りてきたアーヴの皇族が乗る浮遊飛行車に迫って直撃しようとしている姿が映し出されていた。
悍ましいアーヴに隷属する汚らしい亜人に頭を下げてその領域で働き、必要な金と資材を集めて間抜けな連中の目が届かぬ時間と闇の中で、時代遅れだが殺傷力はある火薬式ロケット弾を作り続けてきた意味がようやく形を成せたのだ。
『ええ! こいつで忌まわしいアブリアルの汚らしい血の一つを消せるだけでなく! それにへつらっている連中の出鼻を挫くこともできます! それも我らブルーコスモスの手で…!?』
それに別のカメラのマイクからも狂気の悦びに染まった声が出るが、それから彼らが目にしたのは撃ち落とされるはずだった車の車窓から無数の白銀色の何かが超高速で飛び出て、当たるはずだったロケット弾を瞬く間に撃ち落として花火の出来損ないに変えていってしまう。
「…は? な、何が起きて―――!?」
難民キャンプにある山林の一角に設けられたロケットの秘密発射台にいた襲撃者の一人はそれに戸惑いの色を見せるが、その次の瞬間に彼の四肢はそれと胴体との繋ぎ目より先ほどロケット弾を打ち落としたものと同じ何かで打ち飛ばされて背後の岸壁へ貼り付けにされた。
「―――えッぎゃああああアア!?」
「た!? たいちょオオオオオぁギア!?」
その衝撃と激痛に悶絶する仲間の姿に他のメンバーも恐怖と衝撃に襲われる中、そのメンバーたちも次々と同様の状態で壁へ貼り付けにされていく。
「…な、何が…!?」
そうして身から猛烈に生じてくる激痛にかき消されて薄くなっていく意識の中で、襲撃者たちがまず目にしたのは、我が身にめり込んでいる水銀が氷結して出来たような砲丸とそれから伸び出て彼らの身を壁に貼り付けにする触手。
「………」
そして、撃ち落とされるはずだった車の薄く開いた車窓の向こう側より、凍り付いた水銀で出来た篭手のように変貌している指を示して、不機嫌そうかつ少年のものではない冷酷なまでに冷たい双眸も無言で見せるドゥリュースの姿で、それを視認した瞬間に襲撃者達の意識は闇に沈んだ。
『お、おい!? 何が起きた!? 速く返事をしろ―――』
『あーすみませーん、お話とかを署などでしたいので大人しくご同行してもらえますかー?』
『―――ぉ…って誰だおま…あぶべええええええええええ!?』
それをカメラ越しに見ている別箇所のメンバーが狼狽を隠せない声を上げるが、それはある時間軸では敵国のスパイを夫に持つ殺し屋の女性を思わせる何処か抜けた声を契機に始まった激しい殴打や破壊の音に混じって悲鳴に変わった後に沈黙した。
〇帝国歴950年1月8日昼 銀河連合 プラント小銀河 首都星系アプリリウス・ワン 第三惑星アスカティシア アスカティシア学院〇
『…六日前に帝国ウルス星系で起きたブルーコスモス系難民によるサンヘリオスで起きたテロ事件ですが、襲撃を受けたドゥリュース王子殿下はご無事の模様です。ですが、テログループメンバーに対する制圧の方法について過剰ではないかと意見が…』
(…リュース…無事でよかったな…)
本人の気分はともかく、サンヘリオスで起きた銀河系最大の大国の皇族を狙った一大テロ事件が起きてから六日後にして、それを聞いたプラント最高評議会に震撼が走ってから三日後、プラント小銀河で開拓された惑星の一つにあるその学院の食堂でアスランはそのニュースを聞いて安堵の念を浮かべていた。
今現在、アスランは母と同じく惑星改造と開拓を仕事にすべくこのアスカティシア学院に通っていた。
「どうしたんだアスラン? 何か帝国に知り合いでもいたのか?」
「…ああ、ウィスタリオ…」
そのアスランの普段は浮かばない表情に気付いたのは薄いクリームがかった短い銀髪をした同年齢の少年ウィスタリオ・アファム。
プラント小銀河の辺境星系の地上世界の高山地帯で鉱物採掘業を営む会社の社長の息子である一方で、同地を観光地にしようとここアスカティシア学院に働きながら学んでいる身の一人だ。
「おい、ウィスタリオー! お前もうそろそろMSによるここの鉱山区域で開発実習兼MS実験があるだろー! 速く準備しろー!」
「あ! すみませーん!」
アスランと会話中にウィスタリオは教員の一人から呼び出しを受けて慌てて彼の傍から離れた。
「ウィスタリオ、今日も実習と言う名のアルバイトか…」
「仕方ないよー、うま味とかほとんどは理事国が吸い上げていくもん…」
だが、そんな会社の御曹司でもあるウィスタリオも既に学業の合間とはいえ実質アルバイトしているように、学生の内から働いているというのはここアスカティシアも含めてプラントでは珍しくはなかった。
天川銀河系失陥の可能性が年々上昇している中、理事国は本国を捨てねばならなくなった時に備えて、差別し監視下に置くコーディネイターを酷使してプラント小銀河の開発を過剰なまでのスピードで進めているため、プラントの各所は万年どこも労働力不足なためであった。
「…おーい、ここに集っているガキ共ー、良いところにいたなーちょっとこっちの品を運ぶのを手伝えー」
「「「「「ええーーーー!!??」」」」」
そんな地球時代よりも人権的な問題がありそうな境遇の子供達に、改めて悲鳴を上げさせる事態がまた起きた。
「あーもうそんな悲鳴を上げるなガキども、運ぶのを手伝えばこいつの中身の一部を分けるから」
そのブーブー言う学生達を面倒くさそうにしつつも宥めているのは、右目を前髪に隠した黒に近い濃い青色の髪をしたアーヴ女性の教師で、アスランが心配していた同族の少年のある女友達に近い容姿をしていた。
「中身の一部ってどんなのですか?」
「地上で世話になった知人の実家が営む農園から送られてきた天然物果物の類いだ。規格外品を安全なルートで回してもらった」
「え!?」
「マジで!?」
だが、そのアーヴ女性教師がその段ボール箱の中身を明かすと、子供達はあっという間に不満の色から喜色に変わって彼女に群がりだした。
食糧生産を厳しく禁じられて、更に食糧の輸入元である理事国がある天川銀河もBETA大戦勃発による食糧事情の悪化で、プラントに向ける分の食糧は大半がプランクトンなどを加工した合成物が大半であった。
そんな環境下で育ってきたプラントの子供達には、天然食品は垂涎の的であったのだ。
「お、おい! 皆あまり大きな声を出すな―――」
「ん? ディアッカ何だーあの人だかりは!?」
「何か向こうのユニウス寮の連中に天然ものフルーツが届いて仲間内で分けようとしてるってよイザーク!」
「え!? マジで! 俺も行くわ!」
「あ、駄目ですよラスティー! もう次の授業が近いですよ!」
「腹が減ったら戦は出来ねえって奴だニコル!」
「天然ものフルーツなんてそこまで珍しくはないだろう?」
「全員がお前みたいに何年も安全な後背地で暮らせていた身分じゃねえんだよガルマ!」
「そうよ! あたしなんかフルーツなんて誕生日の時くらいでしかも合成食材だからなんか血の味が混じる感じなバナナくらい!」
「俺なんかメロン味パフェくらいでそれも結局合成食材だからなんか同じ合成のキャベツやピーマンみたいな味が混ざってた!」
(―――あってああぁ! やっぱり食品格差の性でまた大勢来たー!!)
その事情を深く知るがゆえにアスランは盛り上がる同じ寮の仲間達を落ち着かせようとするが、コーディネイターならではの鋭敏な五感で嗅ぎ付けた他の寮の生徒達もその俊足で群がりだし、あっという間に寮の食堂内はごった返し出した。
「アア!? もうそんなギュウギュウ詰めになるな! 段ボールやクーラーボックスにしか守られてないんだから潰れるぞ…!?」
それに圧迫感を覚えたアーヴ女性教師は何とか生徒達を落ち着かせようとするが、その努力も甲斐なく段ボール箱の一つが彼らの手で勢いよく転んでその中身の一部を転げ出させた。
「…あ! なんか転がり出たクーラーボックスから黄緑色の細かいとげに覆われた何か凄く美味しそうな大きい果物が…」
「ッ!? なぜあれがこんな所に…あ!? 止せ! それには下手に触れるな! そいつは大昔にドイサック辺りでBC兵器代わりに使われたこともあってドドリアンボムと他所であだ名されている爆弾ドリアン…!?」
その果物にアーヴ女性教師が血相を変えた直後、果物から何やら黄緑色のガスが広範囲にわたって流れ出した。
「…え? 何このガスみたいな臭いは…ってくさあアアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアァアア!!??」
そして、そのガスは初め奇妙がっていた生徒達を瞬く間に悪臭地獄へ叩き込んだ。
「アアアァアア!? 脳が!? 脳が溶けるゥウウウゥウ!?」
「あ、ああ…お姉ちゃん…ダメ…私もう…」
「い、医者ーーーーー!?」
「おい! ユニウス寮だけずるいぞっ…て…えおえええええええええええ!?」
「ああーーー!? この臭さが食堂の外にまでー!?」
ガスはまだ地獄を知らない他の寮から来た学生が開いたドアを介し、瞬く間に外部にも漏れ出て学園内部の広範囲を汚染していく。
これが後に、“アスカティシア爆弾ドリアン事件”と当時の生徒達にトラウマとして刻み込まれ、のちに学園七不思議のひとつの原型にもなった一大トラブルである。
そして、これもまた子供達を介してプラント住民の反銀河連合感情を更に強めていく事件になろうとは、今この場の悪臭で悶絶して涙やゲロに鼻水を垂れ流しにする、種キャラ劇場でもないだろう品のないギャグパートに襲われている子供達に予想できているものは一人もいなかった。
次回、今回起きたパロディ(?)も絡めて、さらに悪化していく世界情勢などで揺れる各国の思惑が描かれる予定です。